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番外編 〜ノア5歳〜 〜
番外編 〜 家族旅行2 〜 ノア6歳間近の5歳
しおりを挟む「赤ちゃんのお世話なら私がしますぅ」
「あなたは確か、こちらの別荘の管理を任されている男爵夫妻のお孫さんでしたか? アベル様のお世話は私が任されておりますので結構でございます」
「そんな事言わないで任せてぇ。あたしぃ、おねえちゃんの赤ちゃんのお世話してるしぃ、子供も好きだしぃ」
「主の大切なお子様をお任せするわけにはまいりません。それと、あなたはなぜこちらにいらっしゃるのですか?」
「え? だってここぉ、あたしのおじいちゃんのウチぃ? だし?」
「こちらはディバイン公爵家の別荘であって、男爵家ではございません。どうぞお早くお帰りください」
マディソンの絶対零度な声で、そんな会話が繰り広げられているのが聞こえて来たのだ。
テオ様の顔を見れば、眉間にシワが寄っていたので、指のはらでシワを撫でていれば抱きしめられましたの。
「テオ様、マディソンが困っているようですので、わたくし行ってまいりますわ」
「いや、ベルがおかしな女の対処をする必要はない」
テオ様はそう言って立ち上がると、応接間を出た。
テオ様が対処すると、大騒動になりそうで不安なのですが……。
「きゃー!! 誰ぇ!? なんてステキなのぉ!!」
「お下がりなさい。あなたが近づいても良い方ではありません」
案の定絡まれておりますわ。やっぱりわたくしが行かないといけませんわよね。
テオ様、未だに女性が苦手ですし。
「何事ですの?」
扉を開け、妙齢の女性に絡まれているであろうテオ様を想像して顔を上げたのだけど……、
「誰ぇ? またキレイな人が来たぁ!」
想像とは違い、そこにいたのは12、3歳くらいの女の子だったのだ。
さすがのテオ様も、子供に氷点下の対応は出来ないのだろう。眉間にシワを寄せたまま、少女から少し離れた所で固まっている。
「こんばんは、お嬢さん。わたくしは、イザベル・ドーラ・ディバインと申しますわ。あなたのお名前をおうかがいしてもよろしいかしら?」
「はぁい。わたしぃ、メアリー・ローズ・オズワルドと申しますぅ。おねぇさんみたいにキレイな女性、初めて見ましたぁ! 都会的で、洗練されていて、憧れますぅ!」
「ディバイン公爵夫人に向かってなんという無礼でしょうか。オズワルド男爵は、孫娘の教育をやり直すべきでしょう」
貴族というよりは、庶民に近いフレンドリーさで話しかけてくる少女に、マナーに厳しいマディソンが憤っている。
確かに、デビュタントまでに直さなければ、貴族令嬢としては大変でしょうけど……ここで暮していくなら問題なさそう……? 逆にこのフレンドリーさは武器になるかも。
「マディソン、大丈夫よ。アベルを部屋に連れて行ってあげて」
「奥様……、かしこまりました」
マディソンは心配そうな顔をしたが、ぐっすり眠っているアベルを連れこの場を離れた。
「あ、可愛い赤ちゃん、バイバーイ」
この子、純粋に赤ちゃんのお世話をしたかったのだわ。
「メアリーさん、赤ちゃんがお好きなの?」
「はい! わたしぃ、おねえちゃんの赤ちゃん、いつもお世話してるんですぅ」
「まぁ、赤ちゃんのお世話だなんて、偉いのねぇ」
「おねえちゃん、赤ちゃんのお世話に疲れてて……わたしぃ、少しでもたすけてあげたくてそれでお世話してたらぁ、赤ちゃん、すっごく可愛くてぇ!」
うん。とっても良い子でしたわ!
「そうでしたの。ですが、なぜこんな時間に出歩いておりますの? いくら治安が良いとはいえ、レディが一人で出歩く時間ではなくてよ?」
今20時よ? 子供が出歩く時間ではないでしょう。
「それはぁ……」
言い難そうに俯きスカートをぎゅっと握るメアリーちゃんに、何か事情があるのだとテオ様を見ると、頷いて応接間の扉を開いてくれたのだ。
「メアリーさん、お茶でも飲みながら、座ってお話しましょうか」
◇◇◇
「───わたしぃ……おねえちゃんを怒らせちゃってぇ……」
温かいおちゃを飲んで落ち着いたのか、さっきまて沈んでいたメアリーちゃんが、ポツポツと話してくれるようになった。
メアリーちゃんの話はこうだ。
旦那さん(義兄)は忙しくあまり家に帰ってこれないそうで、一人で赤ちゃんのお世話をし、ほとんど眠れていないお姉さんのために、お料理を作ってあげようと、赤ちゃんの面倒を見ながらサラダを作っていたら、たまたま赤ちゃんの手がサラダの入ったお皿に当たってしまい、床に落ちて割れてしまったのだそうだ。
それがお姉さんのお気に入りのお皿で、しかも赤ちゃんがそばにいる時にそんな危ない事が起き、片付けもしなければならないと、色々な事が重なって、お姉さんに、「もう……っ、余計なことしないでよ!!」と怒られてしまったらしい。
「おねえちゃん、わたしのこと嫌いなのかもぉ……。それで、出ていけって言われてぇ……おじいちゃんの所に言ったけどいなくて、おじいちゃんがいつもいるもう一つのおウチにいると思って来たのぉ」
メアリーちゃんのお姉さん、典型的なワンオペ育児で疲れ果てているみたいね……。妹に出ていけっていうくらいだし、相当追い詰められているのかも。
「メアリーさん、お姉様にはおじいさまから心配しないようお手紙を出してもらいましょう。今日はもう遅いから、ここに泊まっていきなさい」
「ぇ……いいんですかぁ?」
「もちろんよ。部屋数もあるし、おじいさまとおばあさまも一週間はこちらにお泊りするから、後で会いに行きましょう」
そうしたら明日は、ワンオペ育児撲滅の為に行動を起こさないと、ですわね!
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