大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑰

第491話、風邪ひきミュアちゃん

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 ある早朝。温室の手入れを終え、ウッドと一緒に家に戻った。
 着替えをして朝食。カーフィーブレイクをして仕事へ向かう……というのがいつものパターンだ。いつもは家に戻ると朝食の香りがするんだけど、今日はちょっとだけいつもと違った。
 家に入ると、シルメリアさんが困り顔で出てきたのである。

「おはようございます。ご主人様」
「おはようシルメリアさん……どうかしたんですか?」
『ドウシタ、ドウシター?』
「……ご主人様」

 シルメリアさんは申しわけなさそうに言う。

「実は、ミュアの体調が悪いみたいで……その、熱があって」
「行きましょう」
「あ、食事は」
「そんなのどうでもいいです。ミュアちゃんのところへ」

 シルメリアさんは、俺の食事が遅れることを心配していた。
 銀猫族として主を優先する気持ちはわかる。それが本能だとも。でも……シルメリアさん、ミュアちゃんは朝の食事や俺の予定なんかより大事なんだよ。
 知らず知らずのうちに、言い方がキツくなってしまった。

「シルメリアさん。ミュアちゃんは俺が診察します。ミュディたちに朝食を食べてもらうように伝えてください」
「は、はい。その……申し訳ございません」
「いえ。これだけは覚えておいてください。ミュアちゃんだろうとシルメリアさんだろうと、銀猫の誰でも、体調が悪くなったりしたら絶対に俺に言うこと。いいですね? これは命令です」
「……かしこまりました」

 自分でもわかるくらい、強い口調になってしまった。
 そして、ウッドに言う。

「ウッド。フレキくんの家に行って、俺はミュアちゃんの診察をするから先に仕事を始めてくれって伝えてくれ」
『ワカッタ!』
「よし。じゃあさっそく」

 俺は上着を脱ぎ、薬院に診察道具を取りに向かう。
 すると、背後からシルメリアさんが言った。

「ご主人様……ミュアをよろしくお願いします」
「ええ、任せてください」
「はい。それと……ありがとうございます」

 シルメリアさんは、ぺこりと頭を下げた。

 ◇◇◇◇◇◇

 診察道具を持ってミュアちゃんの部屋へ。
 軽くノックしてドアを開けると……いた。ベッドで寝ている。
 ミュアちゃんの傍へ行くと、顔を赤くして辛そうにしていた。
 そっと額に触れると、ミュアちゃんの目が開く。

「にゃ……」
「おはよう、ミュアちゃん」
「ご主人さま……」
「……熱があるね。ちょっと診察するね」
「にゃぁ」

 ミュアちゃんは弱々しく鳴いた。
 額に触れ、目を見て、首筋に触れ、口を開けて喉を見る。
 咳は出ていない。熱は高く喉が少し腫れていた。
 聞ける範囲で問診すると、頭痛などはなく、熱っぽい症状だけのようだ。

「……これは、風邪だね。ミュアちゃん、寝る前やお風呂上りに、寒いところ行ったりした?」
「……お外いったの。シロのところ」
「そっか。たぶん、身体が冷えちゃったんだね」
「にゃぁぅ……」
「大丈夫。今日はお仕事お休みして、お部屋でゆっくりしてようね」
「ん……ご主人さま、なでて」
「ああ、いいよ」

 ミュアちゃんの頭を撫でる。
 ネコミミもぺたりと萎れていた。やはり元気がない。
 しばらくミュアちゃんの頭を撫でていると、ドアが控えめにノックされた。

「失礼します。ご主人様」
「あ、シャーロット。ちょうどいい、いろいろ頼みたいんだ」
「はい」
「ミュアちゃん、風邪を引いたみたいだから今日は仕事休みで。それと、薬を飲ませる前に消化のいい食事を用意して。そうだな……小さく切った果物盛り合わせとか。それと水をたくさんと着替えも。氷枕と身体を拭く布も用意してくれ」
「かしこまりました」

 シャーロットは部屋を出ていった。
 すると、ちょっと不安そうな鳴き声が。

「にゃぅ……おくすり?」
「うん。身体を治すお薬だよ」
「にがい?」
「大丈夫。丸薬にしたから、飲み込むだけだよ」
「にゃ」

 以前は粉薬だったけど、子供たちが苦くて飲めないというので……すまん噓。ハイエルフ女子たちが「こんな苦いのヤダ!」って抗議したんで、粉薬を固めて丸薬にしたんだ。あいつら、九千年以上生きてるくせに、粉薬が嫌だとか……まぁいいや。一部の薬を除いて、村では丸薬がメインとなっている。
 それを聞いて安心したのか、ミュアちゃんはホッとしていた。
 それから間もなく、シャーロットが食事やその他諸々を用意して戻ってきた。
 まずは食事。

