大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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魔法学園の講師

第505話、シェリーの魔法授業

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 時間は少し巻き戻る。
 アシュトが野良猫と出会う前。授業を受けるために教室へ向かうシェリーは、いろいろな生徒に挨拶された。
 
「おはようございます。シェリーさん!!」
「おはよ」
「オハヨウ、ゴザイマス」
「ん、おはよー」
「あ、シェリーさんおはよっ!」
「おはよーっ」

 男女、種族問わず人気者だった。
 教室へ向かうまで百人以上に挨拶し、ようやく教室へ。
 シェリーの受ける授業は「生活魔法学科」だ。戦闘系の魔法ばかり習得していたシェリーにとって、身近な生活魔法はほとんどなじみがない。
 灯りを付ける魔法、水をお湯にする魔法、汚れを分解する魔法など、習うことはたくさんあった。
 緑龍の村で使う生活魔法は、ミュディやアシュトに習ったもので、学園で習うのは初めてだ。
 シェリーは席に座り、カバンから教科書を取りだす。
 そんな何気ない仕草も注目される。

「シェリー、おはよ」
「あ、おはよう。ラクシュミ」

 銀色の髪をポニーテールにした少女、ラクシュミだ。
 ラクシュミは、シェリーの母アリューシアの妹の娘。つまり従妹である。
 リュドガから名前は聞いていたが、こうして会うのは十年以上ぶりだ。
 だが、すぐに打ち解けた。

「はー、授業めんどい……」
「そう言わないの。あたしはすっごく新鮮で楽しいけど」
「シェリーはずっと軍属だったからねぇ。ねぇねぇ、今日暇? 学校終わったら買い物いこっ!」
「いいよ。なに買う?」
「もち、服とか化粧品とかー、あとはカフェでお茶とか! あ、アシュトくんも呼ぼうよ!」
「あー、お兄ちゃんは無理。今日は歓迎会だってさ」
「えー?……まぁいっか。ふふふ」
「なにその笑い……」

 ラクシュミは銀髪を軽く弄りながら笑う。

「実は私、薬学取ったのよ。明日はアシュトくんの授業なんだ~♪」
「はぁ? あんた、薬師にでもなるの?」
「いやいや。アシュトくんってどんな授業するのか気になってさ。親戚なのにまだ挨拶してないし、授業のときに驚かせようと思って」
「……たぶん驚かない。ってか、あんたのこと覚えてないと思う」
「え。ち、小さいころ会ったことあるじゃん」
「もう十年以上前じゃん……あたしだってあんたの顔見てすぐわかんなかったわよ」

 シェリーとラクシュミの髪色はほぼ同じで、姉妹のように見える。これはアリューシアの実家であるプリメーラ家の特徴だ。シェリーはラクシュミの名前と髪色、そして母親の名前でようやく思い出したのだ。
 ラクシュミは「ふん」と鼻を鳴らす。

「リュドガさんだったら私のこと覚えてるだろうなぁ……アシュトくんはどうかなぁ」
「お兄ちゃんならあるいは……っと、ここまでね」

 教師が教室へ。
 ちなみに、銀髪の美少女二人が優雅に会話しているのはすごく目立っていた。シェリーがここに来るまで、ラクシュミはまさに高嶺の花的存在。そこに転入してきたシェリーがまさかの親戚同士。目立たないわけがないし、話題にならないはずもなかった。
 教師に礼をし、授業が始まる。

「それでは、本日は『硬くなった瓶の蓋を開ける魔法』と『野菜の泥を落とす魔法』と『鍋の取っ手が熱くならないようにする魔法』を覚えましょう」

 生活魔法は、一見するとくだらないものばかり。そういう意見も確かに多い。
 だが、家事や生活する上では欠かせない。生活魔法学科は、より踏み込んだ生活魔法を習得する学科だ。
 生徒たちは杖を取り出す。

「ずっと思ってたけど……シェリーの杖って実戦向きだねぇ」
「そう?」

 シェリーの杖は飾り気のないシンプルな物だ。持ち手を含め三十センチほど。
 それに対し、ラクシュミの杖はなかなかに凝っていた。持ち手はサーベルのようなガードの付いた金属製。先端部分には魔法を増幅する魔石が取り付けられている。
 周りを見ると、男子はそれほどでもないが、女子の杖はバラバラだった。
 大きな樫の杖にアクセサリーが付いていたり、金属製のステッキだったり。

「うん決めた。シェリー、今日は杖を改造しに行こう」
「は?……改造?」
「デコレーションよデコレーション。知らないの?」
「……知らない」
「じゃあ行こ。きっと楽しいと思うからさ!」
「え~……まぁいいけど」

 杖のデコレーション。シェリーにとって知らない世界だった。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 授業が終わり放課後。
 シェリーとラクシュミはさっそく杖専門店へ。
 魔法学園なだけあり、杖を扱う専門店はかなりある。その中で、杖の外観をカスタムする専門店へ向かう。
 もちろん、女性向けに可愛らしくデコレーションをしてくれる店だ。
 ラクシュミの案内で到着したのは、『デコレーション・ステッキィ』という店だ。
 外観はお菓子屋のようにも見える。

「さ、行くよ!」
「う、うん。あのさラクシュミ、大丈夫なのここ?……お菓子屋みたい」
「大丈夫だって! 私の杖デコッたのもここだしさ」

 ラクシュミに腕を組まれ店内へ。
 店内はやはり、お菓子屋のように見えた。

「わぁ~……すっごぉ」

 杖の素材がたくさんあった。だが、どれもお洒落を優先しているデザインだ。
 
「素材だけで数百種類あるんだから。ここで自分だけの杖をデコれるのよ」
「ふーん……」

 ぶっちゃけ、杖は使えればなんでもいい。
 ラクシュミと店内を物色する。

「シェリーの魔法適性『氷』でしょ? だったら、氷っぽい青系のデザインにしようよ」
「いいけど。そういや、あんたの魔法適性は?」
「私は『光』よ。あんたほどじゃないけどレアなんだから」

 二人は、杖の持ち手部分が陳列されているスペースへ。
 そこで、透き通った青い氷のような持ち手を見つけた。

「これ、これいいじゃん! すっごい綺麗……」
「た、確かに……綺麗かも」

 シェリーは持ち手を掴んでみる。片手用の、持ちやすい持ち手だった。
 そして、柄の部分も同じ透き通る青のものがあった。

「これ、シェリーのためにあるような杖ね」
「……うん」

 こうして、シェリーは自らの杖をデコレーションする。
 デコレーション作業はニ十分ほどで終了した。
 透き通った青い杖。まるで氷を彫刻したようなデザインに生まれ変わった杖を振る。
 ラクシュミは、とても嬉しそうにしていた。

「すっごくいい! シェリー、似合ってる!」
「あ、ありがとう……ふふ、うれしいかも。まさか、杖をデコレーションできるなんて思わなかったし」
「ふふ、いい経験したね」
「うん。そうだラクシュミ、お礼にお茶奢らせてよ」
「お、いいわね。じゃあ、私のおススメのカフェ行こっか!」
「うん!」
 
 シェリーとラクシュミは、仲良くカフェへ向かった。
 シェリーが捨て猫騒動を知るのは、家に帰ってからだった。
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