心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(前)

 愛しい君に祝福の贈り物を。(数斗視点)(後半)

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「そういえば、真樹さんって今日は仕事ですか? 新一さんから、二日酔いは大丈夫だと返信はきたのですが……」
「真樹なら、昼休憩に返事してくれると思うよ。大丈夫。翌日に響くような飲み方じゃなかったから」

 二人の二日酔いを気にして、メッセージを送ったんだ。気遣い屋さん。

「そうでしたか、それならいいですけど……。何故か、新一さんに【おれはナナハネの味方だぞ】って来たんですが……なんのことでしょう? 尋ねても、グッドサインの絵文字しか返ってきませんでした……。昨日の沢田さんの件で、何かありました?」

 心配の眼差しで確認してくる七羽ちゃんを、不安にさせることを送らないでほしい。新一。
 部屋に招いたからって、七羽ちゃんに手を出すような節操なしじゃないんだから……。

「沢田の件なら、もう気にしないで大丈夫だよ。仲間内で炎上してるけど、本人は夜逃げしたかな」

 坂田も暴力ストーカー女だし、沢田は外面厚すぎな腹黒だと晒されて、仲間内で弾かれた。
 これで俺に変にちょっかいや言い寄るだなんて、バカなことをする異性の友人は、もういないはずだ。
 七羽ちゃんにも、もう迷惑はかからない。

「忘れていいよ」

 駅ビルの駐車場に、車を停めた。
 七羽ちゃんは、クッションを座席に残して、先に降りる。

「疲れは大丈夫? 歩いて平気?」
「はい。そこまで疲れが残っているわけじゃないですよ」
「そっか、無理しないでね」

 俺も車から降りて、駅ビル内に行こうと並んで歩き出すと、七羽ちゃんの方から手を繋いできたから、驚く。
 今までは、俺が勝手に、さりげない風に掴んで離さなかっただけだから。

 七羽ちゃんも、無意識だったのか、カアァッと頬を赤らめると、慌てた様子で手を引っ込めてしまった。

「す、すみませんっ! つい! ホ、ホント、すみませんっ」

 恥ずかしいと、両手で顔をガードして隠れる七羽ちゃん。
 つい、無意識……?

「七羽ちゃんって、スキンシップ嫌がらないけど……抵抗がないの? 友だちと、よくするの?」
「えっと……どちらかといえば、好き、です……」

 ! 好きなんだ!?
 どんどんスキンシップしていいってこと? で、いい!?

「スキンシップに抵抗のない友だちとは、腕を組んだりして、くっ付いたりします……」

 腕を組んで! くっ付く!

「妹とも、母とも、そうしますね……」
「……異性の友だちは?」

 話を聞く限り、親しい付き合いがあるのは、友だちの恋人である高校の先輩ぐらいだけど……他にいないわけじゃないだろうから、どこまでスキンシップをしているのだろうか。

「…………しません……」

 か細い声で、七羽ちゃんは俯いた顔を両手でガードして隠してしまう。

 …………俺だけってこと?

 無意識に俺と手を繋いじゃった?

 嬉しいんだけど……!

「数斗さんがスマートに手を引くからっ! それで、ついっ!」
「……うん、そっか。

 責任転嫁するみたいに言う七羽ちゃんに、嬉しくて微笑んで手を差し出す。
 手、繋ご。
 頬を赤らめたままの七羽ちゃんは、おずおずと手を伸ばして、重ねてくれた。

「そっか……スキンシップが好きなんだね。七羽ちゃんの男友だちとの距離感って、どの程度なの?」

 昨日は新一に頭撫でられたし、なんならほろ酔いの足取りを気にして肩まで貸そうとしてたな……。

「…………」
「え。わからないの?」

 眉を眉間に寄せて困ったように首を傾げた七羽ちゃん。

「ほら、過去の交友関係を思い出して」
「…………肩がくっ付く距離で並んで座った、くらい? 学生の時」
「そっか……。今一番親しい異性の友だちって、友だちと付き合ってるっていう先輩だよね? 彼との距離感は?」
「……今一番親しい異性の友だちは、数斗さん達です」

