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秋の訪れ
第595話、ルミナとココロは喧嘩をする
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「にゃあ。またね」
「ねこ……」
あっという間に、兄さんたちが帰る日になった。
荷物とお土産を積み込み、別れの挨拶をする。
俺は父上、母上、スサノオと別れの挨拶。シェリーは兄さんに抱き着いて甘え、ミュディはルナマリア義姉さんと抱擁している。
エクレールは、ミュアちゃんに抱き着いていた。
そして、顔を上げて言う。
「ねこ。いっしょに行こう? わたしとお友達になって、あっちで暮らそう」
「にゃ……」
エクレールは、ミュアちゃんと別れたくないようだ。
ルナマリア義姉さんがため息を吐き、エクレールを引き離そうとする。だが俺はそれを止めた。
訝しむルナマリア義姉さんに、俺は笑顔で頷く。
ミュアちゃんは、エクレールの頭を撫でながら言う。
「ごめんね。わたし、ご主人さまの銀猫だから、一緒には行けないの」
「ねこ……」
「でも、わたしはここにいるよ。いつでも遊びにきてね」
「……うん」
エクレールは頷いた。
まだ少し悲しそうだが、わかってくれたのかミュアちゃんから離れる。
たぶん、ミュアちゃんはこういうだろうと思った。
ミュアちゃん、エクレールたちの『お姉さん』みたいに振舞ってたからな。
すると、ミュアちゃんはネコミミをぴこぴこ動かす。
「そうだ! あのね、ネコミミのお友達を見つけるといいよ。エクレール、ネコミミ好きだしね」
「ねこみみ……うん! わかった。わたし、ネコミミのお友達探す! そして、一緒にここに来るね!」
「にゃう。待ってる!」
うーん。なんだか話が変な方向にいったような。
ルナマリア義姉さんが俺に耳打ちする。
「専属の侍女を付けようとは考えていたが……話の流れから、猫人のがいいのかもしれんな」
「そ、そうかも……」
「アシュト。スサノオはどうすればいいと思う?」
「え~……いや、スサノオはこだわらなくていいかもね」
ルナマリア義姉さんはウンウン頷いた。
こうして、兄さんたちの休暇は終わり、村の夏も終わった。
常夏セミの鳴き声が聞こえなくなると寂しくなるなんて思わなかったな。
今度は、いつ夏が来るのやら。
◇◇◇◇◇◇
夏が終わり、祭りも終わり……村には日常が戻ってきた。
今日は俺、ココロ、ルミナの三人で薬院の掃除をしている。
だが……やっぱりこの二人、仲がいまいちよくない。
「ルミナ! もう、サボらないでくださいっ!」
「…………」
ルミナはソファーで丸くなっている……まぁ、サボりだな。
俺は箱に入ってる診療記録を整理中。ココロは棚を掃除していたんだが……ルミナがソファーで休んでいるのをココロが見つけたのだ。
ココロの叫びをルミナは無視。あらら、ネコミミがパタンと閉じている。
「むむむぅ! 先生! ルミナがサボっています!」
「はいはい。ほらルミナ、もうちょっと頑張れ。もう少ししたらおやつにするから……ちなみに、おやつはクララベルが作ったリンゴタルトだぞ」
「……!」
お、ネコミミが片方だけ起き上った。
尻尾も揺れているし、おやつ効果は絶大だ。
ルミナは起き上り、窓ふきをするため雑巾を手に取る。
だが───今日は違った。
「ルミナ!! あなた、もう少し真面目にやりなさい!!」
「うるさい。ちゃんとやってる」
「先生もです!! 先生はこの子を甘やかしすぎです!!」
「す、すみません!!」
ココロは怒っていた。
思わず敬語になる俺。するとルミナが。
「半人前のくせに。あたいより縫合や包帯の巻き方が上手くなってから言え」
「…………は?」
あ、これヤバいかも。
すると、ココロは持っていたハタキを投げた。
ルミナのネコミミもピンと立ち、尻尾が揺れる。
「知識は私のがずっと上です。バシリスク草とデルピネ草の違いもしらないくせに」
