大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第425話、冬の父上と母上

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 アイゼンとアリューシアの朝は早かった。
 二人は大きなベッド一つを仲良く使い眠っている。どちらかが起きればもう片方も起きる。
 今日はアイゼンが早く起き、カーテンを開けた。

「うむ。いい雪だな」
「ん……あなた、おはよう」
「おお、起きたか。さっそく朝食を食べよう」
「ええ……」

 アリューシアは大きく伸びをする。
 その間、アイゼンは素早く着替え、桶に水差しで水を入れて杖を振る。すると水はたちまちぬるま湯になった。
 これは、アリューシアが顔を洗い髪を整えるための湯だ。こういう紳士的なところは昔から変わっていない。
 アイゼンはアリューシアが着替え始めたので、無言で部屋を出た。
 部屋を出て階段を下りると、いい香りがした。

「おはようございます。旦那様」
「おお、おはよう。シルビア」

 銀猫族のシルビアが、朝食の支度をしていた。
 アイゼンたちの世話を担当している銀猫シルビアの朝はアイゼンたちよりも速い。
 椅子に座るとカーフィーが出された。

「すまんな」
「いえ。奥様はお着換え中でしょうか?」
「ああ。もう少しかかる」

 それから間もなくして、アリューシアが下りてきた。
 顔を洗い髪を整え、動きやすく温かなロングスカートとシャツを着ている。
 まもなくして、朝食が始まった。
 目玉焼き、ベーコン、サラダ、焼いたパンにスープ。味はどれも絶品で、アイゼンとアリューシアはあっさりとたいらげた。
 食後のカーフィーを飲みながら、アイゼンは質問した。

「アリューシア。今日の予定は?」
「今日はローレライとドラゴンチェスをするの。あなたも一緒にどう?」
「ふむ、それも面白そうだが……実はドワーフから鍛冶を習おうと思ってな」
「へぇ……あなた、筋肉もあるしきっとできるわよ」
「そうだな。ふふ、隠居してからやることなすこと全てが面白い」

 カーフィーを飲みほしたアイゼンはお代わりをもらい、アリューシアはカーフィーにミルクを入れた。
 二人の朝は、こうして穏やかに過ぎていく。

 ◇◇◇◇◇◇

「ふ、わぁぁ~~~……んん」

 朝。
 温室の手入れがないので、のんびりした起床だ。
 ベッドから抜けて首をぐるりと廻し、背伸びして背筋を伸ばす。
 カーテンを開けると、今日も雪がしんしんと降っていた。

「ん~……」
「クララベル、朝だぞ。起きろよー」
「ふぁ~い……」

 昨夜はクララベルと一緒に寝た。
 いつもはローレライやミュディのベッドにもぐりこむんだけど、たまに俺やシェリーのベッドに潜り込む。エルミナは寝相が悪いので嫌だとか。
 昨夜は喋っているうちに寝てしまった。
 クララベルはボサボサの髪をふわりとかき上げる……すげぇ、髪がサラサラーっと流れた。どんだけサラサラしてたらこんな風に髪が流れるんだって感じ。

「お兄ちゃん、おはよ~……くぁぁ」
「おはよう。さ、着替えて朝ごはんにしよう。熱いカーフィーが飲みたい」
「わたしは冷たい果実水~」

 未だに寝ぼけてるクララベルを着替えさせ、ダイニングルームへ。
 俺たち以外全員揃っていた。

「やっぱりクララベル、お兄ちゃんのとこで寝てたのね」
「うん。たまにはお兄ちゃんと寝ないとね!」
「ちょっと、私のところには来ないの?」
「エルミナは寝相悪いからダメー」
「はいはいそこまで。二人とも座って、朝食にするわよ」
「はーい姉さま」

