大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
348 / 474
獣王国の家庭教師

第542話、王女のバカンスは終わる

しおりを挟む
「にゃぁぁーっ!」
「にゃぅぅーっ!」

 オアシスにて。
 ミュアちゃんとペルシャちゃんが水をかけあって遊んでいる。その二人のそばには、シルメリアさんがいた。
 少し離れてユーウェインがオアシスに浮かび、俺とグリフレッドは日陰で冷たい果実水を飲みながら見守っていた。
 グリフレッドは、果実水をぐびっと飲む。

「楽しそうで何よりですな」
「うん。ペルシャちゃんも息抜きできたようだ。まだ子供だし、勉強漬けの毎日はキツイはずだよ」
「何か考えがおありで?」
「んー……効果があるかどうかわからないけど、勉強休みの日を設けるように、国王に掛け合ってみるつもりだ。幸いなことに、エストレイヤ家は国王に借りがあるみたいだしね」
「なるほど。ですが……」
「ま、あまり期待はできないけどな」

 俺も果実水を飲む。
 他国の王女様の勉強指導に口を出す権利なんて俺にはない。たった三十日だけの臨時家庭教師の戯言だ。でも、できることがあるならやるべきだ。
 すると、ボールを投げて遊んでいたミュアちゃんが叫ぶ。

「ご主人さまーっ! ご主人さまも遊ぼーっ!」

 俺はミュアちゃんに手を振り、荷物をグリフレッドに任せてオアシスへ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 城下町の大衆食堂でたくさん食べ、宿に戻ってきた。
 あとは寝るだけだが……俺はペルシャちゃんに言う。

「ペルシャちゃん。お話が」
「……にゃあ」
「明日、城へ帰ります」
「わかっていますの。でも……やはり、寂しいですの」
「はい……」

 ペルシャちゃんのネコミミが萎れてしまった。
 すると、ミュアちゃんがペルシャちゃんの頭を撫でる。

「ペルシャ。また遊ぼうね」
「にゃあ……」
「わたし。またペルシャと遊びたい! だから、お勉強がんばって!」
「……はいですの! にゃあ」

 ペルシャちゃんのネコミミがぴーんと立った。
 毎日遊ぶのは確かに楽しい。でも、ペルシャちゃんは王族なのだ。王族には王族の務めがある。まだ幼いが、ペルシャちゃんはそれをしっかりとわかっている。
 
「この二日間の思い出。決して忘れません。アシュト先生、本当にありがとうございました」
「いえ。俺たちも楽しかったです。その、無責任な発言ですが……また、機会があったらぜひ」
「……はい!」

 擬態の木を使えばできる。でも、それは違う気がした。
 ペルシャちゃんは、にっこり笑って尻尾を揺らした。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 俺たちは城へ戻り、ペルシャちゃんの侍女さんの案内でペルシャちゃんの部屋へ。
 そこにいたのは、ペルシャちゃん……ではなく、擬態の木。本物のペルシャちゃんがこっそり部屋に戻ってくると、二人のペルシャちゃんが揃った。
 侍女さんは、ペルシャちゃん(擬態)を見ながら言う。
 
「幼いころからお仕えしていますが、全く同じ姫様としか思えませんでした。王子と国王様の会食でも全く気付かれませんでしたし……」
「「にゃあ」」

 俺は、擬態の木に言う。

「擬態を解除する」
「にゃあ」

 すると、ペルシャちゃん(擬態)が植木鉢の上に立つと、しゅるしゅると一本の木に戻る。ドレスを着たままなので、木がドレスを着ているという恰好に。
 さらに、木がどんどん小さくなり、最終的には種になってしまった。この種も、さらさらと砂のように分解され、植木鉢の上には何も残らなかった。

「よし。これでおしまいだ」
「にゃあー……今更だけど、すごい魔法でしたの」
「はい。ではペルシャちゃん……ではなく、ペルシャ王女殿下。これより授業を始めます」
「はい!」

 これから、いつも通りの授業だ。
 だが、二日間の休養でペルシャ王女殿下はリフレッシュ。授業に対する気合も違った。
 授業が始まると、しっかり話を聞き、メモを取ったりもしている。
 しばらくは、勉強も頑張れるだろう。
 俺は、俺にできることをやってみるか。

 ◇◇◇◇◇◇

 授業が終わり、俺はサファリ国王へ謁見を申し入れた。
 申請はすぐに通り、俺は謁見の間へ通される。
 謁見の間には、サファリ国王とシアン王子殿下。その妻キッシュ王太子妃がいた。
 国王は、嬉しそうに言う。

「アシュトよ。お前の噂は聞いているぞ。ペルシャの教育係では一番だとか」
「ありがとうございます」
「はっはっは! で、今日は何用だ?」
「はい。お願いがございまして……」
「ほほう! いいだろう。何でもいいぞ?」

 王はご機嫌だ。
 今なら言える……よし!

