大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ

さとう

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竜騎士の新人

第616話、新人竜騎士たちの苦悩

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「さーて、今日は川沿いの東屋で読書しようかな~」

 ある日の午後。
 天気もいいので、俺は読みかけの本を何冊か持って出かけていた。
 ちょっと日差しが強いので、涼しい川沿いへ向かう。
 ちなみに、後でミュアちゃんがお茶とお菓子を届けてくれる予定だ。ネコミミをたっぷり愛でてやろう。
 そして、川べりを歩いて気付いた。

「「「「「はぁ……」」」」」
「…………」

 えー……川べりに、新人竜騎士が五人いた。
 全員、見覚えあるなんてモンじゃない。
 ルベン、ディナ、シメオン、アシェルにゼブルン。つい最近、悩みがあった子たちが勢ぞろいしていた。
 なんか頭痛くなってきた。もしかしたら新人竜騎士が悩んでるかも、なんて思ってたら……まさか今まで悩んでた全員が勢ぞろいとは。
 一瞬だけ逃げようかと思ったが、ルベンと目が合ってしまった。

「あ、アシュト様……」
「よ、よう。みんな揃って、何してるんだ?」
「いえ、ちょっと……」

 ルベンは再びため息を吐く。
 すると、ディナが俺の傍へ来て言う。

「あの~……アシュト様にご相談があるんですけど」
「な、なんだ?」
「その、実は……私たち全員、新しい新設の部隊に配属されたんですけど、どうもうまくいかないというか……やりづらいといいますか」
「新設の部隊?」
「はい。実は、シェリー様が隊長の、新しい部隊です」
「へぇ、シェリーが隊長……あいつも出世したなぁ」

 初耳だった。まさか、シェリーが隊長になっているとは。
 ここにいる全員、シェリーの部下なのか。
 でも、何か悩んでいる……あいつ、何をやらかしたんだ?

「で、それがなんでここに? また困ったことでもあるのか?」
「え、ええ。実はその……シェリー隊長がすごくて、私たちじゃ付いていけないんです」
「はい?」

 ちょっと意味がわからなかった。
 首を傾げる俺。すると、シメオンががっくり肩を落として言う。

「シェリー隊長。ドラゴンに騎乗して一年くらいなのに……騎乗技術が、ボクらよりも高いんです。ボクたちは何年も騎乗して、ようやく最近になって『ブレストリーム』ができるようになったのに」
「ブレストリーム?」
「えっと、ドラゴンの吐くブレスに合わせた連続攻撃です。騎乗スキルレベル8の大技なんですよ」
「ほぉ」

 騎乗スキルレベルとかいうのはわからんけど、大技らしい。
 それをシェリーは、ドラゴンに騎乗して一年ほどで習得したとか。
 あいつ、魔法だけじゃなくて騎乗でも天才だったか……大したもんだ。
 アシェルとゼブルンが肩を落として言う。

「オレら、自信ないっス……マジで」
「あたしも、さすがに……」

 ピンキースターを探した時の気迫が全く感じられない二人。
 そんなにシェリーはすごいのか。俺には想像が付かないな。
 そして、ルベンが言った。

「そんなわけで、ボクら全員すっかり自信なくしちゃって。こうして川の流れを見つめていました」
「そ、そうか」

 これ……俺にはどうしようもない問題だな。
 さすがに、竜騎士の騎乗スキルを魔法でどうにかできない。探し物とは違う。
 うーん……ここは軽くアドバイスして離れるか。

「えーと……とにかく、訓練あるのみ、かな? 大丈夫だって。今はシェリーに付いて行くのは大変だと思うけど、しっかり訓練すれば追いつけるからさ」
「「「「「…………」」」」」

 すっげぇ悲し気な目で全員から見られる俺。
 ううう……わかった、わかったよ。

「わ、わかった。俺が何とかするからさ!!」

 ◇◇◇◇◇◇

 というわけで、新人竜騎士五人を連れて、俺の温室にある休憩所へ。
 五人を座らせ、俺は立つ。

「えー、問題は『シェリーについていけない』だよな。それの解決方法は、『訓練あるのみ』しかないと思う。というわけで、お前たち五人には俺の訓練を受けてもらう」
「「「「「アシュト様の、訓練?」」」」」

 おお、五人の声が揃ったぞ。
 そう、俺の訓練だ。
 俺の訓練といっても、俺がドラゴンに乗って指導するわけじゃない。
 
「この本、『緑龍の知識書ムルシエラゴ・グリモワール』にはいろんな魔法が詰まっている。この中の魔法に、今のお前たちにピッタリの魔法があるんだ」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 《植物魔法・修行》