「もう知ってるし。ってかあたい、勉強はじめて二年も経過してない。おまえ、あたいより長生きしてるくせに縫合はできない、包帯も上手く巻けない。医師に向いてない」
「技術も大事ですけど知識はもっと大事です。技術だけの未熟者に言われたくないですね」
「一年後にはあたいのが物知りだな。あたい、お前なんかに負ける気しないし」
「ふん。その言葉、そっくり返しますよ」
「一年後っていうけど、今のお前は役立た「そ、そこまで!!」
俺は二人の間に割り込む……正直、めっちゃ怖い。
ルミナの頭を撫でながらココロの肩に手を置く。それくらい、二人の距離は近い。
やばいな、二人とも興奮してる。
もう掃除どころじゃないな……仕方ない。
「よし、今日はここまで。二人とも少し頭を冷やしてきなさい」
「先生。私……この子と一緒にいたくありません」
「あたいもヤダ。こいつむかつく」
「わかったわかった。今日は帰っていいから。ココロ、明日は休みだからゆっくりしてな」
「……はい」
「ルミナも、休んでいいからな」
「ふん」
ルミナはそっぽ向き、窓から出て行った。
ココロも、荷物を持って出て行った。
そして、残された俺。
「さーて……掃除の続きしますか」
俺は腕まくりし、掃除の続きを始めた。
◇◇◇◇◇◇
夕方になり、ようやく掃除が終わった。
一人じゃ絶対に無理だったけど……意外な奴が手伝ってくれた。
「いや~、働いたあとのお茶は美味しいわねぇ」
エルミナだ。
酒瓶を踏んでスッ転んで後頭部を強打したとかで泣きながら薬院に来た。
小さなタンコブだけで特に異常なし。
大丈夫そうなので掃除を手伝ってもらったのだ。
「忙しかったから聞けなかったけど、なんで一人で掃除してんの?」
「いろいろあったんだよ……な、相談していいか?」
「いいわよ。あ、でもここじゃアレだし、バーで話聞いてあげる!」
「お前、酒飲みたいだけだろ……」
「いいでしょ別に! それと、相談なら年長者のがいいでしょ。話を聞くのが上手いやついるから、そいつも連れて行くから」
「あんまり広めたくないんだけど」
「大丈夫。みんな口硬いし、二人だけだから」
「……わかった」
浴場で汗を流し、夕飯を食べた俺は、屋敷に備え付けのバーへ行く。
ドアを開けると、銀猫のミリアリアがグラスを磨いていた。
カウンターではなくテーブルに座ると、ウェルカムドリンクが出てきた。
綺麗な桃色のカクテル……さっぱりした甘さが何ともいえない。
おつまみは、ストーンダイの酢漬け。ん~うまい!
「やっほー、来たわよー……って、もう飲んでるし! アシュトずるい!」
「うるさいな。いいから座れ……って、アウグストさんとグラッドさん? エルミナ、お前が言ってた話を聞くのが上手い人って」
「もちろん。この二人よ」
「なんじゃ? よくわからんが、エルミナに連れてこられたんじゃ」
「叔父貴。何やら大事な話があるって聞きやして」
「ま、まぁ座ってください。ミリアリア、注文を」
テーブルに座り、さっそく注文を取る。
エルミナはセントウ酒。グラッドさんはヒュンケル兄が大量に持ってきた『ウェッカ』という滅茶苦茶キツイお酒をロックで。アウグストさんも同じのを頼んだ。
俺は……オレンジカクテル。あまり酔うと話せなくなるしな。
おつまみはチコレート、各種魚料理、焼いた肉などだ。
「じゃ、かんぱいっ!」
「乾杯」
「乾杯! ははは、村長と飲むのは久しぶりじゃな。おかわり」
「叔父貴、いただきやす───おかわりを」
エルダードワーフのアウグストさん、サラマンダー族のグラッドさんにとって、ウェッカは水と変わらないらしい……俺なんて、一口飲んでダメだった。マジで火を噴けるかと思った。
エルミナはセントウ酒をグイっと飲み干し、おかわりを注文した。
「ッぷっはぁ!! あぁおいしいぃ~~っ!!」
「あのさ、俺の相談のこと忘れてないよな?」
「当たり前でしょ! あ、そこのチコレート取って」
「……ほれ」
なんか、エルミナはダメな気がしてきた。
アウグストさんは、ストーンダイの刺身を食べながら言う。
