大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
275 / 474
日常編⑯

第468話、春最初の釣り

しおりを挟む
「アシュト! 釣りに行くわよ!」

 と、エルミナが俺の部屋に怒鳴り込んできた。
 手には愛用の釣り道具セットが握られ、輝かんばかりの笑みを浮かべている。
 俺はため息を吐き、読んでいた本を机の上に置く。

「釣りって……いきなりだな、おい」
「今日休みでしょ? 薬院でエンジュが言ってたわよ」
「まぁ休みだけど……たまにはのんびり読書でもって思ってたんだけど」
「のんびりするなら釣りでもいいでしょ! アスレチックのある湖に大物がいっぱいいるのよ! シレーヌとエレインが自慢してくやしいー!」
「お、おお……」
「じゃ、着替えて。濡れてもいい恰好ね」
「え、行くの決定……?
「あーもう! 男ならグチグチ言わないの! ほら着替え着替え!」
「わ、わかったから脱がそうとするなっ!」

 というわけで、俺の休日は釣りとなった。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、着替えて荷物を持って出発……。

「にゃあ」
「みゃう」
「ん……あれ、二人とも。今日はお休み?」

 ミュアちゃんとルミナがリビングにいた。
 ミュアちゃんはお絵描き、ルミナは読書をしている。
 俺の格好が気になったのか、ミュアちゃんが言う。

「ご主人さま。どこか行くの?」
「うん。ちょっとエルミナと一緒に釣りにね」

 すると、ルミナがぱたんと本を閉じ、俺に身体を擦り付けてきた。
 一通り擦り付けて満足したのか、傍に置いてあったカバンを背負う。

「みゃう。あたいも行く」
「にゃう! わたしも行くー!」
「いいよ。じゃあミュアちゃん、準備しておいで」
「にゃあー」

 ミュアちゃんが使用人邸に走り出した。
 俺とルミナは外へ。するとエルミナとウッドがいた。

「あれ、ルミナ?」
「あたいも行く」
「うんうん! じゃあ姉妹で釣りね!」
「姉妹じゃないし! みゃあ!? 触んなー!!」

 エルミナがルミナに抱きついて頬ずりする。一字違いだからってルミナを妹みたいに可愛がってるんだよな……当の本人は嫌がってるけど。
 俺は二人を置いてウッドに話しかける。

「ウッド、今日はいっぱい釣ろうな」
『ツリ、タノシミ! ウッド、イッパイツル!』
「うん。じゃあ一緒に頑張ろう!」
『オー!』
「にゃあ。お待たせー!」

 ニコニコアザラシのリュックを背負ったミュアちゃんが来た。
 俺に甘えるように飛びついてきたので、ネコミミを揉むように頭を撫でる。

「よし! じゃあ行くわよ!」
「ああ。なんだかんだ言っても楽しみになってきた」
『イッパイツル!』
「にゃうー!」
「みゃう! 離せー!」

 俺たちは、久しぶりの釣りに出発した。

 ◇◇◇◇◇◇

 釣り場こと、アスレチック場に到着した。
 冬の間は雪が積もって来れなかったが、雪がなくなると同時に銀猫たちが掃除してくれた。
 おかげで、休憩所のログハウスも桟橋も綺麗になってる。
 俺は、アウグストさんに作ってもらった、金属製の折り畳み椅子を持って桟橋へ。ルミナはエルミナに連れて行かれたので、ミュアちゃんとウッドの三人で並んで座る。
 釣り道具。実はアウグストさんに作ってもらった自前のがある。餌のミミズはエルミナが大量に捕まえていたので困らない。
 ミュアちゃんたちの道具もエルミナが準備し、ウッドは自分の指先から細い根を出した。

「にゃう。釣る!」
「うん。いっぱい釣ろうね」
『ガンバル!』

 さっそく餌を取り付け、湖に向かって投げた。
 ミュアちゃんも真似して投げ、ウッドは指先の根を桟橋の真下にチャポンと落とした。
 あとは座ってのんびり待つだけ───と、椅子に座ろうとした時だった。

「にゃう。引いてるー!」
「え、もう!?」

 椅子に座ろうとした瞬間だったのでズッコケそうになった。
 俺とミュアちゃんが竿を引いていると、ウッドも反応する。

『キタ!』
「ウッドもか!? はは、いきなり三人ともか……っく、重い……っ!!」

 アタリが来たのはいいが、重い。
 俺は桟橋の上で踏ん張り、必死にこらえていた。
 すると、ミュアちゃんが竿をくいッと引く。

「にゃうっ!!」

 竿を思い切り引くと、水面からザバッと黒い魚が飛び出した。
 ウッドも同じように引くと、黒い魚が。

「うおりゃぁぁぁっ!!」

 俺も思い切り引く。すると、黒い魚……おいおい、三人とも同じ魚が釣れた。
 ミュアちゃんのが一番大きく、次にウッド、そして俺の順に大きい。
 桟橋に並べて魚を見ると……妙な魚だった。

「なんだこれ……変な顔してるな」

 びちびちする魚は、上部が黒く下部は白い。
 ヒレが発達し、顔は丸くヒゲみたいな触手が生えていた。
 しかも、けっこう泥臭い。

「なんだこれ……?」
「お、釣れたわね! クロナマズ!」
「……クロ、ナマズ?」

 ルミナとエルミナも、同じような魚を抱えていた。
 まさか、五人とも同じ魚とは……これ、偶然か?
 すると、エルミナが説明する。

「クロナマズ。春先になると大量発生するのよ。しかもこいつ、肉食で他の魚とか食べちゃうから、定期的に釣って数を減らさないといけないのよ」
「そうなのか?」
「うん。ハイエルフの里では春になると狩りを何日かお休みしてクロナマズ釣りをするの。けっこう大変だけど、このクロナマズ、泥を吐かせてちゃんと下処理すればすっごく美味しいのよ! 見は真っ白でプリプリしてるし、すりつぶして焼いたり固めたりすれば、お酒のいいおつまみになるの!」
「……お前、それが目的か。ってか去年はやらなかったのな」
「やったわよ。あんたは忙しそうだったから言わなかっただけ。釣ったのはおじいちゃんのところに送ったわ」
「そうだったのか……」

 知らなかった。
 俺はクロナマズをつつく……うん、ぷにぷにしてる。
 エルミナは、釣竿を抱えた。

「じゃ、続きね! アシュト、今夜はクロナマズで一杯やりましょ!」
「やっぱり酒が目当てかい……まぁいいや。ミリアリアに何匹か渡して、バーでおつまみにしてもらおう」
「やたっ! ふふん。クロナマズは辛口のお酒が合うのよね~♪」

 エルミナは上機嫌で釣りを再開。
 ミュアちゃん、ウッド、ルミナも再開した。
 俺も負けじと釣りを再開……すると、クロナマズはすぐに喰らい付いた。
 おかげで、休みがない。釣っては投げ、釣っては投げを繰り返す。

 釣りってのんびりやるものだと思ったけど……クロナマズ、食い付き早すぎぃ!!
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。