大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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獣王国の家庭教師

第538話、擬態の木

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 ペルシャ王女殿下の授業を始めて数日が経過した。
 初日の野外授業が面白かったのか、ペルシャ王女殿下は外で授業をやりたがる。
 でも、野外は裏技的だ。基本的に、授業は屋内で行う。
 なので、内容に気を遣った。
 ずっと教科書を見るのではなく、教科書を閉じて、お茶を飲みながら歴史の話をしたり、バルコニーに出て城下町を眺めながら授業をしたり。
 自分で言うのもアレだが、ペルシャ王女殿下はよく聞いてくれるし懐いてくれてると思う。
 そんなある日。
 俺は、ゴリラ獣人のエドモンドさんに誘われ、城下町の酒場で飲んでいた。

「アシュト殿から借りた本は素晴らしいですなぁ。獣王国サファリだけではない、ビッグバロッグ王国の歴史書もいい刺激になります。ははは」
「いやぁ、よかったです」

 エドモンドさんとは、飲み友達になっていた。
 獣王国サファリに来て十日も経過していないが、もうすでに三回はこの酒場で飲んでいる。
 
「それにしても、アシュト殿の評判はなかなかですぞ」
「え?」
「王女殿下ですよ。ペルシャ王女殿下は、アシュト様を大変気に入ったようで」
「そうですか。それはありがたいです」

 俺は、ホットエールという熱いエールを飲む。
 獣王国サファリ。日中は肌を焼く暑さだが、夜は真冬並みに冷えるのだ。
 なので、日中は冷えたエール、夜間はホットエールがよく飲まれる。
 エドモンドさんは、コリコリに焼いた『砂サソリ』という蟲を齧る。

「話に聞いたのですが……ペルシャ王女殿下、少し勉強疲れが出ているようですな」
「え、そうなんですか?」
「はい。王族の義務とはいえ、まだ六歳の王女殿下には毎日の勉強がお辛いようで……」
「まぁ確かに……」

 俺は砂漠キノコとかいう、砂漠の岩に生える茶色いキノコを食べる。ただ焼いて塩を振っただけだが、なんともいえない美味さだ。

「ここらで、少し息抜きできればいいんですがねぇ」

 エドモンドさんは、ホットエールを一気に飲み干し、おかわりを注文した。

 ◇◇◇◇◇◇

 エドモンドさんの言う通り、ペルシャ王女殿下は疲れていた。

「にゃう……」
「ペルシャ王女殿下、大丈夫ですか?」
「あ……はい」

 教科書を持ったまま、うつらうつらとしていた。
 声をかけるとハッとなり、首をぷるぷる振る。

「うぅ、眠いですの……にゃう」
「うーむ……」

 こんな状態で勉強しても、頭に入らないだろう。
 エドモンドさんが言った通り、気分転換が必要かも。
 でもなぁ……気分転換って言っても、どうすればいいんだ。
 すると、ペルシャ王女殿下のお腹がキュルルと鳴った。

「……っ」
「……お腹、空いてるんですか?」
「にゃ……」

 王女殿下は、小さく頷いた。
 そして、ぽつぽつ話す。

「テーブルマナーの練習で食べるので、朝食や昼食を減らしたんです……でも、練習で食べる食事は脂っこくて、あまり食べれなくて……」
「…………」

 可哀想になってきた。
 こんな小さな子が、勉強勉強で遊ぶ暇もなくて……辛いだろうな。
 うーむ。なんとかしてやりたい。
 俺は、久しぶりに『本』を開いてみた。


◇◇◇◇◇◇
植物魔術・お助け♪
擬態の木フェイクツリー

木の実をたべればあら不思議。擬態しちゃいます!
ふふ、身代わりとかにいいかもね♪
◇◇◇◇◇◇


 どういうこっちゃ……?
 ちょっと首を傾げる俺。

「先生?」
「あ、いや。うむむ……よし」

 俺は、部屋にいたペルシャ王女殿下の侍女に、植木鉢を持ってきてもらう。
 ちなみに、この侍女さんはペルシャ王女殿下が生まれたころから仕えている。最近、ペルシャ王女殿下が疲れていることに心を痛めているようだ。
 植木鉢を持ってきた侍女さんに確認する。