「んで、なんか相談があるんだって?」
「はい。実は……ルミナとココロのことで」
「んあぁぁ? わたしぃ?」
「お前じゃねぇし。ルミナな、ルミナ……っていうか、お前もう酔ってんのかよ」
エルミナはもう放っておこう。
アウグストさんはウェッカを飲み、続きを促す。
俺は、今日会ったことを説明した。
話を聞くと、グラッドさんが言う。
「なるほど。アヤつけちまったんですかい」
「え? え、ええ……はい」
アヤつけるってなんだろうか。
とりあえず頷く。
アウグストさんは、おかわりのウェッカを注文して言う。
「なるほどなぁ。知識は未熟だが技術のあるルミナと、技術不足だが知識はあるココロのお嬢ちゃんか」
「互いを補えればいいんですけど、喧嘩ばかりで……」
「どっちかがイモ引くってわけにゃあいかないんですかね」
「い、芋? えっと……たぶん」
前から思ってたけど、グラッドさんの専門用語よくわからん。
「喧嘩まくってんなら止めた方がいいですね。ルミナ嬢、見てくれは小さな猫族ですが、ありゃ相当修羅場慣れしてやすぜ」
「え、ええ……そこまではいかないと思いますけど」
悪いが、グラッドさんもあまりアテにならない。
専門用語多すぎて会話疲れる……ゴロまくってなんだよ。
頼みはアウグストさんだけ。
「わかってんのは、どっちも素直じゃねぇってこった」
「え……?」
「互いを補い合うほど、お互いを知らねぇんだろ。些細なことでぶつかっちまうのはしょうがあんめぇ。こればっかりは時間をかけねぇとな」
「一緒に過ごす時間は多いと思いますけど……」
「じゃ、足りてねぇんだろ。ま、ほっといても平気だと思うぜ」
「そうかなー……」
「ははは。村長にできるのは、互いのケアだな。二人の話をちゃぁんと聞いてやりな」
「アウグストさん……」
やはり、アウグストさんは頼りになる。
フルーツ盛り合わせをガツガツ食べるエルミナはもういい。グラッドさんは時と場合による頼もしさなだけに、今回はちょっと仕方ない。
よし。明日も仕事あるし……ちょっと行ってみるか。
「あとは好きに飲んでてください。俺、ちょっと行ってきます」
「おう。がんばれよ」
「叔父貴、ごちになりやす!」
「あはは~! いってら~」
エルミナ……しばらく、お前に相談するのやめておくよ。
◇◇◇◇◇◇
最初に向かったのは、ココロの家だ。
薬院からほど近い二階建ての家で、一階は生活スペースで、二階は勉強する部屋らしい。
ドアをノックすると、ドア越しにココロの声が。
『……はい』
「俺。アシュトだけど、ちょっといいか?」
『せ、先生? あ、ちょっと待ってください』
待つこと数分、ドアが開く。
しっとりしたココロが出迎えてくれた。風呂上りなのか、薄手の寝間着姿だ。
うむむ……薄手だからか、身体のラインがなんとなくわかってしまう。前から思ってたけど、ココロ……エルミナより胸大きいかも、って何考えてる俺は!!
「あの、先生?」
「あ、ああごめん」
「どうぞ。散らかってますけど……今、お茶いれますね」
ココロが淹れてくれたのは、自分で作った薬草茶だ。
ほんのり甘くて渋い。寝る前に飲むとよく寝れそうだ。
ココロは、俺が来た理由を察していた。
「ルミナの件、ですよね」
「あー……まぁ、ね」
ココロは「はぁ~」とため息を吐いた。
「ついカッとなって言っちゃいましたけど……ルミナはすごいと思います。縫合の技術も、包帯の巻き方も、的確で早いです。わかってるんです。わかってるんですけど……私よりも小さな子が、あんなにも上手に包帯を巻くのを見て、嫉妬しちゃって」
「ルミナはさ、ずっと俺の手伝いをしてたから。間違いなく、これからココロも上手くなるよ」
「はい。それと、言いすぎました。私……謝らないと」
「うん。そうだね」
「はい……」
お茶を飲み干し、俺は立ち上がる。
「ココロ、また明日な」
「はい。先生……ありがとうございました」
ココロはペコリと頭を下げた。
さて、こっちはもう大丈夫……不機嫌な黒猫は、どこにいったのかな?
