大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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秋の訪れ

第604話、芸術の秋

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 ある日。俺はエルミナ、シロの二人と一匹で村を散歩していた。
 季節は秋……でも、葉っぱが散り始め、緑色の葉がまた生え始めている。秋の次は冬なんだけど、冬は三年に一度だから、また春が来るんだよなぁ。
 エルミナは、焼き芋を食べながら言う。

「秋も終わりねー」
「だな。夏が来て、秋になって、秋が終わってまた春が来る……」
「夏もいきなり来るし、ハイエルフでも到来が読めないのよ。はむっ……まぁ、春は春で気持ちいいし、好きだけどねぇ」
『くぅん』

 エルミナは焼き芋を美味しそうに食べる。シロは気になるのか鳴く。
 この焼き芋、農園でメージュたちが焼いていたのをもらったんだよな。俺はお昼食べたばかりだったから遠慮したけど、エルミナはすでに二個目を食べていた。
 その二個目を完食し、思い出したように言う。

「そういやさ、おじいちゃんが言ってた。秋は芸術の季節だって」
「芸術?」
「うん。木彫り作ったり、絵を描いたり、詩を書いたり、音楽を奏でたり……アシュト、なんかできる?」
「そうだな……木彫りはやったことないし、音楽も無理、詩集とかたまに読むくらい。絵は……薬草の絵を描いたりしてるから、けっこう得意かも」
「じゃ、芸術やろっか」
「……は?」
「秋も終わりが近いし、芸術を堪能しましょ、ってこと。ほら行くわよ」
「お、おい。どこへ」
『わんっ』

 エルミナに連れられ向かったのは、エルダードワーフの工房だ。
 鍛冶場以外にこんな工房あったんだ。

「ここ、細工物を作ったりする専門の工房なんだって。ほら見て」
「うおっ……すっげぇ」

 スライムガラスケースの中に、超精巧な龍のスライム細工が飾られていた。
 すげぇ……鱗一枚一枚ちゃんと張ってあるし、爪や牙の材質もなんか違う。すごすぎて俺の貧相な感想じゃすごさが伝わらんけど……とにかくすごい。
 すると、工房奥からアウグストさんが出てきた。

「なんじゃ、エルミナか。それに村長も、何か用かの?」
「こんにちは。ここ、アウグストさんの工房だったんですね」
「そうじゃ。もともと住んでた家を引き払って、工房兼寝床にしたんじゃ」
「アウグスト、芸術をやるから付き合って!」
「……は?」

 言葉足らずのエルミナ。
 俺が補足する。つまり、秋は芸術の季節だから、秋っぽいことをしたい。だからアウグストさんに声をかけた……で、いいんだよな。
 アウグストさんはゲラゲラ笑った。

「かっかっか。芸術の秋ねぇ……確かに、そんな話も聞いたことがある。まぁいい、ワシも付き合うかの」

 アウグストさんは、大きなカバンを背負う。

「で、どこに行くんじゃ?」
「そうね。森に入って何か探そう!」
「曖昧すぎだろ……」
「ハイエルフは森の民よ。木々を拾って加工したり、綺麗な花をスケッチしたり、できることはいろいろあるのよ」
「ふん、面白そうじゃな。村長、今日一日くらいエルミナに付き合ってもいいじゃろ」
「まぁそうですね。あ、護衛付けないと」

 いちおう、村の外に出る場合は三人以上か護衛を連れて出るって決まりがある。俺等は三人いるけど……戦力的に、頼りになる人が欲しい。
 すると、本を抱えたキリンジくんが通りかかった。

