大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑰

第490話、ミュディがんばる

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「ふぅ~……つかれたぁ」

 ミュディは、製糸場にある自身の作業場で大きく伸びをした。
 製糸場に増設されたミュディ専用の作業場はとても広い。アシュトの薬院にあるアシュトの研究所と同じくらい広く、様々な物であふれていた。
 愛用のハサミ、定規、ペン。設計台や巻尺。どれも使い込んだミュディの大事な物だ。
 ミュディは、部屋の隅にある来客用スペースへ。
 そこで自分のためにハーブティーを淹れて座った。
 すると、ドアがノックされる。

「はーい」
『わたくしです。失礼しますわ』
「あ、カレラちゃん」

 ドア越しに聞こえたのは、雪豹族のデザイナーにしてミュディのライバル(自称)であるカレラだ。その傍には小さな銀猫族の少女メリルがいた。
 カレラは、雪豹族の特徴でもある白黒斑模様の尻尾を軽く揺らしながら言う。

「お仕事、捗っていますか? 差し入れをお持ちしましたの」
「ちょうどよかった。わたし、少し休憩しようとハーブティーを淹れたの。一緒にお茶にしよう」
「あら、いいタイミングですわね」

 差し入れは、ベルゼブブの洋菓子店で買ったハーブクッキーだ。
 ミュディの淹れたハーブティーによく合いそうだ。
 
「あ……」
「大丈夫。メリルちゃんも座って、ね?」
「にゃあ……」

 メリルが紅茶を淹れようとしたら、ミュディがそっとメリルの頭を撫でて止めた。そして、カレラの隣にメリルを座らせ、自分でハーブティーを淹れ二人に出す。そして、差し入れのクッキーを盛り、テーブルに置いた。
 ミュディはソファに座り、ハーブティーを啜る。

「はぁ~……おいしい」
「だいぶお疲れのようね」
「うん……ベルゼブブのイベントまであまり時間ないしね。でも、今回もすっごくいいのができそうなの!」
「ふふ、張り切ってますわね。『ミュディ・ブランド』の単独ファッションショー、わたくしも楽しみにしていますわ」
「うん! あれ?……そういえば、アマンダさんは?」

 アマンダというのは、カレラ付きの銀猫だ。
 メリルより年上で、シルメリアと同い年くらい。いつもカレラに付いているのだが、今日はいない。
 カレラはハーブティーを啜りながら言う。

「アマンダは、わたくしの代わりに会社で指揮を執っています。アマンダはああ見えて、わたくしに引けを取らないデザイナーなんですの」
「そうなんだ。知らなかったぁ」
「わたくしのところは大きなイベントもないし、こうしてミュディさんのところに遊びにくる余裕もありますわ。ミュディさん……ええと、その。単独ファッションショーはわたくしも経験していますので……その、わからないことがあれば、何でも聞いて構いませんので」
「カレラちゃん……うん、ありがとう!」

 ミュディはにっこり微笑んだ。
 作業場を眺め、少し考えこむ。

「……うん、まだ大丈夫。ねぇカレラちゃん、せっかくだし村を散歩しない? 最近、新しいお店もできたんだ」
「新しいお店?」
「うん。クララベルちゃんのお菓子屋さんとか、タヌスケさんの商店とか。あと、妖狐族の温泉とか茶屋もあるし……うん、カレラちゃんさえよければ、泊まってほしいなーなんて」
「……まぁ、構いませんわ」
「やった! じゃあ行こっ! もちろんメリルちゃんも」
「にゃう。ご主人様についていきます」

 ミュディたちは、さっそく外へ出た。
 春の陽気が暖かく、散歩日和である。

 ◇◇◇◇◇◇

 外に出て散歩がてら歩いていると、アシュトに出会った。

「あ、アシュト」
「お、ミュディ。カレラさんにメリルちゃんも」
「こんにちは。アシュト様……まぁ!!」

 カレラは、アシュトの隣にいた黒いネコミミ少女を見た。
 
「こんにちは、ルミナちゃん!」
「…………」

 ルミナはアシュトの背後に隠れた。
 どうもテンションが高い相手は苦手なようだ。未だに村の住人を相手にしてもあまり喋ることはなく、子供相手にしか喋らない。さらに触るのを許しているのはアシュトだけだ。
 だが、そんな態度がますます可愛いのか、カレラはルミナに構う。

「あぁん、もう可愛い~♪ アシュト様、ルミナちゃんを抱っこさせていただけませんか?」
「いやぁ、やめた方が……引っかかれますよ?」
「んん~……じゃあ、ネコミミを触るのは」
「それもちょっと……こいつ、未だに俺以外の人に触らせないので」
「みゃう」

 アシュトはルミナを撫でる。
 ルミナは気持ちいのか目を細め、ネコミミをぴこぴこ動かし喉をゴロゴロ鳴らす。
 そんな様子が可愛いのか、カレラだけでなくミュディもルミナを見て悶えていた。
 すると、メリルが言う。

「ご主人様。そろそろ行かないと」
「あ、そうですわね。ああん、ルミナちゃん、今度は触らせてね?」
「みゃあ。やだ」
「わ、わたしも触りたいな……ダメ?」
「やだ」

 ルミナはアシュトの背に隠れた。だが、黒いネコ尻尾だけがゆらゆら揺れているのが見え、それがまたなんとも可愛らしかった。
 アシュトたちと別れ、ミュディはカレラに聞く。

「カレラちゃん、相変わらず可愛いもの好きなんだね」
「もちろん。可愛い子は大好きですわ! ねぇメリル」
「にゃあ」

 カレラはメリルを抱きしめ、そのネコミミをたっぷり堪能した。

 ◇◇◇◇◇◇

 買い物し、妖狐族の里にある茶屋でお菓子を食べ、ついでに温泉に入ってリフレッシュ。
 カレラはもう何軒か温泉に入るというので別れ、ミュディは作業場に戻ってきた。
 
「よし! リフレッシュしたし頑張るぞ!」

 ベルゼブブで行われる単独ファッションショーの準備に追われるが、ミュディは楽しかった。
 好きなことをして過ごす毎日が、こんなにも幸せとは。
 ミュディは鼻歌を歌いながら、作業台に向かった。

「そうだ。ファッションショーが終わったら時間できるし、みんなでピクニックとか行きたいな……アシュトに相談してみよっと」

 楽しい仕事の先に、楽しい行事がある。
 ミュディは幸せいっぱいな気持ちで、残った仕事に取り掛かり始めた。
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