 〇木龍の遊技場ガルガンティア・ガーデン

 ふふ……アスレチックとは比べ物にならない試練よ?
 これをクリアしたら、立派な竜騎士ね♪
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 植物魔法、もはや何でもありだな。
 俺は杖を振りながら言う。

「この魔法は、アスレチック・ガーデンの竜騎士版ってところだ。ドラゴンに騎乗して、数々の試練を乗り越えてゴールを目指す、超々高難易度のアスレチックだ。これをクリアすれば、きっとシェリーに追いつけるぞ」
「「「「「…………ごくり」」」」」
「お前たちの騎乗スキルを上げるためにこの魔法を使う。他の竜騎士にバレないように、村から少し離れた場所に作る予定だ……というわけで、どうする?」

 最終確認だ。
 ここからは、みんなのやる気にかかっている。
 俺ができるのは、修行の場を提供することだけ。
 すると、ルベンが挙手。

「やります!! ぜひ、やらせてください!!」
「わ、私も!!」
「ぼ、ボクもやります!!」
「あたしも!!」
「当然、オレも!!」

 ルベン、ディナ、シメオン、ゼブルン、アシェル。
 五人全員が、力強く挙手をした。
 なんだ、みんないい目をしてるじゃないか。決意に満ちた、熱い瞳だ。

「よし!! じゃあ、村から離れた場所でやろうか。みんな、さっそく移動するぞ」

 ◇◇◇◇◇◇
 
 というわけで、やってきたのは村から離れた開けた場所。
 一応、バルギルドさんに護衛として付いて来てもらった。秘密特訓といい、ここでの修行は内緒にしてもらう。
 
「それにしても……」

 すごいな。
 五人の竜騎士と、五体のドラゴン。
 こうして見ると、ドラゴンといっても種類や大きさ、形が違う。
 
「ドラゴンにもいろんな種類があるんだな」

 まず、代表的なのは『飛竜』だ。
 ルベンとディナのドラゴンがこれに当たる。翼竜は、背中に翼が生えたドラゴンで四肢があるのが特徴だ。二足歩行も可能で、地上戦と空中戦に特化したドラゴンらしい。ドラゴンロード王国の王族が変身するドラゴンも、これに該当するそうだ。
 そして、『翼竜』だ。
 ゼブルンとシメオンのドラゴンがこれに該当する。
 翼竜は、飛竜よりも細身で、足はあるが腕がない。翼と腕が一体化したドラゴンで、飛竜よりも飛ぶことに特化したドラゴンだ。その特性上、地上戦には向かない。
 そしてアシェルの『地龍』だ。
 こっちはまん丸したドラゴンで、四肢が太く翼が小さいのが特徴。地上戦が得意で、飛行こそできるが空中戦は苦手らしい。苦手というだけで飛ぶこと自体は苦じゃないらしいけど。
 空中戦に特化した翼竜。地上戦に特化した地龍。そして万能型の飛竜か。これらの竜を乗りこなす騎士が竜騎士で、竜騎士団はこの三つのドラゴンの混合部隊らしい。

「あの、アシュト様?」
「あ、悪い悪い。ちょっとみんなのドラゴンがカッコよくて眺めてた」

 おっと、いけないいけない。物思いにふける悪い癖が。
 俺はさっそく杖を構え、魔力を全開にして呪文を叫ぶ。

「森よ聞け、我は願う。大いなる樹と大地よ、ここに龍の試練を作り給え。我が名はアシュト、緑龍ムルシエラゴの眷属なり。戯れろ、『木龍の遊技場ガルガンティア・ガーデン』!!」

 緑龍の杖から小さな種が落下し───地面に吸い込まれた。
 そして、大地震が起きた。

「う、おぉぉぉ!? なな、なんだぁ!?」
「村長!!」

 バルギルドさんが俺を支える。
 ルベンたちを見ると、それぞれドラゴンに騎乗していた。

「みみ、みんな!! これは俺の魔法だから、大丈夫だから!!」

 そして、地震が収まり───目の前には、巨大な『樹のアーチ』ができていた。
 全員がドラゴンから降り、俺の言葉を待つ……待って待って。まだ地震のせいで落ち着かない。
 深呼吸し、俺はアーチを杖で指さした。

「ふぅぅ……いいか、ここから先が竜騎士の試練だ。ここを乗り越えた時、お前たちは竜騎士としての高みに登ることができる。シェリーにもついていけるだろう」
「「「「「は、はいっ!!」」」」」
「えーと……ドラゴンに騎乗して先に進み、数々の罠と敵を突破しゴールせよ。ゴールには『ドラゴンベリー』の実が置いてある、だって」
「「「「「ど、ドラゴンベリー!?」」」」」
「し、知ってるのか?」

 と、シメオンが挙手。

「どど、ドラゴンベリーって、神話七龍の一体、虹龍アルカンシエル様が生み出したとされる、ドラゴンの至宝ですよ!! 食べるとドラゴンの力を得るという……ドラゴンロード王国の王族がドラゴンに変身できるようになったのも、始まりの王族がドラゴンベリーを食べたから、といわれてます!!」
「へぇ~」
「へぇ~、じゃありませんよ!! そそそ、そんなものを持ってたら、どどど、どうなっちゃうのか」
「ま、まぁとりあえず。食べないで持ってきたら?」
「う、うぅぅ……なんだか、胃が痛くなってきました」
 
 シメオンの顔色が悪い。
 すると、ルベンが挙手。

「ぼ、ボクが最初に行きます。ドラゴンベリーはともかく、強くなりたいですから!!」

 そういって、ルベンが相棒のドラゴンに乗り、アーチを潜って試練へ挑んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

「……村長、大丈夫なのか?」
「うーん……まぁ、予想はしていましたけど」

 俺とバルギルドさんの前には、ボロボロになった五人の竜騎士とドラゴンが転がっていた。
 入口にいたので、何があったかはわからない。でも……たまに聞こえてくる悲鳴とドラゴンの鳴き声だけで、相当苦しんでいるのはわかった。
 俺は、ボロボロのルベンを起こす。

「おい、大丈夫か?」
「し、死ぬ……な、なんですか、あの鬼畜な仕掛けは」
「き、鬼畜……そんなに酷かったのか?」
「う、うぅぅ」

 ルベンは青くなり、首をブンブン振った。
 バルギルドさんにはドラゴンの介抱を任せた。俺は順番に起こし、傷の手当てをする。
 
「アシュト様、あの試練ヤバい!!」
「こ、殺されるかと思った。あの杭とか、刺さったら死ぬ……」
「あの木のバケモノ、食う気満々だった……」
「なんで植物が意志を持って襲い掛かってくるんだ……」
「怖い怖い怖い……ううう」

 五人は滅茶苦茶怯えていた。な、中で何があったんだ?
 俺は杖を抜き、全員に言う。

「どうする、やめるか?」
「「「「「…………」」」」」

 五人は黙り込み、互いに顔を見合った。
 どんな選択をしようと、俺はこいつらの意志を尊重するぞ。

 ◇◇◇◇◇◇

 訓練開始から数日が経過した。
 結局、訓練は継続。五人は村で竜騎士としての仕事を終えたのち、木龍の遊技場ガルガンティア・ガーデンでの修行をするようになった。
 修行には、たまに俺も付き合っている。移動までの護衛はバルギルドさんが引き受け、動けなくなったドラゴンや新人五人を担いで帰ることもあるそうだ。
 そして、訓練を始めてから十日が経過。
 俺は、休みでのんびりしているシェリーとお茶を飲んでいる。

「そういえばさ、最近部隊のみんながすっごいのよ」
「え?」
「騎乗スキルが磨かれてるっていうか、どんどん上手くなってるのよ。すっごい気迫感じるし……あたしも負けてられないわ」
「そうかー」

 訓練の成果は出ているようだ。
 なんとなく微笑んでいると、シェリーがジーっと見ていることに気付いた。

「な、なんだ?」
「……お兄ちゃん、何か知ってる?」
「な、何を」
「……なんか嬉しそう。あたしの部下の騎乗スキルが上達してること、知ってたの?」

 こいつ、勘が鋭すぎだろ。
 伊達に俺の妹じゃないな。

「ま、まぁ……そのうち、お前にも教えるよ」
「あ!! やっぱり何か知ってるんだ。ね、教えてよ!!」
「い、今はダメだって。ちゃんと後で言うからさ!!」

 新人竜騎士五人が秘密特訓をしていることがシェリーにバレて、シェリーも参加するようになってしまい、新人とシェリーの実力がまた引き離されることになるとは、この時の俺は思いもしなかった。
 すまんな、新人たち……でも、みんな上手くなってるみたいだし、これからも頑張ってくれ!!
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