大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ヤマタノオロチのお酒

第527話、エルミナと蛇王魔酒(中編)

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 早朝。
 アシュトは、ミュディと二人で朝食を取っていた。
 大きく欠伸をしたアシュトは、ようやく気付いたのかミュディに質問する。

「あれ……みんなは?」

 テーブルには、アシュトとミュディしかいない。
 ミュディは、柔らかく微笑んで言った。

「えっと、シェリーちゃんは魔法学園で『朝靄を晴らす魔法』の実習。ローレライは今朝届く予定の本を図書館で待ってる。クララベルちゃんはお菓子の仕込み。エルミナは……わからない」
「ふーん……え、わからない? エルミナ、いないのか?」
「うん。シルメリアさんが聞いた話だと『朝ごはん、サンドイッチにして』って言って、早くから出て行ったみたいだけど……」
「むぅ?……何故だ。嫌な予感がする」
「あ、あはは」
「……まぁいいや。で、ミュディの予定は?」
「わたし、今日はお休みなの。大きなお仕事終わったばかりで……」
「そっか。俺も午前中はココロの指導があるから……よし。ミュディ、午後になったら一緒にお茶でもどうだ? その後、妖狐の宿でお風呂でも」
「あ、いいね。妖狐のお風呂、すっごく身体がポカポカするんだよね」

 アシュトとミュディは、にこにこしながら会話を楽しんだ。
 まさか、エルミナがデーモンオーガ両家を連れて、蛇王ヤマタノオロチを討伐しに向かったなど、考えもしなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 エルミナ、デーモンオーガ両家は、センティに乗って移動していた。
 向かった先は、ヤマタノオロチが眠る隠れ場。
 隠れ場から少し離れた場所でセンティを止め、そこからは徒歩で向かう。

『じゃ、ワイはここで待ってますー』
「ええ。それじゃあみんな、気合いれていくわよ!!」
「おー!」「よっしゃー!」

 エルミナに反応したのはエイラとシンハ。それ以外はキリっとした表情で、それぞれの武器を持っている。
 一応、援護用にエルミナも弓矢を持ってきた。
 エルミナは、いつもと違う武器を持つバルギルドに聞く。

「ところでバルギルド。あんた、いつもでっかい鉈とかだったのに、今日は……なにそれ?」
「なるべく傷付けない方がいいのだろう?」

 バルギルド、ディアムドが持っていたのは、手にはめるグローブのようなナックルだった。
 シンハは鎖付き鉄球。キリンジはクロスボウ(アウグストが改造した)で、ノーマやアーモ、ネマも足を覆う鎧を装備している。
 エイラだけは手ぶらで、どこかピクニック感覚だった。
 ディアムドは、拳をスナップさせながら言う。

「打撃で仕留める……ふふ、いつもと違う感覚だ」
「そ、そう? まぁ、あんたらの腕は疑ってないけど……大丈夫?」
「問題ない」

 ディアムドはニヤリと笑う。
 キリンジは、改造してあるクロスボウをいじっていた。

「エルミナさん。こんな言い方は失礼ですが……恐らく、弓矢は刺さらないと思います。ヤマタノオロチは全長三十メートルを超える巨体。オーベルシュタイン領土では例外なく、巨大魔獣の表皮は鉄並みの硬度を持つので」
「あんた、相変わらず物知りね……一応、魔法で強化して撃つから」
「魔法……」

 すっかり忘れられているが、エルミナは風魔法の達人だ。
 キリンジは魔法が使えない。なので、遠距離武器を使う。ノーマがビッグバロッグ王国で買ってきたクロスボウを、アウグストに頼んで改造してもらった。
 オリハルコンで補強し、矢もオリハルコン製の特注品。デーモンオーガの腕力じゃないと引けないほど頑強な弦から放たれる矢は、分厚い金属を軽々と貫通する。
 ちなみに、クロスボウはキリンジのメイン武器だ。ノーマはこれを使うキリンジを見るたびに嬉しい気持ちになる……とは、もちろん本人に言えない。
 それからしばらく歩き───先頭を歩くバルギルドが止まった。

「───……いるな」
「え」
「エルミナ。動くな……見ろ、あそこだ」
「…………?」

 エルミナたちがいるのは、木々に囲まれた藪の中。
 バルギルドが指さした先だけ、とても開けていた。
 いや……開けていたのではない。木々が薙ぎ倒され、踏み潰されていた。だから平地のように見えた。
 そして、エルミナはようやく気付いた。

「……な、なに、あれ」
「あれが獲物に違いないな」

 最初は、小高い丘に見えた。
 だが違った。それは丘ではなく、身体を丸めた緑色の大蛇だったのだ。
 首が持ち上がった。
 そして……正確にバルギルドたちのいる藪を見ていた。
 ギョロっとした金色の眼が、バチバチと開く。そして、キングシープを丸呑みできそうな巨大な口が開き、上下に二本ずつ付いている鋭い牙からポタポタと透明な液体……毒液が滴った。
 
「う、噓……」

 ヤマタノオロチ。
 その名の通り。首は八本、頭も八つだった。
 エルミナたちを見つけたヤマタノオロチは、残りの頭を全て起し、エルミナたちのいる藪に向かって威嚇……発声器官がないので鳴き声は出なかった。だが、その圧はすさまじかった。

「ほう……なかなかいい気迫だ」

 バルギルドはニヤリと笑う。
 ディアムドは、家族に命じた。

「これは全員でやらねばな。エイラ、お前はエルミナに付いていろ」
「はーい!」
「へへへ。キリンジ兄ちゃん、行こうぜ!」
「ああ……確かに、これは面白そうだ」
「あ、あたしも行く! 待てバカシンハ!」
「こらこら。勝手に行かないの……まったくもう」

 アーモがシンハとノーマを止め、ネマがディアムドに言った。

「じゃ、行こうか。エルミナ、弱点はお腹だよね?」
「え、ええ。ヤマタノオロチの胴体に心臓があるの。できれば、身体に傷付けないでそこを狙って欲しいけど・……む、無理なら無茶しないでね?」

 さすがのエルミナも、「傷付けないで倒せ」とは言えなかった。
 バルギルドは、手をゴキゴキ鳴らして藪から出る。

「さぁて……やろうか」

 蛇王ヤマタノオロチ。とっておきの蛇酒の材料は、目の前で威嚇をしていた。
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