大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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日常編⑳

第605話、水を浴びれば風邪を引く

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 秋が終わり、春がやってきた……やってきたというか、戻ってきたというか。
 カラフルに色づいた葉はすっかり緑色になり、肌寒い風や弱い日差しもすっかり元通り。過ごしやすい気温、太陽の暖かさが心地いい。
 俺は、ココロとルミナ、マンドレイクとアルラウネを連れて温室にやってきた。

「さ、温かくなってきたし、薬草を植えよう」
「はい!」
「ん」
「まんどれーいく」
「あるらうねーっ」

 夏前に育てておいた薬草の苗をズラーっと並べる。
 薬草は温度に敏感だ。なので、夏前に温室の薬草を全て収穫しておいた。苗は屋敷の地下で育てて、秋が過ぎて春が戻ってきたら植えようと計画していたのだ。
 俺の温室のほかに、ココロの温室も同じようにしている。まずは俺の温室に薬草を植え、その後でココロの温室に薬草を植えるのだ。
 ココロは、薬草の苗をジーっと見ていた。

「オーベルシュタインの薬草……何度も見ていますけど、不思議ですね。わたし、エルフ族が使う薬草はかなり覚えている方なんですけど、オーベルシュタインの薬草は知らないのばかりです」
「俺も同じだよ。ここに来てから、いろいろ調べてるけど……まだまだ知らない薬草ばかりだ。例えばこれ」

 俺は細く枝分かれした苗を手に取り見せる。

「これはライコウっていう薬草。葉の分かれ方が雷みたいに見えるからそう名付けられたんだ」
「まんどれーいく」「あるらうねー」
「ライコウ、ですか。黄色い葉なんですね」
「解熱剤として使えるんだけど、単品だと効果が高すぎて低体温症を引き起こす。内臓の炎症を押さえるのに少量服用する。あと、湿布薬の成分にもなる」
「おい、話はいいからさっさと植えるぞ」

 ルミナが尻尾で地面をパシッと叩いた。
 すまんすまん。こういうの語ると止まらなくなるんだよね。
 魔法で畝を作り、四人並んで植えていく。

「ルミナ、そこはトウキを植えて。マンドレイクとアルラウネ、そこにライコウを。ココロはサイコの苗をそこに。植えたら立札を」

 俺はパラライソウ、ポイズンソウの苗を丁寧に植える。
 立札を立てて完成……やっぱり、温室に薬草が植えてあると見栄えがいい。
 マンドレイクとアルラウネがウッドを連れてきた。

『ヤクソウ、イッパイ!』
「ああ。ウッド、水をいっぱいあげてくれ」
『マカセロー!』

 ウッドは両手から根を伸ばし、右手を水瓶へ、左手を温室の天井へ伸ばした。
 そして、右手が水瓶の水を吸い、天井へ張り巡らされた左手の根からシャワーのように水が降り注いだ。
 
「わわわわっ!?」
「みゃうぅっ!?」
「まんどれーいく!」「あるらうねーっ!」
「しまった、久しぶりだから忘れてたっ!?」

 ウッドのシャワーを浴びた俺たちは、ずぶ濡れになってしまった。
 久しぶりだから忘れてた。ウッドに水やりをお願いする場合、温室の外にいなくちゃダメなんだった。
 ずぶ濡れで外へ出て、俺たちは笑った。

「あっはっは。いやー……濡れたなぁ」
「うう、びちょびちょです……でも、なんか気持ちいいです」
「ぶるるるっ」
「まんどれーいく!」「あるらうねーっ!」

 ルミナが身体を震わせ、水しぶきが飛ぶ。
 それを浴びたマンドレイクとアルラウネが喜んでいた。
 
「ココロ、とりあえず着替えてから再開しようか」
「はい……くちんっ」
「みゃう、風邪ひくぞ」

 とりあえず、ココロの温室は午後から始めるか。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ココロが風邪を引き、仕事を休むことになった。
 俺、ルミナは大丈夫だった。マンドレイクとアルラウネも……というか、あの二人は病気にならない。万能の霊薬エリクシールの素材だしな。
 うーん……なんとなく責任を感じてしまうな。

「なぁルミナ、ココロだけど……」
「ただの風邪だろ」

 そ、素っ気ない。
 すり鉢で薬草をすり潰し、水を加えて別の薬草を混ぜ、さらにすり潰す。
 一連の流れを見ていたが、ルミナは自然にこなしていた。もうすっかり薬作りが様になっている。
 俺は洗った包帯を丁寧に巻きながら言う。

