大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第424話、冬のエルダードワーフと竜騎士たち

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 冬のイベントが一旦終わり、緑龍の村は雪の降る平日が続いた。
 今日は朝から雪が降り、防寒着を着こんで真ん丸になったエルダードワーフと、炎龍ヴォルカヌスの紋章が背中に刺しゅうされた上着を組で揃えたサラマンダーたちが、村の除雪を行っていた。
 冬は、仕事が少ない。
 建築関係の仕事がストップしているため、その人員全てが手の空いた状態だ。なので、鍛冶組の手伝いをしたり、朝からこうして除雪作業をするのが主な仕事になっていた。
 エルダードワーフの一人アウグストは、除雪をひと段落してエルダードワーフの事務所に戻ってきた。

「ふぃぃ~……今日もすんげぇ雪だな」
「おう、お疲れ」
「こっち来てあったまれや」

 事務所の中央に置いたヒバチに二人のエルダードワーフがいた。
 酒造関係を取り仕切るマディガンと酒に関する農業を取り仕切るワルディオだ。
 マディガンはヒバチで温めていた薬缶を手に取り、中身を湯呑に注いでアウグストへ。

「ほれ、熱燗じゃ」
「おお、悪いな」

 清酒はそのまま飲んでもうまいし、温めてもうまい。
 温めた清酒は風味が変わる。エルミナはこれを「熱燗」と名付け村中に広めた。寒い冬は特に熱燗が美味く、ドワーフたちにとっては至高の水である。
 アウグストは熱燗をキューっと飲む。

「っか……美味い」
「ところでアウグスト。最近どうよ?」
「あぁ? なんだワルディオ。それを言うならお前こそどうなんだ? 冬は麦も小麦も大麦も育たんし、酒造りができねぇだろう?」
「バカ言うな。冬は冬でやることなんざいくらでもある。清酒は人手や設備の関係で人狼族に任せてるが……火酒やワイン、エールの仕込みは毎日続けとる。倉庫に入ってる収穫物を酒にせにゃ、一冬持たずおめぇらに飲み干されちまう」

 そう言うワルディオに、マディガンは頷く。

「だなぁ。わしら酒関係の仕事はけっこう忙しいぞ。アウグスト、おめーも手伝いに来い」
「そうだなぁ……よし、そのうち顔を出すぜ」
「そうしろ。ほれ、のめのめ」
「おう、もらうぜ」

 エルダードワーフの三人は、互いに酒を注ぎ合った。

 ◇◇◇◇◇◇

 竜騎士たちは朝の訓練を終え、それぞれの仕事を始めていた。
 村の警護と巡回は、雪だろうが大雨だろうが関係ない。それに、騎士の装備である鎧の下にキングシープの毛で作った保温シャツを着ているので暖かい。
 騎士たちは雪と冬の寒さに少しだけ寒気を感じる。
 竜騎士たちは『半龍人』で、龍人と人間の混合だ。身体能力は高く魔力も多い。才ある者は魔力で身体を包み体温を保つというやり方もしている。
 ローレライの騎士ゴーヴァンは、自身の相棒ドラゴンに乗って上空から村の巡回をしていた。

「ふぅ……寒い」

 ゴーヴァンの左右と後ろには部下がいるが、気付かれなかった。
 騎士たちは寒さを感じていたが、乗っているドラゴンは雪が嬉しいのかはしゃいでいた。
 ドラゴンは寒暖に強く、夏だろうが冬だろうが気にしない。むしろ、空から降る雪が気持ちよくてたまらないのか、どこかご機嫌だった。
 ゴーヴァンは見回りを終え、上空で旋回し指示を出す。

「お前らは引き続き巡回を一時間しろ。その後は相棒を休ませて休憩だ」
「「「了解!!」」」
「私は姫様のところへ行く。頼んだぞ」

 ゴーヴァンは着陸しドラゴン厩舎に相棒を帰し休ませる。
 鎧を脱いで着替え、コートと剣を持って図書館へ。
 図書館内は混雑していた。冬になると利用者が一気に増えるのだ。