 顔を俯かせた七羽ちゃんは、呟くようにそう言ってくれた。

 俺達が、一番なんだ。嬉しいな。
 そんなに可愛く懐いてくれるから、俺達も可愛がるのは、必然なんだよ。

「友だちと付き合っている先輩は……いつも遊ぶ仲間ではありますが……その、私の中では……友だち枠ではないです」
「えっ? そうなのっ?」

 お酒をおごってくれる高校の先輩だった人。
 思い返せば、確かに、”友だちの恋人である先輩”、っていつも言ってたね?
 友だちと認めてなかった……? 待って? その人の勧めでラブホで一夜、初めてのお酒を飲み干したよね? やっぱり、下心があって、それを感じ取って、七羽ちゃんは警戒を!?

「彼には悪いですが……あくまで友だちの恋人さんという認識です。その友だちのことは好きなので……必然と、おまけでついてきちゃう人だと諦めてました」
「……嫌って、言わなかったの?」
「女友だち三人だけでいたい気持ちはありましたが……別に悪い人ではないですし、もう定着してしまったので」

 諦めちゃったんだ……。
 その人も、図太い神経しているな。女の子三人組に、ついてきちゃうなんて。

「いつだったか……高三の夏かな。誕生日を祝ってくれるとそのメンツで出掛けていて、女友だち二人が服の試着室に入ってしまって、その先輩と二人になっちゃった時に……直球で、”おれが嫌いだと思ってた”、と言われちゃいました」
「おお……よりにもよって、七羽ちゃんの誕生日に?」
「ええ、まぁ。なんとか、そんなことないですよ、って笑って誤魔化したのですが……ちゃんと笑えていたか、自信ないですねぇ」

 七羽ちゃんとしては、ちゃんと一線を引いて、距離を置いていたんだ?
 そうだよな。俺の時も恋人がいるからって、不誠実だって気にしちゃう子だ。友だちの恋人なら、なおさら距離は空けておくか。

「それで、正直なところ、彼のことは……嫌いなの?」

 友だちと認めてはいないなら、少なからず、嫌いなんだろうな……。

「淡白だとは思いますが……ぶっちゃけ、なんとも思ってないんです。好きでも嫌いでもない、普通」
「クッ!」

 噴き出して笑うことを堪えた。
 七羽ちゃんは困り顔ながら、真面目な風に答える。

 高校からの付き合いで、たまにお酒をおごってくれる友だちの恋人だとしても。
 好きでもない嫌いでもない、普通。中間。ど真ん中。
 むしろ、無関心にも思える。

「やっぱり、酷いですかね……?」
「んーん。そんな相手もいるよ」

 七羽ちゃんは別に悪くないし、そう思う交友相手がいてもおかしいことじゃないと、笑い退けた。

 まぁ。これで七羽ちゃんが、俺以外と手を繋いでいないことがわかって、安心。優越感までも覚えた。


「誕生日って、いつも祝ってもらってるの?」


 七羽ちゃんの誕生日は、八月。あと二ヶ月後だ。
 友だちや家族に祝ってもらってるのかな。
 今年は、新しい友だちになった俺達と誕生日会でもさせてもらいたい。

 少し、七羽ちゃんは驚いたように眉を上げると、ふいっと顔を背けるように、前を向きた。
 様子がおかしい、とすぐに気付く。

「……七羽ちゃん?」
「……本当は、誕生日、嫌いで……。高三の時も、ちょっと、憂鬱な気分でした。家族にも、誕生日ケーキが不味すぎるから要らないって断ってきましたし、理由をつけて一人で出掛けてます」

 
 それは……生まれたことすら、責めてしまっていたせいだったのだろうか。

 自分が生まれた日を…………七羽ちゃんは、どんな気持ちで過ごしていたんだ?
 独りぼっちで、一体、どこに……?


