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お試しの居場所編(後)
59 新鮮な楽しいことを楽しむ。(前半)
しおりを挟む数斗さんが隣に立つと、代わりに切った食材を炒めてくれた。
私が全部やる、と言いたいところだけど、数斗さんが『一緒に料理……嬉しい』と喜びを噛み締めていたので、やめてとは言えない。
「先程の話ですけど……多分、シンデレラになりたかったのでは?」
「「シンデレラ?」」
なんの話かと、数斗さんと新一さんは、わからないと怪訝な顔をした。
さっきの女性の話ですよ。
「普通の女性が、王子様と結ばれるシンデレラストーリー。数斗さんが御曹司だって知っていたなら、玉の輿狙いもあって……夢見た感じなんじゃないですか? イケメン、高学歴、御曹司。気があるとわかって、逃せないチャンスだと飛びついて、犯罪までして暴走」
「……とんだシンデレラだね」
「お前、犯罪プロファイラーだったっけ?」
「あははっ。犯罪捜査ドラマも好きです」
「観てるモン、幅広すぎだろ」
新一さんが犯罪プロファイラーなんて言い出すから、私も噴き出して笑ってしまう。
「半日で仕事終わると、ちょうど海外の犯罪捜査ドラマがやってましたもん」と、一応説明しておく。
「犯罪プロファイラーっぽく言えば……妄想型ストーカー?」
「ドヤ顔すんな」
新一さんに向かって、キリッと言ってみたけれど、けらりと笑った。
「私がイケメン生徒会長に二回も告白したみたいなのの……酷いヤツって感じでは?」
「おっと。ナナハネも、犯罪者予備軍?」
「気を付けてください。今、刃物持ってますよ~」
「この冗談、やめておこ?」
おっと。ストーカー被害者の数斗さんには、よくない話題か。
『七羽ちゃんが、あんなのと同類だなんて。笑えない』
……そこなんだ。数斗さんのブレなさよ……。
煮込む作業に入ったので、タブレットでまた物件探し。
「数斗さん。お気に入り登録した物件……なんで、この周辺じゃないですか?」
「……七羽ちゃんの家に近い方がいいと思って」
「職場から離れちゃうじゃないですか。新一さん達の家とも離れますし」
「そんなに離れてないよ。その辺なら、車でも10分ぐらいの差だし、駅が近いなら、あんまり変わらない」
じとりと見ても、数斗さんは肩を竦めるだけ。
「今日みたいに送る時も、昨日みたいに会いに行く時も、時間が短縮出来るでしょ?」
『すぐに会いに行ける家なら、居座る時間も伸びるし、さらには七羽ちゃん好みになって心地いい家。最高』
ニッコニコな数斗さん。
だから、自分の家だって、忘れてません?
助けを求めるように新一さんを見れば、おかしそうにお腹を押さえていて、会話に入ろうとしない。
「……あと、2LDKとは? 数斗さんって、荷物多かったですか?」
『部屋二つ。同棲する気かよ』
「あー、うん。増えるかも?」
『念のために部屋が余分にあればいいかなぁって。急遽、部屋に泊まることになったら、とか』
新一さんは、表情を隠すようにそっぽを向く。
数斗さんの方は、まだ同棲とかは考えていなくて……まぁ、視野に入れているけれども。一先ず、物置きにして、お泊り用に使えるようにしたいとか考えている。
却下です。
笑顔で却下です!
「数斗さんは、シンプルを好むのですから、荷物は多くないでしょ? 一人暮らしなら、普通、ここみたいに1LDKですよね」
『おい、外堀埋めようってがっつきすぎて、勘付かれてるぞ。やめとけやめとけ』
『しょぼーん……』
や、やめてくださいっ。数斗さん、しょーぼん、また言うのやめて。笑っちゃう。
新一さんのストップの目配せを受けて、数斗さんはしょぼんと沈む。
煮込む時間が終わったので、ルーを投入。
「美味そうな匂いだな……」
「コーンクリームシチューは、初めて?」
「ああ。いつもは……普通のシチュー? とにかく、コーンクリームは初めてだな」
「普通というと、ホワイトクリームですっけ? あとチーズとか……私はこのコーンクリームシチューの一択です」
「まぁ、美味そうだよな」
「そうだね」
そこで、ピンポーンと訪問者の知らせが鳴る。
「七羽ちゃん、大丈夫!? 何この匂い、美味そう!!」
新一さんがドアを開けば、入ってきた真樹さんの声が上がった。
「お疲れ様です。私は、大丈夫ですよ。真樹さんも、コーンクリームシチューは初めてで?」
「ん~、多分、食べた記憶にないから。でも、美味そう! あ、お皿も、スプーンも買ったよ」
「ん。早かったな。アイスは、冷凍庫に入れとくぞ」
新一さんと真樹さん、数斗さんも手分けして、食器と飲み物やアイスを取り出してはしまう。
……なんか、楽しい。
「何か、面白いの?」
『笑ってる?』
数斗さんが、鍋の中をかき混ぜている私が、口元を緩ませていることに気付いた。
「いえ……。友だちとこうして食事の準備するの、初めてで。楽しいなぁって」
普通の家のキッチンで、料理の準備を友だちと手分けする。
新鮮で楽しい。
「初めて? あー、そうだった。友だちは一人暮らしとかしてなくて、こういうことはなかったんだね」
「楽しいなら、何より」
「確かに! 外でワイワイもいいけど、家でこうしてワイワイもいいよな! 外でバーベキューとかと違うしね! おれも楽しぃー」
数斗さん達は、心からの言葉を口にする。
『楽しいね』と、数斗さんは優しく見つめて微笑む。
『まぁ、楽しいわな』と、新一さんも笑みだ。
『ホント、楽しぃー』と、真樹さんもへにゃーっと笑う。
口元も緩む。聞こえてくる声は、とても、心地がいいのだから。
新一さんの家には、テーブルはテレビの前の足の短いテーブルのみ。
そこを囲って、コーンの甘さが香るシチューを食べた。
三人とも、気に入ってくれて、ホッとする。
「数斗は、天使守り隊の隊長失格だと思うんだよね……返上して?」
「いつの間にか、数斗さんに確定していたんですね……」
「そうだ、七羽ちゃん。不動産の都合次第だけど」
「無視!?」
真樹さんをスルーして、数斗さんは私に声をかけた。
「物件の見学に行かない? 明後日、休みでしょ?」
「休みですけど……数斗さんは違いますよね?」
「俺は事件の被害者。しかも、家が事件現場で、犯人は同僚。休みはもらえるよ?」
『七羽ちゃんと過ごせる時間が確保出来たけど、七羽ちゃんが事件に巻き込まれたから、素直に喜べない』
「それもそうですね。え? 物件の見学? 私もいいんですか?」
事件が家で起きたと言うのに、休ませてもらえないのは、問題大アリの職場だ。休みがもらえてよかったですね、とか言いそうになったけれど、誘われた内容に意識が行く。
『気付くの遅(おそ)』と、新一さんに心の中でツッコまれた。
休みに気が行ってたんですぅー。
「うん。七羽ちゃんに家具も選んでもらいたいし、先に見ておいた方が、家具選びも捗るんじゃない?」
「お部屋探し……! いいですね!」
『見事に、餌に食いついた……』
『え? なんか同棲カップルの新居探し???』
はい。釣られましたけど、何か? 新一さん。
真樹さんが言う通り、もうカップルの新居探しになるだろうけれど、選ぶのは一人暮らしの部屋なんで。
数斗さんの一人暮らしの部屋を決めるんです。ここ、強調。
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