大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
335 / 474
ヤマタノオロチのお酒

第529話、ヤマタノオロチのお酒

しおりを挟む
 ミュアちゃんたちとのんびりカフェでケーキを食べていると、ルネアが俺の元へ。
 のんびり屋のルネアだが、少し緊張しているような声で言った。

「村長村長、エルミナがでっかい蛇狩ってきたの」
「……へび?」
「うん。最近、エルダードワーフやデーモンオーガの家族たちと何かやってたみたいだけど……」
「それが蛇?」
「うん。村の入口で、デーモンオーガたちと解体してる」
「……はぁ」

 なんだか嫌な予感。
 ミュディを見ると、にっこり笑って頷いた。

「ふふ、行ってらっしゃい」
「にゃあー」
「みゃう」
「くぅん。ケーキおいしい」

 ミュアちゃんたちはおかわりのケーキに夢中だ。
 仕方ない。ここはミュディに任せて、エルミナのところへ行くか。
 
「村長、いこ」
「ああ。って、ルネアも行くのか?」
「うん。エルミナ、わたしたちにも黙って面白そうなことやってた……とっちめる」

 ルネアは、少しだけ怒っているように見えた。

 ◇◇◇◇◇◇

 村の入口へ到着すると、巨大な八つの頭を持つバケモノ蛇が転がっていた。
 さらに、エルダードワーフたちが集まっている。巨大な荷車を二十人がかりで引いていた。
 荷車には、巨大な『瓶』が載っている……で、でかいな。一軒家サイズのスライム瓶だ。
 バケモノ蛇の傍には、エルミナの指示で解体をするデーモンオーガ一家がいた。

「いい? 体内の排泄物だけを取り除いて。内臓は水で洗浄、血は全部取り出して。後でお酒に混ぜるから」

 バルギルドさんたちは、丁寧に蛇を斬り裂き、排泄物を取り出して血を瓶に詰め、内臓を洗浄。その後、細い糸で切った部部分を縫い合わせる。
 エルミナは、蛇を確認していた。
 俺は、エルミナに近づく。

「おいエルミナ……なんだこれ」
「あ、アシュト。えへへ~……どう? すごいでしょ?」
「いや、すごいけど……なんだこれ?」
「ふふふ。これはヤマタノオロチよ」
「ヤマタノオロチ……」
「そう。話すと長いけどね……」

 エルミナの話。
 妖狐族の里で飲んだ『白蛇酒』が飲みたくて作ろうとしたが、なにも白蛇にこだわらず、緑龍の村近くにいそうな蛇で代用できるんじゃないかと思いつく。そこでシエラ様に相談。このヤマタノオロチを狩ってきたというのだ。
 酒。そうか……アウグストさんたちが引いているデカい瓶。これ、ヤマタノオロチで作る蛇酒専用の瓶か。
 エルダードワーフ、酒となると協力的だな。

「さぁ!! みんな、仕上げに取り掛かるわよ!!」
「「「「「おぉぉーーーっ!!」」」」」
「うわっ」

 ビックリした。エルダードワーフたちの雄叫び、胸に響くな。
 エルミナは、デーモンオーガ一家に指示を出す。

「バルギルド、ディアムド。瓶の中にヤマタノオロチを入れて! 蜷局を巻かせながら、丁寧にね!」
「任せろ」
「ふ、これは我々でないと難しいな……キリンジ、シンハ、手を貸せ」
「はい、父さん」
「よっしゃぁ!」

 キリンジくんとシンハくんが瓶の中に入り、バルギルドさんたちがヤマタノオロチを持ち上げる。
 そして、ノーマちゃんとネマさんが瓶の縁に飛び乗り、ヤマタノオロチの尾からゆっくり瓶に入れる。
 キリンジくんとシンハくんは、蜷局を巻いていく。

「あはは! キリンジ兄ちゃん、これ面白いな」
「全く。真面目にやれ……ほら、ずれてるぞ」
「あ、ごめん!」

 ある程度の蜷局を巻き、二人は瓶の外へ。
 そのまま、ヤマタノオロチが崩れないように瓶の縁で支えた。
 そして、エルダードワーフたちは大量の酒樽を運んできた。
 さらに、四方に移動式の階段を設置する……こんなの、いつ作ったんだ。

「お酒を投入! 半分くらい入れたら、ヤマタノオロチの血を混ぜて! 瓶いっぱいになるまで入れ続けなさーい!!」

 階段を上り、樽を抱えたエルダードワーフたちが瓶の中に酒を入れ始めた。
 すごいチームワークだ。瓶の中はすぐに酒でいっぱいに。
 途中、エルミナが蛇の血を混ぜた。
 すると……透明だった酒は、みるみる琥珀色に。
 バルギルドさんとディアムドさんが瓶に蓋をすると、エルミナは叫ぶ。

「完成!! これが伝説のお酒、蛇王魔酒よ!!」
「「「「「うぉぉぉぉーーーーーーッ!!」」」」」

 うおお、歓声に包まれた。どんだけ酒好きなんだよ。
 俺は、巨大すぎる瓶を見上げた。

「ヤマタノオロチ……うう、凶悪な顔つきだな。というか、こんなのと戦ってきたのかよ」
「まぁね。おいしいお酒のためなら苦じゃないわ!」
「…………」
「ん、アシュト?」
「エルミナ、俺、怒ってるからな」
「え」

