大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑮

第400話、エイラちゃんの贈り物(後編)

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「た、ただいま~……」
「ただいまなの!」
『タダイマー!!』
『フッ……モドッタゼ』

 俺、エイラちゃん、ウッド、ベヨーテは村に戻ってきた……巨大な黒豚を抱えて。
 抱えてというか、ウッドが両手から根を出して網状にして黒豚を絡めとり、エイラちゃんが抱えて歩くという荒業だ。俺は黒豚が傷つかないように『樹木移動ツリームーブ』で木々をどかしただけ。
 村に戻ると、出迎えたのはデーモンオーガ両家だった。

「おとーたん、おかーたん、おにーたん。おっきいブタさんなの!」

 エイラちゃんが黒豚を地面に落とすと大地が揺れた……いや、どんだけ重いのよこれ。
 ディアムドさんはエイラちゃんのそばでしゃがみ、大きな手で頭を撫でる。

「……大したものだ」
「えへへー」
「まさか、ブラックブータンを狩るとはね……あたしの小さい頃はこんな大物じゃなかったわ」

 ネマさんも驚いている。
 すると、シンハくんとノーマちゃんが黒豚をペシペシ叩いた。

「すっげぇなぁエイラ。おれが初めて狩りをしたときはデカい芋虫だったのに」
「あたしはデカいミミズね。粘液気持ち悪かったわー」

 …………どっちも会いたくないな。
 温室や畑で薬草を育ててたから虫は平気だけど、デカいのはキモイ。
 バルギルドさんとアーモさんもどこか感心していた。

「ブラックブータン……こいつの肉は絶品だ」
「ええ。エンジュが言うには内臓も食べれたわね。村の備蓄分はあるし、エイラの初めての狩りだし、ディアムドの一家で全て食べるべきね」
「ああ……村長、構わないか?」
「え? ああはい。もちろんです」

 いきなりバルギルドさんに話を振られたからちょっと驚いた。
 そっか。デーモンオーガ一家はこれとは別に今日の狩りを終えてるんだ。なら、この黒豚は全てエイラちゃんの物だろうな。
 すると、ネマさんに撫でられていたエイラちゃんが俺の元へ。

「おにーたん、きょうはみんなでおにくなの!」
「はは、そうだね。このお肉はエイラちゃんのおうちで、家族みんなで食べてね」
「……おにーたんはたべないの?」
「いや、俺は」
「おじたんはたべないの?」
「……む」

 おじたん……ああ、バルギルドさんね。
 エイラちゃんはバルギルドさんの足にしがみついて見上げた。

「おじたん。みんなでおにくたべよ?」
「…………む」
「だめ?」
「…………」

 お、バルギルドさんがディアムドさんに助けを求めてる。この巨漢が助けを求める光景はレアだな。
 ディアムドさんは頷き、ネマさんはクスクス笑う。

「……エイラが望んでいる。村長、この肉は村で振舞ってくれ」
「そうね。あたしたちじゃ食べきれないし。けっこうな量があるから肉祭りなんてどう?」
「肉祭りかぁ……いいかも。よし、じゃあエイラちゃん。このお肉はみんなで食べようね」
「うん!」

 というわけで、肉祭りを開催することになった。

 ◇◇◇◇◇◇

 いきなりの祭りは無理だったので、明日の夜に開催することになった。
 村の中央広場に特設会場を設け、そこでエイラちゃんの狩った黒豚を調理する。
 村の住人は千人を超えているので肉が足りず、明日の午前中に追加の肉を狩りにデーモンオーガ一家はでかけた。その間、特設会場では野外設備の準備とお酒の準備、肉だけじゃ偏るので魚や野菜の準備が行われた。
 このイベントに張り切っていたのはエルミナだった。

「んふふ。お肉にお酒~♪」
「お前、また太るぞ」
「うるっさい。それより見てよアシュト、あのブラックブータン……い~い脂がのってるわぁ」

 特設会場では、エンジュの指示の元、銀猫たちによってブラックブータンが解体されていた。
 頭は会場の中心に飾り、肉と内臓はそれぞれの部位に切り分けられている。エンジュ曰く内臓が美味しいらしい。
 エルミナは解体中の肉を見てニンマリ笑う。

「いいお肉ね。冬が近いからいっぱい食べて栄養を付けてたのかも」
「冬……ああそっか。もうすぐ三年経つのか」

 オーベルシュタイン領土は場所によって季節が違う。
 この辺りは三年くらいで冬がくる。ピッタリ三年というわけではなく、二年半だったり三年すぎとバラつきがあるが、だいたい三年くらいらしい。

