大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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獣王国の家庭教師

第536話、お姫様の家庭教師

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 さて、今日から王女ペルシャの家庭教師が始まる。
 俺の授業は午後一番なので、午前中は王城に与えられた一室で授業の準備……と、思ったのだが。
 朝食を終えると、自室のドアがノックされ、数人の獣人が入ってきた。
 
「お初にお目にかかります。私はエドモンドです」
「シリカです」
「チャールズです」
「は、はい。アシュトと申します……えっと」

 入ってきたのは、ゴリラ獣人の男性エドモンドさん。猫獣人の女性シリカさん。コオロギの蟲人チャールズさんだった……え、何事かな?
 ポカンとしていると、ゴリラ獣人のエドモンドさんが、メガネをくいっと上げながら言う。ゴリラ獣人でメガネ……意外に似合ってるな。

「これから授業の準備ですかな?」
「え、ええ」
「そうですか……申し訳ないが、少しだけ我らにお付き合いいただきたい」
「は、はい……その、何か?」

 と、猫獣人のシリカさんが、十枚ほどの羊皮紙をテーブルに置いた。
 一体何だろう? と思っていると、コオロギ蟲人のチャールズさんが言う。

「我々は、ペルシャ王女殿下の家庭教師です。長く、この獣王国に住んでいます……ですが、外から来たあなたが、『獣王国サファリの歴史』を教えることに納得していません」
「…………」
「そこで、勝手ながら『テスト』をご用意しました。あなたの実力を見せていただきたい」

 すると、グリフレッドが前に出た。

「アシュト様は第一王子シアン殿下がお認めになられた方。勝手に押し入ってテストを受けろとは、些か失礼ではありませんかな?」

 ちょっと怒っているようだ。
 ミュアちゃんは首を傾げているが、シルメリアさんも不快そうだ。ユーウェインも無言だが止める気はないらしい。そりゃ、なんの約束もなしに『テストを受けろ』じゃあ不快になるよな。俺の能力が疑われてるってことだし。
 だが、エドモンドさんは眼鏡を上げつつ言う。

「無礼は承知です。このことを陛下に話すのも構いませんし、我々はどんな処罰をも受け入れる所存でございます。ですが……ペルシャ王女殿下に、間違った知識をお教えするわけにはいかんのです」
「それは、アシュト様を侮辱しているということですかな?」
「まぁまぁ、グリフレッドそこまでにしておけ」
「ですが……」

 俺はグリフレッドの肩を叩く。
 俺のために怒ってくれているのは嬉しいが、この人たちも純粋に王女殿下を心配しての行動だ。自分たちが裁かれるのを覚悟の上で、こんなことをやっている。
 ま、要するに……俺がテストを受ければいいってことだ。

「そのテストを受ければいいんですね?」
「はい。我ら三人が作ったテストです」
「わかりました。ではさっそく……」

 俺は椅子に座り、羊皮紙を手に取った。

 ◇◇◇◇◇◇

 三十分後。

「できました」
「「「えっ……」」」

 羊皮紙の束をエドモンドさんに渡す。
 三人は羊皮紙をチェック。すると、顔色が悪くなっていく。

「ま、まさか……こちらは満点だ」
「こ、こっちも……」
「こちらもです……文句のつけようがない」
「あ、ちょっと確認していいですか?」

 俺が挙手すると、三人が俺を同時に見た。

「サファリ歴史文学の問題ですけど、サファリの伝統建築『煉瓦積み法』を開発したのはザルファーレ伝統建築士で間違いないんですけど、ザルファーレ建築士の著書『建築大全』によると、煉瓦積み法はザルファーレ氏の祖父オルバ氏が考え出したとあるんです。この問題は恐らく、ザルファーレ氏の孫リンドバーグ氏の著書『サファリ建築歴史』の第六十六ページ五項目目から引用した問題と思われますが……」
「「「…………」」」

 あれ、固まっちゃった。
 自己採点でも満点だし、大丈夫だよね。
 すると、硬直から回復したエドモンドさんが言う。

「あの……もしかして、『建築大全』をお持ちなのですか!?」
「ええ。オルバ氏の著書はエストレイヤ家の書庫にあります。昔、オルバ氏がビッグバロッグ王国に来た際、エストレイヤ家に寄贈したんです」
「なんと……!! 今では入手困難なオルバ氏の本、ぜひ読みたいですな」
「写本でしたらありますが、読みますか?」
「いいのですか!?」
「はい。資料として持ってきたんです。ユーウェイン」
「はい」

 ユーウェインは、持ってきたカバンを開ける。
 そこには、サファリ関係の本がいっぱい詰まっていた。

「おお……貴重な本がこんなに!!」
「素晴らしい!! どれも絶版になった本ばかりではないか!!」
「すごいです……宝の山ですね!!」

 三人は本に夢中になった。
 エストレイヤ家から送ってもらった本がこんなに役立つとは。

「あの、試験は」
「文句なしの合格ですな!! それと……非礼をここにお詫びします」
「いえいえ、気にしなくていいですよ」

 三人は頭を下げた。
 ま、別に怒っていないからいい。むしろ、授業前のいい気分転換になった。

「読みたい本があれば持って行って構いません。それと、自分もサファリの本が気になるので、おススメがあれば……」
「もちろんです。いやはや、実に素晴らしい」

 エドモンドさんは眼鏡をくいっと上げる。
 シリカさんもチャールズさんも笑っていた。
 とりあえず、教師たちには認められたようだな。

 ◇◇◇◇◇◇

 テストを終え、いよいよ俺の授業の時間になった。
 時間はお昼過ぎ。ペルシャ王女殿下は昼食を終え、午後の授業時間となった。
 さっそく、王女殿下のいる勉強部屋へ。
 ドアをノックすると、次女がドアを開けてくれた……シルメリアさんくらいの猫獣人さんだ。

「失礼いたします」

 窓際の椅子に腰かけているのは、六歳のネコミミ幼女。
 獣王国サファリの第一王女、ペルシャだ。
 ふさふさの灰毛尻尾で、髪はツインテールにしている。ぱっちりした目の女の子だ。
 ペルシャ王女殿下は、俺を見て椅子から降り、スカートのすそを持ち上げた。

「はじめまして。ペルシャともうします」
「はじめまして。アシュトと申します」
「にゃ……こほん。では、授業をおねがいします」
「はい……ん?」

 ペルシャ王女殿下は、目がしょぼしょぼしていた。
 無理もない。まだ六歳で、朝から授業を受け続けていたからな。
 王族の義務とはいえ、この歳では遊びたいだろうに。

「…………ふむ」
「……先生?」

 俺は外を見た。
 外はいい天気だ。それに、ちょうどいい。

「よし。ペルシャ王女殿下、教科書をしまってください」
「え……?」
「今日の授業は、外で行います」
「にゃ……そ、外ですか?」
「はい。では、さっそく外へ参りましょう」

 ペルシャ王女殿下は、驚きからネコミミと尻尾を動かしまくっていた。
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