「ペルシャ王女殿下のことですが……どうか、休日を設けていただけないでしょうか?」
「……ふむ? 休日とは?」
「はい。ペルシャ王女殿下ですが、連日の勉強による疲労で、体力と気力が限界に近づいております。私の授業時間の間に、多少の回復をさせていますが……まだ幼い王女殿下の身に、今の勉強スケジュールは重いかと」
「ふむ……シアン、どう思う?」
「私は、そうは思いません。私が幼い頃のスケジュールよりだいぶ楽な方です」
「だ、そうだ。アシュト」

 うむむ……やっぱり厳しいかな。
 もう少しだけ押してみよう。

「でしたら四日。いや……七日に一日でいいので、休日を設けていただきたい。ペルシャ王女殿下が勉強に慣れ、体力が付き始める数年だけでいいので」
「ふぅむ……」

 王は考え込む。
 すると、シアン王子が言う。

「アシュト先生。あなたは、なぜそこまですのです?」
「ペルシャ王女殿下が追い込まれ、辛そうにしていたからです」
「えっ……」
「私には何となくわかります。期待され、期待に応えるための努力を続けるのはとてもつらく厳しい。私の場合、期待されず、それでも振り向いてほしくて勉強を続けましたから……認めてもらうための努力は、身体と心を蝕んでいきます」

 俺には、ミュディがいたから頑張れた。
 ペルシャちゃんには、支えてくれる人がいない。追い込まれ、このままでは潰れてしまう。そうなる前に、せめて心と体をゆっくり休められればいい。
 国王は、大きく頷いた。

「わかった。一度、ペルシャのスケジュールを見直そう。一日の休日を入れればよいのだな?」
「はい。それと、気分転換に外出の許可などもあれば。王女として、国民の生活や暮らしを直に見るのはいい経験になるかと。さらに、同世代の女性がいれば、なおさら楽しいかと思われます」

 俺は、キッシュ王太子妃を見た。
 きっと仲良くなれる。そんな気がしていた。

「全く面白いな。アイゼンの息子は」
「ありがとうございます」
「はっはっは! さて、今夜も一杯付き合ってもらおうか」
「はい」

 こうして、ペルシャ王女殿下の勉強スケジュールに、休日が追加された。
 俺の言った通り、七日に一日の休日。この日は町で買い物をしたり、キッシュ王太子妃と一緒にオアシスで遊ぶ姿が見られるようになったとか。
 キッシュ王太子妃も、歳の近い義妹のペルシャ王女殿下と仲良くなれて嬉しいとか。
 シアン王子も、一緒にオアシスで遊ぶ姿がよく見られたという。


 ◇◇◇◇◇◇

 家庭教師最終日。
 最後の授業を終えた俺は、ペルシャ王女殿下に一礼した。

「これで、私の授業は全て終わりです。三十日間、ありがとうございました」
「こちらこそ、素晴らしい授業でした。アシュト先生、本当にありがとうございます」

 ペルシャ王女殿下は立ち上がり、部屋の窓を開ける。
 侍女さんに目配せすると、部屋のドアが空き、ミュアちゃんたちが入ってきた。

「アシュト先生。ミュア、シルメリアさん、グリフレッドさん、ユーウェインさん。あなたたちが来てくれてよかった。本当に……ありがとうございました」
「え、あの……」

 ペルシャ王女殿下は、俺たち一人一人に頭を下げた。
 王族が、家庭教師とその従者に頭を下げる。普通だったらあり得ない。
 すると、ミュアちゃんが言う。

「ペルシャ。また遊びにきていい?」
「にゃあ。もちろんですの!」
「えへへ……ペルシャ、これあげる」
「にゃう……?」

 ミュアちゃんは、木彫りのネコペンダントを手渡す。
 どうやら、シルメリアさんと一緒に作ってたようだ。

「友達のあかし。大事にしてね」
「……にゃうぅ」

 俺は、ペルシャちゃんに近づき、頭を撫でた。

「ペルシャちゃん。元気でね……また遊びに来るから」
「……はい」

 こうして、俺の三十日間の家庭教師が終わった。
 最後、国王に挨拶し謝礼を受け取った。
 樽いっぱいの金貨なんていらなかったけど、王の気持ちをないがしろにするわけにはいかないので頂戴しておく。
 さらにさらに。なんと別荘までもらった。王族が管理するプライベートオアシスの一つで、規模は一番小さく、あまり利用されていないのでくれてやる、とのことだ。
 別荘に行き、こっそり転移魔法の刻印を書いておいた。これならいつでも来れる。ラビリンさんやトーロウくんとも会えるだろう。

 獣王国サファリ。また来よう!
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。