「あの、ペルシャ王女殿下にお休みをあげてもいいですか?」
「……侍女の立場から言えば反対です。ですが、個人では賛成です」

 遠回しな言い方だが、休みをあげたいってことか。
 ペルシャ王女殿下は、俺と侍女さんを交互に見ていた。

「ペルシャ王女殿下。今日はお休みにしましょう」
「え、でも」
「大丈夫です。ちょっとした魔法を使いますので」
「魔法……?」

 俺は、植木鉢に杖を向けた。

「フェイク、フェイキン、バオファオー、ラ、ルージ、ソウデ、ララシア。擬態の木フェイクツリー

 どういう呪文なんだこれ……?
 すると、緑龍の杖から種が植木鉢に落ち、ぐんぐんと成長した。
 一メートルくらいの、どこにでもありそうな樹だった。
 小さな赤い実が何個か付いている。

「えっと。ペルシャ王女殿下、この赤い実を一粒、食べてもらえますか?」
「にゃ……」
「お待ちください。これは一体……」

 侍女さんが止めた。
 そうだよな。いきなり怪しいよな。
 俺が何か言う前に、ペルシャ王女殿下は赤い実を一つ取り、パクっと食べた。

「ひ、姫様!?」
「大丈夫。アシュト先生は信用できます」
「あ、ありがとうございます……お」

 すると、擬態の木フェイクツリーに変化があった。
 何もしていないのに樹がグネグネ動き、枝が伸び、質感が変わり、枝が太く、細くなり……え、これって。

「にゃ、にゃあ!?」
「み、見てはいけません!!」
「は、はいっ!!」

 俺は慌てて後ろを向く。
 なんと、擬態の木フェイクツリーがペルシャ王女殿下そっくりになったのだ。だが、服を着ていないので素っ裸……いくら子供とはいえ、王族の裸を見ちゃダメだ。
 侍女さんは、下着やドレスを用意して着せる。
 ようやく振り返ってみると、そこにいたのは二人の王女殿下だった。

「にゃあ……すごい」
「では、説明します。これは『擬態の木フェイクツリー』という植物魔法です。見ての通り、赤い実を食べた人そっくりに擬態します。さらに、食べた人の記憶や性格なども継承しますので、全く同じ存在と言うことになるのです」
「にゃう……」
「つまり、こちらの方も、ペルシャ王女殿下という……?」
「ええ。さらにすごいのは……ペルシャ王女殿下」
「は、はい」

 俺は、ペルシャ王女殿下(本物)を、隣の部屋に向かわせた。
 そして、侍女さんと一緒に、ペルシャ王女殿下(擬態)に向かって小声で言う。

「ペルシャ王女殿下、俺の好きな食べ物は『砂サソリ』です」
「にゃあ」

 そして、ペルシャ王女殿下(本物)を呼び、聞いてみた。
 
「ペルシャ王女殿下、俺の好きな食べ物、わかります?」
「え?……砂サソリ、え? あれ?」
「……まさか、これは」

 侍女さんは気付いた。
 そう。擬態が得た知識は、本物と共有するのだ。
 つまり、擬態が授業を受ければ、本物も授業を受けているのと変わらない。
 さらに、擬態の精巧さは、魔法を使った俺にしか見破ることはできない。侍女さんですら、本物と偽物を見破ることはできないのだ。
 ようやく、ペルシャ王女殿下は気付いた。

「これなら……」
「そうですね。ペルシャ王女殿下、よろしければ、これから町に遊びに行きませんか? お供に、うちの侍女を付けて……」
「……!!」

 おお、ネコミミと尻尾がすごい動いてる。
 さて、ペルシャ王女殿下を連れて城下町で遊ぶとするか!!
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