大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第409話、冬の異変

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 父上と母上が村に来て一日。
 まずは村の案内をしよう……と、思っていた矢先だった。
 早朝。温室はもう閉じたので薬草の世話がないが……シルメリアさんに起こされた。
 
「んん~……シルメリアさん、温室の世話は終わったからぁ」
「いえ。バルギルド様がいらしています。至急、ご主人様にお伝えしたいことがあるのだと」
「……バルギルドさん?」

 こんな早朝にバルギルドさんが来るなんて。
 たぶん、緑龍の村が始まって初めてのことだ。なんだろう、急病か何かか。
 俺は寝間着のまま、コートだけを羽織って玄関へ。
 玄関には、腕組みをしたバルギルドさんがいた……いや、けっこう寒いけど袖なしのシャツ一枚に腰巻だけって相変わらずすごいな。

「朝早くすまん。少し、いや……正直、よくわからん事態が発生した」
「はい?……ふぁぁ」

 思わず欠伸してしまう。
 バルギルドさんは困ったように顔をしかめた。こんな表情も珍しいな。

「すまんが、一緒に来てくれ」
「は、はぁ……」

 見た方が早いということだ。
 外に出ると霧が出ていた。それだけじゃない、冷たい空気が肺に入り込み、一気に目が覚める。
 身体がブルっと震え、冬が来たのだと実感する。

「さ、さむっ……ば、バルギルドさんは寒く……ないですよね」
「ああ。デーモンオーガは寒暖の感覚が鈍いからな」
「羨ましいです……」

 歩くこと数分。早朝のいい散歩になった。
 到着したのは牧場だ。
 ここはキングシープと雷獣クジャタの牧場で、厩舎があり、近くには竜騎士たちのドラゴン厩舎もある。
 なんでこんなところに……?

「あの、ここに何が?」
「……わからんか?」
「え?」
「……見ろ」

 バルギルドさんは、牧場を指さした。
 相変わらず、とんでもなく広い牧場だ。キングシープやクジャタは図体が大きいので、牧場スペースも基本的に広い。深い霧のせいでよく見えないけど、雪が積もったら雪かきが大変……………………え。

「…………え、な、なんだ? は?」
「…………わかったか?」
「は、はい……あの、これ、どういう」
「わからん。今朝、見回りをしていたら見つけた……」

 白い霧のせいでよく見えなかったが、ようやくわかった。
 確かに、異常な事態が起きている。
 俺は目を擦り、もう一度牧場の中を見た。

『もきゅぅ』
『きゅぅ~』
『もきゅ』
『もっきゅぅぅ~』

 牧場の中央付近に、ニコニコアザラシの大群が一塊になって集まっていた。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 こういう時、頼りになるのはシエラ様だ。
 唖然として見ていると、シエラ様がふわりと現れた。

「ふふ。どうやらここ、気に入っちゃったようね」
「あ、シエラ様。その……どういうことで?」
「うん。ニコニコアザラシたちは冬になると固まって冬眠するの。ここは安全な場所って思われちゃったみたいね」
「安全って……あ、子供」
『もきゅ』

 俺の足元に、ニコニコアザラシの子供がいた。
 そと抱きあげると……うん、もふもふしてる。

「大人は冬眠するけど、子供は浅い眠りの繰り返しなの。大人は寝ているのに子供は起きている……だから安全な場所じゃないと、親は冬眠できないのよ」
「確かに、ここは安全ですよね」
「そういうこと♪」

 どうやら、牧場はニコニコアザラシの冬眠場に選ばれたらしい。
 数を数えると、大人が五十匹、子供が三十匹ほどだ。親はギッチギチに固まって冬眠し、子供は寝ているのもいれば起きてちょこちょこ動いているのもいる。
 どこから入り込んだのか調べると、牧場の柵が一部壊れていた。

「バルギルドさん、後でドワーフに頼んで修理してもらうようにお願いしてもらっていいですか? あと、子供が脱走しないように、周囲の柵を点検するようにと」
「わかった。ついでに、クジャタとキングシープに「餌ではない」と言い聞かせておく」
「お、お願いします」

 バルギルドさんは頷いて去る。
 冬は目前なのに、とんでもない移住者ができてしまった。

『きゅうう』
「よしよし。シエラ様、子供の餌はどうすれば」
「水があればいいわ。主食は花の蜜だけど、冬前にエネルギーを身体に蓄えているはずだから」
「水だけとは……どんな身体してるんだろう」
『もきゅ?』

 首を傾げるニコニコアザラシを抱きしめる。なにこいつ可愛い。
 うーん……ちょっとだけ家に連れていこうかな。

「ふふ。可愛いもふもふの移住者ね。アシュトくん、仲良くしてあげてね~♪」
「は、はい……」

 そういって、シエラ様も去っていった。

 ◇◇◇◇◇◇

 家に帰ると、ちょうど父上と母上が来ていた。どうやら一緒に朝食を取るようだ。
 リビングにはエルミナ、ローレライ、クララベル以外揃っているが……やはり注目された。

「お、お兄ちゃん?……それ、どうしたの?」
「あー……実はいろいろあってな」
『もきゅう』
「ニコニコアザラシの子供!! わぁ~かわいぃ~♪」

 ミュディがさっそく近寄り、ニコニコアザラシの子供を撫でる。
 父上と母上も気になっている……あ、そうだ。

「母上。よろしければどうぞ……モフみがあって癒されますよ」
「え、え? でも、これ……なんなの?」
「ニコニコアザラシの子供です。柔らかくてモフモフして気持ちいいですよ。大人しいですし、抱っこしてると癒されます」
「え、ええと……」
「はい、どうぞ」

 半ば強引にニコニコアザラシの子供を渡す。
 母上はおっかなびっくり受け取ったが、すぐに顔を綻ばせる。

「か、可愛いですね」
『きゅぅぅ』
「ふふ……よしよし」
『もきゅぅぅ』
「あ、アシュトよ。この生物はどこから来たのだ?」

 父上が聞いてきた。
 牧場の件もあるし、朝食がてら説明をする。
 牧場の一部にニコニコアザラシの大群が住み着いたこと、一冬をここで過ごすことを伝えると、なぜかミュディは大喜びだった。

「やったぁ。ふふ、後で見に行こうっと」
「いいけど……なんでそんなに嬉しいんだ?」
「だって、みんな可愛いじゃない? 冬の癒しになるね」
「そ、そうかな……」

 よくわからん。
 父上も母上が撫でるニコニコアザラシを見て首をひねってるし。
 すると、母上が咳ばらいをする。

「こほん……ミュディさん。この子の仲間の元へ行くのでしたら、私も同行します」
「はい! アリューシア様、一緒に癒されましょう!」
「ええ。もふもふ……」
『もきゅ』
「……わしにはわからん」
「……俺もです」
「……あたしもそう思う。可愛いけど、見に行くほどでもないかも」

 父上、俺、シェリーは付いていけなかった……まぁ、母上が行くなら父上も同行するだろうし、なんやかんやで俺もミュディと一緒に行くだろうけどね。
 とりあえず、一冬の住人として歓迎しよう。
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