大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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魔法学園の講師

第511話、ネコミミの王子様

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 クララベルが生徒に紛れて授業を受けるという事件から数日。
 今日は休日なので、ローレライを誘って魔法学園の図書館へやってきた。
 村の図書館ほどじゃないが、かなりの蔵書がある。さらに、塔みたいな作りの図書館と違い、こちらは要塞のような煉瓦造りの立派な建物だった。
 椅子やテーブルも大きく、生徒たちが静かに勉強しているのがわかる。
 ローレライは、学園の制服を着て髪をポニーテールにまとめていた。さらにメガネもかけ、完全な生徒になりきっている。
 というか……ポニーテールだと首筋がよく見える。なんか色っぽい。

「ふぅ……ねぇアシュト先生」
「お、おお。なんだ?」
「……なんだか挙動不審ね」
「あ、いや」

 首筋見てたなんて言えないし!
 俺は咳払いして誤魔化し、ローレライに向き直る。

「コホン。で、どうした?」
「ええ。ここの本も面白いわね。また読みに来たいのだけれど」
「もちろん。授業は難しいけど、施設の利用は部外者でもできるみたいだしな。教師の許可があれば大丈夫」
「ありがとう」

 ローレライ曰く、本は書いた人の癖が出ているらしい。
 同じ著者の作品ばかりだと、どうしても疲れてくる。だが、ジーグベッグさんの本は例外らしい。

「ジーグベッグさん、一冊一冊に込める感情や気持ちが、別人かってくらい違うのよね。普通、同じ著者だったら、内容に『癖』が出ると思うのだけれど……」
「俺にはわからん……」
「ふふ、アシュトもわかるわよ」

 ローレライはクスリと笑った。
 なんか雰囲気違うと可愛らしさも違うな。

「ところで、クララベルは?」
「ああ、エルミナとミュディを連れて、飲食店回ってる。美味しいカフェとかいっぱいあるみたいだ」
「それは気になるわね……アシュト、後で一緒に」
「もちろん。今日はとことん付き合うぞ」

 ローレライは、嬉しそうに微笑んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 俺が学園教師として働き、一月経過した。
 自分で言うのもなんだが、生徒からも人気あるし、授業もわかりやすいといわれている。
 イワオ先生がけっこう飲み会に誘ってくるのも楽しいし、教師たちとも仲良くやれてると思う。
 ルミナも、無口だが生徒たちから『かわいい』と言われていた。本人はどうでもいいのか、俺にだけ甘え俺にだけ話しかけてくる。
 モフ助。奴は教室のマスコットだ。授業が終わると、生徒たちに撫でられまくる。
 
『先生。このモフモフ……生息地は?』
「え、えーと」

 こんな感じで、トーロウくんに質問されたりするが、なんとか誤魔化しつつある。
 残り一ヵ月……なんか、このまま教師続けたいな。
 でも、俺は緑龍の村の村長だ。
 以前、ローレライと読んだ本の記述に『二足の草鞋を履く』という言葉があった。村長と教師、どっちもできると思うなよ……みたいなことだと思う。
 名残惜しいが、あと一ヵ月……これだけはしっかり務めよう。

 そんなある日。
 授業内容の補完をしようと、図書館で薬草の本を借りに向かった。
 薬草関係の本。シャヘル先生が書いた本がいくつかあった。それを借りようと思い、図書館の薬草関係の棚へ向かうと、そこには。

「む、ふぅぅ~っ! ふんっ!」
「…………」

 ネコミミの生えた少年が、必死にジャンプして本を取ろうとしていた。
 なにこれ、かわいいな……っと。

「どの本かな?」
「わわっ!? あ、えっと……あの本です。緑色の背表紙の」
「これか。はい」

 タイトルは『獣人の歴史』だ。薬草関係の本かと思ったが、紛れ込んでいたようだ。
 ネコミミの少年は一礼する。

「ありがとうございます。助力に感謝を」
「いやいや。それにしても、難しい本を読むんだね」
「いえ、この程度は別に」

 ネコミミの少年。ミュアちゃんと同じくらいだよな。
 十歳くらいだろうか。身長は俺のお腹くらいで、髪は灰色。メガネをかけ、尻尾は斑模様になっていた。本を大事そうに抱え、俺をじーっと見ている。

