心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに

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お試しの居場所編(前)

 酷い思い込みの侮辱。 (真樹視点)(後半)

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「猫被りやめて、誘ってくれれば、おれも天国味わえたのに。ほら、葵にデレデレじゃん? 悪く思われたくなくて、遊んでるってこと、隠してるんしょ」

 何言っているかさっぱりわからなくて、ポカンとした。

「高校の時のカレシも、イケメンだったし、フツメンのおれはお呼びじゃないってことか。傷付く~」
「……高校? 七羽ちゃんは、交際経験ないって……」
「いやいや、いたから。他校の奴」
「他校の男子とアニメ関連のチャットで知り合って、オタ友として遊んだとは聞いたけど」
「いや、そいつだって。なんかめっちゃ否定してたけど。祥子が、絶対にカレシだって」

 混乱してきたけど、性格に難ありの祥子ちゃんが悪いんじゃないかってことが、頭に過る。

「クラスメイトの男子とすら、あんま喋んなくってつれない態度でさ。でも、可愛い顔してるから、そこそこモテてて、なんか狙っていたクラスメイトが、他校の奴と校門前で話してるとこ見て、静かに失恋したってよ」
「それは……初耳」

 なんだ。やっぱ、七羽ちゃん、学生時代、モテてるんじゃん。無自覚? いや、待って。つれない態度の七羽ちゃん?? ん??

「身近な男は手を出さずに、他の男には手を出すってことなんだろ?」
「はっ?」
「ナンパから助けたとか、もっとそれっぽい出会い方にしておけよ~。どこの出会い系サイトであったん?」
「は? 何、言って……」
「とぼけんなよぉ。エリートの娯楽とか、性癖なわけ? ナナってアッチの方、すごいん? 身長低いけど、スタイルいいもんなぁ。プール行った時に、なんか恥ずかしがってパーカー着込んでも、胸の谷間見えたから結構あるんしょ?」

 愕然としてしまう。
 軽い調子で話しながら、飲み物を注ぐソイツの隣で、言葉を失っていた。

「最近、めっちゃ色気づいたのは、セフレの真樹クン達のためだったんだな?」
「……いや。何言ってんの、ホント、アンタ」

 セフレ?
 決定打の言葉に、なんとか声を絞り出す。

「セフレ? おれ達が、あの七羽ちゃんのセフレだって、本気で言ってんですか?」
「バレたから焦ってんのか? 大丈夫、気付いてんのは、ナナに黙ってていいから。葵は他人の性癖なんて気にしないし、興味ないから、長い付き合いの友だちくらい、明かしてくれればいいのにな。おれも祥子と一緒に、なんであんな天真爛漫ぶってんのかな~って疑問なんだけど、なんか知ってる?」
「だから、さっきからアンタ、何言ってんの? 最近、色気づいてるって……それも祥子ちゃんが言ったわけ?」
「え? ああ、まぁ……。祥子も、ナナの隠し癖? にお怒りなんだよな。高校の時のカレシも、最後までとぼけちゃってさ。急にメイクを教えてくれって言われた時も、カレシ出来たんだろって聞いても”そんなんじゃない”って誤魔化して。大っぴらに出来ない付き合い方してんだろ」

 唸るように低い声が出ている自覚があった。
 怪訝な顔で首を捻るコイツを、もしかしたら、おれは睨んでるかもしれない。

「なんだよ、それ。七羽ちゃんが否定してんのに、信じなかったわけ? 祥子ちゃんから聞いて、それだけを鵜呑みにしたわけ?」

 七羽ちゃんが正直に話していたのに、祥子ちゃんが疑って間違ってることを言い触らしたみたいだけど……。

「初対面のおれ達をセフレだとか、いきなり言うなんて、ツッコミたいんですけど……先ず、七羽ちゃんのこと。アンタ、高校の時からの付き合いだろ。葵ちゃん繋がりで一緒に何回遊んで来て話してきたわけ? それなのに、あの七羽ちゃんをヤリマンか何かだと思ってるわけ? うっわ。口にするにも嫌だ。七羽ちゃんは、正真正銘、天真爛漫だし、猫なんて被ってない純真無垢な天使でしょ」

