大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
354 / 474
日常編⑲

第548話、人狼族の村にて

しおりを挟む
 緑龍の村から少し離れた場所に、人狼族の村がある。
 かつて、疫病が広がり、アシュトによって救われた村でもある。
 さらに、そのアシュトから『酒造り』の産業をもたらされ、一気に活気づいた村でもあった。
 以前は、人狼族だけの村だったが、今は他の種族が混ざり、多様な村となっている。
 緑龍の村で鍛冶や農業を学んだ人狼たちも加わり、大きな村となっていた。
 そんな村の外れに、小さな薬院があった。

「はい。では、朝晩必ずこの薬を飲んでくださいね。それと、今日明日は畑に出ちゃ駄目ですよ」
「わかりました。先生、ありがとうございます」

 先生と呼ばれたのは、灰色の髪にメガネをかけた線の細い少年、フレキだ。
 そして、フレキの後ろでは人狼の少年ロムルスがメモを取っている。

「フレキ師匠。今のは……」
「うん。今の患者さんは、畑仕事中に鎌で足を切ったんだ。そのまま処置をせずにほったらかしにしたから、傷口から菌が入って発熱したんだよ。ボクがやったのは、傷口の戦場と菌を殺す薬を処方したんだ」
「なるほど。菌かぁ」
「そうだね。ほんの小さな傷でも、馬鹿にしちゃいけないよ」
「はい!」

 ロムルスは、メモを必死に取っていた。
 すると、薬院の奥から褐色肌の少女が出てきた。

「いやー、アッツいわぁ……大鍋グツグツ煮えとるでぇ」
「エンジュ……もう、ロムルスもいるんだから、みっともない恰好しないでよ」

 ダークエルフのエンジュだった。
 今ではフレキの妻で、人狼族の村の薬師である。
 シャツ一枚に短パンというラフな服装で、胸元をパタパタさせていた。
 まだ幼いが、ロムルスも男だ。エンジュから目をそらし、メモをジッと見ていた。
 エンジュは、汗を拭きながら言う。

「そんなことより、ダークエルフの秘薬が完成しそうやで。できたら瓶詰するから手ぇ貸してぇな」
「はいはい。あれ……マカミは?」
「マカミは、汗だく気持ち悪ぅー言うて、着替えに行ったで」

 マカミ。
 フレキの幼馴染で、妻である。
 エンジュがフレキの妻になったことで、負けじと妻となった。
 『あの』フレキが二人も嫁を……と、人狼族の村では少し騒ぎになったことも、今ではいい思い出だ。

「さて、そろそろお昼かな……ロムルス、今日はここまでにしよっか」
「はい! フレキ師匠、ありがとうございました!」

 ロムルスは頭を下げ、薬院を出て行った。
 ロムルスがいなくなると同時に、エンジュはフレキに抱き着く。

「んふふ~……フレキ、構ってぇな」
「ま、まだ仕事中だって! それに、マカミが……」
「マカミも混ぜればええやん……ダメ?」
「駄目! ほら離れて。仕事は真面目にやらなきゃ駄目だよ!」
「むぅ……堅物ぅ」

 エンジュは不満げに離れ、椅子にかけてあった白衣を着た。

 ◇◇◇◇◇◇

 フレキたちのいる薬院は、フレキの結婚に合わせて改築された。
 結婚祝いにと、アシュトがエルダードワーフに依頼した建物で、薬院と新居が一体化している。さらに、薬院の裏手には大きな温室があり、フレキやエンジュが薬草を育てている。
 フレキは、マカミが作った昼食をエンジュと三人で食べた。

「フレキ。午後はどうするの?」
「んー……薬草精製して、師匠に手紙書こうかなって思ってたけど、何かあるの?」

 マカミは、ちょっと言いにくそうに言う。

「あのさー……お昼寝しない?」
「え……昼寝?」
「うん。変身してさ、日光浴びて外で寝るの」
「なんやなんや。マカミ、寝不足かいな? ふふふ、今夜のために寝だめしとくんか~♪」
「ばば、馬鹿言わないでよ!! あたしはアンタと違うから!!」
「おお怖い」

 エンジュはこうやってマカミをからかう。
 すると、フレキが言う。

「……そうだね。たまにはのんびりお昼寝もいいかな。薬草精製はいつでもできるし、師匠の手紙は夜にも書けるし……あ、ついでにアセナにも書かないと」
「じゃあお昼寝でいい?……エンジュ、あんたも」
「うちはええで。ってか、お腹いっぱいで眠いしなぁ~……くぁぁ」

 エンジュは大きな欠伸をした。
 こうして、フレキ一家の午後の予定は、お昼寝となった。

 ◇◇◇◇◇◇

 薬院の裏にシートを敷き、フレキとマカミは人狼へ変身した。

「おお~、相変わらずモッフモフやなぁ」
「そうかな……?」
「よくわかんないわね……」

 狼の姿も、人間の姿も、二人にとって『自分』であることに変わりない。
 エンジュは大あくびすると、フレキの腕に抱き着いた。

「ほんま、アシュト村長には感謝やなぁ……こうして、フレキやマカミと一緒にのんびり過ごせるのも、アシュト村長のおかげや……」
「だね! やっぱり師匠はすごい……!」
「ねーフレキ。遊びに行かないの? 帰ってきてから一度も緑龍の村に行ってないよね?」
「……師匠のところに行きたい気持ちはあるけど、ボクはこの人狼族の村の薬師だからね。何かあった時のために、常に村にいないと」
「「真面目……」」

 マカミとエンジュの声が重なった。
 真面目なフレキらしい。
 すると、エンジュが言う。

「じゃあ。アシュト村長に来てもらえばええやん」
「あ、それいいかも。ね、フレキ」
「確かにね……くぁぁ」

 フレキが大きな欠伸をした。
 だいぶ眠くなってきたのか、フレキの瞼が重くなっていた。
 さらに、マカミもエンジュも大きな欠伸をする。

「……うち、眠いわぁ」
「あたしも……」

 それから間もなく……三人は眠りについた。
 そして数十分後。忘れ物を取りに来たロムルスが、昼寝をしている三人を見た。

「……そういえば、村のみんなが言ってたっけ。師匠のところは『おしどり夫婦』だって」

 意味はわからないが、ロムルスはウンウン頷きながら、そっとその場を後にした。
 人狼族の村は、今日も平和である。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。