6 / 26
♰06 贈り物。
しおりを挟む物置らしき部屋から飛び出す。
「失礼します!」
そう頭を下げてから、私は城の外に出る。
ちょっとだけ冷たい空気に頬を晒して、深呼吸をした。
女性に人気なだけある。何あの言動。女たらしだ。
「……そうだ、メテオーラティオ様を捜してたんだった」
少し考えて、思い出す。
メテオーラティオ様を捜して、急いで飛び下りたのだ。
でも見かけてからずいぶん時間が経っているし、もういないだろう。
それでも見かけた場所に、足を向かわせた。
「やっぱり、いないか」
確かここの辺りを歩いていたけれど、見当たらない。
「誰がいないって?」
けれども、メテオーラティオ様の声が聞こえてきた。
キョロキョロと左右に顔を向けたあとに、上に向けてみる。
すると、メテオーラティオ様が降ってきた。
「ん?」
木の上にいたらしい。着地したメテオーラティオ様は、首を傾げて私を見た。
「……この匂い」
すん、と鼻を鳴らして、メテオーラティオ様が私の匂いを嗅ぐ。
「ヴィア?」
ヴィアテウス様のこと?
嗅覚が鋭いのだろうか。
「ああ、さっきぶつかりまして……」
抱き締められたから、コロンが移ったのだろう。
そこまで言葉を出して、止める。
いや、止めるしかなかったのだ。
メテオーラティオ様に、抱き締められた。
こ。この城にいる美形は、皆女たらしなのか!?
「気に入らないな。オレだけを見ていろ」
腕の中にすっぽり入った私は、なんとか顔を上げる。
ルビーレッドの瞳が、私を見下ろしていた。
やっぱり綺麗な瞳だな、と見上げていれば、熱がこもったような眼差しになる。
とろりと溶けてしまいそうなルビーレッドの瞳。
「変身を見せてください!」
今なら快く承諾してくれると思い、頼んでみた。
しかし、露骨に嫌そうな表情になる。
「嫌だ」
またもや完全なる拒絶。
「お前はずっとその目でオレを見てればいいんだよ」
つん、と額を指先で押し退けられた。
また私の見る目か。
「……メテオーラティオ様、私があなたを見る目がそんなに好きなんですか?」
ちょっと違和感を覚える額をこすったあと、私は腰に手を当てて、エッヘンと胸を張る。
「それって恋なんじゃないですか?」
なんて、冗談を言ってみた。
見たところ、メテオーラティオ様は二十歳を超えた年齢だろう。
こんな小娘に恋なんてするわけがない。かっこ、中身は三十路だけど。
スッと、ルビーレッドの瞳は細められた。
お? 怒ったかな?
「それはお前の方だろ?」
「わわっ!」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でるように、髪を荒らされてしまった。
「な、なんでそうなるんですか!」
そりゃ、ルビーレッドの瞳が美しいと見惚れているけれども。
恋しているほどではない。瞳に恋している、か?
「って痛い!」
「あ、悪い」
どうやら、メテオーラティオ様のカフスに、髪の毛が引っ掛かったようだ。
引っ張られて、痛みがした。
「長い髪だよな、それ結わないのか?」
「ああ、そうですね……でも別に不便はないですし」
「今まさにあるじゃないか」
長い髪を下ろしているせいで、ボタンに引っかかったり、カフスに絡まったりしている……。
今回は、すんなりと髪がほどける。
「ピティさんに貸してもらおう……」
「……」
「……なんですか?」
じっと、メテオーラティオ様は私を見下ろした。
観察するような眼差し。特に撫でつける髪に注目しているようだ。
「髪飾りを贈ってやる」
「え? 髪飾り、ですか?」
「ああ」
「それより私は変身、うっ」
変身を見せてほしいと頼もうとしたけれど、頬を潰すように鷲掴みにされて、言葉を止められた。
「またな、コーカ」
「あの、贈り物は遠慮します。大丈夫ですから」
歩き去るメテオーラティオ様に、一応伝えたけれど、返事なし。
ピティさんに頼めば、簡単に用意してもらえるだろうからいいのに。
深く考えることはやめて、私は木陰で読書をした。
読んでいて、思い付く。
明日は魔法訓練場で、呪文を使って発動させる魔法を試させてもらおう。
空いているといいけれど、魔法訓練場。
水色の空がやや赤みかかって陽が沈み始めた頃に、部屋に戻った。
魔法を十分学んだら、旅に出たい。
竜人族以外の種族にも会いたいな。
妖精や精霊にも、叶うなら会ってみたい。
第二の人生は、この城で過ごすだけではもったいないだろう。
このファンタジー世界を謳歌したい。
そのためには、魔法訓練場で魔法の練習だ。
誰もいないなら、全力で発動する魔法を試すのもいいだろう。
朝の支度を済ませて、ピティさんを部屋で出迎える。
いつもなら、おはようございます、と明るい笑みを見せてくれるのに、彼女は箱を二つ持って立ち尽くしていた。
「どうしたんですか? ピティさん」
「……贈り物です」
「えっ……メテオーラティオ様からですか?」
本当に髪飾りの贈り物を渡してきたらしい。
しかし、箱が二つもある。
二つもくれたのか。
「こちらが魔導師メテオーラティオ様からです……」
ピティさんは、深紅の箱を差し出した。
あれ、じゃあもう一方は?
