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日常編⑳
第606話、クララベルとレイチ
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ある日、クララベルは悩んでいた。
「ん~~~……」
自室で、ノートを広げて何やら書き込んでいる。書き込んでは消し、書き込んでは消してを繰り返し、ノートはボロボロになっていた。
ペンを口に加え、机に突っ伏すクララベル。口を動かすと、ペンがゆらゆら揺れた。
行儀が悪いと言われそうだが、今は一人なので文句を言う人は誰もいない。
クララベルはペンを手に取り、くるくると器用に回す。
「思いつかないなぁ……新作レシピ」
悩みの理由は、新作お菓子のアイデアだ。
夏はスイカ、秋はサツマイモを使ってお菓子を作った。夏と秋が過ぎ、また春がやってきた。それに合わせてお菓子を作ろうと思ったのだが、何もアイデアが出てこない。
せっかく、宿題も終わって仕事も休みなのに、時間がもったいない。
アシュトもローレライも仕事。シェリーは魔法学園。エルミナはミュディを連れて釣りに行ってしまい、クララベルは一人だ。
ランスローも、メージュと一緒に出掛けてしまった。相談する相手がいない。
「はぁ~……お散歩でもしてこよっと」
クララベルは立ち上がり、背伸びをする。
ずっと座って考え込んでいたおかげで、肩が凝っていた。
首をコキコキ鳴らし、腕を回してコリを取る。
「よーし! 図書館にいる姉さまのところに行こっ」
クララベルは、ローレライのいる図書館へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
図書館は、すごく混んでいた。
「わわ、いっぱい……なんだろ。あ、ゴーヴァン!」
「これはこれはクララベル様」
ローレライの騎士、ゴーヴァンだ。
エプロン姿で、忙しそうに動き回っている。
どんなに忙しくても、クララベルに声を掛けられたからには立ち止まり一礼する。
クララベルは、図書館を見回し聞いてみた。
「なんか忙しそうだね。いつもこんなに混んでたっけ?」
「いえ。今日は、製糸場や農園がお休みなので、そこに務める天使族や悪魔族が皆、この図書館を利用しに来たのですよ」
「そうなんだー……姉さま、忙しい?」
「ええ。休む間もなく働いておられます」
収穫、作物の選別や納品を終わり、農園は数日お休み。
製糸場も、納品を終えて休み。この二つの休みが重なり、大勢が図書館を利用しているのだ。クララベルは気付いていないが、タヌスケ商店や浴場なども賑わっている。
すると、忙しそうに本を運ぶローレライがいた。クララベルには気付いていない。
「忙しそう……ゴーヴァン、邪魔してごめんね」
「いえいえ。あの、ローレライ様に何かお伝えしましょうか?」
「ん-ん。だいじょうぶ。お仕事がんばってね」
そう言って、クララベルは図書館を出た。
本を読まないのに長居しては仕事の邪魔になるだろう。
クララベルは、村を歩きながら考える。
「お店も混んでるだろうな……お風呂も混んでるだろうし、ごはん処も」
大衆食堂の前を通りかかったが、やはり混んでいた。
今日はどこもかしこも人が多い。村が賑わっているのはいいことだ。
でも、なんとなくのんびりしたいクララベル。
「そうだ。川でのんびりしよっと」
村を流れる川の傍には、東屋が建っている。
夏の間は人気の場所だったが、今は村外れということもありあまり人がいない。
クララベルのいる場所からなら、解体場を通る方が速い。
解体場も、クララベルはあまり近寄らない。せっかくなので通ってみることにした。
◇◇◇◇◇◇
解体場では、巨大な牛の魔獣を解体するデーモンオーガ一家がいた。
巨大な鉈で首を切断し、ツノを切り、内臓を取り出す。内臓は壺に入れておくと、銀猫たちが回収して丁寧に下処理し、牛ホルモンとして振舞われる。
なんとなく解体を眺めていると、バルギルドがクララベルに気が付いた。
目が合い、バルギルドが近づいてくる。
「む……何か用事か?」
「ん-ん。なんとなく見てたの」
「……何か、悩んでいるのか?」
「え」
さすがに驚いた。
確かに悩んでいたが、まさかバルギルドに気付かれるとは思っていなかった。
バルギルドは、クララベルを見て腕組みする。
「ねぇ、なんで悩んでるってわかったの?」
「うまく言えんが……眼でわかった」
「眼で?」
「ああ。憂いを帯びたような、迷いがあるような……すまん、やはり上手く言えん」
「あはは。すごいねー……あのね、バルギルドさん、相談していい?」
「オレにか? むぅ……アーモかネマ、ノーマのがいいかもしれん」
「頼りになる男の人に聞いてみたいの!」
「……村長はいいのか?」
「お兄ちゃん、今は忙しい……あ、忙しい? 邪魔してたらごめんね」
「構わん」
解体は、魔犬族の男子三人がメインでやっている。それにデーモンオーガ一家が手を貸すように解体をしている。このペースなら、十分もかからず終わるだろう。
クララベルは、バルギルドに新作レシピが思いつかないことを相談する。
「菓子か……」
「うん。バルギルドさん、お菓子とか食べる?」
「ああ。酒のつまみに少しな」
「んー……夏と秋はすぐにアイデア浮かんだけど、今はさっぱりなの」
「むぅ……待て、そういえば」
バルギルドは少し悩み、何かを思いついたように解体場の小屋へ。
それから、小さくゴツゴツした赤い実を持ってきた。
初めて見る実に、クララベルは首を傾げる。
「なに、これ?」
「先日、森に実っていた。表皮は硬くゴツゴツしているが、皮を剥くと……」
バルギルドは、ミスリル製のナイフで赤い実を二つに割る。
すると、真っ白で瑞々しい果肉が見えた。さらに、甘く食欲をそそる香りも。
クララベルは驚く。
「え、え、なにこれ」
「エイラが見つけた実だ。味は甘く独特な味で、そのうち村長に見せようと思っていた……食うか?」
「食べて大丈夫なの?」
「ああ。デーモンオーガに毒は効かないから検証できなかったが、魔犬の三人が美味い美味いといって食べていた。特に腹を壊すこともなかったし、大丈夫だろう」
「わぁ……じゃあ、食べてみる」
クララベルは、白い果肉を指ですくって食べてみた。
「ふわ……おいしいっ! これ、美味しいよ!」
「ふ……」
「わぁ、種もすっごく大きい……果肉はぷるぷる、食感も楽しい。ゼリーとかにしたらいいかな? 他にもいろいろ使えそう!」
「どうだ? アイデアは浮かんだか?」
「うん! ありがと、バルギルドさん! あの、この実もっとある?」
「ああ。いくつか収穫した。持っていけ」
「ありがと!」
クララベルは、赤い実を全て袋に入れた。
すると、デーモンオーガの青年ブランが、魔獣の骨をしゃぶりながら現れた。
「お、旦那にクララベル、何してんの? まさか旦那、こんな子供にぶひゃぁっ!?」
「では、失礼する」
「ありがと! お菓子できたら最初に食べてね」
「ああ、楽しみにしている」
殴られ地面にめり込んだブランを引っこ抜き、バルギルドは解体に戻った。
クララベルは、赤い実を一つ手に取り眺めてみる。
「これ、どんな名前かな? お兄ちゃんに聞いてみよっ」
クララベルは、悩みを忘れてアシュトの元へ走り出した。
◇◇◇◇◇◇
アシュトに赤い実を見せると、不思議そうにしていた。
「初めて見た。これ、食べ物……なのか?」
「うん。すっごく美味しかったよ! お兄ちゃん、調べてー」
「はいはい。どれ……」
アシュトは『緑龍の知識書』を開く。クララベルは真っ白なページにしか見えないが、アシュトは本を見ながら解説してくれた。
「これは『レイチ』っていう果物の実だな。大昔、『龍眼』って呼ばれる神聖な果物だったらしい。表皮は硬いけど皮を剥けば独特な甘みと風味で、位の高い人物しか食べられなかったみたいだ。主に、南の暖かい地域でしか採れないみたいだけど……ああ、夏が来たから育ったのか。種もあるし、育てられそうだ」
「レイチ……」
「ああ。昔は、ゼリーにして食べたみたいだ。クララベルなら作るの得意だろう?」
「うん!」
「あと、リキュール……お酒の原料にもなる。エルミナが喜びそうだ」
「お兄ちゃん、種植えれば木になる?」
「ああ。俺の魔法で育てられる……よし、やってみるか」
「やったぁ! えへへ、じゃあわたしはこれでゼリー作ってみるね」
「お、いいね。食べてみたいな」
「もちろん、お兄ちゃんにも食べてもらうね!」
クララベルは、レイチの実を抱えてキッチンへ。
キッチンでは、ミュアが洗い物をしていた。
「にゃあ。クララベルお姉ちゃん」
「ミュア! ちょうどよかった、お手伝いして!」
「にゃう?……それ、なぁに?」
「レイチの実。すっごくおいしいよ! これでゼリーを作ってみるね」
「にゃうー!」
ミュアはパッパと洗い物を終え、クララベルの手伝いに入った。
といっても、作るのは簡単だ。
レイチの実をほぐし、ゼラチンと砂糖を入れて煮詰め、少しだけお酒を入れて冷やし固めるだけ。
小分けにして冷蔵庫に入れ、二時間ほど待つことに。
待つ間、レイチの種を集めアシュトの元へ。アシュトは「どこに植えようかな……」と言って出て行った。
クララベルは、ミュアと一緒に二時間ほどお喋りして過ごす。
そして二時間後。ゼリーが完成した。
冷蔵庫から取り出し、さっそくミュアと試食する。
「にゃあ。なんか白いね」
「レイチゼリー……どんな味かな? じゃあ、いただきますっ」
「にゃうー」
スプーンで掬い、ぱくりと口の中へ。
すると───二人の顔が、一気にほころんだ。
「お、おいしぃぃっ……なにこれ、すごぉい」
「にゃあああ……すごくおいしい!」
レイチのゼリーは、すごく甘くておいしかった。
独特な甘さ、レイチならではの味。ゼリーによく合い、おやつにピッタリだ。食後のデザートにもなるし、少しお酒を多く入れれば、飲酒時のデザートにも最適だ。
これは大当たり。クララベルは、さっそくアシュトにも持っていく。
アシュトにゼリーを食べてもらうと、やはり大絶賛だった。
「これは美味いな!! レイチ……位の高い人物しか食べれないってのも納得だ。これが酒にもなるなんて……でも、風味とか、酒っぽい気がするな。これ、バーでデザートとして出すのもいいかも」
「お兄ちゃん、レイチの木、いっぱいよろしくね!」
「ああ。ウッドに増やしてもらおう」
「うん! あ、わたし、バルギルドさんに持って行かなきゃ」
「え、バルギルドさん?」
「うん。レイチ、バルギルドさんにもらったの」
クララベルは、レイチゼリーをバスケットに入れて解体場へ。
残ったレイチゼリーはミュアにあげた。マンドレイクとアルラウネ、ライラ、ルミナ、アセナとコルンなどにあげるそうだ。
解体場に行くと、デーモンオーガ一家はちょうど休憩をしていた。
「バルギルドさんっ!」
「む……」
「えへへ、これできたの。みんなで食べてっ」
「そうか……ありがとう」
クララベルがバスケットを開けると、レイチゼリーが現れた。
バルギルド以外はわけがわからず「?」と首を傾げるが、バルギルドとクララベルは笑っていた。
ブランは、ニヤニヤしながら言う。
「いやー、旦那が悩んでるクララベルに赤い実を渡してさ。優しい旦那のおかげでクララベルは「死にたいのか、貴様?」滅相もございません!!」
ブランは速攻で頭を下げた。
すると、シンハとエイラがゼリーに手を伸ばす。
「よくわかんねーけど、食っていいんでしょ? いただきっ」
「あ、わたしも食べるの!」
「あたしもいただきますっ! キリンジも、ほらほら」
「ああ、じゃあ……クララベルさん、いただきます」
デーモンオーガ一家は、満足そうにゼリーを食べていた。
クララベルは、改めてバルギルドに言う。
「バルギルドさん、レイチの実、ありがとう!」
「気にするな……」
「えへへ。あのね、お兄ちゃんが種を植えて増やしてくれるから、またゼリーを持ってくるね」
「ああ。期待している」
クララベルはもう一度お礼を言い、解体場を後にした。
バスケットの中には、まだ少しだけゼリーが残っている。
向かったのは、図書館。
ピークが過ぎたのか、中に人はあまりいない。
そして、たまたま歩いていたローレライと目が合った。
「あらクララベル、どうしたのかしら?」
「えへへ。姉さま、すっごくおいしいお菓子を作ってきたの! 一緒に食べよっ」
「仕方ないわね……さ、こっちにいらっしゃい」
「うん!」
クララベルの作ったレイチゼリーにローレライは大満足。ゴーヴァンにも食べさせ、食べられなかったランスローがゴーヴァン相手に愚痴を言いまくるのだが、それはまた別のお話。
「ん~~~……」
自室で、ノートを広げて何やら書き込んでいる。書き込んでは消し、書き込んでは消してを繰り返し、ノートはボロボロになっていた。
ペンを口に加え、机に突っ伏すクララベル。口を動かすと、ペンがゆらゆら揺れた。
行儀が悪いと言われそうだが、今は一人なので文句を言う人は誰もいない。
クララベルはペンを手に取り、くるくると器用に回す。
「思いつかないなぁ……新作レシピ」
悩みの理由は、新作お菓子のアイデアだ。
夏はスイカ、秋はサツマイモを使ってお菓子を作った。夏と秋が過ぎ、また春がやってきた。それに合わせてお菓子を作ろうと思ったのだが、何もアイデアが出てこない。
せっかく、宿題も終わって仕事も休みなのに、時間がもったいない。
アシュトもローレライも仕事。シェリーは魔法学園。エルミナはミュディを連れて釣りに行ってしまい、クララベルは一人だ。
ランスローも、メージュと一緒に出掛けてしまった。相談する相手がいない。
「はぁ~……お散歩でもしてこよっと」
クララベルは立ち上がり、背伸びをする。
ずっと座って考え込んでいたおかげで、肩が凝っていた。
首をコキコキ鳴らし、腕を回してコリを取る。
「よーし! 図書館にいる姉さまのところに行こっ」
クララベルは、ローレライのいる図書館へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
図書館は、すごく混んでいた。
「わわ、いっぱい……なんだろ。あ、ゴーヴァン!」
「これはこれはクララベル様」
ローレライの騎士、ゴーヴァンだ。
エプロン姿で、忙しそうに動き回っている。
どんなに忙しくても、クララベルに声を掛けられたからには立ち止まり一礼する。
クララベルは、図書館を見回し聞いてみた。
「なんか忙しそうだね。いつもこんなに混んでたっけ?」
「いえ。今日は、製糸場や農園がお休みなので、そこに務める天使族や悪魔族が皆、この図書館を利用しに来たのですよ」
「そうなんだー……姉さま、忙しい?」
「ええ。休む間もなく働いておられます」
収穫、作物の選別や納品を終わり、農園は数日お休み。
製糸場も、納品を終えて休み。この二つの休みが重なり、大勢が図書館を利用しているのだ。クララベルは気付いていないが、タヌスケ商店や浴場なども賑わっている。
すると、忙しそうに本を運ぶローレライがいた。クララベルには気付いていない。
「忙しそう……ゴーヴァン、邪魔してごめんね」
「いえいえ。あの、ローレライ様に何かお伝えしましょうか?」
「ん-ん。だいじょうぶ。お仕事がんばってね」
そう言って、クララベルは図書館を出た。
本を読まないのに長居しては仕事の邪魔になるだろう。
クララベルは、村を歩きながら考える。
「お店も混んでるだろうな……お風呂も混んでるだろうし、ごはん処も」
大衆食堂の前を通りかかったが、やはり混んでいた。
今日はどこもかしこも人が多い。村が賑わっているのはいいことだ。
でも、なんとなくのんびりしたいクララベル。
「そうだ。川でのんびりしよっと」
村を流れる川の傍には、東屋が建っている。
夏の間は人気の場所だったが、今は村外れということもありあまり人がいない。
クララベルのいる場所からなら、解体場を通る方が速い。
解体場も、クララベルはあまり近寄らない。せっかくなので通ってみることにした。
◇◇◇◇◇◇
解体場では、巨大な牛の魔獣を解体するデーモンオーガ一家がいた。
巨大な鉈で首を切断し、ツノを切り、内臓を取り出す。内臓は壺に入れておくと、銀猫たちが回収して丁寧に下処理し、牛ホルモンとして振舞われる。
なんとなく解体を眺めていると、バルギルドがクララベルに気が付いた。
目が合い、バルギルドが近づいてくる。
「む……何か用事か?」
「ん-ん。なんとなく見てたの」
「……何か、悩んでいるのか?」
「え」
さすがに驚いた。
確かに悩んでいたが、まさかバルギルドに気付かれるとは思っていなかった。
バルギルドは、クララベルを見て腕組みする。
「ねぇ、なんで悩んでるってわかったの?」
「うまく言えんが……眼でわかった」
「眼で?」
「ああ。憂いを帯びたような、迷いがあるような……すまん、やはり上手く言えん」
「あはは。すごいねー……あのね、バルギルドさん、相談していい?」
「オレにか? むぅ……アーモかネマ、ノーマのがいいかもしれん」
「頼りになる男の人に聞いてみたいの!」
「……村長はいいのか?」
「お兄ちゃん、今は忙しい……あ、忙しい? 邪魔してたらごめんね」
「構わん」
解体は、魔犬族の男子三人がメインでやっている。それにデーモンオーガ一家が手を貸すように解体をしている。このペースなら、十分もかからず終わるだろう。
クララベルは、バルギルドに新作レシピが思いつかないことを相談する。
「菓子か……」
「うん。バルギルドさん、お菓子とか食べる?」
「ああ。酒のつまみに少しな」
「んー……夏と秋はすぐにアイデア浮かんだけど、今はさっぱりなの」
「むぅ……待て、そういえば」
バルギルドは少し悩み、何かを思いついたように解体場の小屋へ。
それから、小さくゴツゴツした赤い実を持ってきた。
初めて見る実に、クララベルは首を傾げる。
「なに、これ?」
「先日、森に実っていた。表皮は硬くゴツゴツしているが、皮を剥くと……」
バルギルドは、ミスリル製のナイフで赤い実を二つに割る。
すると、真っ白で瑞々しい果肉が見えた。さらに、甘く食欲をそそる香りも。
クララベルは驚く。
「え、え、なにこれ」
「エイラが見つけた実だ。味は甘く独特な味で、そのうち村長に見せようと思っていた……食うか?」
「食べて大丈夫なの?」
「ああ。デーモンオーガに毒は効かないから検証できなかったが、魔犬の三人が美味い美味いといって食べていた。特に腹を壊すこともなかったし、大丈夫だろう」
「わぁ……じゃあ、食べてみる」
クララベルは、白い果肉を指ですくって食べてみた。
「ふわ……おいしいっ! これ、美味しいよ!」
「ふ……」
「わぁ、種もすっごく大きい……果肉はぷるぷる、食感も楽しい。ゼリーとかにしたらいいかな? 他にもいろいろ使えそう!」
「どうだ? アイデアは浮かんだか?」
「うん! ありがと、バルギルドさん! あの、この実もっとある?」
「ああ。いくつか収穫した。持っていけ」
「ありがと!」
クララベルは、赤い実を全て袋に入れた。
すると、デーモンオーガの青年ブランが、魔獣の骨をしゃぶりながら現れた。
「お、旦那にクララベル、何してんの? まさか旦那、こんな子供にぶひゃぁっ!?」
「では、失礼する」
「ありがと! お菓子できたら最初に食べてね」
「ああ、楽しみにしている」
殴られ地面にめり込んだブランを引っこ抜き、バルギルドは解体に戻った。
クララベルは、赤い実を一つ手に取り眺めてみる。
「これ、どんな名前かな? お兄ちゃんに聞いてみよっ」
クララベルは、悩みを忘れてアシュトの元へ走り出した。
◇◇◇◇◇◇
アシュトに赤い実を見せると、不思議そうにしていた。
「初めて見た。これ、食べ物……なのか?」
「うん。すっごく美味しかったよ! お兄ちゃん、調べてー」
「はいはい。どれ……」
アシュトは『緑龍の知識書』を開く。クララベルは真っ白なページにしか見えないが、アシュトは本を見ながら解説してくれた。
「これは『レイチ』っていう果物の実だな。大昔、『龍眼』って呼ばれる神聖な果物だったらしい。表皮は硬いけど皮を剥けば独特な甘みと風味で、位の高い人物しか食べられなかったみたいだ。主に、南の暖かい地域でしか採れないみたいだけど……ああ、夏が来たから育ったのか。種もあるし、育てられそうだ」
「レイチ……」
「ああ。昔は、ゼリーにして食べたみたいだ。クララベルなら作るの得意だろう?」
「うん!」
「あと、リキュール……お酒の原料にもなる。エルミナが喜びそうだ」
「お兄ちゃん、種植えれば木になる?」
「ああ。俺の魔法で育てられる……よし、やってみるか」
「やったぁ! えへへ、じゃあわたしはこれでゼリー作ってみるね」
「お、いいね。食べてみたいな」
「もちろん、お兄ちゃんにも食べてもらうね!」
クララベルは、レイチの実を抱えてキッチンへ。
キッチンでは、ミュアが洗い物をしていた。
「にゃあ。クララベルお姉ちゃん」
「ミュア! ちょうどよかった、お手伝いして!」
「にゃう?……それ、なぁに?」
「レイチの実。すっごくおいしいよ! これでゼリーを作ってみるね」
「にゃうー!」
ミュアはパッパと洗い物を終え、クララベルの手伝いに入った。
といっても、作るのは簡単だ。
レイチの実をほぐし、ゼラチンと砂糖を入れて煮詰め、少しだけお酒を入れて冷やし固めるだけ。
小分けにして冷蔵庫に入れ、二時間ほど待つことに。
待つ間、レイチの種を集めアシュトの元へ。アシュトは「どこに植えようかな……」と言って出て行った。
クララベルは、ミュアと一緒に二時間ほどお喋りして過ごす。
そして二時間後。ゼリーが完成した。
冷蔵庫から取り出し、さっそくミュアと試食する。
「にゃあ。なんか白いね」
「レイチゼリー……どんな味かな? じゃあ、いただきますっ」
「にゃうー」
スプーンで掬い、ぱくりと口の中へ。
すると───二人の顔が、一気にほころんだ。
「お、おいしぃぃっ……なにこれ、すごぉい」
「にゃあああ……すごくおいしい!」
レイチのゼリーは、すごく甘くておいしかった。
独特な甘さ、レイチならではの味。ゼリーによく合い、おやつにピッタリだ。食後のデザートにもなるし、少しお酒を多く入れれば、飲酒時のデザートにも最適だ。
これは大当たり。クララベルは、さっそくアシュトにも持っていく。
アシュトにゼリーを食べてもらうと、やはり大絶賛だった。
「これは美味いな!! レイチ……位の高い人物しか食べれないってのも納得だ。これが酒にもなるなんて……でも、風味とか、酒っぽい気がするな。これ、バーでデザートとして出すのもいいかも」
「お兄ちゃん、レイチの木、いっぱいよろしくね!」
「ああ。ウッドに増やしてもらおう」
「うん! あ、わたし、バルギルドさんに持って行かなきゃ」
「え、バルギルドさん?」
「うん。レイチ、バルギルドさんにもらったの」
クララベルは、レイチゼリーをバスケットに入れて解体場へ。
残ったレイチゼリーはミュアにあげた。マンドレイクとアルラウネ、ライラ、ルミナ、アセナとコルンなどにあげるそうだ。
解体場に行くと、デーモンオーガ一家はちょうど休憩をしていた。
「バルギルドさんっ!」
「む……」
「えへへ、これできたの。みんなで食べてっ」
「そうか……ありがとう」
クララベルがバスケットを開けると、レイチゼリーが現れた。
バルギルド以外はわけがわからず「?」と首を傾げるが、バルギルドとクララベルは笑っていた。
ブランは、ニヤニヤしながら言う。
「いやー、旦那が悩んでるクララベルに赤い実を渡してさ。優しい旦那のおかげでクララベルは「死にたいのか、貴様?」滅相もございません!!」
ブランは速攻で頭を下げた。
すると、シンハとエイラがゼリーに手を伸ばす。
「よくわかんねーけど、食っていいんでしょ? いただきっ」
「あ、わたしも食べるの!」
「あたしもいただきますっ! キリンジも、ほらほら」
「ああ、じゃあ……クララベルさん、いただきます」
デーモンオーガ一家は、満足そうにゼリーを食べていた。
クララベルは、改めてバルギルドに言う。
「バルギルドさん、レイチの実、ありがとう!」
「気にするな……」
「えへへ。あのね、お兄ちゃんが種を植えて増やしてくれるから、またゼリーを持ってくるね」
「ああ。期待している」
クララベルはもう一度お礼を言い、解体場を後にした。
バスケットの中には、まだ少しだけゼリーが残っている。
向かったのは、図書館。
ピークが過ぎたのか、中に人はあまりいない。
そして、たまたま歩いていたローレライと目が合った。
「あらクララベル、どうしたのかしら?」
「えへへ。姉さま、すっごくおいしいお菓子を作ってきたの! 一緒に食べよっ」
「仕方ないわね……さ、こっちにいらっしゃい」
「うん!」
クララベルの作ったレイチゼリーにローレライは大満足。ゴーヴァンにも食べさせ、食べられなかったランスローがゴーヴァン相手に愚痴を言いまくるのだが、それはまた別のお話。
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リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
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婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
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