大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
353 / 474
日常編⑲

第547話、わんこデイズ

しおりを挟む
「包帯は丁寧に巻く。いい? 関節の動きを阻害しないように、丁寧にね」
「は、はい……」

 ココロは、怪我をした竜騎士の腕に包帯を巻いていた。
 俺の指導の元、ココロは間違いなく成長している。だが……少しだけ不器用だった。
 フレキくんは器用だったが、ココロは不器用。あまり比べたくないが事実だ。だけど、包帯の巻き方を丁寧に指導するのは、俺にとっても復習になる。
 右腕に包帯を巻き終わると、ココロは不安げに俺を見た。

「ど、どうでしょう……?」
「どれどれ……うん、ちゃんと巻けてるね。ライズさん、動かしやすいですか?」
「……ええ、問題ありません」

 ライズさんは、ゴーヴァンの部下の竜騎士だ。
 右腕を動かし挙動を確認する。特に問題はないようだ。
 ココロはホッと胸をなでおろす。
 ライズさんは頭を下げ、薬院を出て行った。

「はぁ~……私、こんなに不器用で」
「大丈夫。ちゃんと上達しているよ」
「うぅ……」

 ココロのエルフ耳が下を向く。
 すると、部屋の隅にあるコタツから、黒いネコミミがにゅっと出てきた。

「ふみゃぁぁ~……ん」
「お、起きたかルミナ」
「みゃう……撫でろ」
「はいはい」

 ルミナがコタツから這い出ると、俺に抱き着いて頭をぐりぐり押し付けてくる。
 ネコミミを揉み、頭を優しく撫でると、ルミナはほっこりした。

「むぅ……先生。あまり甘やかさない方がいいんじゃないですか?」
「みゃあ。お前には関係ない……ごろごろ」
「まぁまぁ。二人とも喧嘩しないで」

 ルミナとココロ、そろそろ仲良くしてほしいんだよなぁ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ココロの指導を終え、午後は自由時間だ。
 俺は、お昼を食べた後は村長としての仕事をする。
 まずは、村の見回りだ。けっこうな広さになった村を見回り、仕事中の住人から話を聞いたりする。
 のんびり歩いていると、柴犬を一頭連れたライラちゃんと出会った。

「わぅ、お兄ちゃん」
「こんにちは、ライラちゃん。お散歩かな?」
「わぅん。この子のお散歩なの」
「そっか。お仕事は?」
「今日はお休みなの。でも、ミュアもアセナもお仕事だから、一人なの」
「そっか……」

 そういえば最近、ライラちゃんと遊んでいない。
 ライラちゃん。毎日楽しそうに仕事してるんだよな。ミュアちゃんやルミナみたいに俺に甘えることが殆どなくなった。おかげで、会っても挨拶くらいしかしない。
 村に来たばかりのころは、ベッドに潜り込んだり一緒にお風呂入ったりしたのに、今はない。
 これが成長なのか……寂しい。

「……うん。じゃあさ、俺と一緒に村の散歩しよっか?」
「わう?……でも、お兄ちゃんお仕事」
「大丈夫。村の見回りがお仕事だから。わんこも一緒に、ね?」
「わう……じゃあ、行く!」
「うん」

 俺はライラちゃんに手を差し出す。すると、ライラちゃんはちょっと遠慮がちに手を掴んだ。
 久しぶりに、ライラちゃんと二人でお散歩しますか。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライラちゃんと二人で歩くと、柴犬ものんびり付いてくる。

「この子、すごく大人しいね」
「うん。あのね、一緒に寝るとフカフカなの」

 ライラちゃん曰く、三匹いる柴犬は魔犬族の少女たちが交互に抱いて寝るという。ライラちゃんは柴犬を撫でながら言う。

「えへへ。みんなこの村に来てよかったって」
「そりゃ嬉しい。お、猫だ」
『わぅん』

 猫がポテポテ歩いて来た。すると、柴犬は猫に向かって頭を下げる。
 犬と猫は喧嘩するイメージだけど、獣人が間に入れば安心。『喧嘩するな』って言うだけで、犬猫はこうも仲良しになれるのだ。
 
「お兄ちゃん、どこいくの?」
「最初は、農園かな」

 農園。
 果樹園、麦畑、ブドウ園、野菜畑などがある。
 メインはブドウ。食べてもお酒にしても美味しい、緑龍の村で最も人気のある農産物だ。クララベルのお店にある主力ケーキに、ブドウのケーキがある。これがなんとも美味い。
 農園に向かうと、ハイエルフたちがリヤカーを引いていた。

「お、村長じゃん」
「メージュ。収穫か?」
「うん。あはは。収穫って半年に一度くらいなのに、村長の魔法をかけた土は作物の成長速度ハンパじゃないのよ。おかげで、毎日収穫してる」
「ははは。さすが俺の植物魔法」

 リヤカーには、たくさんのブドウが入っていた。
 すると、大汗を掻いたエルミナが、一人でリヤカーを引いていた。

「ふんぎぃぃぃぃ~~~……ッ!!」
「……おいメージュ、なんでエルミナは一人でリヤカーを引いんだ?」
「ああ、罰よ罰。あいつ、あたしが仕込んだワインの試飲で、樽一つ開けたのよ」
「た、樽一つって……」

 メージュは、ライラちゃんにブドウを一房渡す。

「悪いようにしないから安心してよ」
「お、おお……」
「あ!! アシュト助けてぇ~~~!!」

 エルミナの叫びをスルーし、俺とライラちゃんは農園を後にした。

 ◇◇◇◇◇◇

 ブドウを大事そうに抱えるライラちゃん。
 尻尾が嬉しそうに揺れているのはとてもかわいい。
 俺は、思いついたことを言う。

「そうだ。ライラちゃん、そのブドウをクララベルのところに持って行こうか」
「わふ? ぶどう、どうするの?」
「ケーキにしてもらおう。ちょっと早いけど、おやつにしようか」
「わうぅ! ケーキ!」

 ライラちゃんは大喜びだ。
 さっそく、お菓子屋ブランシュネージュへ。
 出迎えてくれたのはなんとミュアちゃんだ。

「あ、ご主人さまにライラ!」
「ミュアちゃん、クララベルはいる?」
「いるよ。いま、ご飯食べてる」
「ご飯か……じゃあ、ご飯食べ終わったら呼んでくれる?」
「わかったー」

 と、ミュアちゃんがキッチンの中へ。
 それから十秒も経たず、クララベルと一緒に来た。

「お兄ちゃん! いらっしゃい!」
「お、おお。お昼食べてたんじゃ」
「もう終わったよ。それで、何か用?」

 ここで、ライラちゃんがブドウをクララベルへ。

「これを使って、デザートを作って欲しいんだけど……忙しいか?」
「ん、大丈夫! ちょうど休憩中だし。ふふふ、わたしにお任せ!」

 クララベルは、ブドウを持ってキッチンへ。
 俺とライラちゃんは、カフェスペースで待つことに。
 せっかくなので、俺はカーフィーを、ライラちゃんは果実水を頼んだ。

「ブドウ、楽しみだね」
「わん! えへへ、お兄ちゃんありがとう」

 ライラちゃんはにっこり笑う。
 ちなみに、外では柴犬が日向ぼっこしていた。
 それから数十分……クララベルが、薄紫色のケーキを持ってきた。

「じゃじゃん! ブドウのケーキです! 召し上がれ!」
「おお!」
「わぅぅーん!」
「にゃあー!」

 って、ミュアちゃんもいるし。
 クララベルを見ると、ウインクして頷く。
 ライラちゃんの隣にミュアちゃんが座った。
 そして、俺の隣には黒いネコミミ……え。

「る、ルミナ? お前、いつの間に……」
「ふん。甘いの食べに来ただけだ」

 ルミナは俺の隣に座る。
 ライラちゃんを見ると、すごく嬉しそうに笑っていた。
 ブドウのケーキを切り分け、みんなで食べる……うん、甘酸っぱくて美味しい。

「えへへ。やっぱり、みんな一緒だと楽しいね」


 ライラちゃんは、とても嬉しそうにケーキを頬張った。
 ちょっと距離が離れていたように感じたけど……やっぱり、ライラちゃんはライラちゃん。俺の知る、可愛らしいワンコ少女だ。
 よーし! これからは、もっとライラちゃんと遊ぼう。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。