48 / 103
お試しの居場所編(前)
31 いくらあっても足りないくらい。(真樹視点)(前半)
しおりを挟む数斗が「そんなサイトがあるんだ? 名前教えて?」とテーブルの上に置かれたタブレットを手に取った。
なんかやけに薄い本があるなー、と思いきや、カバーで閉じられたタブレットだったのか。
「数斗、タブレットなんか持ってたっけ?」
「あ、買ったばっか。七羽ちゃんの見てたら、俺も欲しくなって」
「七羽ちゃん尽くしだな!? 物欲爆発か!?」
ケロッと言っては、平然とタブレットで検索する数斗。
真横で、新一は肩を竦める。
「まさか、珍しくお菓子がいっぱいあるのは……」
「七羽ちゃんの好きなお菓子」
「それ全部食べれないでしょ! 七羽ちゃんは!」
「俺も試しに食べたくて……真樹も食べてくれるでしょ」
「おれは残り物を食べる係りなの!? これ食べたい」
お菓子も七羽ちゃんのためだった……!
プンスカしつつも、ポテチを一つ手に取った。
このサワークリームオニオン味! 美味いな!?
「食べるんかーい」と、新一はいい加減なツッコミを入れては、同じく袋に手を入れて、一枚ポテチを食べた。
「ジュエリーは、何を買ったのさ?」と、バリバリとポテチを口に詰めながら、カウントテーブルの上のそれを指差す。
「ピアス。ネックレス。指輪。それと、小さなジュエリーボックス」
「「ゴフッ!」」
数斗の簡潔の答えに、おれと新一は飲もうとしたバーボンで噎せた。
「ちょっ! ゲホッ! 指輪!? 早くない!?」
「指輪を欲しがったのかっ? ジュエリーボックスまで!?」
「前に、アメジストの指輪失くしてショック受けたらしくてさ。職場のロッカーの中でも置ける小さなジュエリーボックスで、外したアクセサリーを保管すれば失くさないかなって」
「いや、ちょっと質問の答えがずれてる! ずれてるから!」
七羽ちゃんに指輪をあげるって、重くない!?
それってつまりは、数斗が勝手にあげることにしたってことだよね!?
「俺さ……七羽ちゃんの今年の誕生日までに、21回分の誕プレをあげようと思ってるんだ」
「今までの分の誕プレを……?」
「落ち着けよ、本命童貞」
いや、重いってば! 数斗の愛が! 重い!
本命童貞ってなんだっけ……? 初めて本気で好きになっちゃった相手に、童貞っぽくぎこちなくなるやつのことだっけ?
ぎこちないじゃなくて、加減が誤りすぎてるけど……。
「……七羽ちゃん。誕生日ケーキは不味いって断り続けたり、理由をつけて一人で出掛けてたんだって」
数斗は、ぽつりと七羽ちゃんの情報を零す。
理由をつけて……? 一人で出掛けた……?
え、つまり……。
「独りぼっちで、どこで何を思ってたんだろうね……」
ズキリと、胸が痛む。
誕生日なのに、独りぼっち?
友だちに、つらい過去も明かすことなく、抱えたまんま。
独りで、何を思ってたんだろう。
自分を責めてた? 自分が生まれた日で?
「なんか……何もかも諦めてしまったみたいに儚く笑ったからさ……怖くて。七羽ちゃんも、コロッと明るく笑っちゃって、多分これ以上は言わない雰囲気だった。……もっと早くに出会いたかったよ。今まで生きてきた分を祝うプレゼント、あげないと俺の気がすまなくてさ」
数斗がつらそうに笑って見せるから、泣けてきた。
息が、苦しいな……。
おれには、そんなつらい過去なんてないから、想像しか出来ないけど。
傷だらけの天使の痛みや苦しみを想像するだけで、大切にしたいおれ達も、つらいな。
大切に想っている数斗だって、出来ることはしたいんだ。多分、全部やっても、足りないだろうから。
愛が重いとか思ってごめん。
必要だな。愛なんて、いくらあっても、足りないくらいだ。
「全部貢げよ、バカ野郎……」
目元を押さえて顔を伏せた新一は、涙声。
「え、新一……泣いてる?」
「うっせぇ」
新一が泣くなんて意外すぎて、尋ねたら、おれも声が震えてた。
う、ううっ。泣けるよな。うん。無理、つらい。グスン、と鼻を啜る。
そして、ぐびっとバーボンを飲み干した。
「おれ達にも、ちょっと七羽ちゃんが欲しい物教えてよ……出来るだけ貢ぐ。いや、ちゃんと楽しませようか!? カラオケ! カラオケ行くか! 絶対に休み取る! 来月は休みを全部合わせよう!?」
「あと甘やかす。なんでもかんでも頼らせんぞ。んで? 誕生日、二ヶ月後だったか? 計画立てた?」
物だけを貢いでも、七羽ちゃんなら遠慮したがるし、お返しもしたがるだろうから。
遊びまくって楽しませる!! あと新一が言うように、甘やかす!!
