大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑱

第516話、人狼の薬師は故郷へ帰る

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 ココロさんは、俺の屋敷の大きさに驚き、転移魔法に驚き、シルメリアさんに驚いていた。
 とりあえず、今日は客間で休んでもらおう。弟子やその他の話はまた明日。
 俺も部屋に戻ろうとしたが、シルメリアさんが言う。

「ご主人様。フレキ様が薬院で作業中です」
「え、こんな時間に?」

 うーん。いいタイミングかも。
 さっそく薬院へ向かうと、テーブルに様々な資料を開き、薬品を調合するフレキくんがいた。
 よく見ると、開いている資料はほとんどフレキくんの手書きだ。手書きの資料は十冊以上あり、ここに来てからフレキくんが努力をした証でもある。
 
「ピネハスの結晶……そこにロウレルの葉とバジル草を加え、ネラの樹液で煮込む……よし」

 材料だけでわかった。
 フレキくんが作っているのは、調合が難しい解毒剤だ。様々な毒を解毒するのに使うが、少しでも配分を間違えると、解毒剤自体が毒となる薬品。
 村では、俺しか作れない。
 でも、見てわかった……あの調合法、完璧だ。
 調合が成功すると。

「……うん、いい感じかも」

 調合が成功すると、薬液は澄んだ水のような色になる。
 鍋の中は、綺麗な水が入っているようにしか見えなかった。
 というかフレキくん……集中しすぎて、俺がここにいることに気付いていない。
 俺は普通に近づくと、足音で気付いたフレキくんがこっちを見た。

「あ、し、師匠! お疲れ様です。その、解毒剤を勝手に……」
「完璧だよ」
「え?」
「完璧な解毒剤だよ。後ろで観てた。もう、フレキくんに教えることはないよ」
「そ、そんな。ボクなんてまだまだ……」
「うん。まだまだだね。でも、それは俺にも言えることだよ」
「し、師匠……?」

 俺は、フレキくんの肩を叩く。

「フレキくん。そろそろ、独り立ちの時だ」
「え……?」
「きみには、本当に助かってる。俺がいない時、フレキくんがいたから、俺は安心して出かけることができた。でも、俺もフレキくんに甘えてばかりいられない」
「そ、そんな。ボクは……」
「こういうところ、俺もまだまだだな……本当に、ごめん」

 俺はフレキくんに頭を下げた。
 フレキくんは、オロオロする。でも、俺は続ける。

「俺がいない間。ロムルスくんを指導してるんだろう? もう立派な師匠だよ。フレキくん」
「…………」
「実はさ、俺の弟子になりたいって子がいるんだ」
「え……」
「俺は、その子を育てようと思う。だからフレキくん、きみも、俺から学んだことを、そして自分で得たことを、弟子に教えてやってほしい。まずはロムルスくんに」
「師匠……でも、ボク……自信が。ロムルスを指導できたのも、後ろに師匠がいるっておもえたから」
「大丈夫。っていうか、忘れてる? フレキくんは俺の初めての弟子だよ? 俺だって今のフレキくんみたいな気持ちだった。フレキくんから見て、俺はどうだった?」
「師匠は最高の師匠です!! かっこよくて、なんでも知ってて、すごくて……」
「そう見えるように、頑張ったから。だから今度はフレキくんの番だ」

 というかフレキくん、ほめ過ぎ。
 カッコいいかな、俺。

「報告書で読んだんだ。人狼族の村、他の土地から来た人狼や、他種族の受け入れも始まって、かなり大きな村に成長してるみたいじゃないか。きっと、病人や怪我人も増えてくる……そこに、信頼のできる薬師がいれば、村人は安心するんじゃないかな」
「ボクが……?」
「うん。自信を持ってやれば大丈夫。フレキくんは俺の教えを受けた一番弟子だからね」
「師匠……」
「フレキくん。やれるかい?」
「…………」

 フレキくんは目をゴシゴシぬぐい、俺に頭を下げた。

「はい!! ボク……やってみます!!」
「うん。もちろん、わからないことや困ったことがあれば、俺を頼ってほしい。逆に、俺も困ったことがあれば、フレキくんを頼るからね」
「任せてください!! ボク……頑張ります!! 師匠から教わったことを活かして、薬師としてやっていきます!! 師匠、ありがとうございました!!!!!!!!!!」
「う、うん。あの、もうちょっと声を低く……」
「はい!!!!!!」

 き、聞いてねぇ……フレキくんの欠点は声が大きすぎることだな。

 ◇◇◇◇◇◇

 その翌日。
 ミュディたちにココロさんを紹介し、薬院へ。
 ちなみに、ココロさんはここがオーベルシュタインだとまだ気付いていない。いろいろネタ晴らしするのは後で、フレキくん、エンジュに紹介した。

「は、はじめまして。ココロともうします」
「お、かわいいエルフやないか。どもども、エンジュやで」
「フレキです。よろしくお願いします」
「ぼくはロムルス。フレキ師匠の一番弟子です」
「は、はい」

 まだ緊張している。
 俺はフレキくんを見て頷くと、フレキくんは力強く頷いた。

「さっそくだけど、みんなに話がある」
「なんやなんや改まって?」
「フレキくんは俺から卒業して、人狼族の村で薬師として働くことになった」
「んなにぃぃ!?」

 エンジュがめっちゃ驚いてた。
 ロムルスくんはポカーンとし、挨拶したばかりのココロさんはエンジュの仰天っぷりに驚いていた。

「まま、マジかフレキ!?」
「うん。昨日、師匠と話してね……ボク、ここから出て人狼族の村で薬師をやるよ」
「ぼくは師匠についていきます!」
「ありがとう、ロムルス」

 すると、エンジュがウンウン唸り、ポンと手を叩いた。

「じゃ、ウチも行くわ」
「「「「え」」」」
「フレキと結婚して人狼族の村に住むわ。ふふ~ん、新天地! 楽しみやねぇ」
「ちょ、エンジュ!? 本気!?」
「モチのロンやで。フレキ、よろしゅうな」
「えぇぇぇぇぇっ!? けけ、結婚って……」
「ええやん。村長だっていっぱい奥さんおるやないか。あ、マカミにも言わな。じゃあちょっと行ってくるでー」
「ちょ!?」

 フレキくんの伸ばした手は、エンジュを掴むことなく虚空を彷徨った。

 ◇◇◇◇◇◇

 こうして、フレキくんは二人の奥さんと一人の弟子と共に、人狼族の村へ帰っていった。
 広くなった薬院。
 フレキくんやエンジュの私物もなくなり、どこか寂しい雰囲気が。

「先生! あの、ドタバタしてよくわかりませんでしたけど……私、頑張ります!」
「……うん。そうだね、ありがとうココロさん」
「あの、さん付けはいりません。弟子なので!」
「わかった。じゃあココロ、これからよろしくね」
「はい!」

 そして、新しい弟子となったエルフのココロ。
 フレキくんの時と同じだ。
 俺は、この子を立派に育てよう。
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