大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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獣王国の家庭教師

第537話、ペルシャ王女殿下の憂鬱

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 今日の授業は外で行うことにした。
 思い付きのところもあるが、それだけじゃない。ちゃんと考えがある。
 ペルシャ王女殿下の侍女を見つつ言う。

「このまま、外に出ても大丈夫ですか?」
「はい。授業内容に関して、アシュト様に全てお任せするそうです」
「じゃあ……俺の侍女を連れて行ってもいいですか? それと、護衛も」
「かしこまりました」
 
 よし、許可が出た。
 俺は一度部屋に戻り、部屋の掃除をしていたミュアちゃん、護衛にユーウェインを連れ、城の玄関ホールへ。そこには、侍女さんとペルシャ王女殿下が待っていた。
 
「お待たせしました。では、行きましょうか」
「はい……」

 手を差し出すと、ペルシャ王女殿下はそっと掴む。
 身長差があるので、腕を組むというより手を繋ぐようになるのは仕方ない。
 ミュアちゃんは、ペルシャ王女殿下をじーっと見て、ユーウェインは護衛騎士の任務を全うしていた。
 城を出て、ペルシャ王女殿下に言う。

「それでは、授業を始めます」
「にゃ……はい」
「それと、ペルシャ王女殿下。差し出がましいようですが……喋りにくいのでしたら、普段の言葉遣いで構いませんので」
「……でも」
「その、王女殿下はまだ幼いので、訛りが出るのは仕方ないことです。それに……私は、訛りがみっともないとは思いません。むしろ、可愛らしいと思います」

 事前に勉強しておいてよかった。
 獣人は、幼い頃はよく訛りが出る。ミュアちゃんやルミナも『にゃあ』とか『みゃう』とかよく言う。
 獣王国サファリでは、訛りはみっともないと思われている。
 王族となればなおさらだ。きっとペルシャ王女殿下は、シアン王子殿下に『直せ』と言われてるのだろう。少し喋りにくそうにしているのがすぐにわかった。
 すると、ミュアちゃんが。

「にゃあ。ご主人さま」
「え……あなた」
「にゃう?」

 ペルシャ王女殿下は、ミュアちゃんを見て驚いていた。
 猫訛り……シルメリアさんは直そうとしているが、俺はこのままでもいいと思っているので、ミュアちゃんが直したいと言うまで、そのままにするようにしたのだ。
 
「猫訛り……」
「うちの侍女は、のびのびと育てているので……」
「にゃあ。ねぇねぇ、わたしはミュアっていうの。あなたは?」
「……ペルシャ」
「ペルシャ! えへへ、お友達になろう」
「にゃ……うん」
「にゃあ!」
「……にゃう」

 ミュアちゃんは、ペルシャ王女殿下に手を差し出す。
 ペルシャ王女殿下は、その手を取り……にっこり笑った。
 
「…………ふぅ」

 俺は内心ドキドキだった。
 ミュアちゃんを連れて行くのはちょっとした賭けだった。もし失礼な態度を取ったら不敬罪なんて……でも、この態度から見ると、大丈夫のようだ。
 俺は小さく深呼吸し、咳払いした。

「では、ペルシャ王女殿下。授業を始めたいと思います」
「にゃう。おねがいします」
「お願いしまーす!」

 ペルシャ王女殿下は、ミュアちゃんと手を繋いだまま笑っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 俺たちは、城の周辺を歩く。
 大きな煉瓦造りの城だ。 
 俺は立ち止まり、城を見上げながら言う。

「王女殿下。このお城のことはご存知でしょうか?」
「わたくしのお家ですの」
「そうですね。ですが、王女殿下のお家は、大昔は基地だったのです」
「基地?」
「そうです。ここはもともと、兵隊さんのお家だったんです」
「にゃう!? そうなのですか?」
「ええ。この大きさ、そして煉瓦造りの頑強な基地。もともと獣王国サファリは、王国軍の駐屯地……大きなお家にすぎなかったのですよ」
「にゃあぅ!?」

