大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑰

第494話、銀猫のゆるみ

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 ある日。いつもと変わらない日常。
 ミュアは、お菓子屋の仕事ではなく、シルメリアの手伝いで、洗濯をするために浴場傍の『洗濯場』へ。
 ここは、村の共用洗濯場。浴場の残り湯を使った洗濯場で、冬場の冷たい水を使った洗濯で手荒れを起こしていた銀猫たちのためにアシュトが考案した建物だ。
 春なので川の水で洗ってもいいのだが、銀猫たちはここで選択をしていた。
 ミュアは、一人で洗濯をしていた。

「にゃんにゃんにゃにゃ~ん♪」

 歌いながら、洗濯板でゴシゴシと衣類を洗う。
 植物油から作った洗剤はよく泡立ち、水に溶けても水質に問題はない。
 すると、家政婦の仕事がメインの銀猫であるミルモが話しかけてきた。

「ご機嫌ですね、ミュア」
「うん! あのね、ご主人さまがすごく優しくしてくれたの。風邪ひいたときとか、怪我したときとか……わたし、すっごくうれしかったの」
「そうですか……」

 ミルモは、羨ましいと感じつつも思う。
 ミュアは確かに可愛い。村にいる銀猫たちにとって、赤ちゃんのころから世話をしている。成長が楽しみであり、全員が(主にシルメリア)が母親のような存在だ。
 だからこそ、時に厳しくしないといけない。

「ミュア」
「にゃう?」
「ご主人様に甘えるのは悪いことではありません。ですが、迷惑をかけるのは銀猫として失格ですよ」
「にゃ……」

 洗濯の手を止め、ミルモはミュアに向き合う。
 本来、こういうことを言うのはシルメリアの仕事だ。
 だが、見た目こそ二十代前半ほどのミルモだが、銀猫の中では最年長クラスだ。かつての主人の顔は覚えていないが、もう何百年も銀猫として生きている。
 ミュアも、ミルモの話を聞くために手を止めた。

「あなたが風邪を引いた理由も、お風呂上りに外に出て遊んでいたと聞きました。それと怪我……最初こそ驚きましたが、屋根から飛び降りて転んだということですね? これもあなたの不注意です」
「にゃあ……」
「ご主人様は優しいお方です。あなたを叱りこそしませんが、心配はかけました。ちゃんと謝ったとは思いますが……謝ればいい、ということではありません。迷惑をかけないことが一番なのです」
「……」
「ミュア。元気いっぱいなのはいいことです。私やシルメリア、他のみんなも見ていて嬉しいです。でも……もう少し落ち着いて行動なさい」
「にゃう……」

 ミュアのネコミミが萎れてしまった。
 悪いと感じているのだろう。ミルモはミュアに目線を合わせ、頭をそっと撫でる。
 銀猫は、ネコミミを揉んだり耳の裏をカリカリされるのが気持ちいい。ミルモはミュアのネコミミをそっと揉み、耳の裏をカリカリする。

「にゃぁ……」
「時間ができたら、銀猫寮にいらっしゃい。お茶とクッキーをご馳走します。ね?」
「ミルモ……うん、わかった!」
「では、お洗濯を終わらせましょうか」
「にゃうー!」

 二人は仲良く洗濯をした。
 洗濯物の量はミルモの量が少なく、先に終わってしまった。
 ミュアのを手伝おうとすると、『だいじょうぶ!』と言うので、その意見を尊重した。
 お小言だが、ミュアには伝わったようだ。
 洗濯物を抱えて洗濯場を出るとシルメリアがいた。どうやら洗濯場での時間は思った以上に長かったらしい。
 ミルモは苦笑する。

「……あら、聞いていたんですか?」
「ええ……ミルモ、ありがとうございます。本来、姉さんの娘であるミュアを叱るのは、私の役目です。どうも……私も、あの子にはだいぶ甘くなっているようで。これでは、ご主人様のことを言えませんね」
「ふふ。あの子はみんなの娘みたいな子ですもの。大丈夫、お小言は私みたいな年長者に任せなさい」
「ミルモ……」
「それと、洗濯が遅くなったのは私のお小言のせい。叱らないでね?」
「わかっています」

 シルメリアはペコリと頭を下げ、ミルモも軽く頭を下げてその場を後にした。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 仕事を終えた銀猫たちは寮に戻り、食事を終えて浴場へ。
 ミルモも入浴を終え、明日のシフトを確認した。明日は図書館の清掃仕事だ。
 仕事があればあるほど銀猫はやりがいを感じる。忙しいのは大好きなのだ。

「さて……少し、読書でも」

 銀猫寮は、二人で一部屋だ。
 望めば個室もある。ベッドと小さなクローゼットと机と椅子だけだが、銀猫にとって個室などあり得なかった。奉仕種族である銀猫族は、集団での生活が当たり前。テントや穴倉で生活したこともある。
 これだけ良い暮らしをするのは、ミルモの人生でも初めてだった。
 慣れない若い銀猫たちは二人から三人部屋で暮らし、ミルモや数名の銀猫は個室に住んでいる。
 ミルモは、図書館から借りた本を取り出し、タヌスケ商店で買ったクッキーの缶も一緒に準備する。
 すると……ドアがノックされた。

「はい……どうぞ」
「にゃあ!」
「こんばんわ。ミルモ」
「え?……ミュアにシルメリア?」

 分厚いコートを着たミュアと、シルメリアだった。
 二人とも、お風呂上りなのか、髪の毛がしっとりしている。
 シルメリアは、微笑んでいた。

「ミュアが、あなたのところに行きたいと言いまして……今晩、泊めていただけませんか?」
「ミルモ、約束! 遅くなっちゃったけど……だめ?」
「……あ」

 ミルモは思い出した。
 今日、洗濯場で『お茶とクッキーをご馳走します』と言ったことを。
 ミルモはシルメリアを見ると、シルメリアは片目をつぶった。

「ミルモ……」
「……ちょうど、クッキーを用意したんです。お茶を淹れましょうか」
「にゃあ! お泊り、いいの?」
「ええ。私のベッドでよければ、一緒に」
「うん!」

 ミュアはミルモに抱きつく。ミルモはミュアが愛しくなり、その頭をそっと撫でた。
 
「では、私はここで。ミュア、ミルモに迷惑をかけないように」
「はい!」
「ミルモ。ミュアをよろしくお願いしますね」
「はい。それと……ありがとう、シルメリア」
「……ふふっ」

 シルメリアはクスっと笑い、軽く頭を下げて寮を後にした。

「ミルモ、クッキー!」
「はいはい。では、ホットミルクを用意しましょうか」
「にゃうー」

 部屋からは、銀猫二人の楽し気な声が聞こえてきた。
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