◇◇◇◇◇◇
俺の部屋に戻ると……いた。
ベッドが盛り上がっている。さらに、黒いネコミミが見えていた。
近づくと、ネコミミがパタンと閉じてしまう。
「ルミナ」
「…………」
お、ネコミミが片方だけ持ちあがったぞ。
よく見ると、ルミナは黒猫のぬいぐるみを抱いていた。
俺は手を伸ばし、ネコミミを優しく揉む。
「みゃ……」
「な、ルミナ。お前も言いたいこと、あるんじゃないか?」
「…………べつに」
「遠慮するなって。ココロはちゃんと話してくれたぞ? お前のすごさに嫉妬したって。それで、言いすぎたってな」
「…………ふん」
お、ネコミミが両方とも立った。
ルミナは半分だけ顔を見せる。やっぱり不機嫌なようだ。
「ルミナ。お前さ……本当に、ココロのこと嫌いか?」
「……べつに。あいつが頭いいのは認める。お前ほどじゃないけど」
「そりゃどうも。で、ルミナはどうしたい?」
「……うるさくしなければいい。あたい、勉強したいし」
「なら、もうちょっとだけココロの言うことも聞こうな。まずは……掃除手伝ったり、後片付けを綺麗にやるだけでいいからさ」
「…………ん」
ルミナは小さく頷き、ベッドへ潜り込む。
そして、俺に言う。
「早く寝るぞ」
「わかったわかった」
「ふん……早く撫でろ」
確かに、けっこうな時間になった。
俺は寝間着に着替え、ルミナを撫でながら眠りに付いた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
薬院に仕事へ向かうと、すでにココロが掃除をしていた。
さっそく俺も塵取りを手に取る。
すると、本を抱えたルミナが入ってきた。
「…………」
「みゃう…………」
互いに無言で見つめ合う。
ルミナは俺をチラッと見て、本を机に置き……なんと、箒を手に取った。
箒を片手に、掃き掃除を始めたのである。
「……!」
ココロは少し驚きつつ、ほんの少しだけ唇を嬉しそうに歪めた。
さて、塵取りは俺が持っているんだけど……ルミナにそのまま渡すか、あえてココロに渡すか。
二人を見ながら、俺は塵取りを弄んだ。
「ねこ……」
あっという間に、兄さんたちが帰る日になった。
荷物とお土産を積み込み、別れの挨拶をする。
俺は父上、母上、スサノオと別れの挨拶。シェリーは兄さんに抱き着いて甘え、ミュディはルナマリア義姉さんと抱擁している。
エクレールは、ミュアちゃんに抱き着いていた。
そして、顔を上げて言う。
「ねこ。いっしょに行こう? わたしとお友達になって、あっちで暮らそう」
「にゃ……」
エクレールは、ミュアちゃんと別れたくないようだ。
ルナマリア義姉さんがため息を吐き、エクレールを引き離そうとする。だが俺はそれを止めた。
訝しむルナマリア義姉さんに、俺は笑顔で頷く。
ミュアちゃんは、エクレールの頭を撫でながら言う。
「ごめんね。わたし、ご主人さまの銀猫だから、一緒には行けないの」
「ねこ……」
「でも、わたしはここにいるよ。いつでも遊びにきてね」
「……うん」
エクレールは頷いた。
まだ少し悲しそうだが、わかってくれたのかミュアちゃんから離れる。
たぶん、ミュアちゃんはこういうだろうと思った。
ミュアちゃん、エクレールたちの『お姉さん』みたいに振舞ってたからな。
すると、ミュアちゃんはネコミミをぴこぴこ動かす。
「そうだ! あのね、ネコミミのお友達を見つけるといいよ。エクレール、ネコミミ好きだしね」
「ねこみみ……うん! わかった。わたし、ネコミミのお友達探す! そして、一緒にここに来るね!」
「にゃう。待ってる!」
うーん。なんだか話が変な方向にいったような。
ルナマリア義姉さんが俺に耳打ちする。
「専属の侍女を付けようとは考えていたが……話の流れから、猫人のがいいのかもしれんな」
「そ、そうかも……」
「アシュト。スサノオはどうすればいいと思う?」
「え~……いや、スサノオはこだわらなくていいかもね」
ルナマリア義姉さんはウンウン頷いた。
こうして、兄さんたちの休暇は終わり、村の夏も終わった。
常夏セミの鳴き声が聞こえなくなると寂しくなるなんて思わなかったな。
今度は、いつ夏が来るのやら。