 席に着き、朝食を食べる。
 パンにベーコンエッグ、サラダにスープとごきげんな朝食だ。
 食事中は無言で、食後のカーフィーが入ると話を始める。

「今日のみんなの予定は?」
「わたしは製糸場でお仕事かな。ドワーフさんたちの外作業用手袋を作るの」
「あたしは竜騎士の巡回。アヴァロンが雪の中で飛ぶの気に入ったみたいでね……」
「私はアリューシア様と宴会場でドラゴンチェスね。ほかにも何人か混ざって遊ぶわ」
「私は清酒の研究! 清酒はまだまだ美味しくなるからね。この冬の間にもっとおいしい味を生み出して見せるわ。フィルやニックたちもいるしね」
「わたしはー……姉さまと一緒!」
「クララベル。あなたは宿題をやりなさい」
「がーんっ! ね、姉さまぁ~」
「だめ。お母さまから言われているでしょう? ちゃんと課題をこなしてから遊ぶこと」
「ぅぅ……じゃ、じゃあせめて、姉さまの傍で勉強していい?」
「……それならいいわ」

 こんな感じで、それぞれの予定だ。
 ちなみに俺は薬院に詰める。怪我人や病人が出ないとも限らないしな。
 ミュディとシェリーは仕事。
 エルミナは酒の研究。ちなみに、エルミナは清酒を発明した一軒家を完全に私物化し、清酒を横流ししてドワーフに改築させ……もちろん叱った……そこを酒の研究所として使い、なぜかハイピクシーとネズミたちが集まるようになったとか。
 宴会場は解放し、防音の仕切りを入れて会場を分けた。
 半分は椅子テーブルを並べたドラゴンチェス会場、もう半分はこたつを並べた休憩所としてだ。
 冬の間、宴会場は自由に出入りできる。
 ドラゴンチェスを楽しんだり、こたつ会場ではドワーフやサラマンダーたちが集まって酒盛りを、そのまま寝ている光景もよく見られた。
 第二回のドラゴンチェス大会、鍋会も予定されている。

「さーて、私は研究室に行こうかな。シルメリア、お昼はこっちで食べるから」
「かしこまりました」

 エルミナが立ち上がったのをきっかけに、全員が動きだす。
 俺も薬院へ向かい、薬の在庫を確認したり、診療記録の整理を始めた。
 やはり、冬は風邪の症状が多い。三色ハーブの備蓄を……。

『アシュト!』
「っと、ウッドか。どうした? 寒いのか?」

 薬院にウッドが来た。
 ウッドとベヨーテは家の一室に土を盛って花壇のようにして、そこで生活している。
 以前は大きめの植木鉢で、移動なんてできなかったからな……今回は家の一室を犠牲にして、大量の土を入れたわけだ。掃除が大変だけど後悔はしていない。

『アシュト、アソボ、アソボ!』
「おお、いいぞ。何する?」
『エットネ……アレ!』
「……ドラゴンチェスか」

 ウッドは暇潰しに持ってきたドラゴンチェスを指さした。
 まぁいいか。俺も嫌いじゃないし、教えながらやるのも楽しそう。
 ソファに座って向かいあわせだと本気の対決っぽいので、執務机にウッドを座らせ、俺は普通に椅子に座った。

「ルールを教えるぞ。この駒を動かして、『覇王龍』の駒を取った方の勝ちだ」
『ケーニッヒ、ドラゴン?』
「うん。駒にはそれぞれ役割があって、交互に動かすんだけど……」

 ウッドにルールを教えながら、ドラゴンチェスを楽しんだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 数時間後。

「…………」
『タノシイ、タノシイ!』
「…………」

 ウッドは、有り得ないくらい強くなった。
 え、なにこれ……教えて数時間で俺より強い? 俺、こう見えてもけっこう強い方だと思ったんだけど。
 すると、ティーカートを押したミュアちゃんが来た。
 同時に、こたつから黒いネコミミがにゅっと現れる……ルミナ、いたのか。

「にゃあ、お茶でーす」
「くぁぁ~……よく寝た」
『もきゅう』

 ルミナと一緒にニコニコアザラシの子供も出てきた……って、今はいい。
 俺は冷や汗を流しながら盤面を見つめて考える。

「にゃう? あ、ドラゴンチェスー」
「みゃあ。大人たちが遊んでたやつか」
『きゅうう』
『ミンナデヤル! ミンナデショウブ!』
「ほう、おもしろい。あたいもやるぞ」
「わたしもやるー!」
「よ、よし! みんなでやろう。うん!!」
『もきゅ』

 子供たちとドラゴンチェスをやったが……結果は、俺の惨敗でした。
 うう、なんでこんなに強いんだ……よし、ローレライのところに送ってやる!!
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