大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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ドラゴンロード・フェスティバル

第565話、その頃のルミナ

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 時は少しだけ巻き戻る。
 ドラゴンロード王国に到着後、ルミナはアシュトたちと別れ、さっそくドラゴンロード王城の図書館に来た。
 アシュトに同行したのは、勉強するためだ。
 アシュトから離れたくないという想いは確かにある。だが、今はそれよりも勉強をしたいという気持ちの方が強かった。
 メイドに案内してもらい、さっそく図書館へ。
 ローレライが許可を取ってくれたおかげで、難なく入室できた。

「みゃあ……広い」
『もきゅ~』

 図書館は、とても広かった。
 緑龍の村にある図書館と比べるまでもないが、それでも広い。大きな本棚がいくつも並び、二階、三階へ続く螺旋階段がある。テーブルや椅子は装飾が施されており、高貴な感じがした。
 ローレライが、よく通っていたという図書館。
 すると、司書の老人がルミナに近づいてきた。

「こんにちは、お嬢さん。ローレライ様から伺っております。お探しの本はありますかな?」
「みゃう。動物の本、ドラゴンの本、獣医や龍医師の本が読みたい」
「かしこまりました。では、席にてお待ち下さい」
「ん」

 ルミナは適当な椅子に座り、モフ助をテーブルに乗せる。
 司書の老人は、数名の司書を連れて本棚から本を集めていた。それを眺めながらモフ助を撫でる。

「モフ助。ここ、すごいな」
『もきゅ?』
「本、いっぱいある……こういうところ、好き」
『きゅぅ~』

 勉強は、楽しかった。
 一人で狩りをして、その日その日を生きるのに精一杯だったころとは違う。美味しいものをたくさん食べ、やかましい連中と遊び、勉強をする。そんな日々がルミナはとても楽しかった。
 だから、今も楽しい。誰かに素直になることはまだできないが。

「お待たせしました。こちらの本はいかがでしょう」
「みゃう」

 テーブルに、二十冊以上の本が積み重ねられた。
 司書の老人は、にこやかな表情でルミナに言う。

「それぞれの本の内容を、ご説明しますか?」
「いい。自分で読む」
「かしこまりました。では、失礼します。何かあれば遠慮なくお申し付けください」
「ん」

 司書の老人は頭を下げて去った。
 ルミナはさっそく本を開き、カバンからメモを取り出す。
 ディミトリの館で買った『ボールペン』で、本の内容をメモし始めた。
 
『もきゅ~』
「モフ助、動くな」

 本をモフ助に立てかけ、メモしながら読書する。
 日が暮れるまで、ルミナは読書に没頭していた。

 ◇◇◇◇◇◇

 その日の夜。
 ルミナは自分に与えられた部屋で、のんびり読書していた。
 アシュトの部屋に行こうかと思ったが、読み終わっていない本が山ほどあるため、アシュトがいてもいなくても変わらないと思い、一人で過ごしていたのである。
 モフ助も、餌を食べ終わるなり寝てしまった。

「ふみゃぁぁ~~~……ん」

 ルミナは大きく欠伸。
 明日は、ドラゴンロード王国にある牧場の見学をする予定だ。

「今日は読書ばかりで疲れた……あいつに撫でてもらってない」

 ネコミミと尻尾を動かし考える。
 寝るのは、アシュトの部屋にしようか。
 だが……ルミナは首を振る。

「ま、いいや。おやすみ……みゃう」

 もう一度欠伸し、ルミナはモフ助を抱いて寝た。
 疲れていたせいか、今日はとてもよく眠れたルミナだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ルミナはローレライが手配した竜騎士と共に、王国郊外にある牧場にやってきた。

「みゃぁぁ……すごく広いぞ!」
『きゅぅぅ~』

 ルミナを連れてきた竜騎士がニッコリ笑う。

「ここは、王家が管理する牧場です。広さ、規模、共に王国一の牧場ですよ」
「みゃうう、すごい……!」

 ルミナは目をキラキラさせ、牧場を見渡した。
 あまりにも広大だった。
 緑龍の村がすっぽり入ってしまいそうな牧場で、牧場内にはヤギやヒツジ、ルミナが知らない動物が何種類もいる。動物たちは群れを作り、のんびり過ごしたり遊んでいる。
 竜騎士はルミナに言う。

