大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑰

第493話、アシュトは薬師です

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 えー、最近すっごく忙しいです。
 村長としての事務仕事がメインになりつつあり、薬師としての仕事があまりできていない。薬院もフレキくんやエンジュにお願いすることが多くなってるし……うう、フレキくんの指導もまともにできていない。
 なので、俺はディアーナに相談した。

「頼むディアーナ……村長の仕事をもう少し減らしてくれ。俺、薬師が本業だから」
「……わかりました」
「……あのさ、ディアーナに」
「それはダメです。この村の村長はアシュト様、あなたしかいません」
「う……じゃあ、名ばかりでいいからさ、村の拡張とか決定権はディアーナに」
「駄目です。では……本当に必要な確認以外は、私の方で処理します」
「それでいい。頼むよ」

 というわけで、新規の居住許可や住居建設。道路の拡張や開拓などの許可などはディアーナたち役場の事務員にお願いした。俺は本当に必要な書類を書いたり、新規の種族との取引や交渉などで力を振う。それまでは、緑龍の村の薬師兼医師として働く。
 というか、村がデカすぎる……豆狸族も何人か住み始めたし、また住居が増えた。
 畑もどんどん広くなってるし、工場や巨大冷蔵庫も増設してる。宴会場はさらに大きいのが建てられ、図書館二号棟の建築も始まった。
 俺はため息を吐き、ディアーナに言う。

「なぁディアーナ……ここ、発展しすぎじゃね?」
「そうですね。かつてのベルゼブブを彷彿とさせます。かつて、お兄様が興したベルゼブブも、住人二十名ほどの小さな村でしたから」
「わーお……そういや、そんなこと言ってたな」
「ええ。お兄様は千年以上の時間をかけて今のベルゼブブまで成長させましたが、アシュト様の場合、三年ほどでこれほどの規模の村を作り上げた……お兄様以上ですね」
「いや、偶然だろ。俺はなにもしてないし、いろんな種族が集まってできただけで」
「それが、アシュト様の力なのでしょう。いろんな種族が集まる……簡単に言いますが、本来これほどの種族が仲睦まじく暮らす村などあり得ないことです。ベルゼブブですら、住んでいる種族は十にも満たないのですから」
「え、そうなんだ」
「ええ。アシュト様、アシュト様はもう少し、自身の偉業を誇るべきかと」
「偉業って……う~ん」

 いまいち俺にはわからなかた。
 今でも思う。エルミナと出会い、エルダードワーフたちを助け、家を作って銀猫たちが来てバルギルドさんたちが来て……ぶっちゃけ、それだけでできた村だ。
 ここまでの発展は想像してなかったし、今も驚いてる。

「っと、とりあえずよろしくな。じゃあ、ちょっと薬院行ってくる」
「ええ。お気を付けて」

 役場を後にして、薬院へ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

「にゃぁぁぁぁーーーんっ!!」
「ん……?」

 薬院に向かっていると、猫の鳴き声……いや、ミュアちゃんの声がした。
 声の方に向かって行くと、マンドレイクとアルラウネ、そしてハイピクシーのフィルとベルが、座り込んでいるミュアちゃんを必死になだめていた。
 どうやらミュアちゃんは泣いているようだ。

「どうしたの?」
「まんどれーいく!」
「あるらうねー……」
『あ、よかった。聞いてアシュト! この子、木の上から飛び降りて着地したんだけど、たまたま木の根を踏んじゃって転んだの!』
「え……? ミュアちゃん、大丈夫?」
「にゃぅぅ……」

 ミュアちゃんの膝から血が出ていた。
 ミュアちゃんは痛いのかボロボロ泣いている。
 俺は、ミュアちゃんの頭を優しく撫で、ハンカチを取り出し傷を押さえるように結んだ。

