大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑱

第525話、アセナのお仕事

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 フレキが人狼族の村に戻っても、アセナは帰らずに緑龍の村にいた。
 最初は一緒に帰るように言われた。でも、たくさんの友人ができたし、人狼族の村と違い、緑龍の村ではアセナを子ども扱いする人はいない。 
 フレキと一緒に住んでいた家は引き払い、小さな一人暮らし用の家を借りて引っ越した。 
 アセナは現在、ここで暮らしている。
 朝食を済ませ、洗濯物を干していた。
 
「よい、しょっと……ふぅ、お洗濯はおしまい」

 一人なので、洗濯も食事も手間がかからない。 
 掃除も楽だし、家族とは手紙でやり取りしているので寂しくない。
 最初は心配されたが、今では特に心配されていない。 
 
「夕飯の仕込みは終わったし……家事は一通りおしまいかな。よし」

 アセナは、空を見上げる。
 まだ朝だ。人狼族の村では、早朝の狩りから戻る時間。アシュトの家では、ようやく朝食が始まったころだろう。
 アセナは、カバンにエプロンや三角巾を入れ、家を出た。

「さて、今日もお仕事がんばろう!」

 アセナも、村に住む以上、収入がないと生きられない。
 無論、アシュトはそんなことをさせるつもりはない。アセナに援助するつもり満々だったが、しっかり者のアセナは援助を拒否。ちゃんと働き口を見つけ、働いて収入を得ていた。
 まだ早朝。
 エルダードワーフたちや、ブラックモール族たちが家を出始めた。
 そんな中、アセナが向かったのは……緑龍の村に新しくできた『妖狐区画』だ。
 その区画の少し外れの方にある、小さな『和菓子屋』へアセナは踏み込む。

「おはようございます、ナデシコさん」
「おはようアセナ。ささ、入っておいで」
「はい。失礼します」

 アセナは、和菓子屋の中へ。
 そう、アセナの職場は和菓子屋。
 妖狐族の老婆ナデシコが一人で細々と経営する、小さな和菓子屋だった。

 ◇◇◇◇◇◇

 アセナがナデシコと出会ったのは、アセナが妖狐区画を散歩中にたまたま入ったお店が、ナデシコの店だったという繋がりだ。
 アセナはここで『柏餅』を買い、美味しかったのでまた買った。そしてお団子を買い、お汁粉を買い、飴を買い……と、いつの間にか常連になっていたのだ。

「ナデシコさん、私は何をすれば」
「じゃあ、小豆を茹でてすり潰しておくれ。柏餅の餡にするからね」
「はい!」

 アセナは、妖狐族の里から仕入れた小豆を茹でる。
 食べる側から作る側へ。料理が好きなアセナはとても楽しそうだ。

「アセナ。あとでおやつを一緒に食べようねぇ」
「おやつ……は、はい!」

 ナデシコは、流行り病で息子を、嫁を、孫を失った。
 妖狐族の医療技術はかなり低い。もしアシュトがいれば何とかなったかもしれないが……そんな話をしても意味はない。
 旦那は数百年前に他界。孤独となったナデシコは、辛い思い出しかない妖狐族の里を出た。たまたま、緑龍の村に移住希望が出ていたので、そこで和菓子屋を始めた。
 アセナとは、そこで出会った。
 可愛らしい、灰毛の少女だった。
 和菓子を嬉しそうに買い、おまけを付けるとにこやかに微笑む。亡くなった孫を思い出し辛かったが……今では、アセナを孫のように思っていた。
 そんなある日のこと、ナデシコは小豆の袋を担いで歩いていた。
 魔法を使えば楽に運べるが、あまり魔法が好きではないナデシコは自身の腕で運んでいた。
 それを見たアセナが手伝いを申し入れ……今ではこうして働いている。
 もちろん、お給料もしっかり払っている。

「さぁて、今日も売れるといいねぇ」
「はい! ナデシコさんの和菓子、美味しいからすぐになくなっちゃいますよ!」
「ふふ。ありがとうねぇ」

 アセナは、和菓子屋の従業員として立派に働いていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 今日の仕事を終え、アセナは家へ続く道を歩いていた。
 すると、後ろから声が。

「おーい! アセナ、おーい!」
「……レムス」

 人狼族の少年レムスだ。
 アセナと同い年の少年は、アセナの隣に並ぶ。

「へへ、仕事終わったのか?」
「ええ。そういうあなたは?」
「おれも訓練終わったぞ」

 レムスは、狩人見習いとして、バルギルドたちの下で鍛えている。
 ロムルスと両親は人狼族の村に行ってしまい、レムスもほぼ一人暮らしだ。まだ十三歳の少年だが、銀猫族の助けを受けながら生活をしていた。きっと、家に帰れば美味しいご飯が用意されているだろう。
 だが、食べ盛りのレムスは、ある目的があった。

「へへ、アセナ。今日はどうだった?」
「……全く。あなた、オオカミというよりハイエナですね」
「んだと!?」
「それと、もう少し声を押さえて下さい。あなたの声、大きすぎて耳が痛いです」
「ぐぬぬ……」

 アセナはクスリと笑い、持っていた包みを見せる。

「柏餅、お団子、飴玉……ちゃんとありますよ」
「おお!!」
「あなたにあげるとは言ってませんけどね」
「んなにぃ!?」

 アセナは、レムスをからかいながら帰るのが日常になりつつあった。
 楽しい───アセナは、毎日がとても楽しかった。
 人狼族の村にはない、家族とは違う温かみ。それがとても心地よく、愛おしい。

「レムス。私もお腹が空いたので……私のうちで、おやつにしませんか?」
「お、おお? い、いいのか?」
「ええ。夕飯前なので、少しだけですけど」
「お、おう……じゃあ、お邪魔する」

 いきなり緊張しだすレムス。
 そして、自分がけっこう大胆なことを言ったことに、ようやく気付いたアセナ。
 二人の距離は、まだ遠くて近い。
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