「な、お昼過ぎたらココロのお見舞いに行かないか?」
「めんどくさい」
「頼むよ。クララベルの店でケーキ食べさせてやるからさ」
「!」

 お、ネコミミと尻尾が動いた。
 そして、仕方なさそうに言う。

「まぁ……様子見くらいならいいぞ。みゃう」
「よし決まり。シルメリアさんに頼んで、差し入れを作ってもらうか」
「みゃぁう。ケーキ、忘れるなよ」

 午前中の診察を終え、お昼を食べた。
 薬院のドアに『外出中』の札をかけ、シルメリアさんに作ってもらったおにぎりを持ってココロの家へ。
 ココロの家は、薬院からほど近い場所にある。
 ルミナと一緒にココロの家へ。ドアをノックすると、一人のハイエルフが出てきた。

「あれ、村長?」
「きみは確か……アイラ、だったかな」
「うん。ココロのお見舞いに来たんだ……って、村長も?」
「ああ」

 ハイエルフのアイラ。
 確か、エルミナたちよりも三千年ほど年下……それでも俺より遥かに年上のハイエルフだ。外見年齢は十六歳くらいで、村に来たばかりのココロをずっと気にしていたハイエルフだ。
 アイラは、俺とルミナを見てニヤリとする。

「村長、ココロなら寝てるよ。お昼の支度しようと思ってたけど、一緒に食べない?」
「いいのか? アイラがいるなら、俺たちはいらないかなーって思ったけど」
「いるいる。ほら、村長たちもご飯にしよっ」
「いや、俺たちは食べたし……」
「いいからっ!」

 アイラに背を押され、俺とルミナはココロの家の中へ。
 リビングに座り、アイラがお昼の支度を始めた。何を作るのかな?

「アイラ、何を作るんだ?」
「銀猫たちから教わった『おかゆ』だよー。これ、風邪ひいた時とか、食べやすくていいんだって」
「へぇ~」
「これに、食べやすくほぐした魚と、刻んだネギ、卵を入れて……完成!」
「みゃう……いい匂い。うまそう」
「ふふ、あなたも少し食べる? あと、あたしお昼食べてないからさ、村長のおにぎりもらうねっ」

 アイラ、意外とグイグイ来るな。
 おにぎりをアイラに渡し、俺は完成したおかゆを持って二階へ。ルミナはおかゆをもらい、満足そうに笑っていた……お昼食べたのによく食えるな。
 アイラが部屋のドアをノックする。

「ココロ、入っていい?」
『どうぞー……けほけほ』

 咳き込んでる……大丈夫かな。
 アイラがドアを開け、俺が最初に中へ入った。

「あ~……アイラ、背中お願いしていいですか? 届かなく───……え」
「え」

 ココロは、上半身裸で身体を拭いていた。
 しばし呆然……こ、ココロの裸を見てしまった。
 俺は顔を反らす。
 すると、アイラが俺の手からおかゆを奪い、そのまま蹴り飛ばすように部屋の外へ。
 
『はい背中ね、ほれほれ』
『い、今……先生がいたような? 幻覚でしょうか……?』
『そうかもね。ほら背中向けて』
『あの、そこにルミナがいませんか?』
『みゃう』
『幻覚だって。ほら背中向けて。ああ、村長は後で来るって』
『は、はい……うう、頭がボンヤリしますぅ』

 五分後、俺はアイラに呼ばれてようやく部屋の中へ。
 とりあえず……さっきの姿は忘れよう。

「よ、ココロ。調子はどうだ?」
「先生……風邪って辛いですぅ。頭がボンヤリするし、喉は痛いし、幻覚まで見えました」

 すまん、幻覚は俺のせいだ。
 ルミナはおかゆを食べ終え、俺の傍へ座る。
 
「…………」
「村長。女の子の部屋ジロジロ見回すのはダメだよ~?」
「あ、いや」

 しまった……つい。
 ココロの部屋は、観葉植物が多くあった。エルフだからなのか、木々に囲まれていた方が楽なのかな。ベッドも草色だし、カーテンやカーペットも緑色だ。部屋の中なのに、森の中にいるみたいだ。
 窓が開いているので、外の空気が入ってくる。
 さて、まずは……薬師としての仕事をしないとな。

「ココロ、ちょっと失礼」
「ふぇ?」
「熱……うん、高いな。心拍数も……うん。ココロ、口開けて」
「ふぁぁ」

 杖に光を灯し、喉を見る……んー、赤く腫れてる。
 完璧な風邪だ。水被って身体が冷えたせいかな。
 俺はカバンから風邪薬を取り出す。スライム製の小瓶に丸薬が入っている。
 それを二粒取り出し、ココロへ渡した。