「大丈夫。俺がしっかり治療するから、怖くないよ」
「にゃぅぅぅ……ご主人さまぁ」
「よしよし。じゃあ、薬院に行こうね」

 ミュアちゃんをお姫様抱っこする……うん、軽いな。
 そのまま揺らさないようにすると、ミュアちゃんが俺の胸に顔を擦り付けてきた。

「フィル、ベル、マンドレイクとアルラウネ。このことをシルメリアさんに伝えて、すぐに薬院に来てもらってくれ」
『わかった! ベル、行くよ!』
『あいあいさー』
「まんどれーいく!」
「あるらうねー!」
 
 二匹と二人は競い合うように飛んでいった。
 俺は揺らさないようにミュアちゃんを薬院へ運ぶ。
 行儀は悪いが、足で軽くドアをノックすると、マカミちゃんが開けてくれた。

「村長……ど、どうしたの?」
「急患だ。診察台を開けて」

 薬院では、フレキくんとエンジュがそれぞれ診察をしていた。
 フレキくんは悪魔族男性に薬の説明、エンジュはドワーフの腕を縫っている。
 俺は空いている診察台にミュアちゃんを寝かせ、薬液で手を消毒する。

「ミュアちゃん、すぐに治療するからね」
「にゃぁぁ……」
「よし……」

 俺は杖を取り出し、『緑龍の知識書ムルシエラゴ・グリモワール』を開く。
 そこに記されていたのは、『光』属性の魔法だ。天龍アーカーシュ様が注いだ力の一部により、俺でも光属性魔法を使えるようになった……まぁ使うようになったのは最近だけどね。だって魔法って治療じゃあまり使わないんだもん……土壌回復とか、成長促進ばっかりでさ。
 と、そんなことはさておき。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
〇光魔法・特殊
透視眼クリアスコープ

使うと好きな物が透明に見えるわよ!
魔力量によって透視レベル変わるから。
あと、エッチな使い方したら怒るからね!
ムルシエラゴによろしく~♪
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 これ、アーカーシュ様の説明だよな。
 まぁいい。俺は自分の目元を杖で叩きながら呪文を唱える。

「透き通る世界に幸あれ。『透視眼クリアスコープ』」

 すると、俺の目が違う世界を捕らえる。
 衣服が透け、皮膚が透け、筋肉が透け……骨まで見えた。
 そう、この魔法を使ったのは、ミュアちゃんの骨が折れていないか調べるため。骨折の処置はシャヘル先生と何度かやったことがあるけど、骨折がどうか判断するのに触診は必須。患者さんに触れ、痛みの部位を確認することで正確な骨折の位置を判断するのだ。
 でも、ミュアちゃんにそんな苦しみはさせたくない。なにかいい手はないかと考えたところ、この魔法が本に現れたのだ。

「……うん、骨は折れていない」
「にゃうー……」

 骨は綺麗な状態だ。
 どうやら、皮膚の裂傷だけ。まずは綺麗な水で傷口を洗う。

「にゃぁぁぁぁぅぅぅっ!!」
「痛いよね? ごめんねー……よし、綺麗になった」
「にゃぁぁぁ……」
「よしよし。大丈夫大丈夫……よーしよし」
「ごろごろ……」

 水で洗うと痛みが一気にくる。でも、傷は洗わないと。
 ハイエルフの秘薬を使いたいが在庫がない。俺が調合した傷薬と化膿止めを塗り、薬草で作った包帯を巻いて処置を終えた。すると、薬院に血相を変えたシルメリアさんが。

「ミュア!! 大丈夫ですか!?」
「にゃあ。シルメリア……」
「……無事のようですね。よかった」
「ごめんにゃさい……」
「全くもう……あまり無茶はしないでください」
「にゃう……」

 改めて、こういう怪我を治すのが俺の仕事だと思った。
 ミュアちゃんは三日間ほど安静にし、後日シルメリアさんにこっぴどく叱られた。
 やっぱり、俺は村長より薬師、そして医師が向いてる。
 ディアーナには悪いけど、真剣に村長交代の話をしようかな。
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