「あ、キリンジくん」
「村長、エルミナさん、アウグストさん。お疲れ様です」

 キリンジくんはぺこりと頭を下げる。
 
「村長たち、おでかけですか?」
「うん。えーと……芸術を探しに」
「……え?」

 だよな、そういう反応だよな。
 簡易説明すると、キリンジくんは納得してくれた。

「なるほど。森ですか……面白そうですね」
「じゃ、アンタも行く? ふふ、楽しいわよ」
「では……お邪魔じゃなければ」

 というわけで、キリンジくんも一緒に森へ行くことになった。

 ◇◇◇◇◇◇

 村近くの森。
 何度か踏み込んだ形跡があり、誰かがよく通っているようだ。
 キリンジくんが周囲を確認し、大きな倒木を持参した巨大鉈で輪切りにして並べる。

「これに座ってください。椅子とテーブルの代わりにしましょう」
「わお、気が利くじゃん! あんがとね」

 丸太のテーブルに大きな水筒やバスケットを置く。これ、タヌスケ商店で買ったおやつと飲み物だ。
 アウグストさんもカバンを置き、中からノミやハンマーを取り出す。

「さて、森の中で木彫りっちゅうんも悪くないな。キリンジ、おめぇもどうだ?」
「いいですね。でもオレ、あんまり細かいのは……」
「気にすんな。誰かに見せて評価してもらうわけじゃねぇし、好きなようにやればいい」
「……じゃあ、道具お借りします」

 二人は木彫り、彫刻か。
 俺は近くに咲いていた花のスケッチでもするか。
 エルミナは……お、いた。

「エルミナ、お前は何をするんだ?」
「ふっふっふ。まぁできてからのお楽しみ」
「なんだそれ……?」

 エルミナは、シロを連れてどこかへ行ってしまった。

「あまり森の奥に行くなよー!」
「村長、この周囲に魔獣はいないので大丈夫ですよ」
「そうか……まぁ、シロもいるし大丈夫か」

 シロ、また少し大きくなったんだよな。
 大型犬より少し大きいくらい。まだギリギリ抱っこできるが重い。
 さて、俺も久しぶりにスケッチするか。

 ◇◇◇◇◇◇

 目的のない花のスケッチも、のめり込むとけっこう楽しいな。
 近くでは木彫りの音が聞こえる。筆を止めてそちらを見ると、椅子に座って何かの像を作るアウグストさんと、意外にも小さな木彫りを作るキリンジくんがいた。
 何を作ってるのかは、後のお楽しみにしておこう。
 すると、シロが俺の足下へ来て丸くなった。
 
『わん!』
「お、シロ。エルミナは?」
『くーん……』

 お、いた。
 テーブルで何かを作っている。覗こうと思ったがやめた。けっこう集中してるみたいだし、完成したら見れるから別にいいや。
 そして、俺も本気でスケッチし、完成。
 
「うん。なかなか上手く描けたぞ」

 自分でいうのも何だが、かなりリアルに描けた。
 花弁のシワ、茎の節、葉脈も丁寧に描きこんだ。長年、植物のスケッチをしているから植物に関しての絵はそこそこ自信がある。
 キリンジくん、アウグストさんの元へ行き、絵を見せた。

「ほ、上手いじゃねぇか。村長」
「すごい、画家みたいですね!」
「いやいやそんな。あはは」

 自信があっただけに、褒められると照れるな。
 この絵、額に入れて屋敷の図書室にでも飾ろうかな……ふふふ。
 と、ここで俺はアウグストさんとキリンジくんの作品を見た。

「アウグストさんのは……なんですか? 神像ですか?」
「ああ」

 アウグストさんのは、神様の木像だ。
 だが、俺は見たことがない神様だ。腕は八本あり、頭は三つある。身体には鎧を付け、手にはそれぞれ剣や槍などの武器を持っていた。
 エルダードワーフの作品というだけあり、かなり精巧な作りだ。
 アウグストさんは言う。

「思い付きで掘った空想の神様だ。ま、適当に考えた神様だが、こんなのがいてもいいだろ」
「これ、アウグストさんが考えた神様ですか?」
「ああ。戦いの神ってとこか。腕が八本あればいっぱい武器持てるし、強そうだしな。安直だが、こういうのも悪くねぇだろ」

 確かに、なんか面白いな。
 植物を司る神様だったら、全身に蔦が巻かれていたり、葉っぱの服を着ていたり……んー、考えるのけっこう楽しいかもしれない。
 キリンジくんは、小さな……って、今気づいた。

