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お試しの居場所編(後)
今の想いでいいじゃないか。(新一視点) (後半)
しおりを挟む「あ。その話をしてる時も、手に頬擦りしてくれたんだ…………俺がときめている仕草、学習してる?」
「そうか。あの天然が、意識的にお前を翻弄するのも時間の問題か」
「俺の心臓持つの? それ」
「知るか」
自分の両手を呆然と見る数斗も、睡魔にやられてんな。
「お前と向き合ってんだから、喜ぶことなら覚えるんじゃないのか? 頑張り中だしな」
「……俺の理性が」
「部屋で二人きりはなるべく避けて、節度守れ。でも別に頑張らなくても、心なら込めてるよな? 謝罪だって、感謝だって……感謝が一番…………」
ナナハネが頑張りすぎて、数斗が押し倒さないように、お前が頑張って自制してろ。
でも、頑張りなんて、必要あるのか。
さっきの”好き”だって、数斗自身に向けられた想いだって、おれ達にすら伝わる。
”他の女”なら、数斗の甘い微笑で、”好き”は”その顔が好き”と言っているようにしか思えなかったはずだから。
チラリ、とこの場を離れるタイミングを見失っている女性従業員に目をやる。
カラオケ中、無事を確認してくる度に、感謝を伝えられた人。
「あの子。悪い友だちと縁切ったところなんで、連絡がきたら、出来ればいい友だちとして、仲良くしてくれるとありがたいです」
「あ、そうでした。よければ、七羽ちゃんをよろしくお願いします」
「いい子なのは保証しますんで~」
「はい。わたしも彼女と仲良くしていただけたら幸いです。では、失礼します」
おれは愛想をよくすることなく会釈だけをして、連絡先を渡した女性従業員に伝えておく。
おれ達の外見のよさに釣られて、ナナハネを繋がりに利用するんじゃないかって、下心が見えないかと見定める。
でも、杞憂のようで、あくまで接客スマイルを保つ彼女は、ナナハネと仲良くしたいという気持ちを伝えると、頭を下げて先に廊下を歩いた。
今回は、ナナハネの人の見る目が、発揮されたみたいだな。
「あ、ヤベ。ナナハネの恋愛談。途中で終わった」
おれ達もカラオケルームに仮眠しに戻ろうと歩き出したところで、思い出す。
見事にナナハネの思惑通りに、恋愛談を中途半端に終わらせられた。いや、あれで全部、なのか?
「それは、なんの話?」
「イケメン生徒会長に、二度フラれた話ぃ~」
「は? 二度?」
「ん~。なんか青春の始まりみたいに、入学式の日に見つめ合っちゃったから、運命的な感じ~な話は、数斗が嫉妬するだろうから言いたくないって言ってたぁああっておれが言っちゃってるぅ~」
盛大に、口滑りすぎだろ。顔を覆っても遅いぞ、真樹。
「数斗。落ち着け。お前の嫉妬も感じ取ってるみたいだから、抑えろよな」
「え。七羽ちゃんがそう言ったの?」
めちゃくちゃ負の雰囲気を放っている数斗の肩を叩いてやる。
怒りかなんだかわからないけど、そのイケメン生徒会長に、今嫉妬したのは、おれでもわかるぞ。
「いや、はっきりとは言ってなかったけど。多分、イラストレーターを副業感覚で始めさせて、今の職場辞めさせて、最終的には本業として転職させたいって気持ちも、見抜かれてるかも」
「えっ? バレちゃったのっ?」
「ん。とりあえず、挑戦させてくれるお膳立てに感謝された」
嫌がっているとは思えないが、かと言って、前向きで積極的な姿勢とは思えない。微妙な様子だけど。
「こっちの心配も読み取ってくれて、まぁ、ナナハネのためを考えて提案したって理解してるから、試しにやってみるってことにした感じだな。いつ完成させるかわからないけど、おれのアイコンから、描いてくれるって」
「「…………」」
「んだよ。お前らはもう、お気に入りのをアイコンにしてんだろ」
”ずるい”とデカデカと顔に書いている数斗と真樹は、もうナナハネの許可を得て、お気に入りにイラストをアイコンにしている。
まぁ、リクエストして描いてもらうのは、ずるいと思われるのは当然だが。
……数斗。視線、ウザすぎ。やめろ。
「お前のそういう感情もバレてるかもな」
「……そんなに?」
「お試し期間なんて建前だけで、自分を逃がさないと決めてる愛が激重だってことも、薄々気付いてるかもな?」
「…………それでも、お試し恋人関係に頷いてくれたってことは、あとは身を委ねてくれるまで、俺がしっかり放さなければいいってことだろ?」
「ナナハネは、ヤンデレに捕まったんだな」
ナナハネは、このヤンデレの罠だとわかっていながら、ハマったのか……?
逃す気ないからな、マジで。
「え? 数斗は、ヤンデレなん? ヤンデレってなんだっけ?」
「病的に愛が重いって点が、ヤンデレに当てはまるんじゃないか」
「愛が重いって…………俺はただ、運命の愛で、全身全霊で愛そうとしてるだけで……。で。さっきの運命的な感じの恋愛談を詳しく」
「ひえぇっ。なんでおれにぃ?」
数斗が真樹と肩を組んで、話を聞き出し始めた。
運命感じた話……聞かせるべきじゃなかったな。ナナハネが嫌がった通り。
自分がナナハネの運命の相手だって、数斗が言ったのか? それとも、またナナハネが察したとか?
数斗の愛の強さに、戸惑っているんじゃないのか。
それで、それくらいの強さで好きって返事が出来なくて、反省したのかもな。
比べなくても、今の想いを伝えればいいじゃん。
ナナハネは、想いを込めた言葉を言えるんだからさ。
くすぐったくなった感謝の心を込めた声も。
ムズムズするほどの嬉しそうな、はにかんだ顔も。
思い出しては、つくづく思う。
ホント。可愛すぎて、愛でたくなる妹分だよな。
戻った部屋のソファーに身体を沈めて、アラームが鳴るまで、眠りに落ちた。
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