大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
247 / 474
妖狐族の奇病

第440話、妖狐の調査

しおりを挟む
 俺、エルミナ、ミュディ、ルミナの四人は、この里の医院にやってきた。
 医院は横長だ(長屋というらしい)。和風建築というのは立派な物で、柱一本から重みや厚みを感じられる。
 さっそく委員の中に入ると、布団が敷かれて何人かの妖狐が寝込んでいた。
 すると、尾が六本あるイケメン妖狐が俺の元へ。

「初めまして。私は妖狐の医師ツワブキと申します」
「初めまして。アシュトと申します」

 ガッチリ握手。こんな状況でなければお茶に誘っていろいろお話したい。
 さっそく俺はツワブキさんに質問した。

「症状は?」
「目が赤く腫れて呼吸が困難な状況です。熱も高く、症状が重い者は痙攣を起こします。治療としては対症療法が限界で……全くの原因不明です」
「なるほど。毒の可能性は?」
「不明です……何が原因なのか。今のところ病人は少ないですが、確実に増えています……このままでは」
「……わかりました。まずは診察を」

 俺は手を洗い、手拭いで口元を覆う。
 エルミナとミュディは心配そうにしていたが、ルミナは口を手拭いで覆い俺の隣へ。
 止めようかと思ったが、ルミナは真剣だったので何も言わなかった。
 まず、一番症状が重そうな妖狐の男性へ。

「ぜー……ぜー……ぜー……」

 呼吸に雑音がある。
 吸って吐くのが苦しそうだ。まるで何か詰まっているような。
 目を見ると、真っ赤に充血していた。
 汗も掻いているし、かなり苦しそう……でも、この呼吸音。

「おい、胸の中で何か音がする……」
「……ああ、たぶん肺の中に水が溜まってる。以前、シャヘル先生と似たような病気を治療した。あの時は投薬で治療したな……ルミナ、薬品ケースから二番と五番を」
「わかった」

 薬品ケースは、俺が治療用に調合してスライム製試験官に入れてある薬剤をまとめてある専用ケースだ。
 番号を振ってあるので、どの症状にどの薬を使えばいいのかすぐにわかる。
 ルミナはケースを開け、二番と五番のスライム試験管を持ってきた。
 それを合わせ、杖で軽く叩いて水を作るって混ぜ合わせる。
 
「よし。さ、飲んでください。呼吸が楽になりますよー……」
「はぁ、はぁ、はぁ……んっぐ……はぁ」

 男性は苦しそうに飲んでくれた。
 他の妖狐の症状も似ていたので、同じように薬を処方する。
 そして、充血した目の炎症を押さえる薬と点眼薬を処方した。
 この時点で、俺はいくつかの可能性を思いついた。

「ツワブキさん。患者さんが口に入れた物の共通点って何かありますか?」
「口に入れた物、ですか?……そうですね、特に共通点はなかったと思います」
「そうですか……よし」

 俺はミュディたちに指示を出す。

「エルミナ、薬草に詳しいなら、この妖狐の里に自生している植物を調べてくれ。毒草があれば採取して報告を。ルミナも手伝ってくれ。それと、患者さんが倒れた場所には近づかないように」
「みゃう。やだ」
「わかったわ! 姉妹の出番ね」
「姉妹じゃないし!! みゃあ、触るなー!?」
「じゃ、行ってきまーす!!」

 エルミナはルミナを抱っこして走り出した。
 そしてミュディ。

「ミュディ、お前はここの看護師さんたちに協力して、妖狐さんたちを看病してくれ。ツワブキさんは俺と一緒に来てください」
「うん、まかせて!」
「わかりました。私でお役に立てるのでしたら」

 症状から、俺はいくつか仮説を立てた。
 それを検証するため、いろいろ行動しないとな。

 ◇◇◇◇◇◇

 俺とツワブキさんが向かったのは、アウグストさんのところだ。
 宿となる家の中で、地図にいろいろ書きこんでいる。
 そこには、ディアムドさんもいた。ちょうどいい。

「おお村長。ちょうどいい、地図を見てくれや」
「はい、お願いします」
「おう。妖狐が倒れたちゅう場所を記しておいた。ついでに、この里の地形図と照らし合わせて、足りない部分を書き足しておいたぜ」
「さすがアウグストさん……ありがとうございます」

 さっそく地図を見せてもらった。
 アウグストさんが書き足したのは、分岐した河川や追加で建築した住居や施設、患者さんが倒れた場所や、温泉の位置などが書かれていた。
 そして、気が付いた。