 今ならゲロを吐けそ。胸クソ悪い。
 これ以上ないくらい嫌悪が沸き上がっている。

「んだよ? そんなにナナを庇うように言われたわけ? 純真無垢な天使って、外面だけだろ」

 ハッと鼻で笑い退けたから、おれはソイツの胸ぐらを掴んだ。

「っ!?」
「ざけんなッ!! あの子をそう思い込んでたのかよ! 何年も一緒にいたくせに! どこ見てんだよ下種!! 周りの感情に傷付いてきても、気遣ういい子なのに! その子を信じずに、悪いこと言う方を信じるのかよ! クズだな! おれ達はセフレじゃない! 七羽ちゃんを妹みたいに大切に守ってやりたいって思ってるダチなんだよッ!!」
「てめッ、放せッ!」

 おれの手首を掴んで、ギシッと強く握って外そうとする。痛みになんか、気にしていられなかった。

「何してんですか!?」
「「!!」」

 七羽ちゃんが現れて、驚く。
 そして、我に返って、胸ぐらを掴んだ手を放す。

 カッとなったとはいえ、暴力を振ろうとしたなんて……バツが悪い。
 例え、殴られてもしょうがないクズだとしても、だ。

 おれもクズな先輩も、喧嘩ムードになった原因を話せるわけがなく、グッと口を閉じる。
 クズな先輩なんて、あっさりと「なんでもない」と笑いやがった。

 なんでもないわけがあるかよ。ふざけんな、この野郎。

 今すぐにでも、コイツの最低な認識を暴露してしまいたいけど、それだと七羽ちゃんが傷付く。
 高校の時から信じてもらえなくって、友だちに悪く思われてたなんてッ…………傷つけたくない。
 クソッ。なんで、こんなッ。……クソッ!

 そんなおれ達を厳しい眼差しで交互に見たあと、七羽ちゃんは肩を竦めて深く息を吐いた。

「謝ってください。お互いに」

 そう言ってくる。

「真樹さん。怒ったとしても、暴力を振っちゃいけません」
「うっ……うん」

 七羽ちゃんに咎められて、意気消沈した。
 確かに、七羽ちゃんを酷く言ったとしても、それを理由に殴っても、七羽ちゃんが傷付くだろうな……。
 でも、他でもない七羽ちゃんにそんな風に見られると、バカみたいにちょっと、胸がチクってしてしまう。

「先輩も、怒らせたことを謝ってください」
「……ごめん、悪かった」
「……胸ぐらを掴んで、すみませんでした」

 クズな先輩が何か言って怒らせたから、おれが胸ぐらを掴んだとは思ってくれるみたいだ。

 クズな先輩のその謝罪は薄っぺらすぎて、全然気が晴れない。

 けれど、暴力を振ろうとしたおれも悪いわけだから、頭を下げて謝る。でも、悔しくて、奥歯を噛み締めた。


 どうしよう。七羽ちゃんに気付かれないように、新一達に伝えて、上手くここから連れ出すか?
 でも、七羽ちゃんは葵ちゃんと一緒にいたいだろうし、葵ちゃんのカレシはコイツだし……どうすれば…………。


「先輩。私、高校の時、カレシいませんから」
「「えっ」」

 一つ頷いた七羽ちゃんが、おれを庇うように前に立つと、高校時代の恋人を否定した。

 ヒヤリと冷たい焦りが、胸に突き刺さる。

 えっ……七羽ちゃん……聞いてた?
 どこまで? どこからっ?

