大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ヤマタノオロチのお酒

第528話、エルミナと蛇王魔酒(後編)

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 午後になり、俺はミュディと一緒に『お菓子屋ブランシュネージュ』へ向かった。
 これから、美味しいケーキとカーフィーを飲みながら楽しいデートだ。最近、ミュディとお喋りする時間がなかったし、今日はいっぱい楽しもう。
 ケーキを食べたら、妖狐族の『村長湯』でのんびりするのもいい。あそこ、小さいけど部屋の造りが立派で、宿泊もできるみたいだ。何冊か本を持ち込んで、のんびり温泉読書も悪くない。
 俺は、ミュディと一緒に歩いていた。

「甘いケーキと苦いカーフィー、楽しみだな」
「ふふ。アシュトってば」
「あはは……ん?」

 と、前方から数人の子供が。
 ミュアちゃん、ライラちゃん、ルミナ。そして三匹の柴犬と数匹の猫だ。
 
「あ、ご主人さま!」
「お兄ちゃん」
「みゃあ」

 三人と数匹は俺たちの前で止まる。
 ルミナが抱き着いて甘えてきたのでネコミミを揉む。

「みゃう……」
「三人でお散歩かい?」
「にゃあ。あのね、ライラのわんこたちとお散歩中なの。そうしたら、猫たちもいっぱい付いてきたの」
『にゃあ』『にゃあう』『にゃあご』
『わん』『くぅぅ』『わぅーん』

 いっぺんに騒がしくなった。
 ミュディは三匹の柴犬に囲まれ、代わる代わる撫でている。
 ライラちゃんは、俺に向かって言う。

「お兄ちゃん。わんこいっぱいで嬉しいの。ありがとうね」
「ん、よかった。ライラちゃんがお世話してるんだよね?」
「うん。魔犬族のお姉ちゃんたちも一緒」

 ライラちゃんの尻尾が可愛らしく揺れる。
 すると、ミュディが言った。

「せっかくだし、みんなでケーキ食べに行かない?」
「にゃ!」「わぅ!」「みゃうー!」
「ミュディ……? いいのか?」
「うん。だってみんな可愛いし♪」

 ミュディはミュアちゃんとライラちゃんを撫でる。
 俺もルミナを撫でた。うん、かわいい。

「ごろごろ……おい、ケーキ食べるぞ」
「はいはい。じゃ、みんなで行こうか」
「にゃあー!」「わぅーん!」

 俺とミュディは、子供たちと犬猫を連れて、お菓子屋ブランシュネージュへ向かった。
 ちなみに、店内は動物禁止……犬猫たちにはクッキーを食べさせた。 
 たまには、こんなのんびりした休みも悪くないな。

 ◇◇◇◇◇◇
 
 一方そのころ。
 エルミナは、ヤマタノオロチから離れた藪の中で青くなっていた。

「シンハ!!」
「あいよっ!! だぁぁぁりゃぁぁぁぁっ!!」

 キリンジの叫び。
 シンハは鎖付き鉄球(オリハルコン製)をブンブン振り廻しブン投げる。鉄球は、ヤマタノオロチの頭の一つに直撃した。
 だが、ヤマタノオロチはぴんぴんしている。頭を揺らされ少しだけふらついたが……一つの頭がふらついても、残り七つの頭がカバーする。
 キリンジは、クロスボウの弦を弾いて矢を番える。

「ノーマ。一瞬でいい、頭の一つの注意を引いてくれ」
「わかった。ヘイヘイヘイ!! 蛇のバケモノ、こっちおいで!!」

 ノーマは、双剣を振り回しながら急接近。ヤマタノオロチの頭の一つがノーマを丸呑みしようと大きな口を開ける。

「うわけっこう速っ!?」

 ノーマは後退した。
 すると、ノーマがいた場所にヤマタノオロチの頭の一つが激突した。
 頭はすぐに地面から抜けた───そして。

『ッブガ!?』

 頭を抜いた瞬間、口の中に『矢』が飛び込んできた。
 矢は舌を貫通。頭は痛みでブンブン揺れた。

「やっぱり。内側は脆い……傷を付けないで倒さなきゃいけないけど、このくらいなら……」

 一応、ヤマタノオロチの弱点はわかっている。
 全ての長い首の始まり。胴体である。
 胴体にある心臓を潰せば、ヤマタノオロチは倒せる。
 だが、その心臓まで到達するのが一苦労だった。

