大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第423話、人狼族の冬

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 人狼族の村。
 ここも深い雪に覆われ、辺り一面は冬の景色となっている。
 人狼族の冬。冬期間の主な仕事は専ら狩りだ。コメ栽培は冬にはできない。男たちは狩りに出かけ、獲物を仕留めてくるのだが……今年はここに、清酒造りが加わった。

 エルミナが提供した酒造りの技術。
 清酒はとりあえず完成したが、エルミナの研究は続いており、清酒は寒い時期に仕込むと味が深まり美味いということがわかっていた。
 なので、寒い冬に酒を仕込むことは自然である。
 それに、彼ら彼女らは人狼……人型から人狼態に変身すれば、全身が体毛に覆われるため、寒さには強い。
 人狼族と清酒。これほど合う仕事もなかった。

 村の一角には、エルダードワーフたちが建築した清酒工場がある。
 酒に関する仕事なら任せろとばかりに張り切って建築した建物で、茅葺屋根が多く目立つ人狼族の村ではやや浮いた建物だ。だが、人狼たちは村の新たな産業に喜んでいた。
 おかげで、ここではない人狼族の村の住人たちが清酒造りに興味を持って移住したり、小さな村の人狼たちが揃って移住しに来たりと、村の規模が一気に三倍ほどになった。

 さて、住人が増えればそれに伴い問題も出てくる。
 些細なことで喧嘩をしたり、仕事間のトラブルだったり……そんな中、出てくるのが怪我人だ。
 今までは、怪我をしたら幹部を洗浄して自然治癒だったり、その辺の薬草を塗り込んだりと雑な手当てが殆どだった……が、今は違う。

 人狼族の村には、年若い薬師がいるのだ。

 ◇◇◇◇◇◇

「では、この薬を幹部に塗って様子を見ましょう。人狼態に変身しないで、人間態のまま皮膚に塗り込んでください。それと……もう怪しげなキノコなんて食べちゃダメですよ」
「あ、ああ。すまん……助かったよ、フレキ」
「いえいえ。ではお大事に」

 ここは、人狼族の村にあるフレキの薬院。
 アシュトの村にある薬院と比べると規模は半分以下。それでもフレキには自分の城のように思えた。
 薬品棚、診療机と椅子、部屋の隅には来客用ソファとテーブル、大きな本棚、隣にある小さな部屋は薬品庫であり薬草を調合するスペースになっている。
 今さっき来た人狼は村の若者で、自生していたキノコを食べて腹痛を起こし、皮膚に湿疹が出来ていた。
 なので、アシュトから教わった毒消しを飲ませてキノコを吐かせ、湿疹の薬を処方した。
 昔のフレキだったら慌てふためくだろう。だが、今は違う。
 経験、知識が備わりつつあるフレキは、立派な薬師だった。

「よし。ん~……本でも読むかな」

 患者は、全く来ない日もあれば一時間に数人ほど来る。
 今日はまだ三人目。なんとなく、あと数人は来る気がした。
 フレキは、緑龍の村の図書館で山ほど借りてきた本の一冊を開く。すると、ドアがノックされた。

「はーい」
「お疲れ様です、兄さん」
「ああ、アセナか」

 フレキの妹アセナが、昼食を持ってやってきた。
 持っていたバスケット(ミュディが作った物をもらった)を開けると、中には塩むすびや骨付き肉、野菜サラダが入っていた。
 さっそくソファに移動し二人で食べる。

「兄さん、お茶です」
「うん。ありがとう」

 塩むすびにはリョク茶が合う。
 緑龍の村から冬の分として大量にもらったので、フレキは毎日飲んでいた。
 おにぎりを頬張りながらアセナに聞いた。

「アセナ。変身はできるようになったかい?」
「ええ、一応……それと狼にも」
「そっか。アセナはすごいなぁ。まさか、人狼だけじゃなくて狼にも変身できるなんて」
「……長は、人狼としての血が濃い故に変身のコツを掴むのに時間がかかったんじゃないかって。それに……狼に変身できるのは私だけじゃないです」
「ああ、レムスくんね……」
「はい……はぁ」