 七羽ちゃんは、儚く微笑む。何もかも諦めてしまったような、そんな力ない笑み。


 ひやりと冷たい焦りが突き刺さり、思わず、握る手の力を込めた。

「でも、その反動か、大人になったくせに、盛大に祝われたいだなんて思っちゃうんですよね!」

 パッと明るく笑って見せる七羽ちゃんを、目にして悟る。

 もう、七羽ちゃんはこの話をしないだろう、と。
 これ以上、吐露はしない。

 過去は過去だと、割り切って明るく笑うけれど。
 深い傷は残ったまま。

 誰かを悪く思わないように、誰かを傷付けようなんてしないし、自分の負の感情を与えようともしない。

 自分が嫌だから、他人にはそうしないし、自分だけが嫌なことを我慢をするのだろう。


 ……もっと早くに、出会いたかった。


「最近は祝ってーってなんて、自分から言っちゃったりして。子どもっぽいですよね」

 恥ずかしそうな七羽ちゃんは、それは本心で、それから恥ずかしくて笑っているのだ。


「じゃあ、俺達が祝うよ」


 絶対に、盛大に祝う。これから先も、ずっと。

 七羽ちゃんの生まれた日を、全力で誠心誠意を込めて祝う。


 七羽ちゃんは、ビクッと肩を震わせた。
 俺を見上げて、大きな目をパチクリさせる。

「……意志、強いですね」

 ふふっと、噴き出す七羽ちゃん。
 目を細めて笑う七羽ちゃんは、嬉しそうに見えた。繋いだ手を、軽く揺らす。

 今、俺は思いの外、大きな声を出してしまったらしい。
 それも、意志が強すぎるって、笑われてしまうほど。

「楽しみです」

 そう言って前を向く七羽ちゃんの陰りのない横顔を見て、俺は安堵した。
 それから、二ヶ月後の誕生日をどう祝おうか、と考える。

 先ずは、七羽ちゃんの好きなものを、全部知ろう。
 どんな祝い方が好きなのか。本人からも聞き出して、それから好きなもの尽くしにして、幸せな誕生日を過ごさせたい。


「よかった。まだあった」

 手始めに、これからだ。

「七羽ちゃん、これ、二つ選んでくれる?」
「……この前のぬいぐるみ?」

 七羽ちゃんも覚えていた肌触りのいいぬいぐるみは、淡いベージュ色で、見た目的にも柔らかい。

「四種類だね。猫と犬と、豚? と、熊? どれがいいかな?」
「……誰かにプレゼントですか?」

 七羽ちゃんはキョトンとした顔で首を傾げる。
 両手に持つのは、まるまる太ったフォルムで、眠たげな顔のデザインの猫のぬいぐるみ。
 うん。ある意味、プレゼントだ。

「殺風景だから、車と家に置こうと思って。七羽ちゃんは、どれがいい? 選んでほしいな」

 七羽ちゃんが抱き締めるために買って、置いておくから、七羽ちゃんへのプレゼントかな。


 誕生日じゃなくて、こんななんでもない日にだって、些細な贈り物をさせてほしい。


 もう君なしでは生きていけそうにない俺は――――。

 君が苦しんでいた間に、今まで会えなかったことを詫びるように、なんでも与えて償いたい。
 君が生まれてきて、出会ってくれて。
 心からの感謝を、伝えさせてほしい。

 真心を込めて――――。


「――――じゃあ、猫ちゃん……二つで」

 軽くぬいぐるみを抱き締めた七羽ちゃんは、どこか嬉しそうに頬を赤らめては口元を緩ませた。
 細めた眼差しが下がっているのは、照れているからだろうか。
 きっと七羽ちゃんのための購入だと、バレたんだ。


 猫のぬいぐるみを抱き締めて嬉しそうな微笑みを溢す七羽ちゃんが、可愛くて、愛おしくて。
 俺は、頭を優しく撫でた。


 
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