大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑲

第546話、サラマンダーの上下関係

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 サラマンダー族。
 トカゲの亜人であるリザード族から進化した上位種である。
 リザード族は緑色の肌をしているが、サラマンダー族は燃え上がるような真紅だ。これは、寒さにめっぽう弱いリザード族が、その寒さに適応するために体内に発熱器官を得たことで肌の色が変化したと言われている。だが、詳しいことはわかっていない。
 というか、サラマンダー族にとってはどうでもいい。
 ただ、『寒くなくなった』程度でしかない。
 そんなサラマンダー族が『親父』と呼んで慕うのが、この世界に『熱』をもたらした神話七龍の一体、『焱龍ヴォルカヌス』である。
 そのヴォルカヌスは現在。大地の奥深い『マグマ』と呼ばれる液体に浸かり、入浴中である……恐らく、次に浮上してくるのは数千、数万年後だろう。
 サラマンダー族は現在、緑龍の村で過ごしている。

 ◇◇◇◇◇◇

 サラマンダー族のグラッドは、サラマンダー族の組事務所で書き物をしていた。
 筆と墨を使い、達筆な文字がさらさらと書かれていく。
 書き終わった紙を丁寧に畳み、封に包む。

「ラング」
「へい、副組長」
「こいつを、バシリスク族へ」
「……へい」

 手紙を、下っ端のサラマンダー族であるラングへ。
 手紙は、行先を指定すれば竜騎士が運んでくれる。
 バシリスク族とは、以前サラマンダー族と抗争をした、サラマンダー族と同じリザード族が進化した希少種族だ。
 そこにどんな用事なのか。下っ端であるラングにはわからない。
 手紙を、竜騎士たちの宿舎近くにある『郵便箱』へ入れる。

「…………」

 パンパンと、手を合わせる。
 敵対組織に出す手紙……きっと、とんでもないことが書かれている。
 ラングは、事務所へ戻った。

「副組長。手紙、出してきやした」
「おう」
「あの……一体、バシリスク族にどんな用事が」
「大したことじゃねぇ。ちと、盃を交わそうと思ってな」
「え……」

 盃。
 つまり、兄弟になる。
 つまり……仲間になる、ということだ。
 これには、ラングも驚いた。

「ど、どうして……!? バシリスク族っていやぁ、オレらと争った」
「もう過ぎた過去だ」
「す、すみません!!」

 ぴしっと言われ、ラングは頭を下げる。
 グラッドは煙管を取り出し、煙草をふかし始めた。

「時代は変わる。ラング……おめぇみたいな若けぇ衆にゃ難しいと思うが、過ぎたことをグチグチと言う必要はねぇんだ。ちいせぇことは気にすんなってことだ」
「…………」
「この緑龍の村。これから数百、数千年は発展期になると踏んでいる。今はオレらのシマだが、オレらだけじゃ管理しきれねぇ日がきっとくる。そんな時、オレらとタメ張ってるバシリスク族がいれば……」
「……副組長」
「先のことを見ろ。ふ……オレも老いたぜ」

 グラッドは煙草をふかしながら、口元をニヤリと歪めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ラングは、一人で村を歩いていた。
 やはり、納得できないことはある。
 バシリスク族との抗争に参加したラングは、未だにバシリスク族が憎かった。
 
「オレの心が狭いのか……」

 サラマンダー族では若手のラング。
 武勇伝があるわけでもない。腕っぷしに自信があるわけでもない。まだまだ若いラングは、盃を交わすことに不満を持っている。
 そんな時、ラングの前に現れたのは、デーモンオーガのバルギルド、ブランだった。
 肉塊を担いでいることから、解体場から冷蔵庫へ向かっているのだろう。
 デーモンオーガは、サラマンダー族にとって恩人。頭を下げる必要がある。
 ラングは、バルギルドに道を譲り頭を下げる。バルギルドは小さく頷き、通り過ぎようとした。
 
「…………あ、あの!!」
「ん……なんだ?」
「その、少しお時間いいでしょうか?」

 ラングは、バルギルドを呼び止めた。
 一緒にいたブランは。

「おいおい、なんだよ一体」
「待て……かまわん。だが、肉を運んでからな」
「て、手伝いやす!!」

 ブランの持つ肉塊を奪い、ラングは冷蔵庫までダッシュした。
 ブランは、「へへへ」と笑う。

「ラッキー、あいついい奴じゃん……あでっ!?」
「調子に乗るな」

 バルギルドは、ブランの頭をポカっと叩いた。

 ◇◇◇◇◇◇

 仕事を終えたバルギルドは、ラングに連れられ大衆食堂へ。
 食事と酒を奢るというので一緒に来た。もちろん、ブランもいる。
 ブランはさっそく酒と肉を注文。バルギルドもエールを注文し、ラングも注文した。
 ブラスを合わせ、一気にエールを飲み干す。

「で……話とはなんだ?」
「へい。実は……」

 ラングは、先程グラッドと話したことをバルギルドへ。
 バルギルドは話を聞くと、小さく微笑んだ。

「……若いな」
「…………」
「あ、すんませんエールおかわりー!」

 バルギルドは、ラングをまっすぐ見て言った。

「納得できないのか?」
「へい。バシリスク族はオレらと争った敵です。それを、盃だなんて……」
「だったら、こいつはどうだ?」
「え?」

 バルギルドは、口いっぱいに肉を頬張るブランの背を叩く。

「こいつは、バシリスク族と共にいた。オレがサラマンダー族に手を貸したのと同じだ。こいつは憎いか?」
「……ブランの兄さんは、村の仲間で」
「だが、敵だった」

 ブランは、もう仲間だった。
 何度も酒を飲んだことがあるし、グラッドも認めている。
 バルギルドの言う通り、かつては敵だった。だが、今はそんな気はない。

「そういうことだ。今は納得できないだろうが、いずれわかりあえる」
「…………」
「ラング。いつまでもバシリスク族を憎むな……バシリスク族にもお前のような考えを持つ者がいるかもしれん。だが、そいつがサラマンダー族に対し、歩み寄ろうとしたら、お前はどうする?」
「…………」

 ラングは、エールのジョッキを握り締める。
 
「……オレは」
「お前は若い。まずはしっかり悩め。そして……お前の想いをグラッドにぶつけろ。殴られるかもしれんが、その痛みもまた、お前の糧となるだろう」
「……へい!」

 ラングは、もう少し考えることにした。
 ただ、憎むだけじゃない。受け入れる度量の広さもまた必要なのだと理解するまで、もう少し時間が必要だった。
 
「なぁなぁ、肉おかわりしていいか?」
「お前は少し遠慮しろ」
「うべっ!?」

 ブランは、バルギルドに頭を叩かれたんこぶを作っていた。
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