「祥子が言ったんですか? あんなにちゃんと否定したのに。でも、祥子が断言するからって、そっちを信じたんですか? 葵もですか?」
「え、葵は……どっちでもいいって……」
「まぁ、葵は何を聞いても気にしませんし、そもそも本人の言葉を信じる子ですからね。で? 全部、祥子の言ってることを鵜吞みにしたんですね?」

 七羽ちゃんが鋭い声で問い詰めるから、アイツはしどろもどろ。
 おれも後ろにいるのに、七羽ちゃんの気迫に圧されそうだ。

 子どもを諭すみたいな厳しい姿勢。
 意外と驚いたけれど、三人兄妹の長女だってことを思い出して、その一面かと納得してしまった。

「いや、でも、だって……ナナ、ずっと男の影なかったのに、他校の奴と急にいい雰囲気だったし」
「だから、友だちですってば。盛り上がってお喋りしてただけですから。なんでただの友だちだって言ったのに、恋人だと隠していると思ったんです? 他校の校門前でお喋りしてゲーセン行ってたのは隠しもしなかったのに、どうしてそれで付き合ってないって嘘つくんです? バカなんですか? それとも私のこと、バカにしてるんですか? そんな嘘が通用するって思ってるバカだと?」

 びくっ、とおれまで震えてしまう。
 腕を組んだ七羽ちゃん。めっちゃ怒ってる。遊園地の時と違う怒り方。

「そ、そういわけじゃ……ご、ごめん」と、二歳年上の大人が、たじたじ。

 確かに、そんな目の前で仲良くしてんのに、付き合ってないとか、下手な嘘だよな。バカなんだな、この先輩。

 そう冷静になってしまった。

 あとは、やっかみで悪口を言いまくる祥子ちゃんが悪いんだろうな……。
 なんで七羽ちゃんに朝迎えしてもらって世話焼かれたり、メイクを教えてって頼られたくせに、七羽ちゃんを悪く言うんだ?


   ダンッ!


 七羽ちゃんが床にブーティを叩き付けたから、音が響いた。
 おれ達は、びくぅんっと震え上がる。


「私、キレてんですよ?」


 親切に怒ってるって言ってくれた! わかってる!

「大の大人が、高校生のノリみたいに、下種な話題を今日会ったばかりの人にしないでください。セフレ? 侮辱にもほどがありますよ。誠意を込めて謝罪してください。それもまた祥子が言ったんですね?」
「い、いや、そのっ、それは……」
「はぁあ。よくわかりましたよ。私の言葉なんて全部、嘘に聞こえるんですね? 祥子の言葉しか信じないと。よくわかりました。別にどうでもいいですよ。先輩にどう思われても。頭の中で私を猫被りの淫乱だって認識してても、構いません。でも、会ったばかりの人に言うなんて、どうかしてますよ。他人を巻き込まないでください。何年社会人やってるんですか」

 心底呆れているため息を吐いた七羽ちゃんが、おれを振り返ったから、ちょっと身構えてしまう。

「真樹さん。巻き込んでしまってごめんなさい」
「えっ……」

 おれを気遣う目で、申し訳なさそうに眉を下げる七羽ちゃん。

 おれは……いいんだけど。いや、セフレ発言は許せないけど。
 それよりも、七羽ちゃんでしょ……?

「先に出ててください。荷物も持ってきますので。数斗さんと新一さんと帰りましょう」

 出口を指差す七羽ちゃんに、いやおれも一回戻る、という言葉が上手く出せなかった。

「初めて、キレた……」

 部屋に戻る七羽ちゃんを追いかければ、二個年下の後輩に叱られて呆れられたクズな先輩が、青い顔で呟いた声を耳が拾う。

 ……七羽ちゃん、アイツの前で、キレたことなかった?

 いや、そもそも、七羽ちゃんって、いつキレんの?

 あっ……。この前は、おれをあの腹黒が利用するってこと知って、怒り爆発させたんだっけ……。
 我慢の限界だって……。

 誰かのために…………怒ってんの?
 今日も、悪く言われたおれ達のために怒ってくれてんの?

 きっと自分だけ悪く言われてたら、聞かなかったことにして、笑っていたのだろう。
 そう思ったら、胸がギュッと締め付けられた。
 …………痛い。


 
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