「ミュアちゃん、身体を起こすね」
「にゃぁ」
「ご主人様、私が……」
「大丈夫。じゃあ、一緒にやるか」

 シャーロットがミュアちゃんを支える。
 俺は、細かく切った果物盛り合わせの皿を掴む。

「ミュアちゃん、ご飯食べられる?」
「にゃぁ……たべる」
「うん。じゃあ少しずつね」

 小さく切ったバナナ、オレンジ、キウイなどをミュアちゃんに食べさせる。
 シャーロットは優しい手つきでミュアちゃんの背中をさすっていた。
 途中、水分補給のために水を飲ませ、完食。そのまま丸薬を飲ませた。

「シャーロット、ミュアちゃんの身体を拭いて着替えを。それが終わったら氷枕で寝かせてやって」
「かしこまりました」
「それと、看病は……」

 ミュアちゃんを見ると、俺をじーっとみて涙ぐむ。
 ああ、そんな目で見たら……まぁ仕方ない。

「今日は俺が看病するよ。ミュアちゃん、いいかな?」
「にゃぁぁ」

 ミュアちゃんは辛そうだったが微笑んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 一度薬院へ向かい、フレキくんたちにミュアちゃんのことを伝えた。
 その後、ミュアちゃんの部屋へ戻り、看病をする。
 氷枕を確かめたり、汗を拭いたり、頭やネコミミを撫でたり。たまに部屋の換気をしたり。
 すると、ドアがノックされた。

「はーい……と、ライラちゃんたち」
「わぅぅ……ミュア、大丈夫?」

 お見舞いに来たのは、ライラちゃん、マンドレイクとアルラウネ、ウッド、アセナちゃん、エイラちゃん、そして意外なことにルミナだった。
 子供たちは、心配そうにしている。

「大丈夫。ミュアちゃんの風邪はすぐによくなるよ。今日はゆっくりお休みして、明日になったらまた来てね」
「わぅぅん……わかった」
「まんどれーいく……」
「あるらうねー……」
『ミュア……シンパイ』

 マンドレイクとアルラウネ、ウッドがしょんぼりする。
 すると、マンドレイクとアルラウネの頭をアセナちゃんが撫でた。

「では、今日は帰ります。さぁ皆さん、また明日来ましょう」
「まんどれーいく」
「あるらうねー」
「おねーたん。またねー」

 エイラちゃんが心配そうに部屋の中に向かって手を振る。
 全員が帰る中、ルミナが言った。

「……みゃう。ちゃんと看病しろよ。その、あたいが交換してもいいぞ」
「ルミナ……うん、ありがとな。でも大丈夫」
「ふん」

 ツンとそっぽ向き、ルミナは去った。
 みんな心配してくれたのか。優しい子たちばかりだ。
 
「さて、看病しないと……」

 部屋に戻り、ミュアちゃんの看病を再開。
 何事もなく夜になり、少し熱も引いてきた。
 夕食後にもう一度丸薬を飲ませ、着替えをさせてベッドへ。
 さすがに俺も疲れてきた……もう夜だしな。
 すると、ドアが静かにノックされた。

「はい……あ、シルメリアさん」

 寝間着姿のシルメリアさんだ。
 部屋に入ると、ミュアちゃんの傍へ。
 
「……だいぶ、顔色が良くなりましたね」
「ええ。薬が効いたようです。たぶん、明日の朝には治ってると思います」
「そうですか……ご主人様、ありがとうございます」
「いえいえ。良くなって安心しました」
「……あの、ご主人様。今夜、ミュアを任せていただけませんか?」
「え?」
「何かをしてやりたくて……」
「…………」

 そういえば、今日はシルメリアさん、ここに来なかった。
 仕事が忙しいのもあっただろう。ミュアちゃんはクララベルのお菓子屋がメインの仕事だが、家の仕事も率先して手伝っている。今日もミュアちゃんの仕事はあったはずだ。
 たぶん、シルメリアさんがやったんだろう。

「まだ小さいのに、この子は頑張っています。姉さんが見たらきっと、喜んでくれると思います」
「……そうですね。じゃあシルメリアさん、後はお任せしていいですか? 何度も言いますけど、何かあったら絶対に俺を呼んでくださいね」
「はい、ご主人様」

 俺は頷き、部屋を出た。
 ドアを閉める瞬間、シルメリアさんの姿は……娘を気遣う母のように見えた。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ミュアちゃんは回復した。
 喉の腫れも収まり、熱もすっかり引いた。
 だが、油断は禁物。念のため一日休養し、問題がなければ明日から仕事だ。
 せっかくなので、看病をシルメリアさんに任せた。家の仕事はシャーロットとマルチェラとメイリィ、そしてお手伝いの銀猫を数名呼んだので安心だ。
 
「シルメリア、ご本読んでー」
「仕方ないですね。どの本がいいですか?」
「えっとね……」

 俺は、ドア越しに部屋の中を覗く。
 シルメリアさんもミュアちゃんも、どこか楽しそうだ。
 母と娘、か。なんかいいもんだな。

「さーて……仕事に行きますか」

 俺は二人の邪魔をしないように、抜き足差し足でその場を後にした。
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