おれ達は、お兄ちゃんポジションの友だち!!
肝心の今年の誕生日は、どう祝う!?
「てか、今は祝ってもらいたいなら、家族とか、いつも遊んでるっていう友だちとじゃん?」
「いや、俺達が絶対祝うって言ったら、楽しみにしてるって言ったから、予定空けてくれると思う。七羽ちゃんの誕生日前後の一週間分くらい休み取って、祝おう」
「それはやりすぎじゃない?」
びっくりと、目を見開く。
数斗、加減を覚えて。
一週間、お誕生日会って、マジなの……。忘れられない誕生日会になりそうだけども。
「いや、ナナハネの今の仕事状態だと、一週間も休み取れないだろ」
「むしろ、取らなそうじゃない? 人手が不足気味なら、自分が連休取ることで、他の人が負担になるからさ。せめて、三連休で、おれ達、それから七羽ちゃんの友だちも一緒に、パーッと祝うのはどう? あ、その友だちのことも、前もって知っておくべきだよねぇ……」
「ナナハネの交友関係、仕事……探ってから計画すべきか」
むむぅー、と眉間にシワを寄せて、考え込む。
「カラオケ! 七羽ちゃんの友だちも誘ってもらったらどう!? ほら、友だちの二人がカレシ持ちだって言ってたじゃん! カラオケもよく行ったって! 合コンっぽくならなくて、ワイワイだけするのにいいんじゃない!?」
名案、と指パッチンした。
「それって、片方は悪口言った子じゃなかった?」
「う、うーん……でも、おれ達の目で確認しておこうよ。あと、昔からの七羽ちゃんの様子とか聞きたくない?」
「聞きたい!」
「食いつき強いな」
「落ち着け、数斗」
七羽ちゃんを前から知る友だちから、悪いけれど探りを入れようって提案。
めちゃくちゃ数斗が食いついた。
「ほら、七羽ちゃんの学生時代の様子が気になるじゃん……。高校三年の夏の誕生日は、内心嫌々ながら、祝ってもらったって言ってた。その年までは七羽ちゃんは、立ち直れてなかったはず……。そういえば、居酒屋でおごってくれる先輩? あくまで友だちのカレシって認識で、友だち枠に入ってないって言ってたよ」
「マジか! いや待って!? ラブホで初めての酒を飲み明かさせた先輩!?」
「アイツ! 危機管理大丈夫か!?」
「いやいや、嫌いとかじゃなくて……無関心。ホント、好きな友だちのおまけとしてついて来ちゃう存在、って思ってるんだって」
「「ブフッ!!」」
実は七羽ちゃんが警戒するヤバい先輩なのかと焦ったけど、数斗からの追加情報を聞いて、新一と一緒に、盛大に噴いた。
「い、いつもおごってもらってる先輩、をっ……? ククッ! おまけ程度って!」
「無関心! 高校からの付き合いなのに! 無関心って! ブハハッ! 存在薄すぎってことか!?」
肩を震わせて、ゲラゲラと笑う。
悪意に敏感な七羽ちゃんが、スルーしちゃうくらい存在が薄いのか!?