◇◇◇◇◇◇
夏が終わり、祭りも終わり……村には日常が戻ってきた。
今日は俺、ココロ、ルミナの三人で薬院の掃除をしている。
だが……やっぱりこの二人、仲がいまいちよくない。
「ルミナ! もう、サボらないでくださいっ!」
「…………」
ルミナはソファーで丸くなっている……まぁ、サボりだな。
俺は箱に入ってる診療記録を整理中。ココロは棚を掃除していたんだが……ルミナがソファーで休んでいるのをココロが見つけたのだ。
ココロの叫びをルミナは無視。あらら、ネコミミがパタンと閉じている。
「むむむぅ! 先生! ルミナがサボっています!」
「はいはい。ほらルミナ、もうちょっと頑張れ。もう少ししたらおやつにするから……ちなみに、おやつはクララベルが作ったリンゴタルトだぞ」
「……!」
お、ネコミミが片方だけ起き上った。
尻尾も揺れているし、おやつ効果は絶大だ。
ルミナは起き上り、窓ふきをするため雑巾を手に取る。
だが───今日は違った。
「ルミナ!! あなた、もう少し真面目にやりなさい!!」
「うるさい。ちゃんとやってる」
「先生もです!! 先生はこの子を甘やかしすぎです!!」
「す、すみません!!」
ココロは怒っていた。
思わず敬語になる俺。するとルミナが。
「半人前のくせに。あたいより縫合や包帯の巻き方が上手くなってから言え」
「…………は?」
あ、これヤバいかも。
すると、ココロは持っていたハタキを投げた。
ルミナのネコミミもピンと立ち、尻尾が揺れる。
「知識は私のがずっと上です。バシリスク草とデルピネ草の違いもしらないくせに」
「もう知ってるし。ってかあたい、勉強はじめて二年も経過してない。おまえ、あたいより長生きしてるくせに縫合はできない、包帯も上手く巻けない。医師に向いてない」
「技術も大事ですけど知識はもっと大事です。技術だけの未熟者に言われたくないですね」
「一年後にはあたいのが物知りだな。あたい、お前なんかに負ける気しないし」
「ふん。その言葉、そっくり返しますよ」
「一年後っていうけど、今のお前は役立た「そ、そこまで!!」
俺は二人の間に割り込む……正直、めっちゃ怖い。
ルミナの頭を撫でながらココロの肩に手を置く。それくらい、二人の距離は近い。
やばいな、二人とも興奮してる。
もう掃除どころじゃないな……仕方ない。
「よし、今日はここまで。二人とも少し頭を冷やしてきなさい」
「先生。私……この子と一緒にいたくありません」
「あたいもヤダ。こいつむかつく」
「わかったわかった。今日は帰っていいから。ココロ、明日は休みだからゆっくりしてな」
「……はい」
「ルミナも、休んでいいからな」
「ふん」
ルミナはそっぽ向き、窓から出て行った。
ココロも、荷物を持って出て行った。
そして、残された俺。
「さーて……掃除の続きしますか」
俺は腕まくりし、掃除の続きを始めた。
◇◇◇◇◇◇
夕方になり、ようやく掃除が終わった。
一人じゃ絶対に無理だったけど……意外な奴が手伝ってくれた。
「いや~、働いたあとのお茶は美味しいわねぇ」
エルミナだ。
酒瓶を踏んでスッ転んで後頭部を強打したとかで泣きながら薬院に来た。
小さなタンコブだけで特に異常なし。
大丈夫そうなので掃除を手伝ってもらったのだ。
「忙しかったから聞けなかったけど、なんで一人で掃除してんの?」
「いろいろあったんだよ……な、相談していいか?」
「いいわよ。あ、でもここじゃアレだし、バーで話聞いてあげる!」
「お前、酒飲みたいだけだろ……」
「いいでしょ別に! それと、相談なら年長者のがいいでしょ。話を聞くのが上手いやついるから、そいつも連れて行くから」
「あんまり広めたくないんだけど」
「大丈夫。みんな口硬いし、二人だけだから」
「……わかった」
浴場で汗を流し、夕飯を食べた俺は、屋敷に備え付けのバーへ行く。
ドアを開けると、銀猫のミリアリアがグラスを磨いていた。
カウンターではなくテーブルに座ると、ウェルカムドリンクが出てきた。
綺麗な桃色のカクテル……さっぱりした甘さが何ともいえない。
おつまみは、ストーンダイの酢漬け。ん~うまい!
