大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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オーベルシュタイン、二度目の冬

第426話、雪山の狩り

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 しんしんと雪が降るオーベルシュタインの冬。
 雪は多く降るが寒さはそれほどでもない今日。俺は一人のんびりと散歩をしていた。
 
「けっこういい天気かも……」

 ライラちゃんからもらった帽子とマフラーと手袋に、ミュディからプレゼントされた深緑のコートを着ている。
 ブーツはディミトリの館で買った物で、防水加工を施してある高級品だ。
 村の中は、やはり歩いている人は少ない。
 朝に除雪をしたおかげで道は整備されているが、やはり人の往来が少ないのは寂しい。

『もきゅう』
「はは、お前たちがいたな」

 だが、ニコニコアザラシの子供たちは歩いている。
 大人は冬眠し、子供たちは浅い眠りの繰り返し。なのでこうやって起きて村の中を這っている。
 母上は家に一匹連れ込み抱っこしたり撫でたりして癒されている。

「そういえば、動物セラピーっていうのがあったな。傷付いた心を動物に癒してもらうとか」
『きゅう?』
「もしかしたら、お前たちが母上の心を癒してくれるのかもな」
『もきゅ』

 俺はニコニコアザラシの子供を抱っこした。
 うん、けっこう重い……でも、すっごいもふもふ。
 ニコニコアザラシの子供を下ろし散歩を再開。ちなみに外に出た理由は運動不足解消のためだ。
 毎日美味しい物を食べて引きこもってたら太るよね……まぁ俺は太ってないけど。
 
「ん……あれは」

 すると、解体場にバルギルドさんがいた。
 珍しく一人だ。屋根付きの休憩所の椅子(丸太を切っただけの簡単な物)に座り、何かを作っている。
 近づくと、微笑を浮かべ挨拶した。

「……村長か」
「こんにちは。バルギルドさん、何を作ってるんですか?」
「…‥弓と矢だ」
「弓と、矢?」

 テーブルの上には、魔獣の骨や羽があった。
 それをナイフで削って形にしている。

「バルギルドさんが弓……なんか意外というか」
「時間はあるしな。新しいことに挑戦するのも悪くない。ふ……キリンジに影響されたのかもな」
「キリンジくんですか」

 キリンジくん。
 竜騎士たちから剣技を習ったり、最近はドラゴンチェスも始めた。もともと冷静な性格で頭もよく、図書館に通って本を読んだりしている。
 ディアムドさんもラードバンさんから鍛冶を習い始めたし、アーモさんとネマさんはカクテルに興味を持ち始めてミリアリアのところに通ってる。
 バルギルドさんは弓の本体に弦を取り付け、立ち上がって構えを取った。

「……よし」
「おお、かっこいい」
「今までは剣や斧で叩き斬る狩りしかしたことがない。これを機に、弓での狩りをしてみようと思う」
「なるほど。ハンターみたいですね」
「ふ……ちょうど、この時期はギガントカリブーがよく出現する。狩りには持ってこいだ」
「ギガントカリブー……」

 確か、『超デカい鹿』だ。
 春~秋に繁殖し、冬になると雪山を駆け回る暴れん坊だ。
 とても大きく立派な角を持ち、野山を駆け回る体力や深い雪を楽々と移動する脚力を持つ魔獣だ。
 かなり凶暴で近づく者を蹴り殺すとか……怖いな。
 バルギルドさんは弓を置き、魔獣の骨を加工して作った矢を矢筒にいれる。

「実は昨日、森で見つけたギガントカリブーの縄張りに餌を置いといた。おそらく、自分の縄張りに入られた怒りと、また餌があるかもと確認をするはず。そこを狙う」
「おお、準備万全ですね」
「うむ。村長、暇があるなら一緒に行くか? ほんの二時間ほどだ」
「…………」

 魔獣はまだ怖いけど、バルギルドさんが一緒なら安心か。
 俺は頷き、バルギルドさんと一緒に山へ入った。

 ◇◇◇◇◇◇

「なるべく足音を立てないように」
「は、はい」

 バルギルドさんの足跡に被せるように雪山を登るんだが、これがけっこう疲れる。
 当然だが、バルギルドさんは息一つ切らさない。たまに立ち止まり周囲を警戒する。
 冬の山は除雪などされていない。膝まで雪で埋まったり、埋まって足が抜けなくなったりと大変だ。

「…………村長、もうすぐ予定地だ。風の向きに注意を」
「は、はい」

 風上に立つと匂いが流れて獲物に感づかれる、だっけ。
 狩りの基本は本で読んだことある。
 バルギルドさんは弓を手に、矢を一本抜く。

「…………(無言で俺を制する)」
「…………(無言で頷き止まる俺)」

 小さな藪の前でしゃがみ込み、バルギルドさんはそっと指を前に向ける。
 すると、木々の隙間から見えた……大きな鹿、ギガントカリブーだ。
 でかい。とにかくデカい。高さ三メートル、横も同じくらいある。
 角だけで一メートル以上ありそうだ。それに、後ろ脚の筋肉がヤバい付き方してる。
 ギガントカリブーは動かず、前をじーっと見ている。俺たちから見ると真横を向いた状態だ。

「…………(奴も狩りか)」

 バルギルドさんは小声で言う。
 ギガントカリブーの前を見ると、小さい兎がいた。
 逃げないのは、ギガントカリブーに睨まれているから。
 バルギルドさんは弓を構え、矢を番える。
 そういえば、本に書いてあった。獲物は最も無防備になる瞬間は、狩りをする瞬間だって。

『ブルル……』

 ギガントカリブーが唸る。
 俺は口に手を当て、バルギルドさんの集中を邪魔しないように息を殺す。
 バルギルドさんの目がスッと細くなる……いつもと違う、怖さはなく澄んだ水面のような穏やかさだ。
 そして、ギルドさんの動いた。

『ブルァァッ!!───っ」

 同時に、俺の真横で『バシュンッ!!』という独特な音が。

「え……」

 あまりにも一瞬。
 ギガントカリブーが動きだすと同時に放たれた矢は、正確に飛びギガントカリブーの首を貫通……どころか、威力がありすぎて首がねじ切れて吹っ飛んだ。
 ウサギは脱兎のごとく逃げ出し、頭を失ったギガントカリブーの首からは大量に出血。
 死んだことに気付いていないのか、頭を失った身体が何歩か歩き……そのまま倒れた。

「ふむ、少し弦を強く張りすぎたな……」
「いやいやいや、強すぎっすよ!? 首吹っ飛んじゃいましたよ!?」
「そうか。では、獲物を解体していこう」
「…………」

 ギガントカリブーを木に吊るして血抜きし、毛皮を剥いで内臓を取り出し、食べられる肉を切って袋に入れた。
 頭の部分は角だけを斬り、内蔵と一緒にまとめておく。こうしておけば魔獣が食べてくれるそうだ。
 
「ふぅ……なんか緊張しましたね」
「ああ。真正面から挑む狩りとは違う。いい緊張感を感じた……こういう狩りも悪くない」
「はい。なんかドキドキしました」
「ふ……では帰ろうか。どうだ村長、この肉を焼いて酒でも飲まないか?」
「お、いいですね。お付き合いしますよ」

 バルギルドさんは、数日に一度山に登り、弓を使って狩りをするようになった。
 ギガントカリブーの肉を狩り、角をディミトリの館に売ってお酒を買ったりして飲んでいる。
 ディアムドさんや父上も誘って狩りに出ることもあるそうだ。

 冬の娯楽か……俺も新しい趣味を探そうかなぁ。
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