大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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常夏の村

第574話、銀猫ナイトプール

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 『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミーン……』

 夏。常夏セミがミンミン鳴き、気温がとても高い。
 洗濯物はよく乾くが、如何せん暑い。
 汗が流れ、頻繁に着替えをしなければならないのは、さすがに面倒くさい。
 村で一番の働き者である銀猫たちも、この暑さには参っていた。

「ふぅ……」

 銀猫たちのリーダー、シルメリア。
 シルメリアは、汗を拭いながら洗濯物を干す。
 洗濯物の量は、二倍に増えていた。

「すぐ乾くのはいいですが、お洗濯の回数も増えましたね……」

 女性陣は、汗をかくとすぐ着替える。
 薄着にしたり、汗拭きタオルや水筒を持つなど対策しているが、それでも慣れない夏は大変だ。
 アシュトは、『熱中症の危険があるから、あまり外に出ないで水分を多く取ること。それと、暑くて怠いからって食事を抜いたりもしないこと。少しでも体調が悪かったら俺のところに来てね』と言っていた。
 銀猫たちは、仕事の合間に必ず三食取っていた。
 今のところ、熱中症に倒れる銀猫はいない。
 洗濯物を干して使用人の家に戻ると、ミュアがいた。

「にゃぁぁぁぁぁ~~~~~~」

 扇風機の傍で、何やら声を出している。
 声が震えるのが面白いようだ。

「ミュア」
「にゃう、シルメリア! あのね、扇風機が面白いの!」
「遊んでいないで、夕飯の仕込みを手伝いなさい」
「にゃぁー……シルメリア、果物たべたいー」
「まだダメです。さ、こっちへ」
「にゃうー」

 冷蔵庫に、シェリーが凍らせた果物がたくさん入っている。
 氷魔法の達人であるシェリーは、英雄のように扱われていた。
 シルメリアとミュアは、夕飯の支度を始める。

『ミーンミンミンミンミンミンミンミンミーン』
「にゃぁ~~~……」
「常夏セミですね」

 窓の外から見える木に、常夏セミが止まってミンミン鳴いていた。
 日を重ねるごとに、暑さが増していく。
 ミュアは、ネコミミがペタッと閉じ、尻尾もダランと垂れていた。
 そんなミュアを見て、シルメリアは考える。

「……ミュア、仕込みはもう十分です。あなたは、扇風機の傍でお昼寝をしなさい」
「にゃう? なんで?」
「あなたも銀猫。今夜、私たちの集会に参加しなさい」
「にゃ……夜」

 銀猫の集会。
 ミュアもたまに参加するが、いつも途中で寝てしまう。
 それに……こんな暑い日に、集会なんて出たくなかった。
 
「にゃあー……あついし、行きたくないー」
「駄目です。それに、きっと楽しいと思いますよ?」
「?」
「さ、お昼寝をしなさい」
「にゃうー……わかった」

 ミュアは、扇風機の傍でコロンと丸くなると、大きな欠伸をしてすぐに寝てしまった。
 最近、暑くて睡眠不足なのか……ミュアは夜まで起きることはなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 夜。
 アシュトたちの世話を終え、明日の準備を終えた。
 マンドレイクたちや、ライラやルミナたちも寝てしまった。
 ミュアは、お昼寝をしたせいか眠くない。
 シャーロットやマルチェラ、メイリィも起きていた。
 シルメリアは、ミュアの頭を撫でながら言う。

「ではみなさん、集会に行きましょうか」
「「「はい」」」
「にゃうー……」
「ほら、行きますよミュア」

 シルメリアと手を繋ぎ、使用人の家を出た。
 
「にゃ……」

 外に出ると、昼間ほどではないが涼しい。
 だが、それでも暑いことに変わりはない。
 ミュアは、冷たい果物を食べてさっさと寝たかった。
 シルメリアと手を繋ぎながら歩き……気付く。

「あれ? シルメリア、おうちはあっちだよ?」
「いいんです」
「にゃあ……」

 シャーロットたちを見ても、にっこり笑うだけ。
 夜は街灯しかないので、どこへ向かっているかよくわからない。
 だが、聞こえてきた。

「にゃ……これ」

 ちゃぷ、ぱしゃ───……と、水音が聞こえた。
 そして、街灯に囲まれたプールへ到着。
 そこでは、ミズギを着た銀猫たちが、夜のプールを楽しんでいた。

「にゃあ……」
「驚きましたか? ふふ、夜は利用者がいないので、銀猫族が特別に貸し切っています。あなたはすぐに寝てしまいますが……たまには、夜のプールで泳ぐのもいいでしょう」
「にゃう! シルメリア、およぐ!」
「はいはい。では、着替えましょうか」

 いつの間にか、ミュアのミズギも用意されていた。
 銀猫たちのミズギは共通の『スクールミズギ』というモノだった。タヌスケ商店で注文した、銀猫専用のミズギらしい。
 ちなみに、集会とは名ばかりの集まりだ。
 深夜のプールに集まり、泳いだり、果物を食べたり、談笑したりするだけ。
 ミュアは、浮き輪を使ってぷかーっと浮いていた。

「にゃあ……つめたくて気持ちいい」
「あ、ミュアじゃん」
「ミュアも来てたんだ」
「にゃあ。ミリカお姉ちゃん、ナナミお姉ちゃん」

 銀猫のナナミとミリカがいた。
 二人とも、浮き輪の乗って浮かんでいる。

「いやー、夜のプールっていいよね。あたしらの貸し切りだしさ。ね、ナナミ」
「うん。プールでいい感じに身体が冷えると、ゆっくり寝れるんだよね」
「にゃう。つめたくて気持ちいいー」
「でしょ? ふふ、ミュアも夜のプールを覚えた……明日も来なさいよ?」
「うん。明日も来るー」
「ふふ、よかったね」
「ごろごろ……」

 ナナミに撫でられ、ミュアはゴロゴロと喉を鳴らす。
 夜。プールにいられる時間は一時間ほど。
 明日も明後日も仕事なので、この夜の一時間だけ、銀猫たちはのんびり過ごすのだ。
 あまり長い休みは、身体が鈍ってしまう。仕事の合間の十分休憩や、食事時間、そして仕事が終わった後の一時間のプールが、銀猫たちにとって何よりも楽しい時間なのだ。

「ミュア、あっちに果物あるよ。食べない?」
「たべる!」
「あっちに果実水もあるよ。つめた~く冷えてて美味しいよ~?」
「飲むー!」

 銀猫たちのナイトプール。
 夏だけの、ほんの少しだけの楽しみ。
 ミュアは、明日も明後日も夜のプールへ行くことを決意。だが……朝起きることができず、夜のプールはまだ早いとシルメリアに言われてしまうのだった。

「にゃあー!! 夜のプール行きたいー!!」
「駄目です。朝起きれなくなるでしょう?」
「起きるからー!!」
「まったく……」

 やっぱり、ミュアはまだまだ子供なのだった。
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