「…………やっぱり、温泉の近くでみんな倒れている」
「それが何か……?」
「いえ、もしかしたらの可能性ですので。ディアムドさんの方はどうでしたか?」

 ディアムドさんは首を振る。

「この辺りに魔獣は出ない。妖狐族の結界とやらで、魔獣の侵入を防いでいるようだ」
「ってことは、魔獣の仕業ではない。よし、わかってきたぞ」

 キーワードは、温泉。
 そして……この温泉に付属するある物だ。
 それを確かめるべく、行動をする。

「ディアムドさん、少し危険ですが……一緒に来てもらえますか」
「無論だ。何があろうと村長は守ってみせる」
「ありがとうございます。アウグストさん、妖狐族の方に協力してもらって、この地図をもっともっと正確にしてもらっていいですか? 小さな川、ため池、住居……書ける物はなんでも書いてください」
「任せな。こういうのは大得意だぜ」

 ディアムドさんとアウグストさんは自信満々だ。
 だが、ツワブキさんは首を傾げるばかり。

「あの、私には何が何だか……」
「たぶん、妖狐族にとって馴染み深すぎて気付かなかったんだと思います。俺の考えが正しければ、ですけど」
「???」

 ツワブキさんはさらに首を傾げた。
 さて、病の正体を確かめに行こうか。

 ◇◇◇◇◇◇

 エルミナとルミナに合流し、報告を聞いた。

「ここ、毒草なんてないわよ。薬になる薬草を採取しておいたわ」
「ありがとな。お、スィソもあるのか」
「緑龍の村にない薬草もあったわ。けっこういい採取場になりそうね」
「ああ。……っと、それは後回し」

 エルミナが採取した薬草束はツワブキさんに渡す。
 
「これが薬草に?……ふむ、興味深い」
「調合方法なら後でお教えします。この里の周りはけっこうな薬草が自生してますよ」

 こんな言い方はアレだが……妖狐族の医療レベルは低い。
 薬の知識や知識が不足しているように感じた。
 おっと、今はそんなことは後にして。

「よし。次は……患者さんが倒れた場所に行こう。たぶん、そこに答えがある」

 ツワブキさんに案内してもらい、患者さんが倒れた場所へ。
 全員、口元に手ぬぐいを巻いてもらい、少し離れた場所に移動した。
 すると、ルミナが気付く。

「……みゃう」
「ルミナ?」
「ここ、臭い」

 ルミナは鼻を押さえた。
 気付いたのはルミナだけで俺を含むみんなは首を傾げた。
 だが、思った通りだ。

「…………やっぱり、か」

 妖狐族の倒れた場所は、温泉の近く。
 さらに、小さな川が流れている。地図に記されていない小川だ。
 倒れた場所からすぐ近くに流れている川、というか溝を指さす俺。

「ツワブキさん、あの溝って」
「ああ、あの溝は溶けた雪が地面に溜まらないように掘った物です。雪解け水があの溝を伝い、里を流れる川と合流します」
「もしかしてその川……この里の飲み水ですか?」
「え? ええ……」
「…………決まりだな」
「ちょっとアシュト、どういうことよ」

 エルミナが言う。
 俺は、今回の病に対する結論を述べる。

「これは、水中毒……温泉の成分が雪解け水に溶け合って、川に流れたことによる中毒だ」

 本で読んだことがある。
 天然温泉の近くにはガスが噴出している場合があり、そのガスは濃度が上がると無臭になる。逆に、濃度が薄いと独特な匂いがするのだ。
 このガスは水に溶けると毒性の水になる。
 普段はガスが噴出するだけだが、雪解け水に溶けて溝を伝い、飲み水でもある川と合流したことで、里の飲み水全てが毒に侵されたのだ。たぶん、このまま毒が混ざり続ければ里の妖狐全てが病に侵されていただろう。
 これを聞いたツワブキさんは青ざめていた。

「そ、そんな……お、温泉のガスが、ど、毒!?」
「はい。溝を流れる水を調査してみないとわかりませんが、間違いないと思います」
「どど、どうすれば……」
「まず、里の水全てを飲まないようにしてください。それと溝の封鎖を。雪解け水は川に混ぜないで、アウグストさんに頼んで雪解け水専用のため池を作ってもらいましょう。高濃度ガスが噴出している正確な場所は、魔犬族のみんなに調べてもらうか……ちょっときついかもだけど、仕方ない……って、どうしたの、みんな?」
「「「「「…………」」」」」

 なぜか、全員が俺を見ていた……な、なんだ?
 エルミナは、俺の肩をポンと叩く。

「妖狐族の里に来て半日足らずで原因を突き止めちゃったあんたを、みんなすごいって思ってんのよ」
「へ?……なんだ、そんなことか。それより早く、水を飲まないように里に伝えないと!」

 俺は全員にお願いし、里の飲み水を止めてもらった。
 さて、これからもっと忙しくなるぞ!
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。