 アセナは大きなため息を吐いた。
 アセナは人狼の中でも特殊で、人の姿、人狼の姿、そして完全な狼の姿に変身できる。
 最近まで人狼になることができなかったが、特訓の末に人狼態を習得。狼の姿も習得した。
 人狼族の村長は、アセナが『狼王マルコシアス』という伝説の人狼だと大いに喜び、次期長にアセナを指名したのである……だが、ここで少し問題があった。

「まさか、移住者の中にアセナと同じ体質の子がいたなんてね」
「私も驚きです。こんな体質、私だけかと思ってたのに」

 アセナは塩むすびを食べ終わり、お茶を啜る。
 その時だった。薬院のドアが開かれ、一人の人狼が入ってきたのである。

「ここにいたか!! 我が宿敵の人狼アセナ!!」
「…………またあなたですか」
「ふふふ。今日こそお前を倒す!! 勝負しろ!!」
「あの、雪が入るのでドアを閉めて下さい」
「ん、ああ……よし、閉めたぞ」
「はい。兄さん、お茶のお代わりはいかがです?」
「あ、もらうよ。お願い」
「はい。そうだ、デザートにリンゴを剥くんでした。ちょっと待っててくださいね」
「うん、よろしく」
「おいこら無視すんな!! おいアセナ!!」
「…………あの、うるさいので黙ってくれます?」
「あ、うん。ごめん……」

 アセナと同い年の少年レムス。
 移住してきたばかりの人狼族で、身長はアセナとほぼ同じ、髪はクセッ毛の、どこか可愛らしい少年だった。
 レムスはずかずか上がり込むと、アセナの隣に座る。

「おれにもお茶くれ!!」
「…………それが物を頼む態度ですか」
「う……お、お茶くれ」
「……はぁ」

 アセナは仕方なしと湯飲みを出し、お茶を注ぐ。
 
「どうぞ」
「お、いっただきまーすあっじゃぁぁぁぁっ!?」

 どういうわけか、レムスは熱々のリョク茶を一気飲みした。
 のたうち回るレムスを冷たい目で見下ろすアセナ。テーブルの上はレムスが吐きだしたお茶で濡れていた。
 アセナは無言で雑巾をレムスに差し出す。

「汚しましたね……掃除しなさい」
「ふ、ふざけんにゃ!! こんなあちゅい茶をおれに!! くひょ、だましたな!!」
「掃除しろ」
「……ひゃい」

 アセナの殺気に気圧されたレムスは雑巾を受け取り、大人しく掃除を始めた。
 そんな様子をどこか微笑ましく見ているフレキ。
 すると、再び薬院のドアがノックされる。

「はい、どうぞ」
「失礼します。フレキさんはいますでしょうか?」
「あ、ロムルス!!」
「兄さん……あなた、またアセナさんにちょっかいを出したんですか」
「うっせ!! つーかお前、何の用だよ」
「ぼくはフレキさんに用があってきたんです」

 ロムルス。
 レムスの一歳下の弟で、こちらは普通の人狼だ。
 騒がしいレムスとは違い、サラサラのストレートヘアにメガネをかけている。不思議と雰囲気がフレキそっくりの少年だった。

「フレキさん。今日もご指導よろしくお願いします」
「あはは。ボクでよければ……あ、その前にお茶でもどう? これからアセナがリンゴを剥くんだ」
「では、ご相伴にお預かりします」
「おいロムルス!! 勉強なんかしないで遊ぼうぜ!!」
「いえ、ぼくはフレキさんの元で薬学を学びますので」

 これが、フレキたちの冬だった。
 新しく移住してきた人狼族の兄弟レムスとロムルス。
 レムスは同じ体質のアセナにちょっかいを出し、弟のロムルスはフレキから薬学を学ぶ。
 
 人狼族の村の冬は、とても忙しく騒がしかった。
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