「やっほー、来たわよー……って、もう飲んでるし! アシュトずるい!」
「うるさいな。いいから座れ……って、アウグストさんとグラッドさん? エルミナ、お前が言ってた話を聞くのが上手い人って」
「もちろん。この二人よ」
「なんじゃ? よくわからんが、エルミナに連れてこられたんじゃ」
「叔父貴。何やら大事な話があるって聞きやして」
「ま、まぁ座ってください。ミリアリア、注文を」
テーブルに座り、さっそく注文を取る。
エルミナはセントウ酒。グラッドさんはヒュンケル兄が大量に持ってきた『ウェッカ』という滅茶苦茶キツイお酒をロックで。アウグストさんも同じのを頼んだ。
俺は……オレンジカクテル。あまり酔うと話せなくなるしな。
おつまみはチコレート、各種魚料理、焼いた肉などだ。
「じゃ、かんぱいっ!」
「乾杯」
「乾杯! ははは、村長と飲むのは久しぶりじゃな。おかわり」
「叔父貴、いただきやす───おかわりを」
エルダードワーフのアウグストさん、サラマンダー族のグラッドさんにとって、ウェッカは水と変わらないらしい……俺なんて、一口飲んでダメだった。マジで火を噴けるかと思った。
エルミナはセントウ酒をグイっと飲み干し、おかわりを注文した。
「ッぷっはぁ!! あぁおいしいぃ~~っ!!」
「あのさ、俺の相談のこと忘れてないよな?」
「当たり前でしょ! あ、そこのチコレート取って」
「……ほれ」
なんか、エルミナはダメな気がしてきた。
アウグストさんは、ストーンダイの刺身を食べながら言う。
「んで、なんか相談があるんだって?」
「はい。実は……ルミナとココロのことで」
「んあぁぁ? わたしぃ?」
「お前じゃねぇし。ルミナな、ルミナ……っていうか、お前もう酔ってんのかよ」
エルミナはもう放っておこう。
アウグストさんはウェッカを飲み、続きを促す。
俺は、今日会ったことを説明した。
話を聞くと、グラッドさんが言う。
「なるほど。アヤつけちまったんですかい」
「え? え、ええ……はい」
アヤつけるってなんだろうか。
とりあえず頷く。
アウグストさんは、おかわりのウェッカを注文して言う。
「なるほどなぁ。知識は未熟だが技術のあるルミナと、技術不足だが知識はあるココロのお嬢ちゃんか」
「互いを補えればいいんですけど、喧嘩ばかりで……」
「どっちかがイモ引くってわけにゃあいかないんですかね」
「い、芋? えっと……たぶん」
前から思ってたけど、グラッドさんの専門用語よくわからん。
「喧嘩まくってんなら止めた方がいいですね。ルミナ嬢、見てくれは小さな猫族ですが、ありゃ相当修羅場慣れしてやすぜ」
「え、ええ……そこまではいかないと思いますけど」
悪いが、グラッドさんもあまりアテにならない。
専門用語多すぎて会話疲れる……ゴロまくってなんだよ。
頼みはアウグストさんだけ。
「わかってんのは、どっちも素直じゃねぇってこった」
「え……?」
「互いを補い合うほど、お互いを知らねぇんだろ。些細なことでぶつかっちまうのはしょうがあんめぇ。こればっかりは時間をかけねぇとな」
「一緒に過ごす時間は多いと思いますけど……」
「じゃ、足りてねぇんだろ。ま、ほっといても平気だと思うぜ」
「そうかなー……」
「ははは。村長にできるのは、互いのケアだな。二人の話をちゃぁんと聞いてやりな」
「アウグストさん……」
やはり、アウグストさんは頼りになる。
フルーツ盛り合わせをガツガツ食べるエルミナはもういい。グラッドさんは時と場合による頼もしさなだけに、今回はちょっと仕方ない。
よし。明日も仕事あるし……ちょっと行ってみるか。
「あとは好きに飲んでてください。俺、ちょっと行ってきます」
「おう。がんばれよ」
「叔父貴、ごちになりやす!」
「あはは~! いってら~」
エルミナ……しばらく、お前に相談するのやめておくよ。
◇◇◇◇◇◇
最初に向かったのは、ココロの家だ。
薬院からほど近い二階建ての家で、一階は生活スペースで、二階は勉強する部屋らしい。
ドアをノックすると、ドア越しにココロの声が。
『……はい』
「俺。アシュトだけど、ちょっといいか?」
『せ、先生? あ、ちょっと待ってください』
待つこと数分、ドアが開く。
しっとりしたココロが出迎えてくれた。風呂上りなのか、薄手の寝間着姿だ。
うむむ……薄手だからか、身体のラインがなんとなくわかってしまう。前から思ってたけど、ココロ……エルミナより胸大きいかも、って何考えてる俺は!!
