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バーでカクテルを
第389話、ヒュンケル兄の話
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『でさ、天空都市の海ってすごく透き通ってるんだ。砂浜も真っ白だし、海の中もすごく綺麗で……』
「なるほどな。いい新婚旅行だったじゃねぇか」
『うん!! あ、そうだ。お土産送るからさ、リュドガ兄さんと飲んでよ。美味しいお酒が手に入ったんだ』
「そりゃ嬉しいね。ありがとよ」
『うん。あ、誰か来たみたい。ごめんヒュンケル兄、また』
「おう。じゃあな」
ある日のビッグバロッグ王国。ヒュンケルの執務室。
今日は補佐のフレイヤとフライヤの姉妹が休日。ルナマリアも休みでリュドガは訓練場で新兵の訓練をしているので、ヒュンケルは一人で執務を行っていた。
そこに、アシュトから連絡があり今に至る。
「新婚旅行ねぇ……そういやアシュトの奴、まだって言ってたな」
これは、アシュトの嫁におめでたがある日もそう遠くない。
ヒュンケルはそんな風に考え、大きく伸びをした。
「つーか、天空都市ってなんだよ……」
天使の住まう都市。天空都市ヘイブン。
初めて聞いたときは信じられなかったが、アシュトが言うならあるのだろう。
オーベルシュタイン領土は謎だらけだが、その空に都市があるとはヒュンケルも思わなかった。
そして、思う。
「…………新婚旅行ねぇ」
◇◇◇◇◇◇
ヒュンケルは名門貴族ギュスターヴ家の六男である。
エストレイヤ家には劣るがそれなりに格の高い貴族で、ルナマリアの実家であるアトワイト家と親交もあった。
ギュスターヴ家は魔法師を輩出する一家。生まれつき高い魔力を備えている。
幼い頃のヒュンケルは兄姉の中でも特に魔力が高かった。だが、面倒ごとを嫌い自らの能力を隠し続けた。おかげで、兄と姉からは蔑まれ、父からは諦め、母は見向きもしなくなった。
ヒュンケルは軍に入隊した。エストレイヤ家の有望株リュドガと、アトワイト家の令嬢ルナマリアと仲良くなったが、ギュスターヴ家は利用価値がないと判断……放置された。
貴族は成人すると領地がもらえる。ヒュンケルの兄と姉もギュスターヴ家から領地がもらえた。だが、ヒュンケルは領地がもらえなかった。
その代わり、僅かながらの金を渡された。『この金で自由に生きろ』ということらしい。
ギュスターヴ家はヒュンケルを見限った。ギュスターヴ家の後継者候補から除名され、ギュスターヴ家の敷地にある小さな家屋でひっそり、静かに暮らすことに……とはならなかった。
全て、ヒュンケルの計算であった。
ヒュンケルはギュスターヴ家から除名するようにと父に話し、父はなんの興味もなさそうに了承した。
渡された金とずっと溜めていたお小遣いで小さいながらも屋敷を購入し、そこでの生活を始める。
この時、ヒュンケルは15歳……全て、ヒュンケルの計算通りだった。
ギュスターヴ家と完全に縁を切ったヒュンケルは、隠していた実力を解放した。
親交のあったリュドガ、ルナマリアと共に軍で武功を上げめきめきと実力を付けていく。
そして、エストレイヤ家の当主アイゼンにも認められる実力を得て『烈風』という二つ名まで付くほどの魔法師となり、ビッグバロッグ王国最強の風使いとして尊敬を浴びた。
ギュスターヴ家から『戻って来い』と何度も打診があったが、『自分は平民。貴族ではありません』と返答する。実家が嫌いなわけではない。実力がバレると面倒だったから平民になったのだ。
貴族同士のしがらみに関わりたくはない。友人同士で酒を飲みながらバカ騒ぎをするのが好き。それがヒュンケルの望みであり、人生なのだ。
ヒュンケルは、昔のことを思い出し苦笑する。
「懐かしいな……」
ギュスターヴ家は、ヒュンケルを完全に諦め、いない者として扱っている。
たまに顔を出して挨拶することもあるが、対応は事務的な物だ。
実家が嫌いなわけじゃない。貴族というしがらみが面倒なのだ。両親には感謝してるし、兄や姉が嫌いではない。
ヒュンケルという子供はさぞ可愛くなかっただろう。もし子供の頃に実力を見せていれば、嫉妬に狂った兄や姉がいじめをする……なんてこともある。