 ハイエルフは気候や季節を読むのが得意なので、冬が来る数か月前から冬用の備蓄準備はしている。
 今までは狩りに勤しんだり、冬でも保つ食材などを倉庫に保管しておいたが、今ではいろいろな交易があるのでそれほど困っていない。

「たぶん、あと半年もしないうちに冬が来るわ。農園もあと一回収穫して土を休ませるってメージュが言ってた」
「そっか……またコタツの出番か。住人も増えたし、ブラックモールたちに魔石を採掘してもらって、ドワーフたちには各家庭用にコタツを準備してもらおう」

 それ以外にも、雪に備えて設備や建築物の点検と補強、交易先に冬の到来を伝えて……うん、忙しくなるな。

「おっと。薬の備蓄も確認しなきゃな」
「ねぇねぇ、肉祭りにおじいちゃん呼んでいい?」
「ああ、いいぞ」
「やたっ」

 エルミナは喜び、俺の腕に抱きついた。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日の夜。肉祭りが開催された。
 黒豚のステーキ、黒豚ホルモン焼き、黒豚肉の煮込みなどが屋外キッチンで目の前で調理され、お酒も大量にふるまわれた。
 お酒はディミトリやアドナエル、人狼族の協力だ。

「ステーキには赤ワイン!! 白……天使の色など邪道ですネェ!!」
「ハァァ~ン!? 通なヤツは白ワインを飲むんだゼェ? オォウ、悪魔は黒だろぉ? 黒ワインでも飲んでなバイベェッ!!」
「「ぐぬぬぬぬぅぅぅっ……」」

 屋外に設置したバーからディミトリとアドナエルが揉めていたが、グラッドさんに担がれて退場した……すまんアドナエル、俺もステーキには赤ワインだと思う。
 俺はローレライとクララベルが座っていた席へ向かう。

「あ、お兄ちゃん」
「こんばんわ、アシュト」

 クララベルが黒豚ステーキをもぐもぐ食べ、ローレライは赤ワインを飲んでいた。

「二人とも、楽しんでるか?」
「うん! おにくすっごく美味しい!」
「ふふ。お祭りっていいわねぇ」

 確かに。冬前だし、いい祭りになった。
 ミュディとシェリーも混ざり、酔っぱらったエルミナがハイエルフたちを引き連れ、リザベルやディアーナ、イオフィエルも来た……男がいない。
 女の子同士の姦しい会話について行けず、俺はこっそり抜け出した。
 ミュアちゃんたちのところにでも行こうかと思ったら、キリンジくんが俺の前に。
 
「村長。少しいいですか?」
「うん、いいよ……エイラちゃんのことだね?」
「はい。村長の意見を聞きたくて」

 俺とキリンジくんはワインを持って会場隅のテーブルへ。
 席を自由にしてよかった。いろんな種族が集まって酒盛りしている姿はとても眩しい。
 エイラちゃんはミュアちゃんたちに囲まれ、楽しそうに笑っている。
 
「キリンジくんの思った通り、エイラちゃんは筋力も速度も兼ね備えているね」
「やっぱり……」

 デーモンオーガの特性。
 男は腕力が発達し、女は脚力が発達する。もちろん、男の脚力は並のオーガを大きく上回るし、女の腕力はオーガ十人分以上だ。それでもデーモンオーガからすれば低いらしいけど。
 だがエイラちゃんはその両方。腕力と脚力が同時に発達している……と、キリンジくんは踏んでいた。
 
「いくらオレでも、エイラの歳でブラックブータンの突進を真正面から受け止めることはできません。ましてやあの巨体を放り投げて、跳躍で頭突きして腹を突き破るなんて」
「あ、やっぱり普通じゃなかったのね……」

 俺とキリンジくんは苦笑し、ワインを飲む。

「おにーたん!!」
「っと、どうしたエイラ?」
「おにく、おにくなの! おにくたべるの!」
「はは。わかったわかった……すみません村長、行ってきます」
「うん」

 エイラちゃんは、キリンジくんを連れて行ってしまった。
 ま、エイラちゃんがどんな身体だろうと、キリンジくんにとって可愛い妹に変わりないってことだ。
 
「それにしても、もうすぐ冬か……」

 ほんの少し肌寒い風を浴びながら、俺はワインを一口飲んだ。
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