「もしかして、アシュト先生ですか?」
「うん。そうだよ。っと……そうですよ」
「噂で聞いています。ビッグバロッグ王国の最年少薬師。数々の難試験で満点を叩きだしたと」
「あ、あはは……ま、まぁ」
「素晴らしいです。あなたのようなお方に出会えて光栄です」
「いえいえ。そんな」

 ネコミミの少年は優雅に一礼……むぅ、なんとなくだが、この感じ。

「アシュト先生。あなたの任期は二月とお聞きしましたが」
「ええ。あと一ヵ月です」
「そうですか……あの、その後のご予定は? ビッグバロッグ王国に帰るのですか?」
「いや。実は、領地に帰って過ごそうかと」
「なんと。領地ではどのようなお仕事を?」
「えーっと……まぁ、領地運営のお手伝いかな」
「領主なのですか!」
「ま、まぁ……」

 オーベルシュタイン領土のことは言いにくいな。
 すると、ネコミミの少年はネコミミをパタパタさせる……か、かわいい。
 そして、頷いた。

「失礼しました。ぼくは『獣王国サファリ』の第一王子、シアンと申します。アシュト先生、あなたを我が弟の専属教師としてスカウトしたい」
「え」

 シアンと名乗ったネコミミの少年は、再び一礼した。
 なんとなく、高貴な感じはした。
 俺だって元貴族。他の貴族と会話したこともあるし、作法も学んでいる。
 目の前にいるのは、獣王国……獣人の国の王子様だ。

「す、スカウト?」
「はい。じつは、我が妹も六歳になりまして、勉強が始まるのです。ですが、専属教師を探すのに難航しておりまして。いい人材がいたらスカウトしようと思ってました」
「それが、俺?……じゃなくて、私ですか?」
「はい。アシュト先生なら問題ないかと」
「…………」

 これは即答できる案件じゃないぞ。
 獣王国。確か、砂漠地帯にある獣人の国家だ。大きさはビッグバロッグ王国やドラゴンロード王国に引けを取らなかったはず。そこの王子様のお願いだ。
 やばい。国家間の問題になる。エストレイヤ家の名前を借りてる以上、兄さんに報告しないと。
 
「わかりました。実家と相談させて頂き、改めてお返事を」
「おお、ありがとうございます。ああ、アシュト先生にもご都合というのがありましょう。任期や給与については、のちほどご相談を」
「はい。わかりました」

 うう、面倒なことになったぞ。
 それに、村長をしっかりやる!って思ったばかりでこれかい。
 まぁ、獣王国に少し興味あるけど。

「シアンさま~~~!」

 と、間延びした可愛らしい声が。
 声の方を見ると、明るい茶髪の少女が走ってきた。頭にはネコミミが生えている。
 少女はシアンくんの前で止まると、そのまま抱き着く。

「捕まえました! もう、一人でいなくなっちゃうんですもの」
「キッシュ……私は、図書館に行くといいましたが」
「えへへ。そういえばそうでした……にゃ? こちらのお方は?」
「待ちなさい。私から紹介させてください」

 シアンくんは、ネコミミ少女を紹介する。

「アシュト先生。彼女はキッシュ、私の妻です。キッシュ、こちらはアシュト先生。妹ペルシャの教師を務めてくださるお方です」
「まぁ、ペルシャの。これは失礼いたしました。キッシュと申します」
「あ、アシュトです……どうも」

 そう返すのが精いっぱいだった……え、妻? この歳で?
 シアンくんは、キッシュちゃんと腕組みする。

「では、また。失礼します」
「ごきげんよう」
「…………」

 二人は出て行った。
 なんか、早くも大変な予感しかない……なんて。
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