だったら、最初から興味を持たれないようにふるまう。それが幼少期のヒュンケルの考えであった。
「可愛くないガキだったな……まぁ、兄上や姉上も立派に出世してるし問題ないけど」
ヒュンケルの兄や姉は、高名な魔法師として働いている。
立場から話をすることもあるが、やはり事務的な対応ばかりだ。
ヒュンケルはカーフィーを淹れようと立ち上がり、自分で豆を挽く。
「……あ。アシュトにカーフィー送ってもらわねぇとな」
カーフィー豆の在庫が少ない。
ヒュンケルだけでなく、フレイヤも気に入っている。ルナマリアは砂糖をどっさり入れないと飲めないが。
カーフィーを淹れ、飲みながら窓際へ。
「……結婚か」
リュドガも、アシュトも結婚した。
リュドガには子供が生まれ、まもなく一歳の誕生日を迎える。エストレイヤ家では生誕祭が開かれるので、その準備でアイゼンは忙しいと言っていた……孫馬鹿である。
さらに、アシュトには五人の妻がいて、子供が生まれるのは時間の問題だ。
「オレみたいなひねくれ者が結婚ねぇ……考えられねぇや」
カーフィーを啜り、窓を開ける。
ぬるい風が室内の空気を入れ替えてくれるのが気持ちいい。
すると、ドアがノックされる。
「おう、入っていいぞ」
「失礼します。先輩」
「失礼しま~す」
入ってきたのは、普段着のフレイヤとフライヤだった。
制服はともかく、私服を見るのは初めてかもしれない。
「どうした? 今日は休みのはずだろ」
「いえ、メガネを忘れてしまいまして……落ち着かないので取りに来ました」
「メガネって、今付けてるだろ」
「これは予備です」
フレイヤはメガネをクイッと上げる。
フライヤはにっこり笑った。
「ヒュンケルくん、お仕事ごくろうさま! すんすん……いい匂い。カーフィー飲んでたの?」
「ああ。ちょっと休憩中だ」
「そっかぁ~……あ、そうだ! ねぇフレイヤちゃん。町で買ったクッキーあるよね? ここでお茶にしようよ!」
「ね、姉さん……先輩は仕事中で」
「今は休憩ちゅう~! ね、いいよね?」
「……やれやれ。いいぜ、オレが淹れてやるよ」
「あ、だめだめ! カーフィー淹れるのはわたしの仕事!」
「今日は休みだろ? なぁフレイヤ」
「そうですね。たまには……先輩の淹れるカーフィー、飲んでみたいです」
ヒュンケルが結婚できるかどうか。未来は誰にもわからない……。
「なるほどな。いい新婚旅行だったじゃねぇか」
『うん!! あ、そうだ。お土産送るからさ、リュドガ兄さんと飲んでよ。美味しいお酒が手に入ったんだ』
「そりゃ嬉しいね。ありがとよ」
『うん。あ、誰か来たみたい。ごめんヒュンケル兄、また』
「おう。じゃあな」
ある日のビッグバロッグ王国。ヒュンケルの執務室。
今日は補佐のフレイヤとフライヤの姉妹が休日。ルナマリアも休みでリュドガは訓練場で新兵の訓練をしているので、ヒュンケルは一人で執務を行っていた。
そこに、アシュトから連絡があり今に至る。
「新婚旅行ねぇ……そういやアシュトの奴、まだって言ってたな」
これは、アシュトの嫁におめでたがある日もそう遠くない。
ヒュンケルはそんな風に考え、大きく伸びをした。
「つーか、天空都市ってなんだよ……」
天使の住まう都市。天空都市ヘイブン。
初めて聞いたときは信じられなかったが、アシュトが言うならあるのだろう。
オーベルシュタイン領土は謎だらけだが、その空に都市があるとはヒュンケルも思わなかった。
そして、思う。
「…………新婚旅行ねぇ」
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ヒュンケルは名門貴族ギュスターヴ家の六男である。
エストレイヤ家には劣るがそれなりに格の高い貴族で、ルナマリアの実家であるアトワイト家と親交もあった。
ギュスターヴ家は魔法師を輩出する一家。生まれつき高い魔力を備えている。
幼い頃のヒュンケルは兄姉の中でも特に魔力が高かった。だが、面倒ごとを嫌い自らの能力を隠し続けた。おかげで、兄と姉からは蔑まれ、父からは諦め、母は見向きもしなくなった。
ヒュンケルは軍に入隊した。エストレイヤ家の有望株リュドガと、アトワイト家の令嬢ルナマリアと仲良くなったが、ギュスターヴ家は利用価値がないと判断……放置された。