「オレ、鉄鉱石を加工して鳥を作ってみました。いちおう、紐を通せるように穴をあけてみました。エイラにあげたら喜ぶかなって」

 キリンジくん……木彫りじゃなくて、鉄鉱石を掘ってた。
 いや、鉄鉱石って掘る物なのかな。よく見るとナイフはオリハルコン製で、これで丁寧に掘っていたようだ。俺だったら指が疲れて途中でギブしてたぞ……指の力、とんでもないな。
 アウグストさんは、カバンから編み紐を取り出しキリンジくんに渡す。キリンジくんは、紐を通し、首飾りのようにして目の前でぶら下げる。

「うん。エイラちゃんもきっと喜ぶよ」
「はい。へへ……」
「妹想いじゃなぁ。感心感心」

 ほっこりしていると、ようやくエルミナが戻ってきた。

「完成!! これが私の芸術よっ!! じゃじゃーんっ!!」

 エルミナが見せたのは、首飾りだ。
 首飾りといっても、普通の首飾りじゃない。
 綺麗な石、木のみ、動物の骨などを加工して紐に通してある。
 すごいな、このまま売れそうなくらい精巧に作ってある。そういえばエルミナ、手先が器用だったっけ。

「石は落ちてた綺麗なものを風魔法で加工して、動物の骨は落ちてたのを洗って使ったわ。木の実は硬いペコの実を使って、紐はアカシャの木の蔦を使って作ったの。どうどう? ぜんぶ森の素材だけで作ったのよ!」
「すごい。さすがエルミナだな」
「エルミナさん、すごいです!」
「こりゃ驚いたぜ……ハイエルフの装飾品はこうやって作られるんだな」

 俺、キリンジくん、アウグストさんも驚いていた。
 ちなみに、落ちていた骨の一部をシロが齧っていた。
 しばし、それぞれの作品を鑑賞……うーん、なんか芸術っぽいな。

「うんうん、芸術の秋ねぇ」
「うーん……よくわからんけど。でも、楽しいな」

 エルミナは俺の絵を様々な角度で見て「アシュト、やっぱ絵がうまいわねー」なんて言ってた。褒められるとうあっぱり嬉しいな。
 俺はこっそりアウグストさんに言う。

「アウグストさん、後で額縁お願いします……」
「かっかっか。任せておけ」

 こうして、俺の書いた絵は屋敷の図書室へ飾られた。
 エルミナのネックレスも俺の部屋に飾ってある。エルミナ曰く、身につける物とそうでない装飾品があるらしく、エルミナが作ったネックレスは観賞用らしい。
 エルミナは『芸術の秋』を満喫したようだ。
 俺は、薬院でココロに指導をしながら外を見た。

「秋も終わりだなー……」

 あれだけの紅葉が、ほとんど緑色の葉に戻っていた。
 間もなく秋が終わり、春に戻る。
 普通は秋の次は冬だけど、ここはオーベルシュタイン……季節の流れがまるで違う。
 窓から外を見ていると、ココロが隣に来た。

「先生、ドラゴンが飛んでますよ」
「お、ホントだ。あれは……シェリーとアヴァロンかな?」
「みゃう、あたいも見る」

 ソファに座っていたルミナが身体をねじ込んできた。
 俺はルミナの頭を撫で、二人に聞く。

「な、秋が終わるけど……どうだった?」
「そうですねぇ……不思議な秋でした。イベントも多かったし、楽しかったです」
「みゃう。サツマイモ、また食べたい」

 食欲の秋、読書の秋、芸術の秋。
 いっぱい食べ、いっぱい勉強して、芸術を満喫した。
 気まぐれな夏と秋は、またいつかやってくるだろう。
 秋が終わり、春になったら───何をしようかな。

「さて、貰い物のサツマイモも残り少ないし、みんなで食べるか」
「やったぁ!」
「みゃう。焼き芋にするぞ」

 さぁて、シルメリアさんにサツマイモをもらいに行こう!
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