大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑯

第469話、ルシファーとお茶を

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 お菓子屋ブランシュネージュの二階は、カフェスペースになっている。
 店内で買ったお菓子を食べてもいいし、このカフェで新たに注文をしてもいい。そして、お菓子だけじゃなく紅茶やカーフィーも楽しめる。
 現在、俺は窓際の席で、一人の男と向かい合っていた。

「うん、おいしい。今までいろんなお菓子を食べてきたけど、ここのケーキは絶品だね」
「そりゃよかった。クララベルも喜ぶよ」

 屈託のない笑みを浮かべてケーキを食べるのは、悪魔都市ベルゼブブの市長ルシファーだ。
 春の挨拶に来たのはいいが、少し疲れて見えたので甘い物を食べに来たのだ。
 ルシファーは、新しくできたお菓子屋にいたく感動していた。

「いやぁ~……緑龍の村、どんどん発展していくね。食堂やバーもできたし、いつの間にか妖狐族と交流してるし」
「それはお互い様だろ。妖狐族、閉鎖的で決まった種族としか取引してないって聞いたけど、いつの間に交流してたんだ? 妖狐族の里、普通にベルゼ通貨使えるし」
「ふふ。アシュトが生まれるずーっと前さ。ちなみに、あそこで大量の小豆を生産できるようになったの、ボクのおかげでもあるんだよ?」
「え……お、お前、いったい幾つだよ?」
「さぁ~? 数えるの面倒になったから覚えてないや」

 ルシファーはケラケラと子供っぽく笑い、紅茶をお代わりした。
 カエデの祖父が小豆の大量生産に成功したって聞いたけど……まさか、こいつも絡んでいるとは。
 ルシファーは、ケーキのお代わりを注文する。

「そうだ。アシュトさえよければ『豆狸族』を紹介しようか? 豆狸族は商売のプロで、気に入られればここでお店を開いてくれるかもよ?」
「お店って……飲食店はもういいよ」
「違う違う。お店ってのは飲食店だけじゃないだろう? 生活用品とか、雑貨とかあるじゃないか」
「ああ……でも、ディミトリの館があるし」
「ディミトリの館だけじゃ賄いきれなくなると思うよ。村の人口、二千人を超えたくらいになっただろう?」
「……詳しいな」
「まぁ、ディアーナから報告書もらってるしね」

 確かに。
 飲食店やバーは増えた。だが、生活に必要な雑貨などはディミトリの館しか売ってない。
 服や下着類も支給から販売に切り替えたことで、製糸場の一部を販売所にした。ちゃんとした売り場じゃないのでけっこう手狭だ。 
 生活に必要なのは、食べ物だけじゃない。
 それに、ディミトリの館はカーフィー専門店っぽくなってるし……うん、日用品や雑貨を取り扱う店があった方がいかもな。
 俺はカーフィーを飲み干し、ルシファーに言う。

「ちょっとディアーナに相談してみるよ。お前の言う通り、雑貨屋は必要かもしれない」
「うん。助けになったならよかったよ」
「よし。お礼にケーキを奢ってやろう。さぁもっと頼め頼め」
「え、いや、もうお腹いっぱいで……」
「じゃあダイドさんにも食べてもらおう。お土産用に包んで持って帰ってもいいぞ」
「うん、そうさせてもらうよ」

 お土産用にケーキを渡し、ルシファーは『風呂に入ってから帰るよ』と言って浴場へ向かった。
 せっかくなので、村長湯を使ってもらう。疲れてるっぽいし、一人でのんびり入ってくれ。
 市長ともなると挨拶回り大変なのかね……ああはなりたくないもんだ。

「よし……!」

 俺はお菓子屋を出て、ディアーナの元へ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ディアーナにルシファーと話したことを説明すると、少し考えこんでから「わかりました」と言った。
 そして、いろいろやることがあるのでまた今度と言い、俺は役所を後にする。
 お昼も過ぎ、そろそろ夕方になりそうだ。
 家に帰って読書でもしようと歩いていると。

「お兄ちゃーん!」
「ん……おお、クララベル」

 クララベルが、手を振りながら走ってきた。
 そして、俺に追いつくと思い切り抱きついて甘える。頭を撫でてやると気持ちよさそうにしていた。

「ん~……今日も疲れたけど、お兄ちゃんにくっついたおかげで元気出た」
「はは、なんだよそれ。お菓子屋は終わったのか?」
「うん。お菓子全部売り切れちゃった。明日はお店お休みなの」
「そっか。じゃあゆっくりできるな」
「んーん。明日は妖狐族の里で、美味しいお菓子いっぱい食べてくるの。お兄ちゃんも行く?」
「そうだな……うん、行こう」
「やったあ」

 クララベルと一緒に歩きだす。
 家までは五分ほどだ。だが、すぐに帰るのはもったいない気がした。

「クララベル。少し散歩して帰るか?」
「うん! あ、姉さまを迎えに行こう! お仕事、そろそろ終わるかも」
「だな。じゃあ、少し遠回りしながら図書館行くか」
「うん!」

 クララベルと二人きりで村を歩くなんて、かなり久しぶりだな。
 仕事帰りのドワーフやハイエルフと多くすれ違う。この時間帯、あまり外に出ないからわからなかったが、夕方には仕事が終わってみんな家に帰るみたいだ。
 
「お兄ちゃん、ありがとね」
「ん? なんだいきなり」
「えへへ。ちゃんと言いたかったの。お兄ちゃんのおかげで、毎日がすっごく楽しいの。夢だったお菓子屋さんも開けたしね」
「はは。それはクララベルが頑張ったからだよ。俺はそんな……」
「お兄ちゃんのおかげなの! だから、これからもずーっと一緒だよ!」
「そうだな。これからもずっと一緒だ」

 クララベルは、俺の腕にそっと腕を絡めて甘えてきた。
 可愛らしい姿に、俺も甘やかしたくなってしまう。

「あら、二人とも……ずいぶんと楽しそうね」
「え、ローレライ?」
「姉さま!」

 なんと、図書館にいると思ったローレライが、図書館へ向かう道にいた。
 着替えをして手には本を数冊抱えている。どう見ても帰宅するスタイルだ。

「仕事、終わったのか?」
「ええ。今日は少し早上がりなの。それより……二人でお散歩?」
「うん! あのね、少しお散歩して姉さまを迎えに行くつもりだったの! 姉さま、お兄ちゃん、せっかくだしもっとお散歩してから帰ろう!」

 無邪気なクララベルだった。
 ローレライと顔を見合わせ、なんとなく苦笑してしまう。
 答えはもちろん決まっていた。

「そうだな。ローレライ、いいか?」
「もちろん。ふふ、三人でお散歩なんて久しぶりね」
「えへへー……あ、そうだ! 余ったクッキーあるから、食べながら歩こう!」

 クララベルがポケットから出したクッキーを三人で齧りながら、夕方の村散歩を始めた。
 穏やかで、どこか甘くオレンジ色の夕日は、とっても美しく見えた。
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