心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(前)

 幸せになる素敵な愛の形。(数斗視点)(後半)

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「あれ? それは?」
「これですか? 海外のベストセラー小説の実写映画でして、ヴァンパイアラブものです。イケメンヴァンパイアと美少女の純愛ストーリーです」
「へぇ、小説の? 見たことある気がするな……この女優さん」
「あぁー確か、一番稼いだ女優ってことで、ニュースになってましたよ。これ、大ヒットしたので」
「なるほど、それで見たかもね。ヴァンパイアラブものかぁ」

 イケメンヴァンパイアと美少女か……ラブファンタジーだ。

「海外ではブームでしたよ。若い女の子が熱狂したとか。ドラマまで大ヒットしてましたもん。日本でも、ヴァンパイアラブのドラマがあったのですが……あれは、不況でした」
「詳しいね?」
「実は……物凄く、ハマってしまって。その映画もドラマも、母と妹も巻き込んで観ました。他にもヴァンパイアラブものがないかと、アンテナ張ってました」

 かなり好きだってことがわかった。
 全然知らなかったけれど、よほど七羽ちゃんの好みだったんだろう。照れ笑いして、答えてくれる。

「純愛だって?」
「はい。イケメンヴァンパイアは、百年の孤独から、愛で救われるというストーリーです。日本語翻訳の小説も、読んでました。授業中にも」
「えっ? 七羽ちゃん、授業中にそんなことを?」
「なんですか? そんな真面目ちゃんじゃないですよ? 机にラクガキも、しょっちゅうでしたもの」

 意外だと笑ってしまったが、七羽ちゃんはケロッと言い退けた。

「そんなに夢中だったんだ? 気になるなぁ、今日はこれを観ていい?」
「あ。言いそびれてましたけど、長編映画ですよ? 全部で五本です」
「大作なんだ? いいよ。観る」

 七羽ちゃんのマイリスト登録作業を一時中断してもらって、俺はその映画を観させてもらおうと、コントローラーを渡してもらう。
 それで、再生ボタンを押した。

「じゃあ、私はイラストを描きますね。チラチラと観ながら」
「うん。寛いでね」

 七羽ちゃんは、もうタブレットを取り出している。
 専用のタッチペンも持っていて、本格的だと思った。

「……七羽ちゃん。すっごく漫画や小説、それから映画まで好きだよね? 自分でも創作するなら、その職業とか目指さなかったの?」
「はい? ええーと……小学生の時に、将来の夢として、漫画家になりたいとは言いましたが、ただの憧れですね。職業にするほど上手くないですよ? 技術も足りませんしね……趣味のままの方がいいと思います。仕事にすると、義務にもなりますから、自由気ままにやる創作活動がいいかと」
「そっか……そういう考えなんだね」

 上手いと思うんだけどなぁ……。
 七羽ちゃんのタブレット画面に、今まで描いたであろうイラストが見えたけれど、それは全部、趣味の範囲なのか……。
 俺は創作活動を一切したことないから、そういうものかもしれない。

 映画のオープニングが始まった。
 でも、どうしても、七羽ちゃんを横目で観てしまう。
 結局、持参したクッションを使って、膝を立てた姿勢で描いている。
 猫のぬいぐるみは、真横に置いていた。
 なんか、俺との間にあるから、壁にされている気がしたので、俺の膝の上に移動。


「……数斗さん。映画、観てます?」
「あ、うん。ごめん。イラストが気になって、つい……」

 ついつい、七羽ちゃんの真剣な横顔を見つめたくなってしまうのだ。
 視線に気付いている七羽ちゃんは、それでもペンを止めなかった。

「大丈夫、観てるよ? このイケメンヴァンパイア、ミステリアスだね。……俳優もイケメン。七羽ちゃんの好み?」

 そういえば、七羽ちゃんのタイプって、どんな顔立ちだろうか。
 人気者のイケメン同級生を、今まで好きになっていたとは聞いたけれど……。
 七羽ちゃんの大きな瞳が、テレビ画面に向けられた。

「はい。かっこいいですよね」

 ……好みなんだ。この俳優の顔が、七羽ちゃんは好き……。

「……数斗さんは、?」
「え? ああ……このイケメンヴァンパイアが持っている特殊能力だっけ?」

 じっと俳優の顔面を見つめてしまったけれど、七羽ちゃんに問われて、意識が逸れた。

 他人の考えを読む能力……?
 ヒットした長編映画だけあって、ヴァンパイアってだけじゃなくて、面白い設定が盛り込まれているんだなぁ。

「それって……欲しいとか? そういう意味の質問?」
「欲しいですか? 彼、かなり苦悩してますけど」
「んー、まぁ、そうだね。それで、さらに孤独感が増しているのかな……。ヒロインの考えだけ、読めないのは、なんで?」
「あー、それはちゃんと設定がありまして……ネタバレになります」
「ん~、そうかぁ……。惹かれる相手だからこそ、考えが読みたいな」

 七羽ちゃんの考えが、読めたらいいな。
 欲しいものは全部与えるし、望むものも叶える。
 深い傷を、癒せる言葉をかけたい。

「失望するかもしれませんよ? 全ての考えを読んでしまうと」
「丸ごと全部、愛したいと思える相手だからこそ、惹かれると思うよ?」
「……数斗さんって……失礼ですが、相手を美化しすぎかと」

 呆れてしまったのか、ちょっぴり、七羽ちゃんは苦笑した。

 それって……今想っている七羽ちゃんを、美化しすぎてるってこと?
 考えを読んだら、心変わりするかもしれない……だなんて、思ってる?