「風邪薬だ。朝晩、食後に飲むように。それと、水は多めに飲んで、汗を掻いたらちゃんと着替えること。アイラ、帰る前にベッドシーツを交換してやってくれ」
「はーい。あと、あたし今日は泊まるんで!」
「そっか。じゃあお前は手洗いうがいをちゃんとするように」
「ん、わかった」
「みゃう、もういいだろ」

 ルミナが俺の腕をクイクイ引く。
 けっこう長居したし、ルミナもケーキが食べたいようだ。
 ルミナは、ココロに言った。

「仕事、あたいがいるから。お前は休んでろ」
「……はい。お願いしますね、ルミナ」
「ん」

 それだけ言い、ルミナは部屋を出た。
 ふふ、ちゃんと心配しているんだな。
 
「アイラ、後はよろしくな。何かあったら俺のところへ来てくれ」
「わかった。あとはお任せっ!」
「じゃあココロ、お大事に」
「はい……先生、ありがとうございました」

 ココロは力なく笑った。あとはアイラに任せておこう。

 ◇◇◇◇◇◇

 それから、三日間ココロは休んだ。
 薬院の外では、ウッドがしょんぼり項垂れている。

『ウウ……ボクノセイデ、ココロガ』
「ウッド、もう気にするなって。ココロはもう元気だし、明日からまた来るからさ」
『アシュト……』

 俺は、自分で作った植物用栄養剤をカップに入れ、ストローを差してウッドに渡す。
 ウッドにとってのジュースみたいなものだ。普通のジュースもゴクゴク飲むけど、やっぱり植物なので栄養剤が大好きなのだけど。
 ウッドは栄養剤をチューチュー飲む。

「ウッド、飲み終わったら畑に行ってもらっていいか? メージュたちが、畑に水を撒いてほしいって」
『ワカッタ! ネ、アシュト……ココロ、アシタハクル?』
「ああ、来るぞ」
『ジャア、アシタチャントアヤマルネ』
「うん、そうしておけ」

 当然だが、ココロはウッドのせいだなんて思っていない。
 ウッドは栄養剤を飲み干すと、畑に向かって走り出した。
 すると、ルミナが本を抱えて薬院に戻ってきた……頭に、数人のハイピクシーたちを乗せて。

「みゃう、降りろ」
『ありがと、ルミナ』
『ありがとねー』
『あ、アシュト!』
「フィル? なんでルミナの頭の上に?」

 ハイピクシーのフィルは、ルミナの頭から俺の肩に止まる。

『ルミナはわたしたちのお友達だからね。わたしたちが乗るのはお友達だけなの』
「そうなのか? 初めて知ったぞ」
『えへへ。もちろん、アシュトもだよ?』
「そりゃうれしいな。さて、せっかく来たしお茶でも飲んでいくか? お菓子もあるぞ」
『やったぁ! みんな、お菓子だって!』

 フィルが言うと、ハイピクシーたちがルミナの頭の上でワイワイ騒ぐ。ルミナはネコミミをパタパタさせてハイピクシーたちに抗議するが、ハイピクシーたちはそれすら楽しんでいた。
 そして、俺の元へ。

「おい、お菓子食べるぞ」
「あ、ああ。っぷ……ふふ、可愛いな」
「……」

 ルミナは頭にハイピクシーたちを乗せたまま、薬院の中へ入った。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ココロが薬院に来た。出迎えたウッドは大喜びしてる。

『ココロ! ゴメンネ、ボクノセイデ……』
「ぜんぜん気にしてないですよ! それに、濡れてすぐに着替えなかった私が悪いんです。ウッドくん、これからも私の温室に、シャワーをお願いしますね」
『ココロ……ウン! ボクニマカセロー!』
「ふふ、よろしくお願いしますね」

 ウッドは胸をドンと叩き、力強く頷いた。
 
「先生、ご迷惑をおかけしました」
「気にするなって。俺もココロには助けられてるし、お互い様だ」
「はい。あの、その……これ、お礼です」
「え?」
「その、私が育てたハーブを使ったお茶と、ハーブを練り込んだクッキーです。先生とルミナに……その、どうぞ」
「そんな、気を遣ってもらって悪いな」
「みゃう。お菓子」
「待て待て。今日のおやつの時間に食べよう」
「みゃうー」

 ココロは、無事に復活した。
 それにしても、風邪か……季節の変わり目は体調を崩しやすいし、風邪薬や栄養剤の備蓄を増やしておかないとな。予想だけど、風邪を引く人はまだいそうだ。

「さーて。今日も一日頑張るか」
「はい!」
「みゃあ」

 俺たちは薬院の中へ。
 よーし、今日も一日頑張ろう!
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