 ペルシャ王女殿下、かわいいな。
 ネコミミや尻尾がぴーんと立ってる。
 ミュアちゃんも一緒に驚いてるのがまた可愛い。

「少し悲しい話になります。ここに軍を派遣していた王国は魔獣の襲来で滅び、駐屯地に残された軍隊は生き延びた。その軍隊を率いていた将軍が、生き残った獣人や蟲人を集めて作ったのが、この獣王国サファリなんです。ペルシャ王女殿下、あなたやお兄さんのシアン王子は、その将軍の血を引いているのです」
「にゃあ……わたくし、軍人ですの?」
「その将軍が、獣人や亜人たちをまとめたのです。後に将軍は王と呼ばれました。それが、獣王国サファリの王族の始まりなんです」
「そうだったんですの……」

 ペルシャ王女殿下は驚いていた。
 さて、再び俺たちは歩きだす。
 日差しも強いので、王城内にある小さなオアシスへ向かい、オアシス前にある休憩所で休むことにした。
 俺はハンカチを椅子に敷き、ペルシャ王女殿下を座らせる。
 すると、ペルシャ王女殿下はミュアちゃんを呼んだ。

「にゃあ。あなたはこっち」
「いいのー?」
「にゃう。お友達ですから」
「えへへ。ありがとー」

 ミュアちゃんは、ペルシャ王女殿下の隣に座る。
 そして、そのままネコミミを揉むように撫でた。

「にゃぅぅ……」
「あのね、いつもご主人さまに撫でてもらってるの。気持ちいいでしょ?」
「にゃうぅ……きもちいい」

 俺はユーウェインが持っている荷物から、エルダードワーフ製の水筒を取り出す。
 中身は、村で収穫したブドウを精製した果実水だ。

「さ、どうぞ」

 毒見が必要かと侍女さんを見たが、特に何も言われなかった。
 ペルシャ王女殿下は、コップを受け取り一気に飲む。

「おいしい! それに、冷たい!」
「水筒の内側を凍らせてますので」

 シェリーの魔法は役立つね。
 シェリーが魔法を解除しないかぎり溶けることはない。おかげで、水筒に入れた果実水はとても冷えている。
 ミュアちゃんにも渡した。ユーウェインと侍女さんにも勧めたが断られた。
 俺も果実水を飲みながら、目の前のオアシスを見る。

「ペルシャ王女殿下。オアシスの由来はご存じですか?」
「オアシス……? この水のことですか?」
「ええ」

 目の前には、小さな池……ではなく、オアシスがある。
 町に出れば、さらに大きなオアシスもある。

「説は様々です。砂の下に大きな水溜りがあるとか、大昔に降った洪水のせいだとか、神話七龍の『海龍アマツミカボシ』様があまりの暑さにオアシスを作ったとか」

 自分で言っといてアレだが。たぶん、アマツミカボシ様ではないな。
 ペルシャ王女殿下はムムムと唸る。

「わたくしは、アマツミカボシ様だと思います!」
「そ、そうですか」

 たぶん違う。でも否定しにくい。
 
「獣王国サファリでは、地下水説が押されていますね。オアシスは砂のずーっと下から湧き出ているのではないかと」
「なるほど……にゃう? じゃあ、アマツミカボシ様では……」
「まだ解明されていないのでわかりません。ふふ、アマツミカボシ様だったら面白いですね」
「にゃあ」

 ペルシャ王女殿下はにっこり笑った。
 おかわりの果実水を注ぎ、オアシスを眺める。

「先生」
「はい」
「先生の授業、とても面白いです!」
「それは光栄です。ありがとうございます」

 ペルシャ王女殿下は、とても嬉しそうに微笑んでいた。
 こうして、初日の授業は大成功に終わった。
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