大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第412話、冬の訪れ

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「たっだいまーっ!!」
「ただいま」
「ただーいまーっ!!」

 エルミナ、ローレライとクララベルが帰ってきた。
 仕事でいないミュディとシェリーの代わりに、俺とミュアちゃんがお出迎えする。

「おかえり。三人とも」
「にゃあ。おかえりー」
「ただいまー!! う~んミュアはかわいいわねぇ~……なでなで」
「ごろごろ……」

 エルミナはミュアちゃんに抱き着いて頬ずりし、ネコミミと顎を撫でる。
 ミュアちゃんも気持ちいいのか喉を鳴らしていた。
 俺はというと、抱きついてきたクララベルを撫でながらローレライと話す。

「久しぶりの帰省、満足したみたいだな」
「ええ。王族の公務もあったけど、のんびりする時間のが多かったわ。ドラゴンロードの風もたくさん浴びたし、いい気分転換になったわね」
「そっか。あれ?……アイオーンも一緒だったんじゃ」
「ああ、あの子は竜騎士の宿舎でスケッチするとか言ってたわ」
「……帰って早々にスケッチ? よくわからん」

 首を傾げていると、クララベルがガバッと顔を上げる。

「お兄ちゃんお兄ちゃん、お話したいこといっぱいあるの!!」
「あはは。わかったわかった。その前に荷物を置いて着替えて来いよ。時間はあるし、風呂に入って温まってからでもいいぞ」
「うん!! 姉さま、エルミナ、お風呂いく?」
「お、いいわね。ってか、かなり肌寒いし、お風呂で温まってから一杯やるのもいいかも」
「お風呂……うん。久しぶりにここの大浴場に行きたいわ」
「にゃあ。お背中ながすー」

 エルミナたちはミュアちゃんを連れ、女湯に行った。
 さて、俺はみんなのためにお酒とおつまみでも用意しようかな。

 ◇◇◇◇◇◇

 三人が帰省してから数日後、ついに来た。
 朝、俺は異様に寒いことで目が覚め、ミュディが作ったもこもこガウンを着てカーテンを開ける。
 そして、外を見て驚いた。

「……雪だ」

 外は純白の世界だった。
 昨日は土の地面に葉が散った樹だったのに、今は雪が積もって真っ白だ。
 庭を見ると、パジャマ姿のライラちゃんとマンドレイクが跳ね回っていた。あの二人、寒さには強いからな。
 
「さむっ……えーと、床暖房……」

 ふふふ。二度目の冬はばっちり支度が整っている。
 ミュディがディミトリの協力を得て作った『床暖房カーペット』を杖でコンコン叩くと、魔力が流れてじんわりと温まってくる。これは、熱を持つ魔石を溶かした物に糸を漬け込んで編んだカーペットだ。各家庭に一枚ずつ配布されている。
 これと合わせ、暖炉に火を淹れるとあら不思議……あっという間に部屋が温まってきた。

「はぁ……これから三百日、本格的な冬だなぁ」

 部屋に備蓄してあるカーフィーを淹れる道具を使い、熱々のカーフィーを注ぐ。
 窓の外は純白の世界。熱々で真っ黒なカーフィーを飲みながら眺めるのも乙な感じ。
 すると、ノックもなしにドアが開いた……ルミナだ。

「寒い」
「おっと。ほら、こっちは暖かいぞ」
「みゃう」

 ルミナを暖炉前に連れていくと、床暖房カーペットの上で丸くなる……ネコみたいだ。
 現在、ルミナは薬院で寝ている。
 薬院の隅っこにコタツを置き、そこで寝たり読書したりしているのだ。ちゃんとした部屋はいらないから、薬院の隅にコタツを置けと言うので仕方なくそうした。
 ちなみに、ルミナは魔力を扱えないので、コタツの魔石に魔力を流せない。あとで魔力を流しておいてやるか。

「ご主人さま、朝……あ、ルミナ」
「ん、おはようミュアちゃん」
「にゃう。ご主人さま、朝ごはんー」
「お、そんな時間か。ルミナ、朝ご飯は?」
「食べた」
「わかった。じゃあ、ここでゆっくりしてろよ」
「みゃう……」

