大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
234 / 474
オーベルシュタイン、二度目の冬

第427話、アシュトの冬とのんびりな一日

しおりを挟む
 冬になり、百日ほど経過した。
 父上や母上は緑龍の村にすっかり慣れ、三日に一度は俺の家で食事をする。
 母上も、すっかり元気になった。
 血色もいいし、肌や髪の艶も戻った。以前みたいな化粧はせず、ありのままの姿で父上と一緒にいる。
 図書館で読書をしたり、ローレライたちとドラゴンチェスで盛り上がったり、ミュディから裁縫を習ったり……毎日とても楽しそうだ。
 父上も、鍛冶を習い始め、自身で使う農具などをいくつも生み出した。
 春になったらビッグバロッグの菜園で使うと今から楽しみにしている。
 二人は、とても充実した毎日を送っていた。

「……と、こんな感じ」
『そうか……よかった』

 俺は、リンリンベル越しのリュドガ兄さんに、父上と母上の様子を伝えた。
 三日に一度くらいの確率で兄さんは連絡をしてくる。

『エストレイヤ家は問題ない。いや……スサノオとエクレールが父上に会いたいと言ってたな』
「あはは。お爺ちゃんっ子だったしね」
『ああ。あと二百日ほどか……スサノオとエクレールも三歳になる』
「早いね……もう三歳かぁ」
『オレも二十八になる。まだまだ若いつもりだが、月日が流れるのは早い』
「うん……」

 多分……俺は、父上や兄さん、母上の死を看取るだろう。
 スサノオとエクレール、その息子、孫、ひ孫……ハイヒューマンとなり長寿となった俺は、これからたくさんの出会いと別れを経験しなくてはならない。

『アシュト。春になったらまた会えるか?』
「もちろん。あ、春の新年会をやる予定だからさ、兄さんやルナマリア義姉さん、スサノオとエクレールを連れてこっちに来れない?」
『ほぉ、それはいいな。よし、予定を開けておこう』
「やった。絶対だよ、兄さん」
『ああ。わかってる』

 通話が終わり、俺は自室のベッドに倒れた。

「はぁ~……冬、長いなぁ」

 外は雪が降っている。
 一面が銀世界だ。これがあと二百日も続くのか……いや、冬は嫌いじゃないけど。
 俺は薬師だ。薬草を育てたりしたいし、森に入って薬草採取もしたい。
 冬は薬草が育たないから、どうしても好きじゃない。

「……あ、そうだ。洞窟にカビの採取をしに行かないと」

 俺はベッドから起き上がり、薬院へ向かう。
 カビと言うと不潔なイメージだが、薬になるカビもある。
 葉っぱや茎を磨り潰したり、樹液を採取するだけが薬師じゃない。大自然の恵みを利用し治療をするのが薬師なのである……と、シャヘル先生から習い、フレキくんに伝えた。

「護衛……バルギルドさんは狩りに行くって言ってたし……ディアムドさんは鍛冶場かな」

 ライラちゃんからもらった帽子と手袋をつけ、コートを着る。
 一応、村の外だし護衛は必要だ。洞窟内に魔獣でもいたら食われてしまう。
 薬院に採取キットを取りに行き、外へ。

「叔父貴、お疲れ様です」
「あ、グラッドさん……」

 ちょうど、サラマンダーのグラッドさんが通りかかった。
 うん。この人なら安心だ。

「あの、ちょっとお願いしたいことが……」
「へい、なんでしょう?」

 洞窟にカビ採取の行くことを伝えると、二つ返事で了承。
 部下のサラマンダーを三名呼び、俺を含めた五人で洞窟に行くことになった。
 なんとも頼もしい……じゃあ、行きますか。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 村の近くにある洞窟。
 ここは、年中気温が一定で湿気も多く、カビや苔が大量に発生している。
 何も知らない人が踏み込めば不快しか感じないだろうが、俺から見ると宝の山だ。以前、シャヘル先生を連れて来たときは大喜びしてたからな。
 サラマンダーの皆さんと一緒に洞窟に到着。
 一人が入口で見張り、残り三人が俺と一緒に奥へ。

「……ぅ、これは」
「あはは。やっぱり気になりますよね」
「も、申し訳ございやせん!!」

 洞窟には、カビと苔が大量発生していた。
 カビは吸い込むと肺をやられるので、口を覆うマスクを装着する。
 持参した瓶にカビを採取していく。

「叔父貴、これはどういう薬になるんで?」
「これは消毒薬です。カビを液体培養して、ろ過すると消毒液になります。ハイエルフの秘薬は大量に作れないから、自然の怪我などは従来の薬品で治療しているので」
「なるほど……叔父貴、オレらにできることがあれば、何でも言ってつかぁさい」
「ありがとうございます。じゃあ、苔を採取してもらっていいですか?」
「へい!! おめーら、やるぞ!!」
「「うぃっす!!」」

 グラッドさんと二人のサラマンダーに協力してもらい、カビと苔を採取した。
 瓶いっぱいのカビと苔を受け取り、さっそく村に戻る。
 サラマンダーの皆さんにはお礼にお酒を渡し、薬院でさっそく仕事を始めた。

「カビの液体培養から……ふふふ、楽しいな」

 仕事があるのはいいことだ。
 すると、薬院のドアがノックされる。

「はーい」
「お兄ちゃん!! ケーキ作ったから食べよっ!!」
「おお、クララベル……いいね。ケーキか」

 クララベルが、ケーキの箱を片手に来た。
 洞窟から帰ったばかりだし、お茶を飲むのはいいかも。
 さっそく湯を沸かし、苦いカーフィーでも。

「お兄ちゃん、わたしのカーフィーは砂糖とミルクたっぷりでね!!」
「おいおい、甘いケーキなら苦いカーフィーのが」
「いーや。苦いの嫌いだも~ん」
「やれやれ……」

 クララベルは箱からケーキを出しカットする。
 俺もカーフィーの準備をしていると、またもやドアがノックされた。

「はいよー」
「アシュト。面白い本を持ってきたのだけど、一緒に読書……あら、クララベル」
「姉さま!! 姉さま姉さま、姉さまも一緒にケーキ食べよ!!」
「ケーキ?……なるほど、あなたが作ったのね?」
「うん!!」

 俺はカップを追加、苦ーいカーフィーを二つに砂糖とミルクたっぷりのを一つ用意。
 クララベルの作ったフルーツケーキと一緒に出す。

「じゃ、いただきまーす」
「いただきまーす。あのね、今日のは自信作なの。お兄ちゃんと姉さま、おかわりもしてね」
「ありがとう。ふふ、クララベルってばすっかり料理好きになったわね」

 フルーツケーキは甘くて美味しい。だからこそ苦いカーフィーが最高にマッチした。
 しばし、ケーキとカーフィーを楽しんでいると。

「そういえばお兄ちゃん、なにかお仕事してたの?」
「ん、ああ」
「そうなの? 邪魔して悪かったわ」
「いいよ、大したことじゃないし」
「ふーん。なにしてたの?」

 何気なくクララベルが聞いてきた。
 俺はカーフィーを飲み欲して言う。

「ああ、カビの培養だな」
「「…………」」

 二人は、なぜか顔をひきつらせた……そりゃ普通の人はカビの培養なんてしないよね!! でも薬師だから、薬で使うんだからしょうがないじゃん!!
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。