「ゴーヴァン、ちょうどいいところに。手伝ってくれないかしら」
「はっ!!」

 ちょうどローレライが通りかかった。もちろんゴーヴァンはそのつもりだ。
 コートを脱ぎ、剣を置き、エプロンを着て……ゴーヴァンは騎士ではなく司書になる。

「姫様、何をすればよろしいでしょうか」
「本棚の掃除と整理を。よろしくね」
「はっ!!」

 ゴーヴァンはさっそく仕事に取り掛かる。
 騎士と司書。この二つの仕事が今のゴーヴァンの在り方だった。

 ◇◇◇◇◇◇

「ふんふんふ~ん♪」
「姫様。そんなにはしゃぐと転びますよ」
「だいじょーぶ!」

 クララベルの騎士ランスローは、クララベルと一緒に雪道を歩いていた。
 つい先ほど、ハイエルフのメージュにお茶に誘われたので、ランスローを連れてメージュの家に向かっている。
 ランスローの手にはクララベルが作ったお菓子のバスケットがある。お土産として作った物だ。
 クララベルは、除雪されたばかりの雪道を踏みしめる。

「ねぇランスロー、雪って美味しいのかな?」
「雪は食べ物ではないと習いましたね。眺める物だと」
「確かに、キレイだよねぇ」
「はい。姫様」

 ランスローは、クララベルが生まれた日から仕えている。
 十九歳だが、外見は十七歳の頃から変わっていない。龍人は長寿種なので外見の変化がとてもゆっくりなのだ。
 クララベルの父ガーランドと母アルメリアも、何万年も生きているのに外見は二十代半ばだ。
 外見はともかく、ランスローにとってクララベルは永遠の姫だ。

「そういえば……ねぇランスロー、雪の降る日に姉さまと飛んだの覚えてる?」
「もちろん。姫様が『白雪龍ブランシュネージュ・ドラゴン』と呼ばれるのは雪のように白いからだ。なら、雪が降る空を飛んでみよう……そう言いましたね」
「そうそう! ちゃんと覚えてるんだぁ」
「当然でございます」

 ランスローは、少しだけ得意げだった。
 クララベルはくるくる回り、両手で雪を掬う。

「そういえば、パパが言ってたっけ。わたしが生まれた日に雪がいっぱい降ってて、生まれたわたしが真っ白だったから、おじい様が『白雪龍ブランシュネージュ・ドラゴン』って名付けたーって」
「……その通りです」

 龍人は長寿種だ。
 長寿種の特徴で共通するのは、妊娠がしにくいこと。
 数千、数万年とガーランドとアルメリアが励み、ようやく授かったローレライ。
 長女の誕生に二人は喜び、騎士の同期であるゴーヴァンがローレライの騎士となった。
 同期で親友のゴーヴァンが王の愛娘の騎士になる。俗に言う出世に、ランスローは嫉妬しなかったわけではない。
 少しだけ嫉妬したが、すぐにその嫉妬は消えた。
 なぜなら、ローレライを出産してわずか一年後。アルメリアが再び身ごもったのである。
 これには、ガーランドとアルメリアも驚いていた。

「ん? どーしたのランスロー?」
「いえ、姫様が生まれた日を思い出しまして……」
「そうなの?」
「はい……」

 クララベルは知らない。
 クララベルは難産で、命の危険があったなんて。
 普通の人間なら、出産後一年の時間があれば次の子を身籠っても危険はない。だが、ドラゴンは違う。妊娠しにくいドラゴンが出産後一年で再び妊娠する。身体がもたないだろう。
 だが、アルメリアは諦めなかった。
 ガーランドが苦悩した。あの能天気な王が歯を食いしばり、我が子を諦める決断を迫られていた。
 あの頃のガーランドとアルメリアは見ていられなかった。
 正直、アルメリアはガーランドと戦ってでも腹の子を守ろうとしていた。
 そして、ついに……ガーランドが折れた。
 
「姫様」
「んー?」
「……いえ、滑りますの気を付けて」
「はーい!」

 危険な出産だったが、アルメリアは乗り越えた。
 ドラゴンロード王国に大雪が降った日、真っ白な龍人のクララベルが生まれた。
 母子ともに健康。不安は一気に解消され、クララベルは溺愛された。

「あ、そういえばランスロー! メージュのこと好きなの?」
「ぶっ!? ひ、姫様? なな、なんのことでしょう?」
「あのね、エルミナが言ってたの。ランスローはメージュのこと好きだーって」
「お、憶測で物を言うのはダメですよ!! 姫様!!」

 クララベルの騎士に任命されたランスローは誓う。
 ドラゴンロード王国の宝であるこの少女を守り抜くと
 ガーランドとアルメリアの宝、『白雪龍ブランシュネージュ・ドラゴン』クララベルを守るため、まずはクララベルの攻撃から身を守らねばならないランスローだった。
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