貴族は成人すると領地がもらえる。ヒュンケルの兄と姉もギュスターヴ家から領地がもらえた。だが、ヒュンケルは領地がもらえなかった。
その代わり、僅かながらの金を渡された。『この金で自由に生きろ』ということらしい。
ギュスターヴ家はヒュンケルを見限った。ギュスターヴ家の後継者候補から除名され、ギュスターヴ家の敷地にある小さな家屋でひっそり、静かに暮らすことに……とはならなかった。
全て、ヒュンケルの計算であった。
ヒュンケルはギュスターヴ家から除名するようにと父に話し、父はなんの興味もなさそうに了承した。
渡された金とずっと溜めていたお小遣いで小さいながらも屋敷を購入し、そこでの生活を始める。
この時、ヒュンケルは15歳……全て、ヒュンケルの計算通りだった。
ギュスターヴ家と完全に縁を切ったヒュンケルは、隠していた実力を解放した。
親交のあったリュドガ、ルナマリアと共に軍で武功を上げめきめきと実力を付けていく。
そして、エストレイヤ家の当主アイゼンにも認められる実力を得て『烈風』という二つ名まで付くほどの魔法師となり、ビッグバロッグ王国最強の風使いとして尊敬を浴びた。
ギュスターヴ家から『戻って来い』と何度も打診があったが、『自分は平民。貴族ではありません』と返答する。実家が嫌いなわけではない。実力がバレると面倒だったから平民になったのだ。
貴族同士のしがらみに関わりたくはない。友人同士で酒を飲みながらバカ騒ぎをするのが好き。それがヒュンケルの望みであり、人生なのだ。
ヒュンケルは、昔のことを思い出し苦笑する。
「懐かしいな……」
ギュスターヴ家は、ヒュンケルを完全に諦め、いない者として扱っている。
たまに顔を出して挨拶することもあるが、対応は事務的な物だ。
実家が嫌いなわけじゃない。貴族というしがらみが面倒なのだ。両親には感謝してるし、兄や姉が嫌いではない。
ヒュンケルという子供はさぞ可愛くなかっただろう。もし子供の頃に実力を見せていれば、嫉妬に狂った兄や姉がいじめをする……なんてこともある。
だったら、最初から興味を持たれないようにふるまう。それが幼少期のヒュンケルの考えであった。
「可愛くないガキだったな……まぁ、兄上や姉上も立派に出世してるし問題ないけど」
ヒュンケルの兄や姉は、高名な魔法師として働いている。
立場から話をすることもあるが、やはり事務的な対応ばかりだ。
ヒュンケルはカーフィーを淹れようと立ち上がり、自分で豆を挽く。
「……あ。アシュトにカーフィー送ってもらわねぇとな」
カーフィー豆の在庫が少ない。
ヒュンケルだけでなく、フレイヤも気に入っている。ルナマリアは砂糖をどっさり入れないと飲めないが。
カーフィーを淹れ、飲みながら窓際へ。
「……結婚か」
リュドガも、アシュトも結婚した。
リュドガには子供が生まれ、まもなく一歳の誕生日を迎える。エストレイヤ家では生誕祭が開かれるので、その準備でアイゼンは忙しいと言っていた……孫馬鹿である。
さらに、アシュトには五人の妻がいて、子供が生まれるのは時間の問題だ。
「オレみたいなひねくれ者が結婚ねぇ……考えられねぇや」
カーフィーを啜り、窓を開ける。
ぬるい風が室内の空気を入れ替えてくれるのが気持ちいい。
すると、ドアがノックされる。
「おう、入っていいぞ」
「失礼します。先輩」
「失礼しま~す」
入ってきたのは、普段着のフレイヤとフライヤだった。
制服はともかく、私服を見るのは初めてかもしれない。
「どうした? 今日は休みのはずだろ」
「いえ、メガネを忘れてしまいまして……落ち着かないので取りに来ました」
「メガネって、今付けてるだろ」
「これは予備です」
フレイヤはメガネをクイッと上げる。
フライヤはにっこり笑った。
「ヒュンケルくん、お仕事ごくろうさま! すんすん……いい匂い。カーフィー飲んでたの?」
「ああ。ちょっと休憩中だ」
「そっかぁ~……あ、そうだ! ねぇフレイヤちゃん。町で買ったクッキーあるよね? ここでお茶にしようよ!」
「ね、姉さん……先輩は仕事中で」
「今は休憩ちゅう~! ね、いいよね?」
「……やれやれ。いいぜ、オレが淹れてやるよ」
「あ、だめだめ! カーフィー淹れるのはわたしの仕事!」
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