心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

文字の大きさ
40 / 103
お試しの居場所編(前)

27 ずるい告白の罠に甘えて。(前半)

しおりを挟む


 少しの沈黙の間に、数斗さんが不思議そうに首を傾げていた。
 ぬいぐるみをしっかりと抱き締めた私は。

「……あの」

 と、口を開いたけれど、携帯電話が鳴り響いたので、そちらを向く。
 ポケットにしまった私の携帯電話が、着信音を鳴らす。

「母からです」
「どうぞ」

 数斗さんに許可を得てから、電話に出る。
 今日は何時に帰るかという連絡。
 母の恋人の誘いを受けて、夕食は焼き肉だそうだ。

「わかった。じゃあ店でね」

 あっさりと承諾の返事をしてしまった。
 けれど、数斗さんに了解を得るべきだったと気付く。
 母の電話は、切れてしまった。

「あ、ごめんなさい……いつも母の恋人さんと焼き肉を食べるのは、いつものことでして……」
「大丈夫だよ。ちゃんと送るから」
『ん~。夕食も、どこかで一緒に食べたかったな……残念』
「いつもなんだ? 焼き肉に行くの」
「はい。店長が恋人さんとお友だちですから、贔屓にしてて」
「そうなんだ? へぇ。個人経営の店なの? 七羽ちゃんの好きなお肉は?」
「はい。私は牛タンです。先ず、牛タンから食べます。絶対」
「あははっ、そんなに? 俺も仲間内で贔屓にしてる焼き肉店があるんだ。今度一緒に行かない?」
『七羽ちゃんの方の店は、誘ってもらわないとなぁ……。七羽ちゃんの家族と会ってみたいけれど、気が早すぎる』
「その時こそ、みんなで一緒に飲もう?」
『昨日は俺だけ飲まなかったことを気にしてたけれど、一緒に楽しんで食べて飲みたい』

 申し訳ないと、ぺこりと頭を下げた。
 バックにタブレットをしまいながら、時間的にも、もう車で送ってもらうべきだと知る。
 数斗さんは、今後のことを考えていた。

 甘えすぎた関係を、どうにかしないと。

「あの……数斗さん」
「ん?」
「……やっぱり、私は、甘えすぎです」
「え? 別に送るくらい……って、その話じゃないんだ?」

 明るく笑おうとした数斗さんは、ぬいぐるみの上にきつく握った手を見て、察した。
 そう。車で送ってもらうという甘えの話ではない。

「私は……周囲の感情に敏感だから、波風立てずのことなかれ主義で、それで悪い意味での八方美人だと思います。誰にもいい顔して、悪者になりきれなくて、中途半端です。すごく、ずるい人間ですよ。このまま……甘えてはいけません。だめですよ……」

 自分への嫌悪を吐いて、俯いて、声を小さくしてしまう。

「……そうなの? 本当に? 甘えていいって言ってるのに?」
『俺には、とても好都合だ。俺の方がずっと……ずるいでしょ』
「…………数斗さん。昨夜は、ごめんなさい」
「……どのこと?」
『……やっぱり、昨夜は俺をフろうとしてたって話かな……』

 数斗さんは、優しい声で尋ねる。
 静かに。ゆったりと。

「……数斗さん。自分がどんな顔してたか、わかってないでしょ?」

 苦しげに声を絞り出して、数斗さんへ顔を向ければ、驚いたように目を見開いた。

「……どんな顔してたの?」
『……死ねるって思ったから、相当酷い顔してたのかな……』

 ちょっぴり悲しげに聞き返す数斗さんは、昨夜の感情を思い出したのかもしれない。

「苦しいって感情を必死に隠して、無理に微笑んだ顔でした……」
「そっか……。それで……七羽ちゃんは、苦しめたくなくて……か」
『俺の延命に、今日をくれた?』

 視線を落として、ポツリと答えると、数斗さんは昨夜と同じ、つらそうな心の声を零す。

「かっこいいって言ったのは、本心です。でもっ……でも、その……」
「うん。本心だってわかるよ。嘘じゃない。わかってるから」
『七羽ちゃんは、嘘、下手だからね』
「ずるいのは俺だよ。七羽ちゃんがそうやって……俺にチャンスをくれるから、甘えてるんだよ?」
『拒めない君に言い寄って、手に入れたがっている。ずるいのは、俺の方だ』

 なんて、自分の方が悪いと言い出す。

「曖昧にしてしまう私がずるいですって。数斗さんが、それにホッとしてることもわかってるんですよ? 卑怯じゃないですか」

 私が悪いんだ。

「私は数斗さんが思ってるほど、いい子じゃないです」
「どうしてそう思うの?」
『心が綺麗じゃないとか、そんな否定的な話しなら、肯定出来るよ』
「……最初から、私には不釣り合いだって思ってました」

 視線の先のソファーの上の数斗さんの手が、軽く震えたのが見えた。

 釣り合わない。

 その言葉で、想いを拒まれたくないと言っていた彼に、それを言った。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?

甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。 ……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。 ※不定期更新です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

処理中です...