 そして、ルネアがエルミナの頭をポコッと叩く。

「あいたっ」
「エルミナ。みんなに黙ってこんなことしてた」
「あ、いや。別に黙ってたわけじゃ……アウグストとかバルギルドたちがいたし」
「むぅ……次から、わたしたちも混ぜて」
「う……ごめん」

 エルミナは頭を下げた。
 俺は、小さくないため息を吐く。

「お前な……いくら酒のためとはいえ、危険なことするなよ。バルギルドさんたちがいるからって、お前が安全とは限らないんだぞ? それに、お前は酒の飲みすぎだ。身体だって心配だ……」
「う……」
「まぁまぁ。アシュトくん」
「……シエラ様」

 すると、俺の肩をポンと叩いたシエラ様。
 神出鬼没。こういうの久しぶりだな。まだ魔法学園で教師やってるのかな。
 シエラ様は、人差し指をクルクル回すと、どこからともなく木製のカップが出てきた。
 
「私がこの『蛇王魔酒』を勧めたのには、ちゃ~んとわけがあるの」
「え?」

 シエラ様は、カップを持ってヤマタノオロチ酒の元へ。
 よく見ると、瓶の下から酒が出るように栓がしてあった。その栓を外し、酒を少量注ぐ。
 綺麗な琥珀色の液体だ。注いだカップを俺に渡す。

「はい、どうぞ」
「え……」
「ふふ。おいしいわよ?」
「でもこれ、入れたばかりだし。こういうのって、熟成させるんじゃ」
「大丈夫。ヤマタノオロチはお酒の化身とも呼ばれてるの。この状態でも十分な味になってるわ。もちろん、熟成させればさせるほど、味に深みは出るけどね♪」
「はぁ……じゃあ」

 エルミナがすごい凝視してくる……飲みたいのかよ。
 デーモンオーガ一家やエルダードワーフたちもだ。
 というか、何もしていない俺が試飲でいいのかな。まぁいいや。

「では……いただきます」

 ドキドキするな。
 口元に近づけて気付いた。そういやこの酒、ヤマタノオロチの血とか混ぜてたな。
 だが、もう遅い……ごくりと一口。

「…………───ッッ!? んんんんん!? ぶっはぁぁぁ!? げっふぁげっふぁ!? かかかか、からぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!? ぐっふぉぉぉぉぉ口が焼けるァァァァァァーーーーーーッ!?」

 あまりの辛さにのたうち回る俺。
 だが、辛さはすぐに引いた。
 全身から汗が噴き出し、着ている服がべとべとになる。温泉に入ったような感覚。
 
「はぁぁぁぁ~~~~~~……きもちいい」

 そして、全身を駆け巡る爽快感……ああ、わかる。
 これは……これは、『癒し』だ。
 
「ふふ、アシュトくんはわかったでしょ?」
「はい……これ、このお酒……『薬酒』ですね?」
「大正解!!」

 シエラ様は、嬉しそうに微笑む。
 この場にいる全員がぽかーんとしていた。

「蛇王魔酒の材料であるヤマタノオロチは、全身がお薬の原料になるすごい子なの。お酒で薄めると、エリクシール並に効果のある薬酒になっちゃうんだから。いっぱい飲んでも身体に害はないし、むしろ調子よくなっちゃう! さらに、ヤマタノオロチから出るエキスは枯れることがないから、お酒を継ぎ足し続ければ永遠に飲めるわ」
「はぁ~~~~~~……そうなんですねぇ~~~~~~~」

 ポカポカ気分の俺。あまり話が入ってこない。
 ここでようやくエルミナが割り込む。

「はいはーい! シエラ、飲んでいいの?」
「ええ♪」
「よっしゃ! じゃあみんな、今日は飲み会よーっ!!」
「「「「「おぉぉぉぉーーーーーーッ!!」」」」」

 この日は、宴会となった……というか、気持ちよすぎて後の記憶が曖昧な俺だった。

 ◇◇◇◇◇◇

 後日談。
 デカすぎる蛇王魔酒の瓶を外に置くわけにはいかないので、専用の建物を作ったそうだ。
 飲み会で半分以上飲んでしまったが、翌日には酒が追加され、満タン状態だった。
 たまに、エルダードワーフたちが蛇王魔酒を見にきてはニヤニヤしているとか……そんなに気持ちよかったのかなぁ?
 ちなみに、俺の許可がないと飲めないことになった。シエラ様曰く、ちょっぴり中毒性があるので、お祝い時に飲むとかにした方がいいとのこと。
 まぁ、薬酒だしな。祝いで飲むってのもアレだが。
 そして、勝手な外出と危険なことをしたエルミナは、ハイエルフたちによって強制禁酒となった。

「うぇぇぇぇ~~~~んっ!! ごめんなさぃぃぃぃぃぃ!!」

 まぁ、少し禁酒して身体を労わってくれたらありがたい。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。