大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑮

第398話、ビッグバロッグのバーで一杯②

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 エストレイヤ家・個室バー。
 個室の広さはそれほどでもない。カウンター席が六席にテーブル席が二卓のみ。その代わり、インテリア等は凝っており、アイゼンの趣味が丸ごと詰め込まれた空間となっていた。

 薄暗い部屋に、わざと暗くした照明が取り付けられている。
 建築士が苦労して設計したミニ噴水からは水があふれ、個室内の水路をちょろちょろと流れている。
 椅子やテーブルも高価な家具で、有名なデザイナーに依頼した、この部屋に合う家具だ。
 カウンターでバーテンダーをやっているのは、エストレイヤ家執事長セバッサン。アイゼンの執事であり、このバーの管理を一手に担っている。

 もちろん、セバッサンは生まれた時からリュドガたち三人を知っている。というか、リュドガたちの教師をしていたこともあるので、リュドガたちはセバッサンを祖父のように感じていた。
 リュドガたち三人は、アイゼンから許可をもらってバーで飲むことに。
 夜。夕飯を終え、バーにやってきた。

「これはこれは。いらっしゃいませリュドガ様、ルナマリア様」
「やぁセバッサン。今日はよろしく頼むよ」
「かしこまりました。ヒュンケル様、お久しぶりでございます」
「どーも。セバッサン、相変わらず元気そうじゃん」
「それはどうも。では、お席へどうぞ」

 柔和な笑みを浮かべ、リュドガたち三人はカウンター席へ。
 リュドガを中心に、左右にヒュンケルとルナマリアが座る。これもいつのも並びだった。
 まず、乾杯用のシェリー酒が出される。

「じゃ、乾杯」
「「乾杯」」

 特に礼儀作法等もなく、三人は小さなグラスを合わせて一気に飲み干した。
 
「っぷは……美味い」
「ああ。染みわたる……なぁヒュンケル」
「ルナマリア、おっさん臭いな」
「な、なんだと!?」

 ルナマリアの飲み方があまりにもおっさん臭いのでヒュンケルは笑う。
 こうして、幼馴染たちの飲み会が始まった。

 ◇◇◇◇◇◇
 
「そういや、新兵訓練遠征が近いな。おいリュドガ、部隊長に通達したのか?」
「書面では伝えたぞ。なぁルナマリア」
「ああ。第一~第六部隊だったな」

 ビッグバロッグ王国軍は、全十三の部隊に分かれている。
 その中で、戦闘部隊や諜報部隊と役目がわかれているのだが、基本的に訓練遠征は部隊を分け、内容はほぼ同じで行っていた。今回は各部隊の新兵を連れての訓練遠征である。
 ルナマリアは、ブランデーを注文する。
 
「第一、第二部隊は私、第三、第四はヒュンケル、第五、第六はリュドガの担当だ。訓練内容は対大型魔獣を想定した連携訓練と夜間訓練だったな」
「だな。やーれやれ……入隊希望が増えるのはいいけど、オレらはめっちゃ忙しいぜ」
「だけど、この国を守ろうと剣を掴み立ち上がる若者たちが大勢いる。とても素晴らしいことじゃないか」
「……真面目だねぇ」
「だが、そこがリュドガのいいところだ」

 ヒュンケルは苦笑し、ルナマリアはうんうん頷く。
 セバッサンは、そっとキャンディが詰まった小さな壺をテーブルに置いた。
 昔から、リュドガはキャンディが好きなのだ。リュドガは飴をつまみ口の中へ。
 そんなリュドガを眺めながらルナマリアはブランデーを飲み、ため息を吐く。
 そのため息に、ヒュンケルが反応した。

「ふぅ……」
「ん、どうしたルナマリア」
「いや、この国もいいが、アシュトの村にまた行きたいな……あの村はいいぞ」
「知ってるっつの。ま、オレはけっこう行ってるけどな」
「くっ……私も行きたい」

 リュドガとルナマリアは一度、ヒュンケルはもう二度訪問している。
 リュドガは笑いながら言う。

「さすがに、父上がエリクシールを二本も持ち帰ったのは驚いたよ」
「しかもアシュトが作ったってんだからな……つーか、土産だとか言ってオレまでもらったぜ? あんな国宝レベルの代物、オレにどうしろってんだよ」
「で、どうしたんだ?」
「とりあえず、オレんちの地下金庫に置いて厳重に鍵かけた。シャヘル先生は家に置いておくって言ってたな」

 三人は、何気ない会話で盛り上がる。
 いい感じに酒も回り始めていた。

「そーいえば、アシュトの奴、家の隣にバーを作ったんだとよ。いい酒揃えてるからヒュンケル兄も来てくれって連絡してきてな」
「なんだと!? くっ……実の兄であるオレには何の連絡もないぞ!!」
「はっはっは。アシュトの奴が言ってたぜ。『父上と兄さんには連絡しても繋がらないけど、ヒュンケル兄は絶対に繋がるから……』ってさ」
「なん、だと……」
「ふむ。私もミュディとよく連絡を取っているぞ。子供の様子とか報告して、子供服やおもちゃを送ると言っていたな。シェリーも連絡をくれる」
「なっ……しぇ、シェリーもか!? オレにはあまり連絡が来ないぞ!!」
「いやお前、世間話でもいいから連絡したことあるか?」
「…………ない」
「「……おいおい」」
「な、なんだ二人して!!」

 ヒュンケルとルナマリアはは顔を合わせ、苦笑する。
 そう。リュドガは自分からアシュトやシェリーに連絡をしたことがない。
 ヒュンケルはリュドガの肩を叩く。

「よし、今日連絡しろ」
「え」
「そうだな。リュドガ、兄として弟と妹の近況を聞け。いいな」
「る、ルナマリアまで」
「兄貴なんだし遠慮なんかしなくていいだろうが」
「うむ。私もそう思うぞ」

 ヒュンケルとルナマリアのコンビに押されるリュドガ。
 確かに、意味のない連絡もたまにはいい……かもしれない。

 ◇◇◇◇◇◇

『あれ、兄さん? ヒュンケル兄かと思った』
「…………あ、ああ」

 夜。少し早めに飲み会を終え、リュドガの私室でアシュトに連絡をしてみた。
 部屋にはヒュンケルとルナマリアがいる。というか、『ヒュンケル兄かと思った』にヒュンケルは苦笑した。

『珍しいね。兄さんから連絡してくるなんて……あ、何かあった?』
「い、いや。その……まぁ、元気かなと」
『元気? ああうん、元気だけど……どうしたの?』
「ま、まぁその。たまにはお喋りでもと」
『お喋りって、兄さんが?…………ヒュンケル兄に何か言われた?』
「…………」

 見事なまでに的中だった。
 アシュトは沈黙が正解だと思ったのか、気まずい空気が流れる。
 すると、アシュト側の声が変わった。

『お兄ちゃん、誰とお話してるの?』
『ああ、リュドガ兄さんだよ』
『リュウ兄? すっごい久しぶりじゃん。どうしたの?』
「い、いや。まぁ……」
『あ、そうだ。ねぇねぇ、今度さ、子供連れて遊びに来てよ! ミュディも喜ぶし』
「そうだな……休暇が取れたら行くよ」
『うん。あ、ルナマリアさんによろしくー! わわっ』
『ちょっとシェリー!! 早くこっち来なさいよー!!』
『え、エルミナ、引っ張らないでよ……じゃ、じゃあねっ』
『お、おいエルミナ、俺まで……ああもう、ごめん兄さん、またね!!』

 アシュトの声を最後に、通話は終わった。
 リュドガはリンリンベルの花を戻し言う。

「よし。いい感じだったな」
「んなわけねーだろ。図星突っ込まれてしどろもどろじゃねーか……」
「私も替わればよかった……後でシェリーに連絡するか」
「ま、少しずつ慣れていきな」
「……ああ」

 リュドガは肩を落とし、飲みなおそうとヒュンケルたちを誘ってバーに戻った。
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