なんて首を傾げつつ、パカッと受け取った箱を開けてみる。
中には、真っ赤な宝玉みたいな髪飾りが入っていた。丸い玉は、二つ。掌に収まる大きさ。どうやら、ゴムがついているから、二つに束ねられるみたいだ。
「もう一つは誰からですか?」
グラー様なら、直接渡してくれるはず、と考えつつも、青い箱をもらおうと手を差し出した。
「殿下です」
「殿下?」
殿下って……。
「王弟殿下のヴィアテウス殿下からです」
あの人かー!!
頭の中で、名前と顔が一致した。
思わず手を引きそうになり、渡そうとしたピティさんの手から青い箱が落ちそうになる。二人して屈んで受け止めて、胸を撫で下ろす。
王族からの贈り物を壊すなんて、洒落にならない。
「なんでヴィアテウス殿下から?」
「私が訊きたいです! あのヴィアテウス様から贈り物なんて、羨ましすぎます!!」
興奮した様子で早く開けてと急かすピティさんは、中身を知りたがった。
「間違いなく、私宛てですか?」
確認してみる。
「ええ、そうです。私がコーカ様のお世話係だと確かめ、ヴィアテウス殿下から直接渡されました」
震える声で、ピティさんは、コクコク頷いた。
なんか緊張のあまり卒倒しなかったのは、不思議だ。
「そう……えっと、じゃあ中身を見てみましょう」
パカッと蓋を開いてみる。
「わぁ」
青い宝玉に金の羽根型がついている簪。
「これは……ええっと、手紙かしら」
箱の中に、カードがあった。
見てみれば、お詫びに贈り物を受け取ってほしい。そう書いていた。
「お詫びの贈り物だって」
「つけましょう。今すぐつけましょう」
凄い剣幕で迫ってきたピティさんに、気圧されて、私はそのままドレッサーの前に座らせられる。そして、長い後ろの髪をまとめ上げて、簪を差してくれた。
私は前髪を作っていないから、前部分の髪はわざと下ろす髪型にしてもらう。
金色の羽根と、青い青い宝玉の髪飾り。
深紅の箱には、真っ赤な宝玉の髪ゴム。
美形二人からの贈り物。
私には、お返しが用意出来ない。
鏡の中の少女は、むくれた。
119
あなたにおすすめの小説
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります
Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め!
“聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。
グォンドラ王国は神に護られた国。
そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。
そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた……
グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、
儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。
そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。
聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく……
そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。
そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、
通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。
二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど───
一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた……
追記:
あと少しで完結予定ですが、
長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
私を溺愛している婚約者を聖女(妹)が奪おうとしてくるのですが、何をしても無駄だと思います
***あかしえ
恋愛
薄幸の美少年エルウィンに一目惚れした強気な伯爵令嬢ルイーゼは、性悪な婚約者(仮)に秒で正義の鉄槌を振り下ろし、見事、彼の婚約者に収まった。
しかし彼には運命の恋人――『番い』が存在した。しかも一年前にできたルイーゼの美しい義理の妹。
彼女は家族を世界を味方に付けて、純粋な恋心を盾にルイーゼから婚約者を奪おうとする。
※タイトル変更しました
小説家になろうでも掲載してます
聖女じゃないと追い出されたので、敵対国で錬金術師として生きていきます!
ぽっちゃりおっさん
恋愛
『お前は聖女ではない』と家族共々追い出された私達一家。
ほうほうの体で追い出され、逃げるようにして敵対していた国家に辿り着いた。
そこで私は重要な事に気が付いた。
私は聖女ではなく、錬金術師であった。
悔しさにまみれた、私は敵対国で力をつけ、私を追い出した国家に復讐を誓う!
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる