大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑮

第399話、エイラちゃんの贈り物(前編)

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 ある日。薬院で読書をしていると、珍しいお客様がきた。

「おにーたん!」
「あれ、エイラちゃん? どうしたの、怪我でもした?」
「ちがうの。おにーたんにお願いがあるの!」

 デーモンオーガ幼女のエイラちゃんだ。
 俺に頼みとか珍しいな。
 とりあえずソファに案内して果実水を出すと、エイラちゃんは嬉しそうにゴクゴク飲み始めた。
 俺も自分用にカーフィーを淹れ、エイラちゃんの対面に座る。

「エイラちゃん。俺にお願いってなにかな?」
「うん。あのね……おとーたんとおかーたんにおくりものしたいの」
「贈り物……?」
「うん! おにーたんが教えてくれたの。でーもんおーがはおとーたんたちにおくりものしなくちゃダメーって」
「……えーっと」
 
 うーむ。どういう意味だろうか。
 要約すると、おにーたん……キリンジくんが言ったのか? デーモンオーガが両親に贈り物をしないといけない。エイラちゃんみたいな幼女が両親に贈り物?……エイラちゃん、まだ六歳くらいだよな。
 
「わかいでーもんおーがは、えっとね、ひとりで狩りをして、しとめたえものをじぶんのりょーしんにわたさなきゃダメなの。おやに、じぶんはつよいこですって見せないとだめなの」
「……なるほど」

 若いデーモンオーガは、一人で狩りをする。そして仕留めた獲物を両親に渡し、自分はデーモンオーガとして強い子だと証明する……ってところか。
 贈り物ってのはつまり、エイラちゃんが狩りで仕留めた獲物ってところか。
 でも、いくらデーモンオーガとはいえ、こんな小さなエイラちゃんが一人で狩りは難しい。

「おにーたん……おてつだいしてほしいの」
「んー……わかった。俺にできることなら手伝うよ」
「やったぁ! ありがとう、おにーたん!」

 手伝っていいのかな? というか、ディアムドさんやキリンジくんはこのことを知ってるのか?
 手伝うのはいいけど、確認しなきゃいけないことが多いな。
 それに、こんなにやる気に満ちあふれているエイラちゃんの頼み。聞かないわけにはいかないだろ。

 ◇◇◇◇◇◇

「デーモンオーガ、いえ……オーガ族の風習ですね」
「風習?」

 俺は狩りから帰ったキリンジくんをバーに呼び、酒を飲みながら話を聞いた。
 
「オレも四歳くらいの頃に一人で狩りに出かけて、狩った獲物を父さんと母さんに送りました。二人とも、その時に狩った魔獣の牙を首飾りにして、今でも持っててくれてます」
「へぇ~……なんがか、素敵な風習だね」

 ミリアリアがチーズを乗せた皿を出してくれた。
 俺とキリンジくんはチーズをつまみ、メィロンカクテルを飲む。

「そうですか……エイラが村長に相談を」
「うん。一応、両親に贈り物って聞いたから直接ディアムドさんたちに聞くのはマズいと思ってね。キリンジくんに相談してよかったよ」
「いえ。そんな」
「あ、そうだ。手伝いとかはアリなのかな?」
「ええ。ですが、魔獣を狩るのはあくまでエイラじゃないとダメですね。魔獣を誘導したり、弱らせたりするのは大丈夫です」
「なるほど」

 メィロンカクテルがなくなった。俺はセントウ酒を頼む。
 キリンジくんはチーズをつまみ、エールを注文する。
 なんとなく質問してみた。

「ノーマちゃんやシンハくんも贈り物したのかな……?」
「そう聞きましたよ。ノーマは十歳、シンハは八歳で一人狩りをしたそうです」
「……エイラちゃん、まだ六歳くらいだけど」
「恐らく、大丈夫でしょう。実は、エイラのことで少し気になることがあるんです」
「え?」
「実は……」

 俺はキリンジくんからエイラちゃんの『気になること』を聞く。
 
「村長。オレに相談しないってことはきっと、みんなを驚かせようと、家族にも内緒で一人狩りをするつもりなんでしょう。ここでの話は聞かなかったことにして、エイラの手助けをお願いします」
「わかった。任せておいて」

 俺はキリンジくんと軽くグラスを合わせ、乾杯した。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 エイラちゃんが俺の家に来た。
 背中には小さな剣を背負い、やる気満々だ。

「狩りにいくの!」
「わかった。じゃあ一緒に行こうか」
「うん!」

 いつも、出掛ける時はデーモンオーガの護衛を付けるが、今回は無理だ。
 家を出て村の入口に行くと、一緒に行く頼もしい護衛がいた。

『カリ、カリ!』
『ジャ、イコウゼ』
『オラ、ルスバン……イイナァ』

 ウッドとベヨーテが同行し、フンババはお留守番だ。
 
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
『ウン、オヒルネ、スル』

 一緒に行けないフンババを慰めるマンドレイクとアルラウネ。悪いな、今回は少数精鋭で行きたい。フンババは大きいし強いから獲物が逃げちゃう可能性がある。
 俺はマンドレイクとアルラウネを撫でた。

「じゃ、フンババをよろしくな」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「おにーたん、いこっ!」
「うん。ウッド、ベヨーテ、頼むぞ」
『オマカセ、オマカセ!』
『マカセナ』

 今さらだが、俺が年長者だ……いざという時はちゃんと守らないと。

 ◇◇◇◇◇◇

 さっそく森に入り、獲物を探す。
 本当にエイラちゃんと俺たちだけで狩りに入ってしまった。影からディアムドさんやバルギルドさんが見守っているなんてことはない。

「おにくがいいの。おっきなのでないかなー」
『オニク!』
『オジョウチャン、ウシロハマカセナ』
「ありがとうなの!」
「…………き、緊張してきた」

 俺は杖を手に、周囲をキョロキョロ見る。
 ウッドはエイラちゃんと手を繋いでルンルン気分だし、ベヨーテは俺の後ろをのしのし歩いている。
 やばいな。毒蛇とかいたらどうしよう。

「ん……くんくん。おにーたん、なんかくさいの」
「え、俺? おかしいな、風呂には入ったけど」
「ちがうの。あっちがにおうの」

 自分の匂いを嗅いでる場合じゃなかった。
 エイラちゃんが指さした方へみんなで行くと……い、いたよ。いたよデカいのが。

『ブルッフゥゥ……フシュルルル』

 そこにいたのは、デカすぎるブタだった。
 真っ黒で、知性のなさそうな顔をしている。大きさもキングシープよりデカく、高さ三メートル、横五メートルはあった……いや、今まで見た魔獣の中でもトップの大きさだ。

「や、や、やばばば……ええ、ええエイラちゃん、やや、やばい」
「おにくなの!」
『オニク!』
『ブタニクカ……ヘヘ、イイネ』

 いやいや、なんでやるきなのよ。
 俺は本を開く。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《ブラックブータン》
 オーク系魔獣の中でも特に絶品の黒豚ちゃん♪
 すっごく凶暴で強いけどその分とっても美味しいのよ?
 がんばって倒したご褒美のお肉、ぜひ味わってね♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 いや、ご褒美って……ウッドにベヨーテ、エイラちゃんと俺じゃ無理。
 距離はけっこうあるしまだ気付かれていない。
 俺はエイラちゃんの肩をポンポン叩く。

「おにーたん?」
「エイラちゃん、あれはまずい。勝てないよ……ここは引こう」
「やだ! くろぶたさん、食べたいの!」
「いや、でも」
「おとーたん、おかーたんもよろこぶの! いくの!」
「あ、エイラちゃん!?」

 なんと、エイラちゃんが藪から飛び出してしまった!! 

『ブルルルルルッ!! ブルガァァァッ!!』
「おにくー!!」
「やばい!! ベヨーテ、援護射撃!!」
『マカセナッ!!』

 ベヨーテの両腕から棘が発射され、ブラックブータンの足を撃ち抜いた。
 だが、ブラックブータンは止まらない。エイラちゃんに向かって四足ダッシュで突進する。

「やばい!! エイラちゃん!!」
「まけないのーっ!!」

 ウッドになんとかしてもらおうと思ったが間に合わない。
 俺も杖を構え、何か呪文を……と、次の瞬間。

「うにゃぁーっ!!」
『ブゴォォッッ!? ゴルル、ブルルルルァァァァッ!!』
「うっそぉ!?」

 な、なんと……エイラちゃんがブラックブータンの突進を真正面から止めた。
 ギョッとしていると、エイラちゃんはブラックブータンの顔の皮膚を掴み、思いきり真上にぶん投げた。

「えーいっ!!」
『ブルルルルルッ!?』
「じゃーんぷっ!!」

 そして、エイラちゃんは思いきりジャンプ……圧倒的脚力から繰り出される跳躍。そして落下するブラックブータン。エイラちゃんはブラックブータンの腹に頭から突っ込んだ。
 エイラちゃんのツノがブラックブータンの腹に突き刺さり、なんと貫通した……。

『キャッチ、キャッチ!!』

 まるで知っていたかのように、ウッドが両手から根を生やして網を造り、ブラックブータンとエイラちゃんを受け止めた。

「…………ま、マジで?」
「やったの!」

 エイラちゃんは、ブラックブータンの血塗れで喜んでいた。
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