「速く、硬く、頭がいい……なかなかに厄介だ」

 バルギルドは、頭の一つと戦っていた。
 武器は使用せず、純粋な殴り合いだ。
 驚いたことに、ヤマタノオロチの牙はバルギルドの肌に傷を付けた。さらに、ほんの少しだけ眩暈……毒を無効化するデーモンオーガだが、ヤマタノオロチの毒は微小の眩暈を引き起こしたのだ。
 バルギルドは、それぞれをチラリと確認する。

「全員気を付けろ!! 奴の牙は我らの肌を傷つける。毒も軽めの眩暈を引き起こすぞ!!」

 ヤマタノオロチの毒。
 蛇王の名に相応しい猛毒だ。触れただけで皮膚は焼け、微量でも摂取すれば数分で死に至る。解毒方法はなし。可能性があるとすれば霊薬エリクシールだけ。
 現在、バルギルド、ディアムド、ネマ、アーモはそれぞれ頭の一つと戦闘。キリンジ、ノーマ、シンハの三人で頭の一つと戦闘。計五つの頭と戦闘していた。
 残り三つの頭は、胴体を守ろうとユラユラしている。
 ディアムドは、小さくため息を吐いた。

「美味い酒のためとはいえ、なかなかに厄介だ。殺すのはできそうだが……」

 殺すのは楽だ。
 頭を全てツブし、心臓を抉り出せばいい。
 ようやくわかった。デーモンオーガ総出でようやく倒せるという意味が。

「傷つけず、心臓のみを破壊して倒す……なるほどな。手加減して傷つけずに倒すというのが、こうも難しいとは。確かに、繊細な作業は苦手だ」

 頭の一つが、ディアムドを締め上げようと巻き付いてきた。
 大木を一瞬で砕くヤマタノオロチの締め。ディアムドは平然としていた。

「むぅ……どうしたものか。あまり強く叩きすぎると頭が潰れてしまう。とはいえ、手加減すると───」

 そして、気付いた。
 ヤマタノオロチの頭が、こちらを見ていた。
 ああ、締め落として丸呑みするつもりか。ディアムドはヤマタノオロチの頭をまじまじと見た。

「……む?」

 ディアムドは、ヤマタノオロチの頭の両側に小さな穴が開いているのに気付いた。
 そして、締められたまま声を出す。

「キリンジ!!」
「はい、父さん!! って……助けが!?」
「いや違う。ヤマタノオロチの頭に穴が開いている。これはもしかして……」
「それは、恐らく耳です!! ヤマタノオロチは周囲の温度を肌で感じて、目で周囲を満遍なく確認、優れた聴覚で獲物の位置を特定すると、シエラ様が言ってました!!」
「ふむ」

 ディアムドは、眉をピクリと上げた。

「……ためしてみるか」

 ボコン!! とディアムドの筋肉が盛り上がり、締めを一瞬で弾き飛ばす。
 そのまま跳躍し、ヤマタノオロチの頭に飛び乗った。
 このまま殴るのか。だが、お前の拳は通用しない。

「───と、考えているのだろう?」

 ディアムドは大きく息を吸い───。

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──────ッ!!」

 耳穴に向かい、全力で叫んだ。
 すると、ヤマタノオロチの頭がガクガク揺れ、目と耳から血を流し倒れた。

「ふむ。少し血が出てしまったな……バルギルド、お前たち!! 今の方法ならある程度は無傷で倒せる!! 少し声を下げた方がいいかもしれんがな!!」
「ほほぅ……これはいい」

 バルギルドはニヤリと笑った。
 頭の一つが倒されたヤマタノオロチは、びくりと身体を震わせた。
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