「どうして? この映画って、純愛ストーリーなんだよね? 百年の孤独から救ってくれる愛の話なら、想いを貫くんでしょう? そういう話が好きなんじゃないの?」


 この純愛ストーリーが好きなんだろう。
 運命的な出会いによる愛。

 自分には無縁だと思ったりするのだろうか。
 七羽ちゃんこそ、そんな愛を受け取るべきだし、愛されるべきなのに。


「数斗さんったら。好みの恋愛ストーリーと現実の恋愛は、違うじゃないですか」


 そう現実には、運命的な愛がないみたいに言うのに。

 七羽ちゃんは、柔らかく微笑む。
 綺麗な瞳を細めて、俺を見つめる。

 おかしいって、笑っているのかな。
 それとは、ちょっと違う。
 穏やかだ。

「……現実に起きてほしくない?」

 そういえば……自覚してなかったけれど。
 今朝からの不安や期待によるハラハラやドキドキが、今はない。

 七羽ちゃんと会ってから?

 この部屋に七羽ちゃんがいることに、高揚を覚えていた。

 でも、穏やかだ。
 今は本当に、穏やかな気分。

 七羽ちゃんが隣にいてくれると、落ち着く。
 どうしてだろうか。安心しきっている。

「じゃあ、相手が自分の考えを読んだら、どうするのですか?」
「俺の考えを読んで、失望されたら……それまでかな。……いや、好きになってもらえるように最善を尽くすよ。俺の方がどれほど想っているか、包み隠さず、伝わるっていいと思う」

 一瞬後ろ向きなことを言ったけれど、でも自分が運命の相手だと思うなら、そこで諦められないよな。そう思って、前向きなことを答えた。

「ふふっ。数斗さんって……自信過剰だったんですか?」
「え? 今のでどうしてそう思うの?」
「自信家。まぁ、その魅力はお持ちですもんね」

 七羽ちゃんが噴き出して笑うから、どうして、と苦笑して俺は、首を傾げた。
 自信家? 魅力があるって言ってもらえるなら、それでいいけれども……。
 皮肉に笑っているわけでもなく、愉快そうに笑っている。

 そんな七羽ちゃんも、すっかりリラックスしているんじゃないかって気付いた。
 俺と二人きり。リビングのソファーで並んで座っていても、緊張なんてすることなく、心を許してくれている。


「数斗さんに愛される人って、幸せになりますね」


 七羽ちゃんのその言葉に、息を止めた。

 失言したとばかりに、七羽ちゃんは目をまん丸に見開いたあと、サッと顔を伏せてしまう。

 それって……俺が、今、七羽ちゃんを想ってるって、わかってて言ったよね?
 俺の愛で、人を幸せに出来ると言った。ただただ、思ったことを零したみたいだ。本心を。

 自分を完全除外した発言じゃなかったようで、七羽ちゃんは顔を赤らめていた。


 ――――いいの?

 俺の愛を受け取ってくれるなら、君は幸せになれる?


 踏み出していいのか。
 歩み寄っていいのか。


 俺に、君を――――愛させてくれる?


 流石に、ドキドキと胸が高鳴る。
 けれど、恍惚感すら覚えてしまう。

 心地のいい、高鳴りが、幸福感を溢れさせるような――――。


「数斗さんっ。あのっ。カフェラテを、もう一杯いただけませんかっ!?」

 グッと、ソファーの上を滑らせて、近付けていた手を握り締めて、引っ込めた。
 七羽ちゃんからのストップ。

 ……だめだったっ……っ!

「う、うん……わかった。さっきの濃さでよかったかな?」
「はい……お願いします」
「待ってて。あ、一時停止して」
「はい」

 ソファーから立ち上がって、頭をポンッと軽く叩いてあげる。

 大丈夫……七羽ちゃんに合わせるし、今日はそんな下心はなしだ。
 ただ、七羽ちゃんと楽しく、まったりと過ごす。

 カフェラテを作りながら、ちょっと、さっきの幸福感に驚く。

 ……ヤバいな。

 本当に、七羽ちゃんは一緒にいるだけで、俺を幸せにしてくれる。

 今の一瞬ですら、恍惚な幸福感。

 俺は――――愛を受け取ってもらえるだけで、幸せになれる。


 俺に愛される人が幸せになるなら、七羽ちゃんは幸せになれる?
 七羽ちゃんが俺の愛を受け取ってくれるなら、幸せになれるよ。
 何それ。素敵な愛の形じゃないか?


 もう。
 君が俺の運命の相手だ、なんて。
 今すぐにでも、告白してしまいたい気持ちを、堪え切った。


「……はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……とても美味しいです」

 まだ恥ずかしげな七羽ちゃんは、一口飲んで、はにかむ。

 うん。今は、ただ。
 これで、満足しよう。

 友だち以上の想いを抱える恋人未満な関係。

 今日は、七羽ちゃんに、安らぎを――――。


 そう心掛けたおかげなのか。
 七羽ちゃんは、ソファーのひじ掛けに頭を乗せて、うたた寝してしまった。

 ……寝てしまった。
 俺はやはり、七羽ちゃんにもっと危機感を覚えるべきだと、諭すべきだろうか。

 俺にこんなにも無防備になってくれていることに喜ぶべきか。

 それとも、それほどまでに、疲れていたのに連れ出したことを反省すべきか。


 …………。
 ……とりあえず、この寝顔を撮っておこう。


 ……寝顔も、天使みたいに可愛い。


 どこまでも、俺を惹き付ける魅力がある天使の寝顔を、いつまでも眺めてしまいたかった。


 
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