 ルミナはカーペットの上を転がりながら、尻尾をゆらゆらさせた。

 ◇◇◇◇◇◇

 朝食を終え、部屋で着替えて薬院へ。
 ルミナも付いてきた。
 薬院の掃除を軽くして、薬の在庫をチェックし、診察記録の整理をしていると、外来用ドアがノックされる。

「はい、どうぞ」
「失礼するぞ」
「こんにちは、アシュト」
「父上、母上。ようこそいらっしゃいました」

 父上と母上だった。
 二人の上着を預かり、来客用ソファへ案内する。
 驚いたのは、母上がニコニコアザラシの子供を抱いていたことだ。

「あの、その子……」
「ふふ。懐いてしまってね、なかなか離れてくれないのよ」
『もきゅー』

 ニコニコアザラシの子供をはヒレをパタパタさせ、薬院の中をびったんびったんしながら動き回る。すると、部屋の隅にあるコタツに向かって行く。コタツからは黒い尻尾が伸び、左右に揺れていた。
 
「ところで母上。お身体の方は」
「ええ、気分がいいわ。来て間もないけれど、ここがいい村だとよくわかるわ」
「よかった……」

 母上のことは父上に任せっきりだ。
 しばらく夫婦の時間があればいいとのことで、俺やシェリーは必要以上に接しない。
 シェリーは浴場とかで一緒になることが多いみたいだけど、俺は会うのが久しぶりだった。
 
「あ、今お茶を淹れますね」

 俺はお茶の支度をする。
 外は寒い。母上はまだカーフィー慣れしてないし、シルメリアさんがブレンドした特製紅茶に、クララベルが作った作り置きクッキーにしよう。
 杖でポットを叩くと一瞬でお湯が沸き、紅茶を淹れるのだが……なんだか見られているような気がした。

「あ、あの。何か?」
「いや……手慣れたものだな」
「ま、まぁ……一人で仕事することもありますし」

 ちらりとコタツを見ると、ニコニコアザラシの子供を枕にしてルミナが読書していた。なんだかほっこりする可愛さで安心安心。紅茶を淹れる手つきも安心だ。

「さ、どうぞ」

 紅茶を出すと、父上と母上がカップを掴む。

「いい香りね……」
「うむ。いい茶葉を使っているようだ」
「村で作った紅茶です。温まりますよ」

 しばし、紅茶を楽しんだ。
 母上はカップを置き、窓の外を見る。

「それにしても、すごい雪ね……」
「オーベルシュタインの一部ではこれが普通みたいです。あの、歩きにくくなかったですか?」
「心配いらん。ドワーフとサラマンダーが歩道の除雪作業を行っておる」

 あ、そっか。確か班分けして除雪部隊を設立したんだっけ。
 ディアーナがいろいろ準備してくれたんだ。ほんとに頭が上がらないよ。

「そういえば、何か御用でしょうか?」
「いや。なんとなくお前の顔が見たくなってな。少し休んだら図書館で本を読むつもりだ」
「ここの本はすごいわね。たった一人のエルフが書いたというのは本当なのかしら?」
「あはは。本当ですよ。ちなみにハイエルフですけどね」

 父上と母上は笑っている。
 母上と、こんな風に話せる日が来るとは考えもしなかった。
 のんびり喋っていると、父上が言う。

「では、あまり邪魔をしても悪い。そろそろ行くか、アリューシア」
「そうね。紅茶のおかげで身体も温まったわ。アシュト、また来てもいい?」
「もちろんです」

 二人にコートを着せ玄関まで見送る。母上はニコニコアザラシの子供を抱いた。
 父上と母上は、一本の傘を刺し、寄り添いながら歩きだした。
 俺はカップを片付け、大きく伸びをする。

「なんとなくだけど、今日は怪我人も病人も来ないかな」
「おい。おやつの時間だぞ」
「はいはい」

 頭を擦り付けてくるルミナのネコミミを揉み、俺はおやつの準備をした。
 外はしんしんと雪が降り、止む気配はない。
 緑龍の村、二度目の冬は……穏やかに、ゆるやかに始まった。
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