「あちらが厩舎です。ここには常に、獣医師が三名常駐しています。今日はそのうちのお一人から、獣医師について学ぶとよいでしょう」
「ん」
『もきゅ』

 ルミナと竜騎士、モフ助は厩舎へ。
 厩舎もまた大きかった。その中にある獣医師の部屋へ。
 部屋の中には、見覚えがある男がいた。ルミナは眉を寄せる。

「お前、なんでここに」
「ん? お嬢ちゃん、誰と勘違いしてんだい?」
「とぼけるな。おまえ、村にいた龍医師……違う。匂い似てるけど、お前違う」

 ルミナは気付いた。
 目の前にいる男は、緑龍の村にいる龍医師のドナルドだ。でも、匂いが違った。
 目の前の男は、ケラケラ笑う。

「ああ、悪いな。ドナルドの奴と勘違いしたのか。双子だし仕方ねぇが……ワシはマック。ドナルドの兄で、この牧場の獣医よ」
「みゃう……双子」
「おうよ。似てるだろ?」

 全く同じ顔としか言いようがない。
 兄のマック、弟のドナルド。二人揃って医師とは知らなかった。ドナルドも何も言っていないし、ルミナも興味がなかった。なので驚いた。

「ま、そんなことはいい。お嬢ちゃん、獣医になりたいんだって? ドナルドのやつ、こんなちっこいネコの弟子がいたとはなぁ」
「あたい、弟子じゃない。お手伝いしてるだけ。あたいは獣医になりたいの」
「はっはっは。わかったわかった。いろいろ教えてやるよ」

 マックはケラケラ笑いながら、ルミナの頭を撫でようとして逃げられた。

 ◇◇◇◇◇◇

 マックは、いろいろなことを教えてくれた。
 本に載っていない診察の仕方。薬の調合。獣医は病気を見るだけでなく、動物の世話もしなくてはならないということも教えてくれた。
 ルミナは、ヒツジたちに餌をやりながらマックに聞く。

「なんで世話しなくちゃいけないんだ」
「そりゃ、世話することで愛情が芽生えるからさ」
「みゃう……」
「まだわからんか? はは、すぐにわかる。例えば……」

 マックは羊たちを観察し、一匹のヒツジに目を付けた。
 ヒツジを軽く撫で、ルミナを呼ぶ。

「見てみろ。虫歯だ」
「みゃ……!? なんで」
「いつも見てるからわかるんだ。毎日餌くれやってればわかる。食欲がない動物がいるのもわかるし、些細な仕草で病を患っているかどうかもわかる。いいか、獣医ってのは病だけを見るんじゃない。動物を見るんだ」
「……みゃう」

 ルミナはヒツジをモフモフしながら聞いていた。
 確かに。自分は本や症例ばかり見ていた。動物とここまで向き合ったことはあるのだろうか?
 ネコミミがペタンと萎れてしまう。

「お前さん、まだ九歳くらいだろ? なら、まだまだ勉強不足だ。いっぱい勉強して、いっぱい動物の世話して経験を積みな」
「…………」
「十年。動物たちとふれあえ。動物だけじゃない。全ての生き物たちとだ。そうすれば、きっと立派な獣医になれる」
「あたいが……」
「ああ。ワシが保証する。それと、勉強したいならドナルドの奴にも聞け。あいつ、今でこそ龍医師だが、獣医の資格も持っとるぞ」
「そうなのか? あいつ、ドラゴンの世話しかしてない」
「ま、あいつもドラゴン馬鹿だからな。まぁワシもだが……」
「?」
「昔、ワシとドナルドも竜騎士だったんだよ。今の竜騎士は知らねぇだろうなぁ……『マック&ドナルド』の兄弟コンビ! ガーランド王も認めた天才竜騎士!」
「すごかったのか」
「まぁな。でも……任務でしくじっちまってな。相棒のドラゴンが死んじまったんだよ」
「え……」
「当時は、まだ龍医師ってのが少なくてなぁ……医者が来た時には遅かった。しかも来た医者は獣医ときたもんだ。それからだよ、ワシとドナルドが竜騎士を辞めて、龍医師を目指したのは」
「……おまえも、龍医師なのか?」
「ああ。もちろん……今でこそ獣医だが、龍医師としても活躍しておる」
「…………」
「ま、ワシらのことはいい。お前さんは、立派な獣医になれ」
「みゃう。あたいは、獣医になる。でも……龍医師の知識もほしい。だから、いろいろ教えて」
「……ははっ、いい根性してやがる」

 マックはルミナの頭を撫でようとしたが……やはり、触らせてくれなかった。
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