「あの、先生?」
「あ、ああごめん」
「どうぞ。散らかってますけど……今、お茶いれますね」
ココロが淹れてくれたのは、自分で作った薬草茶だ。
ほんのり甘くて渋い。寝る前に飲むとよく寝れそうだ。
ココロは、俺が来た理由を察していた。
「ルミナの件、ですよね」
「あー……まぁ、ね」
ココロは「はぁ~」とため息を吐いた。
「ついカッとなって言っちゃいましたけど……ルミナはすごいと思います。縫合の技術も、包帯の巻き方も、的確で早いです。わかってるんです。わかってるんですけど……私よりも小さな子が、あんなにも上手に包帯を巻くのを見て、嫉妬しちゃって」
「ルミナはさ、ずっと俺の手伝いをしてたから。間違いなく、これからココロも上手くなるよ」
「はい。それと、言いすぎました。私……謝らないと」
「うん。そうだね」
「はい……」
お茶を飲み干し、俺は立ち上がる。
「ココロ、また明日な」
「はい。先生……ありがとうございました」
ココロはペコリと頭を下げた。
さて、こっちはもう大丈夫……不機嫌な黒猫は、どこにいったのかな?
◇◇◇◇◇◇
俺の部屋に戻ると……いた。
ベッドが盛り上がっている。さらに、黒いネコミミが見えていた。
近づくと、ネコミミがパタンと閉じてしまう。
「ルミナ」
「…………」
お、ネコミミが片方だけ持ちあがったぞ。
よく見ると、ルミナは黒猫のぬいぐるみを抱いていた。
俺は手を伸ばし、ネコミミを優しく揉む。
「みゃ……」
「な、ルミナ。お前も言いたいこと、あるんじゃないか?」
「…………べつに」
「遠慮するなって。ココロはちゃんと話してくれたぞ? お前のすごさに嫉妬したって。それで、言いすぎたってな」
「…………ふん」
お、ネコミミが両方とも立った。
ルミナは半分だけ顔を見せる。やっぱり不機嫌なようだ。
「ルミナ。お前さ……本当に、ココロのこと嫌いか?」
「……べつに。あいつが頭いいのは認める。お前ほどじゃないけど」
「そりゃどうも。で、ルミナはどうしたい?」
「……うるさくしなければいい。あたい、勉強したいし」
「なら、もうちょっとだけココロの言うことも聞こうな。まずは……掃除手伝ったり、後片付けを綺麗にやるだけでいいからさ」
「…………ん」
ルミナは小さく頷き、ベッドへ潜り込む。
そして、俺に言う。
「早く寝るぞ」
「わかったわかった」
「ふん……早く撫でろ」
確かに、けっこうな時間になった。
俺は寝間着に着替え、ルミナを撫でながら眠りに付いた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
薬院に仕事へ向かうと、すでにココロが掃除をしていた。
さっそく俺も塵取りを手に取る。
すると、本を抱えたルミナが入ってきた。
「…………」
「みゃう…………」
互いに無言で見つめ合う。
ルミナは俺をチラッと見て、本を机に置き……なんと、箒を手に取った。
箒を片手に、掃き掃除を始めたのである。
「……!」
ココロは少し驚きつつ、ほんの少しだけ唇を嬉しそうに歪めた。
さて、塵取りは俺が持っているんだけど……ルミナにそのまま渡すか、あえてココロに渡すか。
二人を見ながら、俺は塵取りを弄んだ。
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