大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

文字の大きさ
361 / 474
ベルゼブブワイン・テイスティング

第555話、ベルゼブブワインの試飲会(後編2)

しおりを挟む
 会場内を歩いていると、ワイングラス片手にこっちに向かってくる人がいた。

「お久しぶりですネェ! アシュト村長!」
「ディミトリ? お前もいたのか」
「ええ。ククク……ワタクシの経営するワイナリーも出品していますので」
「へぇ~」

 悪魔商人のディミトリ。
 最近、村では全く見ていない。
 仕事がメチャクチャ忙しいってリザベルが言ってたな。どうもルシファーお抱えの商会になってから、オーベルシュタイン領土中を駆けまわってるとか。
 ディミトリは、真っ黒でぴしっとしたスーツ、金縁のモノクル、ミリ単位で整った長さの髭、そしてステッキを持っていた……相変わらず胡散臭い恰好。でも似合ってる。
 ディミトリは、ワイングラスを揺らしながら言う。

「アシュト村長。ぜひ、ぜひ! 我が商会のワインを!」
「お、おお。なんかテンション高いな……酔ってるのか?」
「いえいえ。ここにはあの『アドナエル・カンパニー』がいませんので。ハーッハッハッハ!」
「……まぁ、いいけど」

 アドナエル。ディミトリのライバルがいないからテンション高いのか。
 ディミトリに案内されて向かったのは、これまた派手な装いのブースだ。
 新作のワインとやらが飾られているので見ると。

「……黒っ」
「ククク、そうです! これがディミトリ商会の新作。『ブラッドスキュラー』です!」

 赤ワイン、というか……黒ワインだった。
 墨のように真っ黒なワインだ。どんな加工をすればこうなるのか。
 ディミトリからグラスを受け取り、軽く合わせる。

「じゃあ、いただきます……」

 ちょっと怖いので、一口は小さめに……あれ?

「あれ? これ、美味しい……」
「でしょう?」

 意外なことに、真っ黒な外見に相応しくない甘酸っぱさを感じる。さらに、喉を通る瞬間───ブワッと熱くなる。だが、この熱さがなんともいえない。
 酒精が強く、数杯飲めばかなり酔ってしまいそうだ。これ、玄人向けのワインだ。

「玄人向け、そう感じたのではありませんか?」

 おお、心を読みやがった。
 ディミトリはワインを飲む。そして、喉を潤し説明した。

「我が社が作るワインは玄人向けです。アシュト村長、アシュト村長の村で生活する方々なら、このワインの味を理解してくれるのでは?」
「確かに。バルギルドさんたちやエルダードワーフたちが好みそう。それと、竜騎士たちも」
「クックック。さぁ、どうします?」

 ディミトリは、優雅に一礼……芝居がかってやがる。
 まぁ、俺ですら美味しいって思ったんだ。お土産にちょうどいいな。

「じゃあ、村に樽で運んでくれ」
「ありがとうございます!!」

 ディミトリは揉み手……急に胡散臭い商人みたいになった。
 すると、俺の背後からルシファーが現れた。

「や、楽しんでる?」
「ルシファーか。ああ、楽しんでるよ」
「そっか。あ、ディミトリ、そのワイン、あとでボクのところにも運んでおいて。あと、アシュトの分の支払いもボクに回しておいてよ」
「かしこまりました」
「お、おい。支払いは」
「いいって。気にしない気にしない」

 ルシファー、ご機嫌みたいだ。けっこう飲んでるのかな?
 ディミトリと別れ、ルシファーと一緒にルミナの元へ。
 ルミナはケーキもぐもぐ食べていた。

「おそい」
「悪い悪い。ケーキ、おかわりは?」
「もうお腹いっぱい」
「ルミナちゃん、楽しんでる?」
「…………」

 ルシファーの問いかけに、軽く頷くルミナ。
 モフ助を見ると、お腹いっぱいなのかスヤスヤ眠っていた。

「あ、ルシファー。ルミナをちょっと見ててくれ。俺、エルミナとブランの様子見てくる」
「わかった。任せてよ」

 ルミナの頭を軽く撫で、俺はエルミナとブランを探しに会場内を見渡した。

 ◇◇◇◇◇◇

 最初に見つけたのは、エルミナだった。

「あーっはっはっは!! ん~~~幸せ。ワインおいしいぃ~~~っ♪」
「…………」

 テーブルの一つを占領。ワインボトルを大量に並べ、飲みまくっていた。
 メチャクチャ目立ってる……こいつ、ワインはチビチビと飲むとか言ってたよな。
 俺はため息を吐き、エルミナに近づく。

「おいこら、エルミナ」
「ん~? あ、アシュト!えへへ~~~……アシュトも飲も?」
「お前な……」

 エルミナ。可愛らしく笑いボトルを差し出してくる。
 だが、俺はそのボトルを奪った。

「お前飲みすぎだ。ったく……目立ってるだろうが」
「え~~~?」
「とにかく、もうこれ以上飲むな! ほら、こっちこい」
「やぁん~~~」

 エルミナを立たせるが、フラフラしている。
 こいつ、立てなくなるほど飲んだのかよ。
 俺は、近くにいたメイドさんにエルミナを任せ、ブランを探した。
 すると……いた。

「ひゃっはっは!! いや~~~~ここは天国だぜ!!」
「…………」

 一つのテーブルにワインや料理を並べ、何人かの女性を同席させて飲んでいた。
 モテないブランになんで女性が?……って思っていると、なんとブラン、女性にお金を渡していた。
 俺は頭を抱え、ブランに近づく。

「おいこら、ブラン」
「ん~? おいアシュト、おめーも混ざれよ!」
「……その金、バルギルドさんやネマさんたちから預かった金だろ」
「…………」

 お酒を買って来いと預かった金だ。
 ブランはようやく思い出したのか青くなる。
 
「ア、アシュ「断る」
「まだ何も言って「金は貸さない」
「た、たの「じゃ、後でな」

 ブラン……今回は助けないからな。
 気が付くと、女性たちは全員いなくなっていた。

「さて。ルミナのところに戻るか」

 こうして、楽しい試飲会は幕を閉じた。

 ◇◇◇◇◇◇

 後日談。

 試飲会は大成功だったらしい。
 魔界都市ベルゼブブの酒屋には新作ワインがズラリと並び、売り上げも好調だとか。
 そして、エルミナには禁酒命令を出した。醜態を晒したバツだ。
 ブランは、預かったお金を女性に貢いだことがバレて、デーモンオーガ四人から地獄のような折檻を受けたという……ちなみに、バルギルドさんたちには俺が買ったワインをお土産として渡した。
 今度、このような酒に関する催し物があったら、エルミナとブランは絶対に連れて行かないようにしよう。
しおりを挟む
感想 1,145

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。