「う、うんっ。やっぱり、七羽ちゃんのっ、交友関係を見直そっ……!」と、腹がねじれるくらい、笑える。ちょっと確かめたい。
「あと、やっぱ、七羽ちゃんの意思、大事じゃない? イラストの仕事をするかどうかも。どんな仕事も、モチベがいるっしょ。七羽ちゃん、どれくらい描くの好きそう?」
「どれくらいって言われても……。真剣に集中してる様子からすると、かなり好きだと思えるよ。俺、このイラストが一番好きなんだけどさ」
そう言って、数斗はタブレットのロック画面を見せてきた。
瞳のイラスト。でも、なんだか夕陽に見える赤やオレンジのグラデーションだ。
「おお! 綺麗! ツブヤキにあった?」
「前のアイコンだって。今まで描いたの見せてって言ったら、恥ずかしがりながらも、フォルダ内の最近のを見せてくれてね。送ってもらった。褒めたら、すっごい嬉しそうに笑みを零したよ。可愛かった」
数斗が、ニッコニコと惚気る。
はいはい、七羽ちゃんは可愛い。
見たかったわ~、そんな七羽ちゃん。
「おれは水彩画が好きー! えーと、この水の妖精みたいなイラスト、ファンタジーすぎない!? あ、ちゃんと本人の許可をもらって保存しました」
おれも七羽ちゃんのイラストを保存してるけど、許可はもらってる。
水の妖精みたいな女の子のイラストは、アナログで、水彩色鉛筆で描いたらしい。横顔を描いて、他は水が弾けたみたいなデザイン。
「どっちもテクニックがあるんじゃないのか? やっぱ、センスも。自信ないだけで、イラストレーター目指せると思うけど」
左右のイラストを見て、新一がそう言う。
だよね! だよね! プロになってもいいよな!?
「じゃあ、自信つけさすか! いっぱい褒めよ!」と決めた。
「知らないことは怖いだろうから、情報を集めて教えてあげようか。七羽ちゃん、自分でもビビリだって言ってたから」
「初見のホラー映画は、ビビりまくるらしいからな」
「いや、普通は初見のホラーはビビるよ?」
新一は、ホラーにも動じないからなぁ……。
ビビる七羽ちゃんに、追い打ちで驚かせる意地悪しそう。やめてあげて。絶対。
「とりま……先にやることって、副店長がセクハラ上司かどうかと、友だちに会わせてもらえるかの確認?」
おれが言うと、忘れてたらしく、そうだった! と目を見開く数斗と新一。
「あ、じゃあ、テレビ通話で、今聞いてみる?」
「えっ! いいの?」
携帯電話で連絡を取ろうとした数斗が、そう提案した。
七羽ちゃんがテレビ通話? 夜だし、一日風邪で寝てただろうから、すっぴんで嫌がらない?
「今の体調が本当に大丈夫かも、顔見て確認したいな」
「あ、グッドアイディア」
「待って。訊いてみる」
新一が言う通り、七羽ちゃんの大丈夫が、どれほど信用性があるかも確かめないと!
でも、やっぱり、すっぴんでテレビ通話は嫌がらない?
おれは座っていたソファーから立ち上がって、背凭れの方から、数斗の携帯電話を覗いてみた。
普通の電話じゃダメなのか、って返事が来たけど、顔色を確認したいって送れば。
【イヤホン準備するので、ちょっと待ってください】
承諾を示す敬礼の顔文字を返す七羽ちゃん。
「なんでイヤホン?」
「同室の妹ちゃんに気を遣うんじゃないかな?」
「あ、そうなんだ。一緒の部屋なんだ」
「二段ベッドの上で寝てたはずだから、バックや上着からイヤホンを、下りて取りに行ったかも」
「数斗、めっちゃ七羽ちゃんのこと、把握してきたね」
「好きな子だからね。知りたいだろ」
数斗のゾッコンぶりには、ニマニマしたくなるよなぁ。
28
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
最高魔導師の重すぎる愛の結末
甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。
いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。
呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。
このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。
銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。
ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。
でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする……
その感は残念ならが当たることになる。
何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。
単純に婚約破棄したかっただけなのに、生まれた時から外堀埋められてたって話する?
甘寧
恋愛
婚約破棄したい令嬢が、実は溺愛されていたというテンプレのようなお話です。
……作者がただ単に糸目、関西弁男子を書きたかっただけなんです。
※不定期更新です。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした
<モンタナ事件から18年後の世界の物語>
私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―!
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる