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竜騎士の新人
第611話、新人竜騎士の苦悩①
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ある日。俺はミュアちゃんと手を繋いで散歩していた。
ミュアちゃん、今日の仕事はお休み。俺も仕事休みなので、のんびり読書でもしようかと思ったら、ミュアちゃんがやってきて「散歩したいー」と甘えてきたのだ。
甘えるミュアちゃんは可愛い。というわけで、こうやって村を散歩している。
「にゃあー」
「ミュアちゃん、ごきげんだね」
「にゃう。ご主人さまが一緒だから」
「そっか。ふふ、よしよし」
「ごろごろ」
頭をなでると喉がゴロゴロ鳴るのが本当に可愛い。
川沿いを散歩していると、ミュアちゃんが気付いた。
「うにゃ? ご主人さま、あそこ」
「ん?……あれは、誰だっけ」
川べりに、がっくり項垂れている竜騎士がいた。
若い竜騎士だ。歳は二十歳になってないくらいで、目に見えてがっくりしているのがわかる。なんとなく気になり近づく……が、騎士はまだ気付いていない。
「にゃあ!!」
「うわっ!? あ、あ───……あ!? ああ、アシュト様!?」
ミュアちゃんの声に驚き、俺に気付いて慌てて敬礼する。
顔をじっくり見ること三秒。俺はようやく気付いた。
「あ、新人騎士のルベンじゃないか」
新人騎士。
そういえば、竜騎士部隊に新人が配属されたとかで、俺に挨拶しに来たっけ。
全員、竜騎士学校を卒業し、緑龍の村の雪龍・月龍騎士団に配属されたんだ。ちなみに、オーベルシュタインに配属される新人は、騎士学校でも優秀でなくちゃいけない。
落ち込んでいるルベンは、竜騎士学校を次席で卒業した秀才だ。
「ルベン、落ち込んでるようだけど……どうかしたのか?」
「……いえ、なんでもありません」
「にゃう。嘘はダメー」
「うっ」
ミュアちゃんに言われ、ルベンは「うっ」とよろめいた。
ここまできて「じゃ、がんばれ」ってのもなぁ。仕方ない、話を聞いてみるか。
「ルベン、何か悩んでるなら話してくれよ。力になるぞ」
「アシュト様……」
「にゃう。あっちに座れる場所あるー」
川沿いにある東屋まで向かい、俺はルベンに話を聞いてみた。
◇◇◇◇◇◇
「訓練に、付いていけない?」
「……はい」
ルベンは語る。
「騎士学校では、成績上位でした……体力には自信があったし、力も、騎竜も自信がありました。でも……ボクが今までやってきたのは、『学生の遊び』だと思い知らされました。このオーベルシュタインに配属されて、舞い上がるほど嬉しかったんです。クララベル様に仕える雪龍騎士団の一員として、竜騎士になれると……でも、毎日訓練でへとへとで……その、実は」
「?」
「実は、逃げて来たんです」
「え」
なんとルベン、訓練から逃げて川でぼーっとしてたらしい。
どんな訓練だったのかな。
「単純な筋力トレーニングです。でも……辛くて、逃げてしまいました」
「……き、筋トレか」
竜騎士の筋トレ、あれ考案したのバルギルドさんなんだよな。
常軌を逸した訓練メニュー。できないを前提とした訓練。だが続ければ鋼の肉体が手に入るという……内容は知りたくない。腕が内出血だらけで運ばれてきた竜騎士も少なくない。
「……ボク、竜騎士に向いてないんですかね」
「…………」
何と言えばいいのか。
今更気付いたが、ミュアちゃんは俺の太腿を枕にして寝ていた。話が長く退屈だったらしい。
うーん、俺は何を言えばいいんだろう。
「鋼の身体なんて、いらないのに……」
「鋼の身体かぁ……ん? 待てよ」
俺は『緑龍の知識書』を開く。
「アシュト様?」
「ようは、訓練が辛くなきゃいいんだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
植物魔法・強化
〇マッスルベリー
食べるとムッキムキ!
鋼の身体はキミの手に!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「う、うぅぅん……」
これ、いいのか?
いや、まぁいいんだろうけど、倫理的にというか、ズルしてるというか。
俺はルベンに聞いた。
「な、ルベン。ちょっとだけ鎧脱いで、上半身裸になってくれないか?」
「…………え」
「いや、変な意味じゃないぞ!? ちょっと試してみたいんだ」
「は、はい」
ルベンが鎧を脱いでいる間、俺は本を片手に杖を持つ。
「実れ、禁断の果実。我が身を喰らえ悪魔の果実。育て、『マッスルベリー』」
なんかヤバそうな呪文。
すると、緑龍の杖から種が落ち、ぐんぐん成長する。
細い一本の木に、小さな赤黒い実がいくつも生えていた。な、なんか毒みたい。
そして、服を脱いだルベンが。
「あの、アシュト様。脱ぎましたけど」
「あ、ああ」
ルベンの身体は、よく引き締まっていた。が……太りにくく、筋肉が付きにくい体型なのか、全体的に見てやや貧相な感じが否めない。
シエラ様の魔法だから大丈夫だと思うけど……俺は、マッスルベリーを一粒、ルベンへ渡す。
「あ、あの……これは?」
「食べるとムキムキになる実……む、無理ならいいよ?」
枯れろと命じればマッスルベリーの木はすぐに枯れる。
すると、ルベンは意を決し、マッスルベリーをひとのみした。
ゴクリと喉を鳴らして飲み込むルベン。
「…………あれ」
「…………あれ」
「あの、アシュト様。とくに何もッフゥゥ!?」
「うおぉぉ!?」
なんと、ルベンは火を噴いた。
そして、全身の皮膚が真っ赤になり、筋肉が膨張していく。血管が浮き上がり、目も血走っていた。
「う、ォォォォォォォォ───ッ!!」
「るる、ルベン、ルベン!? おい大丈夫か!?」
ビキビキと、骨が軋む音がする。
なぜかルベンの身体は蒸気に包まれていた。ってか何だこの蒸気!?
ブシュゥゥゥーっと蒸気が吐き出され、止まる……そして、そこにいたのは。
「……お、おおお」
「る、ルベン……?」
「す、すごい」
そこにいたのは、全身がムキムキになったルベンだった。
おいおい、マジか。とんでもない筋肉だぞ。
バルギルドさん、ディアムドさん並みの筋肉だ。さっきとまるで別人すぎる。
「あ、アシュト様。これは……とんでもないです」
「え」
ルベンは小石を拾い、親指と小指で器用に挟む。そして力を込めると……石がバキャッと砕けた。
親指と小指だぞ? どういう握力だよ。
俺は、『緑龍の知識書』を読む。
「効果は一時間だって。うーん……でも、いいのかな」
「ぼ、ボクもちょっと……確かにすごい筋肉ですけど、これってズルですよね」
それを言っちゃあおしまいよ。
ま、訓練でズルするなんて、ランスローやゴーヴァンが知ったらガチ説教からの除隊コースだ。
ルベンには悪いけど、俺にはどうしようもない。
「アシュト様、ありがとうございました」
「え……何が?」
「いえ。この身体を見て目標ができました。周りと比べるのではなく、鍛えぬいた未来の自分と比べろ、と。この身体を思い出すことで、ボクは常に最強の自分を目標にできる。ボクにも、この身体になる可能性がある……アシュト様。ありがとうございます」
「あ、ああ。うん」
なんか都合のいい解釈してる……ま、いいか。
◇◇◇◇◇◇
せっかくなので、ムキムキのルベンと一緒に散歩することにした。
騎士団に謝るのはマッスルベリーの効果が切れてからでいい。
ルベンは、ミュアちゃんを肩車していた。
「にゃあぅー、きもちいい!」
「ははは、軽い軽い」
ミュアちゃんは嬉しそうだ。
三人で散歩していると、解体場でバルギルドさんに出会った。
「……村長か」
「こんにちは、バルギルドさん」
「……お前は?」
「ルベンとお申します。先日より、竜騎士隊に配属されました!!」
「……そうか。いい身体をしている。鍛えれば大成するだろう」
「あ、ありがとうございます!!」
まぁ、マッスルベリーの効果だけどね……とは言いにくい。
そして、何を血迷ったのかルベンは言う。
「あの、バルギルドさん!! オレと腕相撲してください!!」
「いやおま、何言ってんだ!?」
「……いいだろう」
「あ、あの、バルギルドさん」
「若者の真っすぐな挑戦を受けるのも、玄人の役目だ」
バルギルドさんは解体場の小屋へ入り、鉄製のテーブルを持ってきた。
このテーブル、オリハルコン鉱石で作った特注品だと。普通の岩や鉄鉱石で机を造っても、バルギルドさんとディアムドさんが相手だとすぐに逃げちゃうとか。
さっそく、バルギルドさんが手を乗せる。
「来い」
すごいプレッシャーだ。
ルベンはゴクリと唾を飲み込み、バルギルドさんと手を組む。
「にゃあ、かまえてかまえて、じゅんびはいい?」
「え、ミュアちゃん……」
なぜかミュアちゃんが審判だった。
そして、二人の重ねた手にそっと自分の手を重ねる。
「れでぃ……にゃあっ!!」
二人の手をパシッと叩いた瞬間、二人の時間が停止したように腕が動かない。
「ほう、なかなかやる」
「ぬ、っぐ、ぐ……ぎ、ぎぎ」
バルギルドさんは余裕そうだが、ルベンは大汗をかき、歯を食いしばっている。
すると、バルギルドさんの手がゆっくり傾いた。
「ふんっぎががががががががががががが!!」
「……!」
お、バルギルドさんが驚いている。
そして、ニヤリと笑い───形勢はあっさり逆転した。
バルギルドさんが、少しだけ本気を出してきた。
「楽しかったぞ」
「───……ッ!!」
ルベンの手が、テーブルにくっついた。
勝者、バルギルドさん。
「……筋がいい。精進しろ……十年後、もう一度やるぞ」
「は───はい!!」
ルベンはガバッと頭を下げた。
バルギルドさんは、テーブルを片付けに行ってしまった。
残されたのは、俺とルベンとミュアちゃん。
「くぅぅ~~~~~~ッ!! あのバルギルドさんが、ボクを認めてくれた!!」
「確かに、バルギルドさんがあそこまで言うのは初めて聞いたかも」
「アシュト様、ありがとうございます!! ボク、自身が持てました!! うおぉぉぉっし!! 訓練に戻るぞ───ッ!!」
「あ、ルベン」
ルベンはダッシュで行ってしまった。
たぶん、騎士団に謝って練習再開か。俺の出番、もうないのか?
「にゃあ。ご主人さま、よかったね」
「ああ。とりあえず、この木はもういらないな」
俺は残ったマッスルベリーの木を枯らし、ミュアちゃんと散歩を再開した。
後日談としては、騎士団に戻ったルベンは、真面目に訓練に参加しているようだ。
新人騎士ルベンは、今日も筋トレに精を出す。
ミュアちゃん、今日の仕事はお休み。俺も仕事休みなので、のんびり読書でもしようかと思ったら、ミュアちゃんがやってきて「散歩したいー」と甘えてきたのだ。
甘えるミュアちゃんは可愛い。というわけで、こうやって村を散歩している。
「にゃあー」
「ミュアちゃん、ごきげんだね」
「にゃう。ご主人さまが一緒だから」
「そっか。ふふ、よしよし」
「ごろごろ」
頭をなでると喉がゴロゴロ鳴るのが本当に可愛い。
川沿いを散歩していると、ミュアちゃんが気付いた。
「うにゃ? ご主人さま、あそこ」
「ん?……あれは、誰だっけ」
川べりに、がっくり項垂れている竜騎士がいた。
若い竜騎士だ。歳は二十歳になってないくらいで、目に見えてがっくりしているのがわかる。なんとなく気になり近づく……が、騎士はまだ気付いていない。
「にゃあ!!」
「うわっ!? あ、あ───……あ!? ああ、アシュト様!?」
ミュアちゃんの声に驚き、俺に気付いて慌てて敬礼する。
顔をじっくり見ること三秒。俺はようやく気付いた。
「あ、新人騎士のルベンじゃないか」
新人騎士。
そういえば、竜騎士部隊に新人が配属されたとかで、俺に挨拶しに来たっけ。
全員、竜騎士学校を卒業し、緑龍の村の雪龍・月龍騎士団に配属されたんだ。ちなみに、オーベルシュタインに配属される新人は、騎士学校でも優秀でなくちゃいけない。
落ち込んでいるルベンは、竜騎士学校を次席で卒業した秀才だ。
「ルベン、落ち込んでるようだけど……どうかしたのか?」
「……いえ、なんでもありません」
「にゃう。嘘はダメー」
「うっ」
ミュアちゃんに言われ、ルベンは「うっ」とよろめいた。
ここまできて「じゃ、がんばれ」ってのもなぁ。仕方ない、話を聞いてみるか。
「ルベン、何か悩んでるなら話してくれよ。力になるぞ」
「アシュト様……」
「にゃう。あっちに座れる場所あるー」
川沿いにある東屋まで向かい、俺はルベンに話を聞いてみた。
◇◇◇◇◇◇
「訓練に、付いていけない?」
「……はい」
ルベンは語る。
「騎士学校では、成績上位でした……体力には自信があったし、力も、騎竜も自信がありました。でも……ボクが今までやってきたのは、『学生の遊び』だと思い知らされました。このオーベルシュタインに配属されて、舞い上がるほど嬉しかったんです。クララベル様に仕える雪龍騎士団の一員として、竜騎士になれると……でも、毎日訓練でへとへとで……その、実は」
「?」
「実は、逃げて来たんです」
「え」
なんとルベン、訓練から逃げて川でぼーっとしてたらしい。
どんな訓練だったのかな。
「単純な筋力トレーニングです。でも……辛くて、逃げてしまいました」
「……き、筋トレか」
竜騎士の筋トレ、あれ考案したのバルギルドさんなんだよな。
常軌を逸した訓練メニュー。できないを前提とした訓練。だが続ければ鋼の肉体が手に入るという……内容は知りたくない。腕が内出血だらけで運ばれてきた竜騎士も少なくない。
「……ボク、竜騎士に向いてないんですかね」
「…………」
何と言えばいいのか。
今更気付いたが、ミュアちゃんは俺の太腿を枕にして寝ていた。話が長く退屈だったらしい。
うーん、俺は何を言えばいいんだろう。
「鋼の身体なんて、いらないのに……」
「鋼の身体かぁ……ん? 待てよ」
俺は『緑龍の知識書』を開く。
「アシュト様?」
「ようは、訓練が辛くなきゃいいんだ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
植物魔法・強化
〇マッスルベリー
食べるとムッキムキ!
鋼の身体はキミの手に!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「う、うぅぅん……」
これ、いいのか?
いや、まぁいいんだろうけど、倫理的にというか、ズルしてるというか。
俺はルベンに聞いた。
「な、ルベン。ちょっとだけ鎧脱いで、上半身裸になってくれないか?」
「…………え」
「いや、変な意味じゃないぞ!? ちょっと試してみたいんだ」
「は、はい」
ルベンが鎧を脱いでいる間、俺は本を片手に杖を持つ。
「実れ、禁断の果実。我が身を喰らえ悪魔の果実。育て、『マッスルベリー』」
なんかヤバそうな呪文。
すると、緑龍の杖から種が落ち、ぐんぐん成長する。
細い一本の木に、小さな赤黒い実がいくつも生えていた。な、なんか毒みたい。
そして、服を脱いだルベンが。
「あの、アシュト様。脱ぎましたけど」
「あ、ああ」
ルベンの身体は、よく引き締まっていた。が……太りにくく、筋肉が付きにくい体型なのか、全体的に見てやや貧相な感じが否めない。
シエラ様の魔法だから大丈夫だと思うけど……俺は、マッスルベリーを一粒、ルベンへ渡す。
「あ、あの……これは?」
「食べるとムキムキになる実……む、無理ならいいよ?」
枯れろと命じればマッスルベリーの木はすぐに枯れる。
すると、ルベンは意を決し、マッスルベリーをひとのみした。
ゴクリと喉を鳴らして飲み込むルベン。
「…………あれ」
「…………あれ」
「あの、アシュト様。とくに何もッフゥゥ!?」
「うおぉぉ!?」
なんと、ルベンは火を噴いた。
そして、全身の皮膚が真っ赤になり、筋肉が膨張していく。血管が浮き上がり、目も血走っていた。
「う、ォォォォォォォォ───ッ!!」
「るる、ルベン、ルベン!? おい大丈夫か!?」
ビキビキと、骨が軋む音がする。
なぜかルベンの身体は蒸気に包まれていた。ってか何だこの蒸気!?
ブシュゥゥゥーっと蒸気が吐き出され、止まる……そして、そこにいたのは。
「……お、おおお」
「る、ルベン……?」
「す、すごい」
そこにいたのは、全身がムキムキになったルベンだった。
おいおい、マジか。とんでもない筋肉だぞ。
バルギルドさん、ディアムドさん並みの筋肉だ。さっきとまるで別人すぎる。
「あ、アシュト様。これは……とんでもないです」
「え」
ルベンは小石を拾い、親指と小指で器用に挟む。そして力を込めると……石がバキャッと砕けた。
親指と小指だぞ? どういう握力だよ。
俺は、『緑龍の知識書』を読む。
「効果は一時間だって。うーん……でも、いいのかな」
「ぼ、ボクもちょっと……確かにすごい筋肉ですけど、これってズルですよね」
それを言っちゃあおしまいよ。
ま、訓練でズルするなんて、ランスローやゴーヴァンが知ったらガチ説教からの除隊コースだ。
ルベンには悪いけど、俺にはどうしようもない。
「アシュト様、ありがとうございました」
「え……何が?」
「いえ。この身体を見て目標ができました。周りと比べるのではなく、鍛えぬいた未来の自分と比べろ、と。この身体を思い出すことで、ボクは常に最強の自分を目標にできる。ボクにも、この身体になる可能性がある……アシュト様。ありがとうございます」
「あ、ああ。うん」
なんか都合のいい解釈してる……ま、いいか。
◇◇◇◇◇◇
せっかくなので、ムキムキのルベンと一緒に散歩することにした。
騎士団に謝るのはマッスルベリーの効果が切れてからでいい。
ルベンは、ミュアちゃんを肩車していた。
「にゃあぅー、きもちいい!」
「ははは、軽い軽い」
ミュアちゃんは嬉しそうだ。
三人で散歩していると、解体場でバルギルドさんに出会った。
「……村長か」
「こんにちは、バルギルドさん」
「……お前は?」
「ルベンとお申します。先日より、竜騎士隊に配属されました!!」
「……そうか。いい身体をしている。鍛えれば大成するだろう」
「あ、ありがとうございます!!」
まぁ、マッスルベリーの効果だけどね……とは言いにくい。
そして、何を血迷ったのかルベンは言う。
「あの、バルギルドさん!! オレと腕相撲してください!!」
「いやおま、何言ってんだ!?」
「……いいだろう」
「あ、あの、バルギルドさん」
「若者の真っすぐな挑戦を受けるのも、玄人の役目だ」
バルギルドさんは解体場の小屋へ入り、鉄製のテーブルを持ってきた。
このテーブル、オリハルコン鉱石で作った特注品だと。普通の岩や鉄鉱石で机を造っても、バルギルドさんとディアムドさんが相手だとすぐに逃げちゃうとか。
さっそく、バルギルドさんが手を乗せる。
「来い」
すごいプレッシャーだ。
ルベンはゴクリと唾を飲み込み、バルギルドさんと手を組む。
「にゃあ、かまえてかまえて、じゅんびはいい?」
「え、ミュアちゃん……」
なぜかミュアちゃんが審判だった。
そして、二人の重ねた手にそっと自分の手を重ねる。
「れでぃ……にゃあっ!!」
二人の手をパシッと叩いた瞬間、二人の時間が停止したように腕が動かない。
「ほう、なかなかやる」
「ぬ、っぐ、ぐ……ぎ、ぎぎ」
バルギルドさんは余裕そうだが、ルベンは大汗をかき、歯を食いしばっている。
すると、バルギルドさんの手がゆっくり傾いた。
「ふんっぎががががががががががががが!!」
「……!」
お、バルギルドさんが驚いている。
そして、ニヤリと笑い───形勢はあっさり逆転した。
バルギルドさんが、少しだけ本気を出してきた。
「楽しかったぞ」
「───……ッ!!」
ルベンの手が、テーブルにくっついた。
勝者、バルギルドさん。
「……筋がいい。精進しろ……十年後、もう一度やるぞ」
「は───はい!!」
ルベンはガバッと頭を下げた。
バルギルドさんは、テーブルを片付けに行ってしまった。
残されたのは、俺とルベンとミュアちゃん。
「くぅぅ~~~~~~ッ!! あのバルギルドさんが、ボクを認めてくれた!!」
「確かに、バルギルドさんがあそこまで言うのは初めて聞いたかも」
「アシュト様、ありがとうございます!! ボク、自身が持てました!! うおぉぉぉっし!! 訓練に戻るぞ───ッ!!」
「あ、ルベン」
ルベンはダッシュで行ってしまった。
たぶん、騎士団に謝って練習再開か。俺の出番、もうないのか?
「にゃあ。ご主人さま、よかったね」
「ああ。とりあえず、この木はもういらないな」
俺は残ったマッスルベリーの木を枯らし、ミュアちゃんと散歩を再開した。
後日談としては、騎士団に戻ったルベンは、真面目に訓練に参加しているようだ。
新人騎士ルベンは、今日も筋トレに精を出す。
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